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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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35 協力

 ということで、まずは再び呑み込まれかけているスティーヴキングさんを解放しようと思う。



 射程に入った途端に緩慢に迫ってくる触手をアクロバティックに躱しつつ、ほぼゼロ距離まで接近する。

 これも冬休みの「ラスボス講座」の合間に習った「神とかラスボスには及ばない程度の実力者ムーブ」なので、「女神ではない」ことの証明になっているはずだ。


「おい、見ろよ! 女神様がペット――いや、使徒の救出に向かってるぞ!」


「何だ、あの未来を見通しているかのような洗練された動きは!? 人間の動きじゃねえ! さすが女神様ってことか!」


「というか、あんな頭のおかしい使徒まで大事にするなんて、マジで神様の鑑やでえ!」


 あれ?

 おかしいな……。


 いや、声を上げているのはごく一部の人たちだけだし、大半には通じていると思おう(※大半は見惚れているだけ)。



 とにかく、スティーヴキングさんに触れられる距離まで接近すると、邪教徒スライムに触れないように注意しながら彼を掴んで真上に放り投げる。

 もちろん、彼にガッチリ食いついている邪教徒スライムも一緒に宙へ舞っている。


「うおっ、なんてパワーだ! ネコみたいなのにゴリラより強くねえか!?」


「聖女様に力を与えていらっしゃるのも女神様なんだから、これくらい当然だろ!」


「ネコのように舞い、ゴリラのように殴る。最強じゃねえか!」


 あれえ?

 なぜこんな小さなことまで拾って反応するの?


 もう今日は何をやっても駄目になりそうな気がするので、さっさと終わらせてしまおう。



 とにかく、スティーヴキングさんに直撃させないような射線をとって、ガーンディーヴァ発射。


 再び吹き飛ぶスティーヴキングさんと、飛び散る邪教徒スライム。

 接近するより、邪教徒スライムの飛沫を避ける方が大変だ。



 ただ、スティーヴキングさんの身の安全に配慮しすぎたせいか、まだ彼の身体には邪教徒スライムの残骸がいっぱいこびりついている。

 再生はできないようだけれど崩壊までにはしばらくかかりそうな感じで、「解放した」というには微妙な状態。


 それでも、大半は吹き飛ばしたので、後は自力でも脱出できると思うけれど――あっ、汚いスライム塗れなのにとても良い笑顔でこっちに駆け寄ってくる。

 単純に汚い上に、このままだとどういう誤解を招くのかが想像もできないので、接近を許すわけにはいかない。



「そこで止まって! それ以上近づかないで! それと、私は女神じゃありません!」


 弓を構えてスティーヴキングさんを牽制しつつ、いつだったかユウジさんたちにしてあげたように、大量の水を出して洗い流す。



「ごぼぼぼぼ! ありがどぶごばいばずべがびざば!」


 何を言っているのかはよく分からないけれど、流れに逆らって泳げる筋力すごい。

 しかし、泳ぎながら喋ろうとするのは頭がおかしいとしか思えない。

 ……この際、身綺麗になってくれれば何でもいいか。



「えっと、スティーヴ……キングさん?」


 思いのほか邪教徒スライムがしぶとかったので、水量を増やしてみたり障害物を流してみたりした結果、どうにか剥がすことに成功したけれど、スティーヴキングさんも虫の息……かと思いきや、何かをやり遂げたかのような満足げな顔をしていた。

 いや、まあ、水攻めの時から精神が高揚していたので心配はしていなかった――違う意味で心配していたけれど、予感が現実になってしまったようだ。


 とにかく、さっさと用件を伝えて距離を置こう。

 いや、その前にアドバイスか。

 また囚われては堪らないし。



「この邪教徒スライム、生物以外は呑み込めないようなので、道具を使いましょう?」


「さすが女神様! 目の付け所が違う! ナイスアイデアです!」


 おい、止めろ。

 こんな莫迦でも分かるようなことで持ち上げるんじゃない。

 それと、これ以上「女神」とか言わないで。

 既にかなりの注目を集めているし、本当に信じてしまう人が出てくるかもしれないじゃないか。



「私は女神じゃないです。それはそうと、邪教徒スライムをひとつに纏めたいのだけれど、協力してもらえますか? この弓の力なら斃せるけれど、何度も使えるものではないので」


「分かりました、女神様! この身に代えましても!」


 分かっていないなあ……!


 いや、でも、指示の内容は理解しているのか、スティーヴキングさんは近くにいた邪教徒スライムを腕に食いつかせると、そのまま近くの邪教徒スライムの許に引っ張っていった。


 ……うーん、「この身に代えても」は比喩とかじゃなかったんだね。

 やはり、筋肉だけでは駄目なのか。




 まあ、いい。


 次は聖女だ。


 できればかかわりあいたくないけれど、私が上手く退場するためには無視するわけにはいかない。



 ということで、聖女の許までひとっ走り。

 こちらは聖女と邪教徒スライムが拮抗していたので、大袈裟なアクションは必要なかった。



「あの、ちょっといいですか?」


「はい、わたシッ神様は信じていますがシッシッいかがされましたか、シシッ女神様シッ?」


 戦闘の邪魔にならないように控えめに声を掛けたところ、怪しい宗教(※偏見)の勧誘みたいになってしまった。

 それよりも、接近戦の真っ最中に話しかけたからか、パンチを打つ時の「シッ」が気になって仕方がない。

 というか、そのせいで宗教の勧誘ではないことを訂正し忘れてしまった。

 まあ、今からでもやればいいか。



「私は女神ではないです。それはそれとして、今スティーヴキングさんに邪教徒スライムを集めてもらっていますので、そのお手伝いをしてもらえますか? 全部集まったら、この弓の力で消滅させますので」


「さすがシッ女神様シッ! 私の信シシッと皆の祈りが通じたのですシシシッシッシッシシシシシッシッシッシッ! シッシッシッシッシッシッシ!」


 ……もしかして、「シ」だけで会話しようとした?

 神を信じすぎじゃない?


 もちろん、私は彼女の崇めている神ではないので何を言っているのか分からない。

 ついでに、頷いているのかダッキングなのかも分からない。

 それでも、スティーヴキングさんの方へ向けて邪教徒スライムを(デンプシーロール)し始めたので、理解して協力してくれるのだと思いたい。




 いずれにしても、勇者や従者の人たちにも協力してもらわないといけないので、これ以上頭と腕と信仰心のおかしい聖女に構っていられない。

 不安は残るけれど、次の工程に移ろう。


 あ、聖女に「女神」を否定しておくのを忘れた――もういいか。

 どうせ聞いてくれないだろうし、作戦が上手くいけば有耶無耶になるはずだし。



「姫! ようやく逢えた、我が伴侶! 逢いたかったでござるよ!」


「勇者様、貴方の姫はここにおります! 何なのよ貴女! 貴女なんかお呼びじゃないのよ! 消えなさい、この泥棒ネコ!」


「女神だか姫だか知らないけど、この忙しい時に勇者様惑わすの止めてもらえます!?」


「亜人の分際で神を名乗るとは不届き千万! 邪神の落とし子の前に貴様から成敗してくれる!」


「っていうか、なんでネコなのにキツネの面付けてるんすか。ついでに、そのウシみたいな乳はなんですか」


 おおっと、勇者の方から声をかけてきたけれど、勇者はイカれているし、従者の人たちからは歓迎されていないっぽい。

 というか、ひとり問答無用で襲いかかってきたぞ?

 近接戦闘系で邪教徒スライム相手には出番がないからかもしれないけれど、私をフラストレーションの捌け口にするのは止めてほしい。



「あの、姫でもなければ女神でもないのだけれど、邪教徒スライムを斃すのに協力してもらえませんか?」


 斬りかかってくる女性騎士さんを軽く捌きながら、諸々の否定と邪教徒スライム討伐の提案をする。



「斃すって、あの『邪神の落とし子』を? いくら姫でも――あれを斃すには聖女の祈りが必要で、あの聖女はそういうタイプじゃ――いや、女神の姫なら聖女もいけるのか?」


「女神じゃないです。それと、『邪神の落とし子』とはあれのことですか? あれが何なのかご存じなので?」


 この勇者、何か事情を知っているのかな?

 聖女がどうとかも言っていたし、勝手に()を進めちゃうのはまずかったかな?


 まあ、もう手遅れだけれど。



「うん。『邪神の落とし子』は、人類完全化(プレロマ)計画――人の手で神を作り出そうとしてできた失敗作――なんだけど、僕の知ってるのとは少し……いや、かなり違うみたい。僕の知ってる邪神の落とし子だと、不死性がもっと強くて、それを封じるのに聖女が命をかけるはずなんだけど……」


「さすが勇者様ですわ。強さだけでなく、お顔も良くて知識まで超一流とは! やはり、貴方様に相応しい女は私しかおりませんわ!」


「これで私たちに手を出してくれれば完璧なのに……。でも、女神様に操を捧げているからこその強さみたいですし、難しいですわね」


「勇者様どいて! そいつ殺せない! 止まれないチェストォォ! ああっ、我が家に代々伝わる名剣が!?」


「勇者様、離れて! こいつ、危険です! めっちゃ良い匂いします! うううっ、脳が……魂がNTR!」


 従者さんたちが邪魔だなあ……。


 というか、ひとりすごく匂いを嗅いでくるのだけれど?

 そして、悶絶しているのだけれど?

 女性騎士さんからの攻撃に対する盾にするために立ち回ろうとしたのだけれど、どうやら罠だったようだ。


 なお、女性騎士さんの剣戟は、面倒くさくなったので白刃取りして剣を奪って投げ捨てた。

 どうせ剣も彼女も役に立たないから構わないだろう。



「僕たちだけで押さえられてるのは、邪神の落とし子がまだ不完全だからだと思う。なんでこんな中途半端な形でイベントが発生したのかは分からないけど、こいつを斃すには真の聖女――多分、第八皇女のメーディア様が保護してる子が必要になると思う」


 この勇者、なぜそんなことまで知っているの?

 もしかして、関係者――はないか。

 つい最近召喚されたばかりだそうだし、ちょっと変わっているけれど、魂はあっちの根源に属するみたいだし。


 しかし、奇抜な動きの割に基本は押さえているようで、実力はなかなかのもの。

 初対面の人を「姫」とか言ってナンパしようとすることを除けば前任者よりはよほど優秀で、思いのほか侮れない。

 ボロが出ないように、迂闊(うかつ)な言動は避けた方がいいかな。



「あの、私の持っている弓が神器ですので、恐らく聖女抜きでもいけると思います」


 ということで、説得力など諸々はガーンディーヴァに押しつけることにする。


 ただ、彼らは自分たちのことで手いっぱいだったのか、私がほかの「邪神の落とし子」とやらを撃破していたのは見ていなかったようで、これが神器であることから説明しなくてはいけないっぽい。



「神器!? 貴女のような下賤の者がそのような物を――いや、貴女、何者ですの? 神様というのは戯言だとしても、なんだかすごく説得力がありますわね……」


「それをお寄越しなさい! それが相応しいのは勇者様ですわ! ですわよね、勇者様!」


「どこだ、どこに行ってしまった、我が家に代々伝わってきた宝剣!? うう、うわああああああん」


「すーーーーっ、はーーーー……。止められまへんわ、これ。勇者様、申し訳ありません。私の旅はここで終わりのようです」


 従者さん、本当に邪魔だな!

 騎士さんは打たれ弱すぎだし、亜人さんはこの状況で我欲に溺れられるとかメンタル強すぎ……いや、弱いのか?

 とにかく、邪魔!



「これ、資格が無い人が使うと死にますよ。それと、何度もは使えないので、次の一発で仕留めます。そのために、彼らに邪教徒スライム――いえ、邪神の落とし子――でしたかを集めてもらっています。皆さんには集め終わった後の彼らの退避を手伝ってもらいたく思います」


「……それは邪神の落とし子を強化することになると思うけど、姫は平気なの? 邪神の落とし子もそうだけど、その弓も。すごい力が秘められてるのは見ただけでも分かる。でも、その反動とかを考えると、すごく嫌な予感がするんだ」


 この勇者、勘が良いな。

 それを理由に退場するつもりだったのだけれど、先に釘を刺された気分だ。

 まあ、今更止められないので強行するけれど。



「正直なところは分かりません。それでも、このままだとこの町が壊滅してしまいますし、それよりは『分からない』ことに賭けた方がいいかなと思います。それと、確実性とか可能性を考えると私がやるのが一番です」


「いや、でも、せっかくまた会えたのに……! こんなのってないよ! あんまりだよ!」


 せっかくも何も、会ったことなんてないよね?

 こんなにも珍しい魂の形、一度見たら絶対に忘れないと思うけれど。



「良い心掛けですわ。貴女がどこのどなたかは存じませんが、その帝国を想う心に感謝いたします」


「そうですわね、墓碑くらいは豪華な物を用意して差し上げましょう」


「私の剣……。ううっ……ぐすっ……ひっく」


「嫌じゃあああ! 私の安住の地が! せめて、髪のひと房でも置いていって!」


 うーん、カオス。


 この勇者、従者さんたちと喧嘩でもしているのか、はたまた興味が無いのか、ガン無視である。

 ある程度はコントロールしないと、気づいたら外堀を埋められていたりするから気をつけた方がいいよ?

 まあ、私の気にすることではないけれど。



「髪はあげられないけれど、代わりにこれを」


「わーい、やったー!」


 しがみついて髪を引き千切ろうとしてくる亜人従者さんに鰹節を渡して引き剥がす。


 一応、半数は支持に回ったようだし、彼らの役割は「可能なら」程度のもの。

 できればスティーヴキングさんと聖女まで吹き飛ばしたくはないので上手くやってほしいところだけれど、駄目なら諸共に吹き飛ばすだけだ。

 吹き飛んでも死ななければ、若しくは死んでも3秒以内に蘇生すればセーフだろう。

 さすがに邪神の落とし子に食われてしまうと大問題だけれど、神器に吹き飛ばされれば美談になるかもしれないしね。

 いや、きっと湯の川情報部がしてくれるはず。


 ということで、このまま進めていこうか。

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