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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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31 サプライズアタック 1

 さて、ノエル先輩には「みんな助ける」とは言ったものの、よくよく考えると私に人質救出の実績は無いのではないだろうか?



 この話になると、みんなには「面倒な女」「ヤベー女」「人の心が無い」「さすがユノ様」とか言われたりもするけれど、私としては人質よりも私に集中してほしいのだ。

 恋愛とかもそうらしいけれど、相手にしっかりと向き合ってほしいと思うのは当然のことだろう。

 なので、真っ先に「私の手で人質を処分する」という選択肢が出てくるのも普通のことだ。

 ……だよね?


 というか、せっかく私に立ち向かってきた人が、人質に効果が無いことを知らないまま、そんなことに囚われて本来の能力を発揮できないと悔いも残るだろう。

 それを正してあげるのはむしろ優しさだと思うのだけれど?

 人質になっている人への優しさ?

 仇は討ってあげるから心配しないで。


 そもそも、人質が効かなければ破綻するような作戦は根本から間違っているというか、相手に成否を委ねている時点で頭がどうかしている。

 人質をとられた方にしても、いちいち狼狽(ろうばい)とか躊躇(ちゅうちょ)したりするから人質をとる人を調子に乗らせるのだ。

 警察官や政治家などの「人質の救出」を優先しないといけない職業の人は大変だと思うけれど、それも理想が高すぎて分不相応な目標を設定しているからである。

 どこかの神だって「一日に千人殺す」に対して「だったら一日に千五百人産んでやる」くらいの対応なのだから、神ならぬ身で神よりも上手くやろうとする必要はないのだ。


 それに、条件とか運次第とはいえ、ここは死者の蘇生も可能な世界である。

 千人殺されても千五百人産んだ上で百人生き返らせれば大勝利ではないだろうか。


 ……いや、待てよ?

 エスリンは私の手で殺して、私の都合で生き返らせたけれど、当人は「私は我が君の手で生まれ変わった」とか言って想定外の方向で喜んでいるし、困ったことにそれを羨ましがっている人が多い。

 そのせいかは分からないけれど、お供えに紛れて我が身を捧げようとする人もいたりする。

 湯の川では数少ない禁止事項のひとつが「生贄」なのに。

 もちろん、お供えのお肉やお魚もある意味では生贄といえなくもないけれど、それは獲ってきた努力を褒めるために受取っているのだ。

 獣や家畜と同じ階梯に堕ちてまで喰われたいというなら一考するけれど、特別な感想とかは出ないと思うよ?


 とにかく、湯の川独自の狂った価値観のせいかもしれないけれど、下手に殺さない方が――少なくとも蘇生はしない方がいいのかな?

 魔界でのアイリスも蘇生のしすぎで変な雰囲気になっていたし、トシヤも――元々変か。

 蘇生に人を狂わせる何かがあるのかもしれないね。



 おっと、またも思考が逸れかけていた。


 そういえば、去年の夏に悪魔の領域で綾小路さんを助けた記憶がある――いや、近視眼的には「助けた」といってもいいかもしれないけれど、本質的にはその途中か。

 というか、どこまでやれば「助けた」ことになるのだろうか。


 その場限りのこと、若しくは猶予を作っただけでいいなら現状で充分だけれど、因果が形成されてしまっていると二度三度と繰り返す可能性がある。

 アルにこの話をしたところ、「毎度ク〇パに(さら)われるピ〇チ姫みたいなもんか」と言っていた。

 それを聞いた魔王の方のレオンやトシヤも頷いていた。

 例えはよく分からなかったけれど、みんなに心当たりがあるということだ。


 なので、真に「助ける」とは、困難に打ち勝つ力を身につけさせることか、ずっと手の届くところに置いておいて一生守り続けるかになると思う。

 もっとも、前者には当人の意思が重要で、後者はその意思を踏み(にじ)る可能性があるけれど。


 ……そんな大層な話だっただろうか?


 とりあえず、変な因果が付かないように、「結果的に助かった」ように演出しておこうか。


◇◇◇


 領域を展開していいなら簡単なことなのだけれど――それができないからいろいろと苦労しているわけだ。

 などと、負け惜しみのようなことを考えても仕方がない。

 領域無しでもやりようはいくらでもある。

 確実性は下がるだけだ。



 そもそも、邪教徒たちの望みは何だろう?

 生贄という割には一向に捧げる気配が無いし、人質だとするなら要求が何も無いのはおかしい。

 生き残るためだとすると、最初からこんな無謀な行動をしないで身の丈に合った生活を送っていればよかっただけだ。

 ……根本的なところで望みから違う方向へ進んでいない?



 現在は歌っているだけで――なぜかメドレーに突入していて終わりが見えない。

 というか、目的らしい目的も見えてこない。


 さすがに何も考えていないわけではないと思うので――もしかして、時間稼ぎか?

 いや、それも暴動を起こさず潜伏していればよかったはず。


 だとすると、学園に何かあるのか?


 学園にあったもので真っ先に思いついたのは、さきの人造神研究施設。

 まさか、邪教徒もこれを知っていて――いや、繋がっていて邪神を作ろうとしていたとか?

 一応、学園正門から研究施設に行く途中に時計塔があるので、方向としては間違っていない。


 なるほど。

 なんだかよく分からないけれど、点と点が繋がりそうな気がする。

 そして、積極的に生贄を害さないことと、目的や要求を述べないことから、やはり時間稼ぎの方も当たりか。

 今日の私は冴えているな!



 もっとも、時間を稼がれてどうなるかまでは分からない。

 動機や謎の解明は当局や探偵に任せよう。


 私からすると、わざわざ時間を稼がせてあげる理由は無い。

 どうせろくなことではないだろうし、興味も無い。

 もっと真っ当な方向性で努力していれば、「受け止めてあげよう」という気にもなるのだけれど。



 さて、生贄は7人で、ひとりの生贄につきひとりの邪教徒で拘束している。

 また、邪教徒自体は当初から少し増えていて、見える範囲で38人いる。

 時計塔の見えない場所にもいるかもしれないので、少なくともだ。


 領域を展開してもいいならその瞬間に終わるし、領域無しでもいろいろとやりようはある。

 ただし、あまり派手には関与したくない。

 そして、道具として渡されているのが、神器の弓(ガーンディーヴァ)と魔法少女ステッキである。

 後者は論外として、前者も少しばかり過剰ではないだろうか?

 ちょうどいいのが欲しいところである。



「ユノ様、我々も援護しましょうか?」


「……いや、貴女たちの存在を表に出したくないから、ここは私がやる。これが終わったら、ほとぼりが冷めるまでしばらく身を隠す。ああ、しばらく町が荒れるかもしれないから、先輩や居酒屋モブの大将たちのことをよろしく」


「御意」


 少し迷ったけれど、湯の川諜報部の存在を表舞台に出したくない。

 存在には勘付かれているかもしれないけれど、確定かそうでないかは雲泥の差があると思う。

 私だけなら活動を控えて姿を消せばいいだけだけれど、彼女たちの活動に制限がかかれば妹やクラスメイトたちのサポートにも支障が出るかもしれないしね。


 ということで、ここでは手札を温存する。




 さて、実際にどう対応するかだけれど、安全確実なのは皆殺し。

 鉄球でも投擲(とうてき)すれば充分だと思う。

 コントロールには自信があるので、人質に当てるようなヘマはしない。

 ただ、邪教徒だけをきっちり殺して、なおかついろいろとぶち撒けない力加減が難しいか。

 まあ、掃除するのは私じゃない――鑑識の人とかがやるだろうし、ちょっと強めで大丈夫かな。

 ガーンデーヴァも飛び道具だけれど、一度試射しないと鉄球以上に加減が分からないので、とりあえずは使わない方向で。

 念のため、フラッシュバンでも投げ込んでおけばイレギュラーも起きないか。


 ……いや、勇者の前でそれをするのは問題があるか?

 人質を取られただけで躊躇(ちゅうちょ)する甘ちゃんだしね。

 特に人質とか非戦闘員に犠牲を出したらものすごく責めてきそう。

 殺さないようには気をつけるけれど、余波で多少の負傷は避けられないだろうしね。


 それに、邪教徒には女性もいる。

 アルみたいに狂ったフェミニズムを発揮しないとも限らない。

 彼がそれを許されているのは、その傲慢さを押し通せるだけの能力があるからだ。


 勇者の能力までは分からないけれど、この状況で打つ手が無いなら大したものではないだろう。

 そして、あの手のイケメンは女性に甘い傾向があるし(※偏見)、モテるためなら何でもやる(※偏見)努力家である。

 努力自体は否定しないけれど、そういうのはある種の女性の敵であって、無責任に手を出し続けていたらいつか刺されるよ?



 ……何の話――そうだ、人質救助だ。

 大して時間の浪費はしていないとはいえ、余計なことを考えている場合ではなかったな。


 だったら、姿を見せずにやるか?

 犯人が分からなければ追及されようもないし、殺すだけなら余裕でやれる――いや、高所で拘束されているノエル先輩の妹さんは落下の恐れがあるので保護してあげなければいけないか。

 そうすると、仮面で顔を隠し、学園の制服で攪乱かくらんしたとしても、私に辿り着かれる可能性はゼロではない。

 もちろん、捕まる前には逃げるつもりだけれど、問題はどの私に辿り着かれるか――はぐれ被召喚者ならまだいいけれど、湯の川の方だと国際問題――湯の川は国ではないけれど、大問題になるかもしれない。



 なので、勇者を矢面に立たせようかと思う。

 3、4人ならどうにかなるそうなので、4人任せる感じで、その切っ掛けを作ってあげよう。


◇◇◇


 最初のターゲットは鐘楼にいる邪教徒、貴方に決めた。

 彼の無力化とノエル先輩の妹さんの保護を行うと同時に、彼自身にも囮になってもらおう。



 さて、瞬間移動すると全裸になってしまう――それはそれで強い視線誘導にはなると思うけれど、後で妹たちに怒られるのは確実である。

 そして、対象を今すぐ射殺するのも後の展開に響くので、まずは気づかれずに接近するための切っ掛け作りから始める。


「エルちゃん、レッツゴー」


 胸ポケットに控えていたエルちゃんに、簡単な指示を与えてゴーサインを出す。



「ピカー」


 すると、エルちゃんがちょっと不安になる返事と共に飛び立っていく。



 ちょっとお莫迦なエルちゃんに指示内容を理解できていたのか不安だったけれど、不規則に明滅しながら、これまた不規則に飛んでいく彼女の姿は多くの人の目を惹いた。

 とても良い子だ(グッガール)


 また、ホタルの光のように見えたことで、さきの邪教徒たちの合唱との関連を連想させたのかもしれない。

 彼らの多くも「攻撃か」と身構えたけれど、飛行方向と速度の遅さからそうではないことを理解したらしく、一瞬気を緩めてしまう。

 その後すぐに「陽動だ」と気づいたようだけれど、もう遅い。



 私は既に鐘楼に上っていて、ノエル先輩の妹さんを保護――暴れたり叫んだりしないように拘束しているので、捕獲というべきか? している。

 そして、何が起きたかまだ理解できていない邪教徒さんを蹴り落とす。


 彼は歌とも悲鳴ともつかない声を吐きながら落ちていき、少ししてからドチャリと水気を含んだ大きな音が響く。

 高さ的に、システム補正を受けている異世界人だと即死するかは怪しいレベルだったけれど、受け身もまともに取れないようではあまり軽減されなかったのかもしれない。


 とにかく、それがまた周囲の気を惹いて、事態を理解するのに一瞬の時間を要する。


 つまり、動き出すには充分な隙が生まれた。



 そして、ずっと切っ掛けを探していた勇者が動いた。


 いや、独特すぎる戦闘スタイルでびっくりさせられた。


 よく分からないポーズのまま、滑るように高速移動。

 そして、これまたよく分からない踊り――少なくとも剣舞ではないと思うけれど、独特のモーションで斬撃? のようなものを飛ばしまくり、邪教徒だけを切り裂いていく。

 ついでに奇声も飛ばしていて、邪教徒さんが何か言っているのをかき消している。

 そこに、人質にされていた人たちからの悲鳴も合わさって地獄絵図。



 ……勇者にはユニークスキルが標準装備されているとは聞いていたけれど、これが彼のユニークスキルなのだろうか。

 どんな人生を送っていればこんな個性が身につくのか気になるところではある。


 しかし、「なるほど」とも思う。

 精度と威力のコントロールは優れているけれど、射程範囲的に3、4人を守るのが精いっぱいということか。


 でもね、客観的に見るとヤバい儀式にも見える。

 事情を知らなければどっちが邪教徒か分からない。



 とにかく、残りの生贄を拘束している邪教徒を片付けようか――と思ったら、勇者に遅れて飛び出す影がふたつ。



 ひとつは聖女だ。


 ただし、上半身――特に腕がムキムキのバッキバキに筋肉で膨れあがっていて、袖が弾け飛んでノースリーブになっている。

 これはもう聖女というよりゴリラである。


 そんな彼女が、邪教徒をウッホウッホとぶん殴りながら「これぞ神の御業」とか「皆の信仰心が起こした奇跡」とかわけの分からないことを口にしている。

 錯乱しているのか、あるいはさきの禁忌研究と関係があるのか。

 一応、人質には手を出していないというか保護しているようなので、敵味方を判断するくらいの知性は残っているのか?

 安全策を採るなら彼女も無力化しておくべきだと思うけれど、判断に迷うところだ。



 それよりも、もうひとつの影の方が問題だった。


 その容貌には見覚えがある。

 帝国北東部の辺境で一緒に行動したこともある帝国軍人のスティーヴさんだ。

 こんな場所と状況下で再会できるとは思ってもいなかった(※昆布締めにしたことは忘れている)。

 帝国軍の中では良識がある人で、そのせいで割を食うことが多かったようだけれど、無事で何よりである。


 しかし、見覚えがあるのは顔だけで、首から下が肥大化――というか、こちらもムキムキのバッキバキに異形化している。

 一体、彼の身に何があったというのか。

 まさか、例の施設で実験に使われてしまったのか?


 そして、彼も邪教徒から人質にされていた人たちを救出した後はそれを守るように立ち回っているけれど、「神の御手によって生まれ変わった我が力を見よ!」とか「貴様らの攻撃など、神より頂いたこの魅惑のボディには通じん!」などとわけの分からないことを叫んでいるので、頭の方は無事ではないのかもしれない。



 とりあえず、仇は討っておくべきか?


 人体を弄び、人心を惑わす悪神め。

 まあ、十中八九、人体改造の最中で見た幻覚だと思うけれど、一応呪っておこう。

 災いあれ!

 ――あいたっ!?

 なんだ、攻撃されたのか!?


 私に気づかせずに、しかもダメージを与えてくるとか、かなりのやり手である。

 まさか、邪教徒の信じる神が本当にいるのか?


 くっ、腹は立つけれど、ここで神と争うわけにはいかない。

 幸いなことにノエル先輩の妹さんは無事だし、まずは人間たちのことを片付けてしまおう。

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人体を弄び、人心を惑わす悪神かわいい
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