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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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29 人造神計画

 ルルによる(むち)と私による飴が功を奏したのか、男性研究員スコールさん31歳は幼児化しつつも素直に話してくれた。

 もう、尋問というより介護か保育だった。

 防衛本能とかかもしれないけれど、人間の精神のなんと脆いことか。


 なお、彼は当初、「私を誰だと思っているのか」などと言いかけていたものの――この研究に携わっている時点で優秀ではあるようだけれど、ここでは下っ端らしく、核心的な部分は分からないままである。

 それでも、概要だけでも話させようと、いっぱい()()()()した。

 大の大人が幼児退行して、私のような小娘に頭を撫でられて相好を崩す様には言語化できない感情もあり、本人も我に返った時には死にたくなると思うけれど、情報のためと割り切ってやりきった。



 さて、スコールさんによると、この場所は「人工的に神を作る」ための研究施設である。

 なかなか大きく出たものである。


 それを聞いたルルが鼻で笑っていた。

 一体何目線なのか。


 私としては、何をもって「神」とするのかは分からないけれど、向上心だけは褒めてあげたいところ。

 というか、実際に褒めてあげたらものすごく口が軽くなって、本当にいろいろと話してくれた。




 帝国――というか、不死の大魔王式神の作り方というべきか? 実際に行っているのは帝国だし、大魔王提供とか特別協力あたり?

 とにかく、それは次のとおりである。



 まず、健康な素体を用意する。

 次に、スキルを詰められるだけ詰め込む。

 詰め込みすぎると異形化や爆発したりするので、限界の見極めが重要らしい。

 無事に生き残って、彼らが制御できるだけの知性が残っていればひとまず成功――とのこと。



 もう少し詳細に――というか、分かりやすく説明してもらう。


 健康な素体の「健康」の定義についてはまあいい。

 どこからかさらってくるとのことで、倫理的な問題はあるけれど、それも意味は理解できるのでスルーする。



 というか、次の「スキルを詰め込む」というのがどうにも分かりにくい。



 まず、後天的にスキルを習得するにはいくつかの方法がある。


 ひとつ、訓練によって。

 ただし、適性や訓練の内容によっては得られないこともあるし、得られるまでに相当の時間と労力が必要になる。

 逆に、適性と合っていれば習得は容易でスキルレベルも上げやすい。


 ひとつ、レベルアップなどでスキルポイントを貯めて、ステータスウインドウの「スキル」項目からそれを使用する。

 狙ったスキルを確実に取得できる方法だけれど、レア級以上のスキルの取得や取得済みスキルを高レベルに上げるには膨大なポイントが必要になる。

 ただし、使えるようになるだけで、使いこなせるようになるには訓練が必要である。

 異世界召喚時の特典がこれだった。

 なお、一度取得したスキルをポイントに還元することはできないので、慎重に操作する必要がある。


 ひとつ、「スキル石」「スキル結晶」「スキルオーブ」などといわれるアイテムを使用すること。

 名称の違いは地域やその場の雰囲気による差だそうだけれど、使用すると魔法やスキルが発動する「スキル(魔法)石」「魔晶」などと被っているところもあって大層混乱する。

 この世界の人の固有名詞への拘りの無さは異常――あるいは《翻訳》スキルの弊害かもしれない。



 次に、スキルを覚えられる方のスキル石を人工的に作ることはできない。


 少なくとも「人族は」というべきか。

 悪魔というかアクマゾンは注文すれば普通に持ってくるしね。

 作る方法はあるのだろう。


 とにかく、地上界では、基本的にスキル石は地下迷宮などでまれに発見されるだけ。

 ごくまれに、「英雄」といわれるような人が、神や悪魔から貰うこともある。



 もちろん、発動する方は人工物も天然物も存在している。


 ちなみに、名称の近似性と価値の差を利用した詐欺はほぼ存在しないそうだ。

 《鑑定》を使われるとすぐにバレるし、当然といえば当然か。



 さて、話を戻すと、帝国式神作りで用いられるのは、主に特殊勇者召喚で召喚した勇者から抽出したスキルである。

 ただし、この方法で作成されたスキル石(仮)は、スキルの抽出・保存はできても付与ができない不完全な物でしかなかった。


 それを解決したのが、「スキルをコピーする」とか「スキルを奪う」スキルの存在だ。

 そして、幸いにも、帝国には《暴食》――他者のスキルを奪うスキル持ちの皇帝がいる。



 スコールさんのような下っ端には詳細は分からないそうだけれど、皇帝から抽出した《暴食》の因子を素体に与えることで、不完全なスキル石からでもスキルを覚えられるようになるのだとか。


 ただし、その因子か不完全なスキル石の影響かは分からないけれど、異形化率が非常に高い。

 そして、肥大する筋肉に反比例するように知性が失われるそうだ。

 以前、私がどこぞの廃教会で始末したのもここから逃げ出したもので、補修されていた壁はその時の名残らしい。



 現在では、長年の研究の末に異形化率は下がったものの、精神的な異常が出るのは相変わらず。

 特に、「自身が神である」と認識すると、増長して――なぜかゴリマッチョになる。

 やはり理由は不明。

 本物の神のように、信仰を力に変えられない――そういったスキルがあるのではないかという仮定で研究が進められているけれど、成果は挙がっていない。

 もうひとつ考えられる理由として、《暴食》スキル持ちの皇帝がゴリゴリのフィジカルパワー系だそうなので、そのせいかとも思われているけれど、口に出す勇気は無いらしい。



 スコールさんの仕事は主にゴリラ化した素体の世話とか観察だったけれど、主神たちによるシステムのアップデート以降、特殊召喚を悪用したスキルの抽出が不可能になった。


 一応、「次は神罰が下るかも」と及び腰にはなったものの、研究を止めても口封じに殺される可能性が高い。


 上層部も同じように考えたのか、予算も下りなくなってきて部署は徐々に縮小。

 恐らく、これまでと同じように研究はさせられないけれど、これまでの成果をほかの形で活かせないかなどと考えていたのだろう。


 そのおかげですぐにチームが解散されることはなかったけれど、しっかり監視はされていて逃げることは不可能で、干上がるのも時間の問題。


 結局、結果を出さなければ生き残れない――と後が無くなったところで、神というには力不足だけれど、そこそこの知性はあって制御が利く実験体ができた。


 そうして、「俺たちの挑戦はここからだ!」という時に、ここ最近の邪教徒弾圧騒ぎである。



 客観的に見て、ここで行われているのは倫理的にアウトな研究だ。

 それこそ、生贄を使った邪教徒の儀式と大差がない。

 彼らとしては、「帝国の未来のため」という大義名分はあるものの、それで納得を得られるようなものではない。

 特に異世界人である勇者には。


 バレると終わる。


 セキュリティは万全で、本来なら内通者でも現れない限りバレることはないけれど、勇者という強権を持った狂犬が望めば捜査を拒否することはできない。

 そして、勇者が邪教徒との繋がりなど特に無いはずの学園に頻繁に現れることを考えると、何らかの疑念、若しくは確信があるのかもしれない。


 成功例になりそうな実験体もいるので存続か中止かは決められないけれど、いずれにしてもこの場は凌がなくてはならない。

 少なくとも、勇者がほかの任地に行くまで。


 それで大慌てで証拠隠滅の最中だったそうだ。


◇◇◇


 そうして概要が分かったところで、扱いに困る。


 私としても、この事実を世に知られるわけにはいかない。

 特に神族とアナスタシアさんには。

 いや、知っているのは間違いないけれど、あえて詳細まで知らないようにしているのか?

 また神と人間の争いになるかもしれないから。


 それでも、詳細を知ってしまうと――人類救済のための召喚魔法を悪用するのは主神的には禁忌だし、魂や精神に根付いているユニークスキルを弄ぶのは神族的に禁忌となると、何らかのアクションを起こさざるを得ない。


 私としては、帝国が滅ぶのは構わないのだけれど、今は妹たちが帝都にいるし、天罰を落とすとか攻め込んでくるのは勘弁してもらいたい。

 最悪、神と人間と私との争いになるかもしれないし。




 とりあえず、見られているかは分からないけれど、「ここは私に任せろ」と、神族か悪魔に向けてジェスチャーを送ってみる。



「さすがユノ様です」


 私の突然の奇行にも、ルルはブレずに「さすユノ」する。



「ママ、ボクの話は役に立った? うっ……」


 そして、用済みになったスコールさんを締め落とす。


 仕事が速い。

 そして、今度は殺していない。


 素晴らしい(グッガール)――と褒めてあげてもいいのだろうか?



「諸々の証拠隠滅をお願い。それと、関係者の洗い出しと処分も。できる?」


「ユノ様がお望みであれば、この身命を賭して」


「いや、そこまではやらなくていいから。というか、私に命令権は無いのだから、お願いでしかないんだよ? 必要なら湯の川のリディアとかコレットと相談してね」


「いえ、統帥権とか関係ありません! ユノ様の命に従ってこの命を落とすのであれば本望ですので!」


「いやいや、確かに命より大事なこともあるけれど、今回は命を大事にね」


 いちいち重い。


 ちなみに、湯の川諜報部は私の直属だけれど、私には命令権が無いというちょっと変わった部署である。

 実際に管理しているのはリディアやコレットといった頭の良い人たちで、アイリスやアルには別の立場があるので公平性の観点から除外されている。

 そうして、世界情勢とかに配慮しながら運用しているのだ。

 かなり私寄りの判定にはなっているようだけれど、私自身が運用するよりはマシだと思っているのだろう。

 実際には指示系統が息をしていなかったけれど。



「御意! 関係者の調査を進めると同時に、施設についてはひとまず我々が接収します。それで、この男はどうしましょうか?」


「殺さないといけないほど優秀でもないし、関係者の情報引き出したら私たちの記憶を消して解放でいいんじゃないかな」


「さすがユノ様、お優しい」


 ……優しいか?



「それと、神族や悪魔には手を出さないように伝えておいて。どうにもならなくなったらお願いするから」


「ユノ様が動かれるのでしたら間違いなどありませんが、承りました」


 止めて。

 間違いだらけだよ。

 私直属の諜報部隊がいることがその証明だよ。


 どこでどう間違ったらこんなことになるのか……。

 私は平穏に暮らしたいだけのに。



「ユノ様、たった今《念話》で、『魔法学園で邪教徒の集会というか、暴動が発生している』との報告が」


「……ここは後回しにして見に行こうか」


 私の平穏な生活……。


 まあ、邪教徒を直接叩けば済むだけなら平穏の範疇はんちゅうなのだけれど。

 何なら、叩いて済むなら、その対象が神や悪魔であっても平穏だけれど。


 逃げ遅れた人とか野次馬とかがいると気を遣わないといけないし……いつだって一番の問題は人間なのかもしれない。

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