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ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
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あなたを憎しむと言う事

莉子を手元に置く事で、綾葉とは、何となくギクシャクしていた。莉子と結婚すると話した時、反対しなかったのは、自分に関心がなかったのかと疑った。いつしか、人を疑う事が当たり前になっていた。素直に感情を表現するのが、苦手になっていた。あの事故の時、病院で耳にした説明に、生きて行く事さえ、諦めかけた。父親は、喜び、母は、悲しんだ。母親に似ている指の形も、ピアノの奏で方も、同時に失った。右手には、醜い傷が残った。

「せめて、傷だけでも」

母親は、形成外科の受診を勧めたが、架葉拒否した。これは、呪いなのだ。父親の呪縛。自分が、輝いていたいとの願いは、打ち砕かれた。

「このままでいい」

夢を諦めた証。綾葉は、自分に従い、包み込もうとしてくれる。自分の妻となった莉子は、手の届かない場所にいて、自分の夢を追いかけている。自分は、諦めた自分が、1番輝く方法を、莉子は、手に入れている。何とか、活路を見出そうとする莉子が、羨ましかった。彼女は、夢を手に入れる。筈だった。翔けなくなった彼女を自分と同じ暗闇に閉じ込めて置く事で、架は、慰められた。自分に振り向いてもらえない綾葉と、翔けない莉子を閉じ込める事で、夢を諦めた架は、癒されていた。

「莉子が帰ってきた」

架は、綾葉に告げた。

「そう」

綾葉は、関心のないふりをした。

「あまり、遭わない方がいいのかしら」

「いや・・・今まで、通りで」

架は、ネクタイを緩める。

「いいの?早く、帰らなくて」

「一緒にいても、つまらない奴」

だけど、他の男には、渡したくない。自分を待つだけの人形。自分しか知らない人形を、飾っておきたい。

「それでも、帰るんでしょう?」

綾葉は、引き留めたい。が、堪えた。

「莉子の親の力が、まだ、必要だからな」

綾葉は、そっと架の右手に触れようとするが、架葉、一瞬、怖い顔になり、右手を隠した。

「嫌なんだ・・・人に触られるのが」

右手の傷は、自分の心の傷そのもの。莉子は、架の右手の傷には、全く、関心はない。部屋に飾ってある架のピアノを弾くフォトグラフにも、特に、関心はないようだ。彼女は、力を溜め、自分で、輝こうとしている。自分は、そんな彼女を憎んでいる。

「今日は、帰る」

昼間に、フラメンコスタジオに遊びに行くと言っていた。ステージに立つのは、絶望的だろう。早く帰って、失望する莉子の顔を見るのも悪くない。

「待って!」

綾葉は、架にしがみついてきた。

「言わないつもりだった・・・けど。やっぱり」

いつになく、綾葉が、引き留める。

「できたの」

「え?」

「本当は、言わないつもりだったの。だけど、帰るって言うから」

架は、少し、眩暈を感じた。気をつけていた筈なのに。

「ごめんなさい」

綾葉は、架の背中から、離れようとしなかった。

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