試されるのは、僕らか?
僕は、黒壁と地面に散らかったリネン類を拾い集めていた。今頃、2階では、警察に捕まった侵入者を見送り、看護師達の健康チェックが始まっているだろう。市長に意見があると血気盛んな市民が、仕事を失った事で、逆上しての行動だった。以前から、市長の娘がリハビリ目的で、一般病棟に入院している事は、いろんな意見があった。個室がベストという話もあったが、特別に扱うことで、すぐ、侵入されてしまうとの話があった。誰もが、万が一に備えて、シュミレーションしていた。僕が、ガラスを割り、侵入者の気を引きつけている間に、看護師の安達が、バールでドアを破壊し、室内にいた、看護師が、侵入者に飛びかかった。どちらの看護師も、僕と黒壁が一目置く、手荒な看護師だった。たまたま、同じ室内にいた患者の点滴のボトルが、看護師の武器となった。チューブが侵入者の足元に絡みつき、首元に、シリンジを突きつけた。病室に入ってきた時の悲鳴も、津田の演技で、周りのスタッフに侵入者を知らせる合図になっていた。
「僕が、ガラスを叩いたら、バールでドアを殴れ」
僕は、安達に言って、外に出た。計算違いだったのは、ガラスは、工具を受けても、ヒビが入るだけで、割れる事は、なく、僕は、バランスを崩し、下へとずり落ちていった事。雨樋に固定したタオルに繋がれたまま、ずり落ちたので、右手に酷い痕が残っていた。勿論、黒壁の用意したリネン類は、僕を優しく受け止めてくれた。
「役に立っただろう」
黒壁が得意げにいった。
「もう少し、マシな作戦はなかったのかよ」
裏に停まった緊急車両が、赤いライトを点滅させていた。
「何で、また・・・」
黒壁が、眉を顰めた。
「莉子が、ここに居られなくならなきゃ、いいけど」
ポツンと口にした。黒壁も僕も、その事を恐れていた。市長の娘とは、知って委嘱員は、病棟の何人かだけで、そんなに公ではなかったけど、市長の家族がいると言う話は、知れ渡り、それで、侵入者が入り込んだという話は、あっという間に、病院に広まった。すぐ、解決はできたけど、立て籠もりがあったという病院の名前は、すぐに広まり、勿論、莉子の夫にも、僕の家族の耳にも、入っていった。最悪なのは、当日、外来に来ていた整形外科の医者は、僕の父親の知り合いだったから、僕の携帯は、鳴り止まなくなった。七海や父親、母親までもが、僕の身を案じた。
「注意をひきつけたリハビリ師って、新なんでしょう」
七海が心配して、今にも、ここに現れそうっだったので、僕は、慌てて
「黒壁だよ。ほら、名前の通り、色の黒くて、背の高い・・・」
と誤魔化していた。また、居場所を変わらなくてはならないかも・・・。だが、僕より、深刻なのは、莉子だった。
「あれから・・ね」
リハビリ中に莉子が口を開いた。
「パパとも話をしたの。せっかく、ここでのリハビリがいいだろうとパパも賛成してくれていたんだけど」
莉子が、口篭った。
「誰かに反対されたの?」
莉子は、頷いた。
「別の病院に移る様にって」
僕は、じっと、莉子の顔を見下ろした。莉子の身を案じて、転院を勧めるのは、家族なら当たり前だ。
「でも・・」
莉子は、何かを言いたげだった。その先の言葉を聞きたかったが、莉子の眼差しは、リハビリ室の入り口に向けられたまま、固まってしまった。
「?」
僕は、莉子の目さんの先を追うと、僕を見つめる冷たい視線に気づいた。