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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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22 ローブを求めて

 カクーセイキュウは、魔法系の教育や研究の最先端というだけあって、魔法使いと相性が良いローブ系防具の取扱いは豊富である。

 もちろん、数だけではなく種類の方も豊富で、初心者向けの形だけの物から機能性重視の高品質な物、よく分からない方向へ可能性が暴走した物やそれに便乗した詐欺なども多い。

 なかなか試される町である。



 それはそうと、町をざっと見て回った感じでは、住人の十人に四人くらいはローブを着用していただろうか。

 寒いので防寒着代わりに着ている人もいるのかもしれないけれど、それを差引いても結構な割合である。


 また、日本では最近めっきり見なくなった「デコトラ」のように、ピカピカ光っているローブを着ている人がいたのが印象的だった。

 どうやら、魔力を流すと光る仕組みらしい。

 それも、着用者の魔力の質と量に応じて色味と光量が変わるそうで、「余の輝きを忘れたか」「あの色、その強さはまさか――」みたいな暴れん某将軍ごっこみたいなこともできるのだとか。


 だからなのかは分からないけれど、その大半はお遊びとか悪ふざけだけの物ではない――むしろ、一般的なローブより高性能で、この町の有力者とか貴族の子弟なんかが好んで着るそうだ。

 文化の違いには驚くしかない。

 つまり、アルバイト先にやってきた人たちが光っていたのも気のせいではなかったようだ。


 ただ、妹たちが見れば、「ゲーミングローブ」とか「ゲーミング貴族」とか言うかもしれない。

 特にディスっているとか悪感情を持っているわけではないようだけれど、私としては褒めているようには感じないし、トラブルにならないように注意してほしいところ。

 というか、私もそんな人たちの仲間入り――「ゲーミングお姉ちゃん」になってしまうところだったのか?

 あまり良いイメージが湧かないというか、駄目なお姉ちゃんのイメージしか湧かない。

 危ないところだった。



 さておき、私としては、そういった地位にある人が目立っていれば、強盗とか誘拐などの標的にされそうに思うけれど、実際にはそういった人たちは裏社会にもコネクションがあるもので、逆に「襲ってはいけない目印」になっているのだとか。

 警戒色のようなものか、あるいは光が強い分闇も濃くなるということか。

 できる限り近寄らないようにして、ルルたちにも注意するように言っておこう。




 とまあ、そんな例もあるし、ローブを着るのが魔法使いだけと決まっているわけではない。

 私の目的を考えるとピカピカ光る貴族とかは除外するとして、一般の人でも良い物を着ていたりする。


 そのひとつが、帝国各地にいる邪神崇拝の徒である。

 なぜか彼らもローブを愛用する傾向にある。


 以前に廃教会を襲撃した時は、真っ黒なローブを着ているか全裸かの二択だった。

 全裸の人の多くが錯乱していたことを思うと、恐らく黒ローブがフォーマル――いや、私は法とか環境が許せば全裸でいたいタイプの裸族だし、彼らの崇める神次第で逆ということも?

 どっちだろう?

 どっちでもいいか。



 まあ、何が言いたいかというと、カクーセイキュウにも邪教徒がいることはルルの報告で確認済み。

 その所在についても同様である。


 そして、カクーセイキューのような大都市で活動できる邪教徒には大きな後ろ盾がいるもので、資金なども潤沢であることが多い。

 もちろん、活動の度が過ぎれば大都市ならではの大軍が動くといったリスクもあるけれど、体制側も余計な混乱を起こしたくはないというのが実情なので、温い駆け引きが行われているのが実情らしい。


 つまり、彼らを襲撃すれば町は綺麗になるし、私もローブが手に入るしと良いことづくめ。

 さらに、ニックさんの件も彼らに罪を着せられて(死人に口なし)超お得。

 つまり、WIN-WIN。

 邪教徒も邪神の片割れたる私を呼び寄せられるのだから、ある意味大勝利。

 死者は出るかもしれないけれど、敗者は存在しない素敵な作戦である。




 さて、そんな邪教徒がどこに潜んでいるかというと、彼らは人目につかなくて暗くてジメジメしている場所を好む。

 この町でいうと、地下水路だ。



 この世界での下水道や地下水路は、安価な魔石を利用しての、個別の取水と排水・浄化設備が一般化している現在では、建造及び維持管理コストを理由に造られなくなった設備である。



 ただ、例外も存在する。


 例えば、ある程度集中管理できる王侯貴族の居城等。

 緊急時の脱出経路にもなっているので、詳細というか存在自体が秘密にされていることが多いそうだけれど。



 また、当然だけれど、個別管理が一般化する前に造られた都市にも存在する。

 カクーセイキュウもこれに該当するのだろう。


 ただ、ある時期を境に急激に廃れ、ほとんど造られなくなっていった。

 コストに問題があるとはいえ、それまで普通に造られてきた設備がである。

 むしろ、なぜ今までこんな物を造っていたのかが分からないくらいに冷めて、違う道を模索し始めたのだとか。


 もっとも、身も蓋もないことをいうと、「世界五分前仮説」だったか――主神がそれを基にこの世界を創った初期状態では、「下水」関連が()()()()()というだけのこと。

 そこに特段の背景や意味があったわけではなく、運用を始めると同時に実情に沿ったものに取って代わられたのだ。



 世界創造時の主神は、人間が生存するために必要不可欠な「水」については配慮していた。


 生活魔法による飲料水生成は、魔法の原則に反するくらいに魔力効率が良い。

 人族成人の平均的な魔力があれば、人族が一日に必要とする水分を賄えるくらいに。

 また、効率は落ちるものの、水属性に適性が無いとか品質の悪い魔石でも発動させられるくらいに優遇されている。


 なお、魔法の原則に反するように見える分はシステムからの持ち出しで補っているだけで、そこまで視野を広げると原則どおりである。


 いずれにしても、良質な水場や資源のある場所が強力な魔物の縄張りになってしまったのは主神たちの誤算で、そういった配慮が無ければ人間が絶滅していたかもしれないと考えると結果オーライである。



 一方で、下水道については専門家の意見とかも聞かずに、ただ設置しただけ。

 一応、衛生面とか環境保護などについては配慮したそうだけれど、魔物の存在する世界でその侵入口や棲家になるとかまでは考えていなかった。


 もっとも、魔物といっても、スライムとかネズミとかゴブリン程度の小型のものが大半。

 恐らく、(G)もいたことだろう。

 なので、小型だからセーフということはなく、冒険者ならともかく、一般人では苦戦、あるいは不覚を取ることもある。

 だからといって駆除や清掃を怠ると衛生環境の悪化が問題になるけれど、冒険者に依頼しても「金にも名誉にもならない」といって敬遠される。

 結果、素行の悪い冒険者や軽犯罪を侵した人への罰として用いられるようになったそうだけれど、それもタイミング――若しくは運が悪いと大惨事になることがある。


 ネズミが魔物化していたりゴブリンが進化していたり、有毒ガスが発生していたりなど、冒険者でも不覚を取る――からのゾンビ化、生物災害(バイオハザード)発生。滅亡までまっしぐら。

 一見すると生還したように見えて、ネズミ等の小動物、若しくはノミからペスト菌に感染していて、やはり滅亡までまっしぐら――なんてこともあったらしい。


 主神たちは、そういった感染症にまでは対策していない――正確には、耐性スキルで予防や重症化を防げたりするし、魔法で治療することもできるけれど、そういうのはレベルが高い人だけの話である。

 一般人やそんな罰則を食らうような駆け出し冒険者にはそんな耐性は無く、治療できる能力や金も無い。


 そんな事件が何度も起きると、地下水道や下水道の存在自体が忌避されるのも当然の流れだったのだろう。

 そうして、徐々に現在の形になっていったそうだ。



 ちなみに、その過渡期には、トイレや廃棄物処理設備として、スライムを捕まえてきて深めの穴の中に入れておくのが流行したらしい。

 スライムが脱走しないように管理は必要だけれど、地下水道等に比べれば楽なもの。


 ちなみに、スライムは、ゲル状のボディで、有機物なら何でも――上位種になると金属まで溶かして食べてしまう特性があり、知らずに触れてしまうと言葉どおりに大火傷、運悪く口腔内などに侵入されると死亡することもある。

 それでも、移動は遅く防御力は皆無で核を潰せば死ぬ――とはいえ、スライムに取り付かれて激痛で暴れまわっている人のそれを狙って潰すのはなかなかに難しい。

 決して強い魔物ではないけれど、洞窟のような暗所や死角の多い場所では「発見しにくい」というだけで非常に厄介な存在となる。

 

 冒険者でもそう感じる魔物が一般人だとどうなのかは考えるまでもないけれど、それが明るく開けた場所となると危険性はほぼなくなる。

 半透明とはいえ、太陽の下でははっきり視認できるレベルで、移動力が低く原種には特殊な攻撃手段も無い――となると、子供でも容易に斃せてしまう。

 もちろん、時として子供は大人が思いもよらないことをやるものなので、充分な配慮をしておく必要があるけれど。



 さて、何の話だったか……。


 そうだ、地下水路の話だ。



 地下水路に良くないものが住み着くのは、今も昔も変わらない。

 もちろん、使用されていない地下水路の危険度は、使用されていた当時と比べると格段に低くなっているけれど、だからといって清掃等の管理をしなくていいわけではない。

 埋めてしまうとか蓋をしてしまうというのもひとつの解決策だけれど、前者はそんな大規模工事の費用は簡単に用意できるものではないので、「とりあえず蓋をしておいて、時々掃除するか」となっているところが多い。


 そうして、地下水路のある町のギルドには常駐依頼として「地下水路清掃」があるけれど、報酬額が低くて依頼を受けてくれる冒険者がいないのは今も同じ。

 もちろん、ボランティアで行ってくれる人もいない。

 公共事業として行われる分は、出入り口付近だけやってお仕舞いなことが多い。

 穴を掘る魔物とかもいるので、本当は全体を確認した方がいいみたいだけれど。



 だったら、私が掃除してあげよう。

 報酬は邪教徒の資産――というか、遺産で。


 そういった場所では脅威となる虫とかも、ルルが用意してくれた殺虫剤(終焉の黒・改)があるので心配無用。

 念のため、アーサーやシロがパイパーに対抗心を燃やして作った「火葬権能オンN/A」や「凍殺ジ・エンド」も貰ったので――それぞれ単体で使用すると都市ごと滅ぶ可能性もあるけれど、上手く併用すれば良い感じに相殺されて大丈夫かもしれない。


◇◇◇


 ルルの手引きで、人目につかない地下水路の出入り口までやってきた。


 名目上は使われていない水路なので、力尽くでは破れなさそうな分厚い扉に厳重な鍵で封鎖されているけれど、私は当然としてルルにも障害にならない。

 湯の川製マスターキー(斧)を使えば、扉ごとバッサリと斬れる。

 もちろん、後で工作班がやってきて、元どおりに復元する。

 湯の川っ子はみんなとても有能である。



 ……これなら邪教徒の始末まで任せても――というか、ローブを持ってきてもらえばよかったのでは?


 今になって最善策に気づいてしまったけれど、もう「聖樹教を冒涜する邪教徒どもを決して許さず、手ずから裁きを行うユノ様さすがです!」となっているルルの期待を裏切ることはできそうにない。


 結局、何の打開策も見いだせずに、敬礼しながら「ご武運を」とか言っている彼女にひらひらと手を振って地下水路に侵入してしまった。




 さあて、困ったぞ。


 適当な仕事は許されなくなった。

 もしかすると、どんなに雑な仕事だったとしても、「さすがユノ様」する理由を見つけて、あるいは創り出して納得してしまうかもしれない。

 しかし、それはそれで私本人と「みんなのイメージする私」が乖離してしまう。

 気にしなくてもいいことかもしれないけれど、会ったこともない人にわけの分からない先入観を持たれているのは面白くない。

 というか、その結果がこれだからね。

 自分を変える必要までは無いと思うけれど、少しは他人からの評価を気にするべきだったのか。


 まあ、やることをやってから考えようか。

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