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『…の……起きるのっレクシー! まだ布教は終わってないのぅ!!』


脳内に直接、爆音が破裂した。脳をビリビリと揺らされて、意識がゆっくりと覚醒する。頭が重い。まるで頭を押されているようだ。


瞳を開けると、見覚えのない森の木々に囲まれていた。その上には(そび)え立つ断崖が鎮座している。眠気眼で呆然と眺めていると、


『ほら! さっさと立つの! 崖から落ちたくらいで、死ねる体はしてないの! 新しいイザベラを探しに行くのっ!』


という声が再び脳に響いた。しかし辺りには誰もいない。


「……どこに居るんですか?」


当たり前の疑問は、空にふっと浮いて、しばらくすると幼い少女の声が、


『まさかっ……レクシー、』


少女が言葉を言いかけたその時、


━━━グルゴォォォオオ━━!!!


遠くの方から、凄まじい魔物の雄叫びが響いた。


「あぁ゛━━もうッ! いいから! 早く行くのレクシー! 人が死ぬのっ!!」


その言葉を聞いた途端、私は走り出していた。














「グルゴォォォオオ━━!!!」


それは墨色の毛皮を纏った3メートルはあるだろう巨大な熊だった。三本の鉤爪は鋭く、少し触れただけで肌に血の玉が浮かぶだろう。


けれど、そう思った時には、熊に対して右手を向け、左手で手首を掴み、足を踏ん張ると、ありったけの声で、


【我が神ヤヘククリネ(百合)の祝福よ! 我が命を以て風の刃を奮い、宿敵を討ち滅ぼせ!】

 

と、聖撃ディヴァージャッジメントの呪文を唱えていた。 


聖撃ディヴァージャッジメントとは、聖属性を纏った攻撃であり、普通の魔法の攻撃力の倍以上にする。放たれた聖属性の風魔法は、辺り一面にトマトジュースが飛び散ったように染め上げた。…魔物だったモノの原型はない。


「こういうのをオーバーキル…だったかの?」


血溜まりの中で、真赤に染まっている人間を見つけた。


【我がか…】


呪文を唱えようとする途中で、既に魔力が尽きている事に気がついた。仕方なく腰に下げていた水筒の水を顔に振りかける。


「げほっ……げほっ…!?」


息がある。とりあえず一安心した。その人はやがて、血の飛び散った顔を擦りながらゆっくりと瞳を開けて、私を見た。その途端、その人は、



「ッギィヤアァァアアア━━━!!」


と、叫び声を上げて逃げるので、即座に距離を詰めて、手刀で気絶させた。片腕でその人を支える。


「…どこに行けば良いですか?」


『まっすぐ行けば川なの』


丁度、この人が向かっていた方向だ。抱える手間は、レクシー(守護者)にとって誤差のようなものだが、先に教えて下さい、と言おうとしたものの、(おぼろ)げな記憶が話を聞かないだろう、と告げたので口を閉じた。















川で、その人の服のボタンを外して脱がせると、ふにゃりとした黄色人種の肌が現れた。そのままズボンも脱がして川の水で粗方洗い流し、少し回復した聖力を振り絞って、


【我が神ヤヘククリネ(百合)の祝福よ 我が心を以て小さな竜巻を起こし、湿りを討ち滅ぼせ】


と呪文を唱えた。攻撃ではないので、単に聖魔法(ホーリー)と呼ばれる。レクシー《守護者》は普通の魔法が使えない。空中に球体状の小さな竜巻が発生したので、そこに服を投げ込み、3分で竜巻が消えたので、ピョンと空中に跳び上がってキャッチして、あの人に一分もせずに着せた。


脱がす時も、着せる時も手慣れているのは、こういった事態に慣れている、という事だろうか?


その人が起きるの気配はない。きっと疲れているのだろう。  


『早く街に行くの!』


「そうですね、街の方向は分かりますか?」


『川に沿って下ればいいの!』


私は片腕で支えるのでは、体勢が悪いので横抱きにしてなるべく振動を伝えないよう走った。ビュンビュンと風切り音が鳴り、景色は奥へ奥へと追いやられる。人間からすれば、とても早い、というのは常識なので分かる。なにせ成り立てのレクシー(守護者)でも、常人の倍の能力を持つ。だからレクシー(守護者)からすれば普通以下だ。なにせギリギリ街一つ分の信者しか居ないのだ。


そんな事は覚えているのに、自分の名前や家族、友人や信者もほとんど思い出せない。完全に思い出せるのは、常識だけだ。頭を抱えたい気分だが、生憎と両腕は塞がっているし、気絶している人━━私が気絶させた━━の方が今は大切だ。


私は走り続けた。








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