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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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32 サプライズアタック 2

 異世界人から見ても日本人としても異質な勇者と、ゴリラと化した野生の聖女と、異形と化した悲しきスティーヴさんの奮闘のおかげで、邪教徒たちはなす術なく鎮圧されつつある。

 邪教徒の方にもふたりほど手練れがいて頑張っているものの、三人の圧の前に屈服させられるのも時間の問題か。


 というか、邪教徒側の手練れはどう見ても対人専門の戦士で、人外相手には戦術の多くが通用していない感じである。

 奇怪な動きをする勇者にはついていけず、即死させられない程度の攻撃はゴリラ聖女の癒しの力の前には無意味で、スティーヴさんの圧倒的な筋肉は武器や魔法の一切を通さない。


 ……最後のは一体なんだ?

 領域化しているわけでもないのに、物理的な強度で剣や魔法を弾いているの?

 アルくらいにレベルがあっても「クリティカルを食らうとまずいから」と、避けるか魔法で防御するというのに、一体どんな改造をすればこんな身体になるのか。

 人間の可能性を追求するのも大事だけれど、加減を知らない人はこれだからなあ……。

 ちょっとキツめに懲らしめておくか。



 とにかく、その圧倒的性能差で勝負になっていないけれど、蹂躙(じゅうりん)というほどではないのは連携が取れていないからか。

 むしろ、足を引っ張り合っている感が強いかも。


 奇声を発し続けて斬撃を飛ばしたり飛ばさなかったりする勇者には、従者さんも近づけない。

 神の素晴らしさを説きながら邪教徒を叩き潰していく聖女には、神も近寄れない。

 肥大しすぎた筋肉を誇示するスティーヴさんに贈られるのは、賞賛の声ではなく混じりっけなしの拒絶である。


 ヤバいね。

 そう思っているのは私だけではないらしく、当人たちもほかのふたりに近づこうとはしない。

 事情を知っていないとどっちが討伐対象か分からないよ。



 邪教徒側からすると、相手を傷付けられる最低限の攻撃力も無いようでは、間合い操作でどうにかなる問題でもない。

 持久戦に持ち込むにしても、地の利と数的優位と補給を受けられる勇者たちの方が有利だろうし。

 それでも邪教徒たちが逃げないことには何か意味があるのか?


 時計塔に何かある――ならさすがにもう出ているか。

 もしかして、本当に邪神が降臨するのを待っている?

 ちょっとでも祈りとか声が届きやすいように高い所に上っただけとか?

 だとしたら正気を疑う。

 いや、通りすがりの私のようなものもいるし、主神も月に――高い所にいるし、可能性はゼロではないけれど。


 しかし、私も不意打ちを食らってから警戒をしているもののそれらしき気配は無い。

 まあ、攻撃をしてきたのが邪神とは限らないし、そもそも気配なんて分からないのだけれど。




 私が見えない敵を警戒している間にも戦況は進んでいく。


「あれが噂に聞く勇者様の剣舞『オタゲイ』か。実際に目にするとすさまじいな」


「ああ。だが、ただ激しいだけではないぞ。よく見ろ、あの奇声のひとつひとつにも意味がある。とても実戦的だ」


「しかし、あの優しい見た目とは裏腹の荒々しさ……! 俺は同性愛者ではないが、勇者様と森の中の丸太小屋に住んでみたいと思うぜ」


 勇者のあれは異世界の人からすると剣舞に見えるのか。

 一応、小剣は握っているし、振り回してはいるけれど、剣術とか舞踏とかの基本はどこにあるの?


 ……私も魔界でピョンピョン跳ぶ棒術を見て言葉を失ったし、あれを本職の剣士が見たら激怒すると思うよ?


 まあ、いい。

 剣術は門外漢の私から見ても無駄打ちが多すぎるけれど、確かに奇怪な動きと意識やタイミングを外す奇声は初見の相手には有効みたいだし、邪教徒程度相手に後れを取ることはないだろう。



「聖女様、なんと勇ましい……。私たちを守るために、あえて危険な前線へ飛び込むなんて……」


「そういえば、聖女様が以前『皆さんの信仰が力になる』と仰られていたのを耳にしましたわ」


「つまり、あのちょっとセクシーな御手は俺たちの信仰心の表れ! あの御手に抱かれて逝ける奴らのなんと羨ましいことよ!」


 一方で、聖女の信奉者たちは正気か?

 人として大事なものが欠けている笑顔で人をぶん投げぶん殴る彼女を見て賛美できるのは、すごく訓練された異端者だと思うよ?


 まあ、いい。

 間合い操作的にはまだまだだけれど、パワーとテクニックはあるし、攻撃を受けても即回復してしまうような怪物を邪教徒程度では仕留められないだろうし。

 ここでも私の出番はなさそう。



「彼が噂の腐竜殺し(ドラゴンゾンビキラー)か。ただの噂だと思ってたが、説得力すげえな」


「ちなにみ、彼も聖女様と同じく女神様の使徒らしいぜ。女神様の懐の深さ、すげーな」


「女神様ってマッチョ好きなのか? 俺も魔法使い辞めて身体鍛えようかな」


 おい、止めろ。

 一部事実に変な尾ひれを足すんじゃない。


 確かに、鍛えていないよりは鍛えている方が好ましいけれど、それは結果ではなく努力に対してだよ。

 結果を重視するなら、いくら鍛えても全く筋肉がつかない私が駄目な子になってしまうし。




 それでも、邪教徒は順調に駆逐されていって、見える範囲の制圧はほぼ終わった。

 見えていない範囲や、見えてはいるけれど「怪しい」程度の人は当局に任せようか。


 ノエル先輩の妹さんも無事だし、神器も使わずに済むのならそれに越したことはない。


 特に後者。

 魔力の矢を発射するので実物の矢は必要ないのだけれど、使用するのにその都度魔力を供給するか、事前に神器にチャージしている魔力を使うしかない。

 アルは神器に認められていない状態で自前の魔力で撃とうとしたけれど、反動で爆散しかけた。

 というか、爆散したけれどエリクサーRで回復した。

 さすがの私もちょっとビビったね。

 ……思えば、エリクサーRの危険な使い方は、あの頃から兆候があったのだろうか。

 とにかく、その時はほとんどチャージされていない状態で、拒絶されただけでそうなったのだ。


 現在はフルチャージされているようなので私でも使えるはずだけれど、その「フル」がどれくらいなのかも分からない。

 また、細かな調整ができないということでもある。

 さらに、神器自体に意思があるそうなので、拒絶されるとどれだけの周辺被害が出るか――いや、下手に忖度される方が問題か。

 魔界での玩具の槍のようにどんな威力になるか分からないし。

 恐らく、チャージするだけなら私の魔素でもできると思うけれど、誤動作を起こしそうな気がするので止めておいた方が無難か。



「女神様ーっ! ご照覧いただけましたかー! 貴女の使徒が、進化したスティーヴキングが邪教徒どもを打ち滅ぼしましたぞー!」


 などと考えていると、自身の周辺が片付いたスティーヴさん……キングになったらしい彼が逸早く勝利の雄叫びを上げていた。


 それ自体はいいのだけれど、誤解されそうなので、こっちを向いて言わないでほしいかな。

 それと、貴方はいつどうやって使徒になった――あるいはされたの?

 そんなことまで私のせいされると困るのだけれど。



「確かにすぐ近くに神様の存在を感じます。やはり私たちの女神様への信仰が、女神様のご加護となってこの腕に宿り、邪悪を打ち払うことができたのですね」


 そこに聖女も合流してくる。


 根拠も無くいい加減なことを言わないで?

 自分の立場と影響力を考えて?

 それと、腕はいつまでそのままなの?

 胸の前で手を組んでいると、祈っているというよりダブルスレッジハンマーでもするのかと思っちゃうよ?



「あれが女神――違う! いや、違わないけど、あれは我が姫! 僕くらいの違いが分かる男になるとシルエットだけでも分かる! 姫ー! 貴女もこっちに来ていたのですか! これはもう運命ですね! 貴女のオージはここですよー!」


「勇者様! 貴方の姫は――ゴクドー帝国第六皇女シンシアはここにおります!」


「勇者様!? いきなりどうされました!? お気を確かに!」


「勇者様、このような場で不用意な発言はお控えください!」


「勇者様にお姫様方、まだ戦闘は終わってないです――というか、その人から危険な匂いがプンプンします! 迂闊(うかつ)に近づかないで!」


「ええい、離せ! 僕は姫と添い遂げるの運命なのだ! 邪魔をするならチギュアアアアアアア!」


 何この人、怖……。

 従者の人たちも困っているじゃないか。


 ……あれ? 従者のひとりは亜人だ。

 人族至上主義の激しい帝国上層部が認めたとは思えないし、ほかの従者さんたちとは微妙な距離感があるようだし、勇者の我が儘かな?


 変な人かと思ったけれど――いや、実際おかしな人だけれど、良いところもあるじゃないか。

 当事者たちには堪ったものではないかもしれないけれど、「亜人差別」という無意味なものを見つめ直す切っ掛けにはなるだろう。

 私を巻き込まないところで存分にやってほしい。



 さておき、勇者が彼女たちの制止を無視して――振り払って近づいてこようとしているけれど、これは撃つべきか?

 従者さんの中には皇族もいるようだし、巻き込むのはまずいか?


 というか、目的を達成した時点でとっとと撤退しておくべきだった。


 今からでも逃げるか?

 しかし、勇者にまで追われるようになると面倒だし、少なくとも従者さんたちには彼とは無関係だということを理解してもらった方がいいか?



「……あの、貴女は神様か貴族様なのですか?」


 いや、ノエル先輩の妹さんの誤解を解く方が先か。



「どちらでもないですよ。私は――あれ?」


 誤解を解こうとした矢先、勇者の後ろで斃されていたはずの邪教徒が立ち上がるのが見えた。

 彼らは確かに死んでいたはずで、ゾンビ化するには早すぎる――というか、巨大化――いや、異形化していく。

 それも、ひとりだけではなく、続々と――半数を超える邪教徒たちの死体が立ち上がり、膨れあがっていく。


 何これ?

 私が人の死を見誤ることはないはずだけれど、元々の魂の状態まで覚えているわけでもない。

 それでも、違和感が酷い――というか、これが人間の魂か? いや、面影は残っているけれど、支離滅裂すぎて「個性」で片付けるには無理がある。


 これ以上状況をおかしくしないでほしいのだけれど。



「うおおっ!? 何だあいつらは!?」


「勇者様! 後ろ! 後ろー!」


「女神様、これは一体どういうことですかー!?」


 もちろん、気づいたのは私だけではない。

 その中の一部の人たちが、私へのアピールに夢中でいまだに気づいていない勇者と聖女とスティーヴキングさんに警告を送る。


 更にごく一部の中には、私に説明を求めてくる人もいるけれど、私にも何が何だか分からない。

 というか、私は女神ではないです。



「何だこいつは!? そうまでして僕と姫の再会を邪魔しようというのか! いいだろう、貴様を斃さねば姫の許へ行けぬというなら本気で相手をしてやろキエッ! キエエエエエ!」


 勇者もようやく状況に気づいたようで――いや、ちょっとおかしな妄想に浸ったまま?

 再起動した邪教徒が彼の邪魔をしているわけではないのに――というか、手近な生物に襲いかかっているだけのものにブチギレている。



「彼らからは邪悪な気配がします。我が神よ、ご照覧ください。貴女の名に懸けて、彼らを浄化してみせます」


 聖女よ、邪教徒が邪悪なのは元からだと思うよ。

 それと、貴女の宗派ではゴリラパンチを浄化というの?

 誤解されそうだからこっちを見ないで?



「貴様らも変態だと!? ふっ、だがその不細工さ、貴様らの神の程度が知れるというもの! キングにしてくれててありがとうございます、女神様!」


 止めろ。

 いちいちこっちに振るな。


 誰だよ、スティーヴさんをあんなにしたのは。

 辺境の町では余所者にもよくしてくれる良い人だったのに。

 絶対に許さない。



 呪われろ――くっ!?

 またどこかから攻撃が!


 まあ、今度は警戒していたので避けたけれど。

 それでも、いまだに私から隠れ続けているとはなかなかのやり手である。

 もしかすると、領域を展開しないと見つけられないレベルの敵がいるのかもしれない。

 なんだか面倒なことになってきたなあ……。

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