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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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34 作戦

 神殺しといっても、今回は本当の意味での神殺し――不可能を可能にすることではない。


 そもそも、その定義は私が勝手に思っているだけのことで、「人間の特権」という主張も含めて、押しつけるとか議論をするつもりはない。

 というか、根拠などは特に無いので、論戦になったら負ける。

 肉体言語なら勝てるけれど、そういう問題ではないと思うしね。


 ただ、「神殺し」の意味が言葉のとおりで、その対象となる「神」がこの世界の神族だとすると、可能な人が結構いるんだよね。

 本質的に同種である悪魔を除外しても、古竜たちとか、上手くやればエスリンとかレオにもできるかもしれない。

 しかし、それでは特別感が無い。

 彼らの能力を否定したいわけではないけれど、何か、もっと、こう、あるよね?


 とはいえ、「神」を特別視というか意識しすぎていると思われるのは嫌なので、殊更主張はしない。

 しかし、(やす)っぽいのも嫌。

 複雑な心境である。


 もしかして、これが「ツンデレ」というものか?

 つまり、私の中にも乙女心――人の心があるという証明になるだろうか?


 ……答えてくれる人がいないと少し寂しい。



 それはさておき、言葉どおりの「神殺し」でも、人間がやるなら不可能への挑戦と看做(みな)してもいいかもしれない。

 今のアルくらいになれば、末端の作業用天使くらいは――いや、あれも神域を展開できるし、自分の手に負えないと悟るとすぐに仲間を呼ぶので、先制攻撃を可能にする隠密性と射程、一撃で斃す攻撃力が必要になるし、ちょっと難しいか?

 領域の構築をもっと洗練して、持続時間もせめて十倍になれば安定してやれると思うけれど、それでも上位天使や神族には歯が立たないだろう。


 そもそも、アイリスやアルが成し遂げている「神殺し」は非常に限定的なものだ。

 不可能を可能に変えたとはいえ小さなことで、再現性も微妙。

 領域的には通用する可能性があるけれど、基礎能力が違いすぎる。

 例えるなら、戦闘経験の無い人がフラググレネードを1個だけ持って猛獣を相手にする感じだろうか。

 上手く当てれば斃せるけれど、外すと大ピンチで自滅する可能性もある。

 そういうのを領域といっていいのかとは思うけれど……私の甘々判定が齟齬(そご)の原因か。

 褒めて伸ばす私の方針が間違っているとは思わないけれど、フォローもしておいた方がいいのかな?

 でも、飴と鞭の使い分けは加減が分からないし、人任せにしていたら狂信者や蛮族が出来上がるし……。

 人を育てるって難しいね。



 そういえば、人の身で神を後一歩のところまで追い詰めたのは、アザゼルさんや先史文明の人たちの方が先か。

 賛否は別として、種子を持った人に人間の積み上げてきた知恵で挑むなんて、かなり心躍る展開である。

 正直、とても羨ましい。

 それに、もう少し上手くやっていれば違った結果になっていたかもしれない――というのは今だから言えることだけれど、負けても何百何千年後かに望みを繋ごうとしたのもなかなか根性があっていい。


 もっとも、二万年以上経ってから復活した彼らは、人間とはいえない存在になっていたけれど。

 自分たちの魂の形も分かっていないのに肉体を捨ててしまったことで、いろいろと壊れてしまったのだろう。

 チャレンジ精神だけは立派だったけれど、勝ち負け以前の結果である。


 というか、後の世に望みを繋ぐというなら、自分たちの手でなすことに拘らず、それこそ人を育てて――後進に想いを託して、人類規模で知識や技術を積み重ねていけばよかったのでは?

 自分たちが優秀すぎたせいで、他人を信頼できなかったのか。

 その優秀さがなければ善戦できなかったのかもしれないけれど、皮肉なものだね。


 ……いや、結論を出すのは早いか。


 先史文明大戦は世界規模で起きたものだ。

 彼らと同じようなことを考えた人がほかにいないとも限らないし、もっと上手くやっている人もいるかもしれない。

 禁忌とか面倒くさいのは勘弁だけれど、どこかに意志を継いでいる人がいるかもしれないと思うと、少し楽しみでもある。

 もしも会うことがあれば、真面目に相手をしてあげよう。




 さておき、「神殺し」も、スティーヴキングさんの「腐竜殺し(ドラゴンゾンビキラー)」のようなただの称号ならそれでもいいのかもしれない。

 ただ、私としては、神には高いハードルであってほしいし、人間にももっと高みを目指してほしいと思ってしまうのだ。


 そして、それが可能な私は「人間」ということで、そんな私を神に祭り上げようとは、まったく酷い話――いや、待てよ?

 普通にできることをやって「神殺し」とはならない。

 そうすると、私にとっての不可能となると――虫を克服すること?

 うん、それは無理。

 百歩譲って殲滅は可能かもしれないけれど、友好関係を築くとかは絶対に無理。

 領域が展開できるようになってからは虫嫌いというか苦手が酷くなったからなあ……。

 つまり、私はまだ「人間」ではないのか――いや、高みには至っていないだけで、みんなと同じように得手不得手がある人間なのだ。




 さておき、いずれにしても、今回の「神殺し」はそういったことではない。


 作戦は、みんなが「神」だと思っている私が死んでみせる――そう演出するだけのこと。


 もちろん、その「演出」には充分な説得力が必要になる。

 そのひとつは邪教徒スライムに担ってもらうけれど、さすがに負けて食われて――というような無様は曝せない。

 神族がこの様子を監視しているのは間違いないだろうし、彼らには冗談とか誠意とか祈りが通じないからね。

 彼らが仇討ちや助太刀をしに降臨しないように、苦戦してみせるのもNGだ。



 そもそも、邪教徒スライムは、後々のことを考えると勇者たちに退治してもらうのが最善だと思う。

 事件単体で見れば邪教徒スライムを斃せばお仕舞いかもしれないけれど、これが因果の流れのひとつでしかない場合、後に続く事件に皺寄せがくるかもしれないし。

 そこで、この試練を乗り越えていない場合――特にこの世界の因果はインフレする傾向が強いそうなので、次回はより厳しい状況になるかもしれない。


 しかし、その邪教徒スライム討伐も、被害少なめでとなると現時点では「神殺し」に近い。

 それが人間の特権とはいえ、誰にでもできるものではない――可能性が無限というのは総体としてのことで、個々人には限界や向き不向きがあるのだ。


 そして、ここにいる「姫」やら「女神」やらと現実が見えていない人たちに期待は――いや、どうかな?

 みんなかなりヤバめな人だし、私の想像を超えてくる可能性は否定できない。

 ただ、それが人間にとって良い方向になるかは分からない。



 ちょっと興味はあるけれど、間違えてはいけないのは、ここで優先するべきは神殺しではなく邪教徒スライムの殲滅である。

 彼らの能力でも不可能ではないと思うけれど、「大勝利」は期待できる確率ではないし、一か八かに賭けるわけにもいかない。


 本来なら、これは俗にいう「敗北イベント」とかいうものなのだろう。

 勝利はするものの多大な被害が出てしまい、生き残った人たちが強くなろうと決意するとか、同じ間違いを犯さないように反省するとか。


 誤算は私の存在。

 深く考えずに手を出したのがまずかったか。

 ……いや、邪教徒が変態するなんて予想できるはずもないし、元からおかしい人たちの魂の異変になんて気づけるはずもないから不可抗力だけれど。


 とにかく、何が悪かったかは別にして、私のことを「姫」とか「女神」と言う人のせいで――彼らの異質さも合わさって、脅威度が正常に認識されていないことが問題なのだ。

 いや、勇者たちは認識している上で、(ひめ)にいいところを見せようとか、(めがみ)の期待に応えようと無理をしている可能性もあるのか?


 いずれにしても、万一にでも彼らが邪教徒スライムに呑み込まれて、人間の新たな境地を開拓するような展開になってはさすがにまずい。

 もう少し可能性が高ければ、彼らのサポートに徹しつつ、戦闘後に「神器使用の反動」とか適当なことを言って消えればよかったのだけれど……。



 なので、今回は私が直接邪教徒スライムを斃す方向で進める。

 あまり目立ちたくはないけれど、期待できるほど勇者と聖女のことを知らないし。

 というか、第一印象では期待どころか警戒すべき人たちである。

 スティーヴキングさんも、以前はもっとまともな人だったのに……。

 おのれ、帝国の闇め。



 しかし、よく考えると、ここで勇者や聖女を失う展開は、妹たちの状況にも影響を与えるのではないだろうか。

 場合によっては、彼らの代わりとして戦場に派遣されることも?

 それはそれで帝国から脱出するチャンスにもなるけれど、少数とか個人単位でバラバラに派遣されると救出作戦の規模が大きくなりすぎる。

 これも場合によっては新たな魔王の擁立を急がなければならなくなる?

 ……ここにいる私では判断できないな。


 ということで、邪教徒スライムを斃しつつ、私が神であるなどという悪評もここで消しておくべきだろう。


 ただし、私が否定しても誰も聞いてくれないのは湯の川で証明済み。

 ……常々「ユノ様の御心のままに」と言っておきながら、それはどういうことなのだろう。



 まあ、いい。

 とにかく、勇者と聖女を犠牲にせずに邪教徒スライムを斃すことが絶対条件。

 妹たちに迷惑を掛けるとか、モブの大将やノエル先輩から受けた恩に報いないのも私の主義ではないしね。

 そういうのは、私が人間であるために大切なことだと思う。


 それと、私が神だと認定されてしまうと――それで帝国を刺激してしまうと、やはり違う形でみんなに迷惑を掛けてしまうだろう。

 あるいは朔ならそれでも上手くやるのかもしれないけれど、面白おかしい方向に利用される可能性も否定できない。

 この場にいれば良いアイデアを出してくれると思うけれど、終わったことに対しては……。


 なんて、いつまでも考えているだけでは仕方がないので、そろそろ動くか。

 朔がいれば、脱線しすぎないようにコントロールしてくれるのになあ。


◇◇◇


 さて、合体前の邪教徒スライムの触手の数は5本だった。

 4本は手足の成れの果てとして、もう1本は何だろう? 頭か? まさか――。

 いや、変態した邪教徒には女性もいたし、頭だな。


 ……「変態」というと、真っ先に思いつくのがトシヤになってしまったので、どうしても思考が変な方に引っ張られてしまう。

 これもある種の神殺しか――いや、彼が更生すれば――は望み薄なので、彼の後継者が上書きしてくれるように祈ろう。

 彼も(こころざし)は立派で努力はしているんだよね……。

 そうでなければあっさり忘れられるのに。



 とにかく、それが射程範囲――およそ十メートルくらいにいる獲物に襲いかかる。


 しかし、勇者のように、邪教徒スライムの射程外から攻撃できればほぼ安全。

 さらに、彼には従者さんたちのサポートもあるので、合体前の邪教徒スライムなら欲を出さない限りは無傷でいられるだろう。

 もっとも、どうにかして再生能力を上回らない限り、どこかで「撤退」の判断をしなければならないけれど。


 聖女はステップワークが巧妙で、手数も多く威力もそこそこ――と、意外と接近戦が上手だ。

 しかも、彼女のゴリラアームは邪教徒スライムの侵食を受けず、触手を掴んだり千切ったりできる。

 なので、立ち回りを間違えない限りは安全か。

 ……いや、ゴリラ化を「神の加護」と吹聴されるのはとても危険である。

 早く何とかしないと。


 スティーヴキングさんは、射程でも劣り、侵食にも抗えない立派な餌状態。

 よく観察していれば、邪教徒スライムが無機物を上手く呑み込めないことは明らかなので、道具を使えば――と気づきそうなものなのに。

 どうにも神から授けられたと勘違いしている我が儘ボディを過信しているようだ。

 こちらも早くメンタルケアとかしてあげた方がいい。


 そして、魔法学園らしく、彼らを遠距離から援護している教師や生徒が多数。

 ただし、大して――というか、全くダメージを与えられていない感じ。

 連携がとれていない中で広範囲高威力の魔法は使いにくいのか、学園施設を破壊することを躊躇(ためら)っているのか、まだ大きな被害が出ていないので危機感を覚えていないのか。


 いずれにしても、邪教徒スライムたちの意識を分散させているという意味では貢献しているのかもしれないけれど、それで徐々にとはいえ戦域を拡大させているのは私の計画的によろしくない。



 一方で、彼らの攻撃を受けていない邪教徒スライムは、近くにある生物に無差別に襲いかかっている。

 といっても、その対象の大半は邪教徒の生き残りであったり、変態した同志である。


 勇者たちを相手に消耗している邪教徒には邪教徒スライムに抗う術は無く、包囲されていて逃げる場所も無いので、「勇者たちに殺される」か「邪教徒スライムに呑まれる」かの二択である。


 なお、邪教徒スライムに呑み込まれても通常のスライムのように消化されることもなく、臓物と体液で構成された体内で窒息するまで藻掻くことになる。

 つまり、どちらにしても死ぬ。


 それはさておき、邪教徒スライムに呑み込まれた生物は溺死した後も邪教徒スライムの中で漂っているだけで、消化される気配もない。

 もしかすると、邪教徒スライムは食料とするために人間を襲っているのではないのかもしれない?

 あるいは、邪教徒スライムがスライムになりきれていないだけなのか、それとも飽くまで別種の生物なのか。

 よく分からないけれど、グロいのは苦手なので、これ以上の観察は諦めよう。


 現状で分かっているのは、邪教徒スライム同士の食らい合いは、私の目でもどちらが優勢なのかも分からないことだ。

 触手同士が絡み合い、そのままひとつになる――あるいは合体とでもいうのだろうか?

 ただ、物理的にはひと塊になっているけれど、魂や精神は継ぎ接ぎ――というのも烏滸(おこ)がましい稚拙な纏まりで、やはりさっぱり分からない。



 とにかく、合体後の邪教徒スライムは、速度こそ据え置きだけれど、サイズは足し算的に増えていく。


 なお、4体合体した個体で触手が17本。

 ……計算が合わないけれど、元々からしていろいろとおかしいものに合理性を求めても仕方がない。


 そして、射程も二十メートル強にまで伸びている。

 ただし、触手が増えるにつれて精度が落ちていくようだ。

 認識能力の問題か、あるいは指揮系統のようなものが混乱しているのか。


 とにかく、4体合体の邪教徒スライムではまともに動かせるのは半数ほどのようだけれど、これくらいになると聖女も厳しくなるだろう。

 単純に手が足りない――もし聖女の手も増えて、それを神のおかげにされても困惑するけれどね。


 とにかく、邪教徒スライムが全部で何体いたかは覚えていないけれど、最終的には勇者を含めて手も足も出なくなるのは確実だ。

 それでも、更に変態するようなことがなければ逃げることはできると思うけれど、町は壊滅かな。



 例外は私――というか、ガーンディーヴァだ。

 有効射程の差はいうまでもなく、威力についても既に1体を消滅させた実績がある。

 合体で生命力も増えていたとしても、魔界でデネブを相手に使った神器擬き(おもちゃ)の威力から想像するに、完全合体邪教徒スライムでも充分通用すると思う。

 確実性を重視するなら各個撃破するべきだけれど、私が手を出すのだから最悪にはならない。


 なので、今回はあえて合体させる。

 それを使って上手く退場することが私の作戦なのだから。

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