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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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24 魔術学園潜入

 国や世界が違っても、学校の構造に大きな違いはないらしい。

 いや、資源的な問題か、鉄筋コンクリートかマジカルコンクリートの差くらいはあるけれど、コンセプト的な意味で。

 ……ほかにも、財政上の限界とか思想に基づくものとかもあると思うけれど、人が人にものを教えて実践もする場を効率化していくと同じようなものになるのだろう。

 私も全てを知っているわけではないけれど、ほかの町や魔界でも同じような物が造られていたし、湯の川でも私が設計や建築にかかわっていないのにそうなっているし。

 あ、湯の川はアイリスとかアルがかかわっているのか?

 ……分からなくなってきたぞ。



 まあ、実際のところはどうでもいいことである。


 ここで重要なのは、この手の施設に潜入する場合、堂々としていれば案外バレないということだ。

 さすがに研究施設とか機密性の高い場所になるとそう簡単にはいかなくなると思うけれど、守衛やセキュリティはその直前だけに集中しているようで、校門にはそれらしき人はひとりもいない。

 いたとしても、かなりの数の学生が在籍しているここで全員の顔と名前を記憶できる人はそうはいない。

 というか、必要なら護衛を連れて歩くのが異世界スタイルみたいだし、むしろ、どこの誰かも分からない人に守ってもらうのはリスクでしかないのかも。

 つまり、校門にいる守衛さんは早期警戒のための人員で、身も蓋も無いいい方をすると「炭鉱のカナリア」なのだろう。

 可哀そうに。



 ということで、フードを被って少し顔を隠しただけで堂々と侵入する。


 寒さのせいか朝日が苦手なせいかは分からないけれど、同じような格好をした人も多いので、特に不審に思われた様子もなく成功した。

 なお、掲示板に皇子名義で私の手配書が貼ってあったけれど、似顔絵があまり似ていなくて「超美人」と文字での追記があり、手配理由が「婚約者を捜しています」と莫迦すぎる内容だったので、誰も相手にしていないようだ。

 婚約した覚えなんてないのだけれど――というか、皇族が婚約者に逃げられるような無様(ぶざま)を曝していいのだろうか?

 帝国の未来は暗いね。




 さて、潜入した後は、明確な目的は無いのでブラブラするだけ――というは無益なので、噂話などを聞くために人の多い場所を重点的に回った。


 そうして得た情報で、気になったのがいくつかあった。



 ひとつは、「近く第八皇女が学園を視察に訪れる」というもの。

 恐らく、さきの勇者絡みのものだと思うけれど、VIPの予定がこうも簡単に流出するとは考えにくいので、敵対勢力とかの仕込みのような気がする。



 また、ルルの報告にもあったように、彼女の評判が帝位継承権の低さからは考えられないくらいに高かったことも確認できた。

 これなら無理をして救出を急ぐ必要は無いというか、恩人といってもいい人物の立場を悪くしないような配慮をした方がいいかもしれない。

 もちろん、優先すべきは妹たちのことだけれど、本当にこの町に来た時には挨拶に行こうか。



 その皇女と同じくらい話題に上っていたのが、この学園に通っている聖女のことだ。


 内容的には、教会が即「聖女」と認めたくらいに能力が高いこと、誰にでも優しくて人望もある上に美人で勤勉でもあるとかどうとか賞賛するものがほとんど。

 まあ、うちのアイリスとかシャロンには敵わないと思うけれど。


 ただ、今のところ否定的な話を聞けていないことが気にかかる。

 まだ本人を見ていないので実際のところは分からないけれど、少し同情する。


 気をつけて?

 きちんと否定しないと、そのうち天気の良し悪しとか風が吹いただけでも感謝されるようになるよ?


「ああ、今日も良い汗かいた! ビールが美味え! 生きてるって素晴らしい! それもこれもユノ様のおかげだな!」

「仕事後の一杯って、ビールっていうかもうユノ様だよな! ユノ様最高! もうユノ様無しでは生きていけねえ!」

「なんだって? 俺、毎日ビール飲んでるんだけど? それはつまり、俺はユノ様でできてるってことか? 俺はいつの間にかユノ様になってたのか……?」


 そして、そのうちこうなる。

 さきのはまだ冗談で流せる――流せたはずだけれど、狂気じみてくると怖くて触れられなくなる。

 そうだ、治療院作ろう。



 さて、聖女が教会に勤めるではなく学園に通っている理由については不明である。

 数か月前に突然現れて即座に聖女に認定されたことや、それ以前の経歴が湯の川諜報部をもってしても不明なことなど謎が多い人だけれど、私にとってはこれが一番理解できない。

 学園だと護衛が大変なことを身をもって知っている私としては、帝国という治安の悪い地でこの判断をした人たちの正気を疑ってしまう。


 一応、地球では、教会関係者が「尊敬とか信仰を集めると多少なりとも力になる。だから特に功績も残していない人でも『聖人』や『聖女』扱いして能力の底上げをすることもある」と言っていた。

 こちらの世界でもそうなのかも――神族や悪魔も「信仰や畏れが力になる」とか言っていたし、本当にそうなのかも?

 それで、守銭奴の教会にいるより学園でチヤホヤされる方がいいと判断したのか。

 筋は通っているようだけれど……? いや、何かが違う気がする。



 それはそれとして、さきの第八皇女も別の聖女を囲っているとのこと。

 なので比較対象として話題に上がることも多かったけれど、そちらは亜人種だからかあまりいい話は聞こえてこなかった。

 というか、人族の聖女を褒め称えるために殊更悪く言われている――そう仕組まれているように感じた。

 仕組んでいるのは教会か、第八皇女と敵対している誰かか。


 面白れー女2号(エリザベスさん)のおかげで少しマシになっていた「聖女」のイメージがまた悪くなりそう。

 いや、悪いのは聖女ではなく、それを利用しようとしている人たちか。



 それにしても、人族至上主義が幅を利かせている帝国で、亜人が聖女認定を受けているということには相応の理由があると思うのだけれど、この扱いに何の意味があるのか。

 そして、ここにも絡んでくる第八皇女とは一体どういう人物なのか。


 妹たちを保護してくれていることには感謝しているけれど、聖女に続いて勇者を囲って、お金持ちな上に更に民衆も味方につけている――果たしてそれは「人が好い」だけで揃うものなのか。

 経歴とか能力だけでなく、もう少し深い調査をするべきなのかも――いや、朔なら抜かりなくやっているだろうし、私は私のできる範囲で頑張ろう。




 ということで、学園にいる方の聖女を観察しにいく。



 さすがにあちこちで噂されているだけあって、見つけるのは難しくなかった。


 ただし、かなりの数の取り巻きがいる上にそれにもヒエラルキーがあるようで、一定以上の接近は難しい。

 というか、教会にとっては重要人物だろうし、護衛なんかもいると思う。

 なので、無理に近づかない方がいいだろう。


 そもそも、私なら目視できる距離で声を拾うことも余裕なので、無理をする必要が無い。

 さすがにリリーのような感覚の鋭い人がいれば気づかれてしまうけれど、それでも人に紛れている方が逃げやすいしね。


◇◇◇


 聖女を見た第一印象は「邪悪」だった。


 いや、私と相容れないからそう感じるだけかもしれない。



 聖女の魂や精神には、驚くほど()というか()()が無い。

 本当に人間か疑わしいくらい。

 あるいは本当にそういう個性なのかもしれないけれど、「愛」だの「平和」だのと希望を語っておきながら、魂や精神に一切揺らぎがないのは気持ち悪すぎる。


 まるで、言葉を話す石ころでも見ているような感じ。

 あるいはプログラムに従っているだけのロボットか。

 ……いや、エシュロンのように感情豊かで個性的なロボットもいるし、それはロボットに失礼か。


 いつも平常心を心がけている私でも、楽しいときは高揚するし、虫とかが出ると消沈するよ?

 何なのあれ?



 そんな聖女が、心にも思っていないようなことを平然と口にして、周りの人たちを(たぶら)かしている。

 これを「邪悪」といわずして何という。


 こんなに歪みのない(いびつ)な魂は見たことがない――いや、どこかで見たかも?

 自我の薄い天使――は歪んでいたし?


 はて、どこだったか……。

 ……思い出せない。



 さておき、聖女の言っていること自体は正論――というか奇麗事で、その実現のために骨身を惜しんでいないのも事実なようだ。


 しかし、中身が無い――そうするのが当然であると疑いを抱くこともないというか、人も世界も見ていない、ついでに自身にも興味が無い感じがただただ気持ち悪い。



 そんな聖女曰く、「貴方が心から悔い改めれば、神様は全てをお許しになられます」とのこと。


 神の知り合いは多いけれど、そんな神は見たことがない。

 というか、禁忌を犯すとすぐにブチ切れるのばかりだよ。

 どちらかというと、心が狭いよ?



 また、「貴方たちには才能があります。できないことなどあるはずがないのです」とも言っていた。


 まあ、慰めの言葉としてはいいのかもしれないけれど、残念ながら人には向き不向きというものがある。

 そして、それは可能性を追求する上で不可欠なものでもある。

 出来不出来があるからこそ努力して、協力して、新しい何かが生まれるのだ。

 もちろん、良いことばかりではないけれど、だからこそ尊くもあるのだ。


 それに、それとよく似た感じの言葉を、貴女の所属教会の職員さんが、お布施という名の治療費が納められなかった怪我人を追い出しながら言っていたよ?

 要約すると、「御託はいいから金稼いでから出直せ」だった。

 ドン引きだよ。



 さらに、「貴方たちは何も悪くない。上手くいかないことがあるとするなら、世界の方が間違っているのです」とも。


 随分と大きく出たものである。

 貴女が世界の何を知っているというのか。


 そもそも、甘やかすだけが教育じゃないんだよ?

 最近流行りのDEI(多様性、公平性、包括性)を思いきり勘違いしている?


 いや、ただの我が儘を多様性として強要する地球の少数派の人にも混乱したけれど、世界の責任にしてしまうのは「解決策無し」ということ?

 妥協も認めないの?

 本当に思想や嗜好に左右されずに公平に扱えというなら、私には「皆殺し」くらいしか思いつかないよ。


 理想とか目標としては立派だけれど、本心と言動が乖離(かいり)していると悲劇を招くかもしれないし、いっそ「私だけを特別扱いしろ!」とストレートに言われた方が、分かりやすいし清々しい。

 それでも理想とか建前をあきらめたくないというなら、何でもかんでも「認めろ!」というのではなく、相手のことも尊重して折り合いをつけることから始めてはどうだろうか。

 神だってひとりではろくな世界が創れないのだから、人間の独り善がりでできるものなどたかがしれているよ。



 ……何の話だったか。

 ああ、そうだ。

 気持ちの悪い聖女の話だ。


 理想や建前以前に、意思とか感情がまるで見えない彼女には困惑というか嫌悪感しかない。

 というか、どういう立場からものを言っているのか。


 彼女の在り方は、ある意味では「超然としている」といっても過言ではなく、人によっては神の代弁者に見えるかもしれない。

 ただ、少なくとも、私の知り合いの神にこんな主張をしているのはいない。

 何かヤバい電波でも拾っているのだろうか?




 とまあ、こんな感じで、短かい観察時間の間でも次から次へと人を惑わし堕落させていた。

 それに罪悪感や愉悦を覚えることなく。

 聖女以前に、人間としてどうなのか。

 聖樹教の布教より性質(たち)が悪い。


 エリザベスさんは面倒な人だったけれど、お花畑にも芯があった。

 アイリスは我欲に塗れているけれど、それを原動力に換える強さがある。

 シャロンは――まあ、頑張っているのは認めざるを得ないし、多少は私の責任もあるのかも?


 とにかく、聖女とか巫女とかの肩書は抜きにしても、みんな人間的な魅力がある。


 なのに、アレは何だ?

 人間的な形をしているけれど、人間性が欠片もない。


 ちょっと私では判断できない存在だけれど、今の私には相談できる相手がいない。

 いや、いたとしても、「ユノ様の御心のままに」くらいしか言わないか。

 朔ならなんて言うかなあ?


 ……とりあえず、厄介事に巻き込まれそうな予感がするし、なんだか怖いので、これ以上近づかないようにしよう。

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