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ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
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薄氷上のピアニスト

「イライラしてる?」

「してない」

心陽は、すかさず、返事をした。本当の所は、イライラしている。誰かに、怒りをぶつけたい。けど、他の出演者の目があるから、そんな事はできない。床を蹴るのが精一杯。鍵盤を叩きつける事もできない。架の会社の手がけたビルのrくせいしきのセレモニーに、心陽は招待された。架の母親の気遣いらしいが、ピアノを諦めた架に、自分は、どう映るのだろうか。何度か、架と話し合いたいと思い、待ち伏せしたが、どれも、ダメだった。偶然にも、架の母親から話が来た時には、二つ返事で、承諾した。電話もメールも、架は、拒否している。自分は、ちょっと話をしたいだけだった。脅すつもりはない。打ち合わせの時にいたホテルのロビーで、架と一緒にいた女性を見た事がある。それは、学生の時から、友人だった莉子ではなく、全く、別の女性だった。昔から、架の存在は、知っている。突然と消えた天才ピアニストに、誰もが、落胆していた。自分は、そのおこぼれで、注目される事になったが、少しも、嬉しくなかった。架のその後の人生を調べれば、調べる程、興味が湧いてきた。

「あなたの夫は、昔の恋人から離れられない」

何も知らず、笑い続ける莉子にそう言いたかった。本当に、自分達は、友達なのか?心のどこかで、莉子が酷い目に遭う事を望んでいないか?何も知らず、愛に包まれ育った莉子が恨めしい。白いウェディングドレスで、架の隣に立っていた莉子が恨めしい。自分は、血の吐く思いで。ここまできた。ピアニストとしては、名前も知れている。でも、この心の空虚感は、一体、何なのだろうか。

「逢いたくても逢えない」

「え?なんですか?」

そばに居たスタッフが怪訝な顔をした。

「なんでもない」

心陽は、

「外の空気を吸ってくる」

そう言って、立ち上がった。リハーサルに身が入らない。

「これで最後だから」

そう言いながら、いろんな理由で、架を呼び出した。始まりは、バーで、酔い潰れた架を見つけた時だった。心陽が、ピアニストと知り絡んできた。多分、彼にとっては、何か、辛い事があたのだろう。普段は、冷静な彼が、我を失うほど、荒れていた。

「架さんですよね」

心陽の胸は、高鳴っていた。憧れの彼が目の前にいる。

「ずっと、憧れていたんです」

架の右手には、醜い傷がある。

「俺に?」

架は、悲しそうに笑った。

「今の俺じゃないよな。全くの別人だから」

ふらつく架を支える心陽。そのあとは、成り行きで、一夜を過ごしてしまった。朝早く、架は、姿を消していた。その後、架が結婚する事になったと聞いた。隣で、笑っていたのは、あの莉子だった。

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