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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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28 適材適所

 以前と同じ場所から地下水路に侵入してそれなりに歩いてきたところで、一部の壁に違和感を覚えた。

 壁の厚み? 素材? ほんのちょっとしたことだけれど、何かが違う。

 領域を展開してはいけないことになっているので詳細は分からないのだけれど、気のせいとかではない。

 明らかにその部分の魂のようなものに差異があるから。


 場所的には学園の下辺り。

 学園自体の歴史は古いので、地下水道に接続していてもおかしくないと思うのだけれど、頭の中の地図にはそれらしき物が無い。

 ただの偶然――と考えるのは楽観的にすぎる。

 一応調べておくべきか?



「いかがされました? この壁に何か気になることでも?」


「分からない。この辺りは学園の地下だと思うのだけれど、学園の調査はどれくらいやった?」


「機密区域以外はひと通り。機密区域には不死の大魔王の影響も大きいようでしたので、その先はまだです。必要でしたらすぐに調べますが」


「いや、いいよ。元に戻すだけなら簡単だから掘ってみる」


 地面を掘るのは虫とかミミズとか出てきそうで怖いけれど、壁なら出てきたとしても死体くらいの物だろう。

 ……いや、それも充分に嫌だけれど。

 とにかく、違和感の正体がハッキリすれば問題解決してスッキリする。



 ということで、思い切って素手で掘り始める。



「ユノ様、そういったことはルルがしますので!」


「いいから」


 この程度のことならルルにもできるのだろうし、気を遣いたいのも分かるけれど、私がやった方が静かだし速い。

 いかに地下水道に人気ひとけがないとしても、あまり騒々しくしていては地上の人に気づかれるかもしれないしね。



 それに、ああだこうだと言う前に掘り終わってしまった。




 なお、壁からは特に何も出てこなかった。

 しかし、掘った先には空間があった――掘り始めてすぐに気づいたけれど、想像以上に大きなものがあった。


 中に入ってみると、ちょっと大きめの――およそ百メートル四方で高さが十五メートルくらいの空間が広がっていて、そこに中身がからの鉄の檻やら木箱やらが雑に置かれている。

 今は使われていない倉庫か何かだろうか。


 そして、改めて振り返ってみると、壁自体にさほどおかしなところは無い。

 恐らくだけれど、何らかの理由で崩れた所を補修しただけだと思う。



 だからといって、ハズレというわけでもない。

 魔法や物理的な清掃で消しているつもりなのだと思うけれど、消しきれていない血と薬品の匂いと、薄っすらと漂っている瘴気。

 こんな地下に病院というわけでもないだろうし、これで「問題無し」と判断する方がおかしい。

 見つけたくなかったことは否定しないけれど。



「ユノ様、これを」


 ルルも、檻に付着していた腐りかけた肉片やら針金のように硬い毛髪やらを見つけて持ってきた。


 もっとも、侵食を除いて私にはそれらから情報を得る能力は無い。

 いや、侵食して得られた情報から何かを分析できるかは不明なので、きっぱり「無い」といいきるべきか。

 というか、そもそもこんな不衛生な物を侵食したくない。


 なので、とりあえず頷いておくくらいしかできない。

 ああ、ルルにもそういうのを素手で触ってはいけないと注意するべきだったか。



「肉片の方は分かりませんが、ルルはこんな毛髪の生物を知りません。もったいないですが、エリクサーRを掛けてみましょうか? 蘇生は無理でも復元くらいはするかもしれません。ちなみに、誤って魔法のスクロールに掛けてしまった時は魔法を使う羊が発生しました。現在湯の川で経過観察中ですが、問題が無さそうなら繁殖実験などもしてみようかと」


 あら、いやだ。


 注意するのは危険な調査方法を思いつく思考回路の方だったか。



「というか、エリクサーRってそんな危険物だったの? 蘇生に使えるのってかなり条件が厳しかったと思うけれど」


「はい。初期の物は死後間もないものでなければ蘇生できませんでしたが、世界樹様の進化と賢者殿の努力のおかげで、現在は格段に性能が良くなっています」


 そうか、改良されているのか……。


 向上心や努力自体は素晴らしいものだけれど、効果はちょっと禁忌に足を突っ込んでいるかな。

 今の私が湯の川に戻ったら、それとなくブレーキをかけておこう。

 面と向かって「禁忌」だとか言ったら自害しそうだし。



「いや、いい。もう少しほかの場所を調べよう」


「御意っ!」


 ルルは嬉しそうに頭を下げると、すぐに走っていってしまった。


 無邪気というか、素直に従ってくれるのはいいのだけれど……。

 湯の川諜報部の活動方針――危険なことをしていないかとか禁忌に触れていないかを調査すべきだろうか?




 さておき、ここが倉庫だとするなら、私たちが入ってきた場所以外にも出入り口があるはずだ。

 それも、檻のサイズなどを勘案するとそれなりに大きな物が。


 そう思って辺りを見渡してみるけれど、小さな扉はいくつかあるものの、私が想像しているような目立つ物は無い。

 小さい扉の方はルルが調べているようなので、ひとまず無視することにして――。



 やはり、無い。


 檻は分解して持込んで中で組立てればいいことだけれど、その檻に入れる何かしらをどうやって運び込んだのだろうか。

 小さい――というか普通サイズの扉から入るような物なら、こんなサイズの檻は必要ないし。

 密室ミステリーとかそんな感じ?

 そういう謎解きは苦手なのだけれど……。

 しかし、最近のトリックにはかなりフィジカルが必要になると聞いたことがあるし、よく考えれば私の完全犯罪のいくつかもそれだ。

 あ、もしかすると、さっきの塞がれていた壁から入れたとか?

 よし、謎は全て解けた!



 さておき、部屋の中央辺りに石碑みたいな物がある。

 これは何だ?

 謎が解けたと思ったらまた次の謎が。


 石碑の表面には年号か座標のような数字が彫ってあるけれど、意味までは見いだせない。

 定礎のような物だろうか?

 それにしては桁が多い……暗号……ダイイングメッセージ?



「ユノ様、不審者がいたので捕まえてきました!」


 そんなところに、喜色満面のルルが白衣を着た男性を連れて戻ってきた。


 ただ、その男性は首が座っていない子供よりも不安定――有り体にいうと折れているっぽくて、向いてはいけない方向を向いている。

 損壊個所はその一か所のみなので、事故の可能性は薄い。

 呼吸と心拍は停止、瞳孔は開いているけれど死後硬直は始まっていない。


 つまり、不審者というより、ただの死者である。

 しかも、見れば分かる出来立てほやほや。

 ついでにいうと、他殺である。

 悲鳴も聞こえなかったことを考えると、なかなかの手練れの犯行だと思う。


 つまり、犯人はこの中にいる!

 犯人はル――

「あっ、これですか? 大丈夫です! これくらいなら旧式エリクサーRでもイケます!」


 そうか、大丈夫なのか。

 ルルが死体にエリクサーRを掛けると、男性の身体が陸に打ち上げられた魚のように激しく跳ね、あらぬ方向を向いていた首がバキバキと音を立てながら元に戻っていく。

 いつ見てもヤバいね。


 それはそうと、生き返った場合は無罪になるのか、それとも未遂になるのか。

 疑わしきは罰せず?



「――はわわっ!? な、なんだお前たちは!? 私を誰だと思って――ぐえっ」

「この世で最も尊いお方の御前である。ただ訊かれたことだけに答えろ。余計なことは喋るな」


 ルルは私が何かを言う前に男の人を蘇生すると、パニックになって騒ぎ始めた彼の喉を躊躇ちゅうちょなく潰した。

 随分手馴れているな……。



「理解できたら頷け。拒否、若しくは余計なことをするなら身体の末端から潰していく。死んでも生き返らせるので、楽になれると思うな」


「んんっんーーーっ!?」


 ルルが頷いているのか痙攣けいれんしているのか分からない男の人の脛を砕くと、彼の股間から余計な物が流出した。



「ほう、余計なことはするなと言ったはずだが? 良い度胸だな」


 ルルが更に余計な物の流出口を潰すと、男の人の口から声にならない悲鳴と泡が漏れる。


 ちょっとやりすぎな気が――身体の傷はエリクサーRで治せても、心の傷は治らないのだよ?

 それと、ルルも足が汚れることを気にするくらいなら、最初から道具を使おう?



「ではユノ様、どうぞ」


「えっ」


 ここで私に振るの?

 ここからどうしろと?

 そんな期待が籠った目で見られても困るのだけれど?



 それでも、ルルに丸投げするのも不安しかない。

 適材適所にも限度があるのだと初めて知った。


 やるしかないか。



「……痛いの痛いの飛んでいけー」


 とにかく、潰された喉を治さないと窒息してしまう?

 呼吸を卒業していない生物は大変である。


 ただ、この流れでエリクサーRを使うのもどうかと思ったので、自力で治す。

 ついでに、傷付いた魂や精神も一緒に癒すためにフードを取って素顔を曝し、いろいろと誤魔化すために優しく微笑んでみる。



「さすがユノ様です」


 何が?



「ママァ……」


 誰が?


 幼児退行している上にママの顔も忘れているとか、どう考えても手遅れだよね。



「ユノ様、チャンスです!」


 だから何が!?

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