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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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20 アルバイト

 アルバイト二日目。



 なぜか開店直後からお客さんが殺到して、営業終了時間を待たずに食材が切れた。


 異世界居酒屋モブのお昼営業は、お弁当の販売のみ。

 いつもは売り切れ次第終了で、平均すると一時間くらいの営業になるそうだけれど、この日に限っては開店から五分も経たずに売り切れた。


 それでも買えなかった常連さんがそれなりにいて、お人好しの大将が「少し待っていてもらえれば作りますので」なんて仏心を出してしまった。

 それに反応した常連さんの誰かが「まだ買えるってよ! 大将、愛してるぜ! ユノちゃんの次にな!」なんて言ったものだからさあ大変。

 獲物に群がるピラニアのようにお客さんが寄ってきて、夜の部の食材まで食い尽くされてしまったのだ。



 それはつまり、一日分の労働を短時間で済ませたということ。

 収益的には良いことだけれど、体力的には厳しかったようで、大将をはじめとして先輩もバテバテである。



 それでも、余った時間を休憩に使えればよかったのだけれど、まだお客さんはやってくる。


 大将が「食材が切れてしまったので大した物は作れないんですよ」と言っても、「ユノちゃん見ながらお酒を飲むだけでもいいぜ!」「お酌をしてくれれば最高!」「むしろ、ユノちゃんなら立派なオカズになるぜ!」と諦める気配が無い。

 というか、お昼からお酒を飲むとかいい身分だな。

 まあ、飲む前から酔っ払っているような人も多いようだし、お酒の有無は関係ないのか?


 とにかく、その対応で、暖簾を下ろす暇も無い――というか、下ろそうとするとお客さんに邪魔される。


 とはいえ、「接待」と判定されるような行為はお店の種類が変わってしまう――日本だと風営法が適用されてしまうおそれがあるので、大将や行政の許可無しではできない。

 いや、そもそも十八歳未満だとできないのだったか? 深夜の勤務だけ?

 ……よく覚えていない。


 それでも、ガールズバーなら分類が「飲食店」になると聞いたことがある。

 つまり、風営法の対象外である。


 したがって、特定のお客さんだけに構ったりお酌をしたりはできないけれど、話し相手になってあげることくらいは問題ないはず。



 結局、お店の構造上の問題でガールズバーは難しかったので、お店の隅に特設ステージを作って歌うことになった。

 これが「接待」に当たるのかどうかは分からないけれど、町の警備隊の人たちがお店の外で仕事を忘れて立ち見――というか、タダ見で大盛り上がりしていたので、後から摘発とかは無いと思いたい。



 終業後、出待ちのお客さんに紛れて、朔や妹たちと接触を果たしたルルが戻ってきていた。


 彼女ひとりが任務に就いているわけではないはずだけれど、このカクーセイキュウと皇都との距離は二百キロメートル強――馬車だと五日くらいはかかる。

 それを1日で移動して、妹たちを捜索して、情報をやり取りして――少なくともこれだけの仕事をよくこなせたものだ。

 ブラック企業も真っ青である。

 非常時なので助かるけれど。



 さて、肝心の情報はというと――まず、妹たちとクラスメイト及び私が担当した中学生6人ともうひとりが第八皇女に保護されている。


 その第八皇女の客観的な評価は、ゴクドー帝国の皇族には珍しい善性の強い人。

 皇位継承権は無いに等しいレベルだけれど、民衆の人気や支持が強く、ほかの皇位継承権者たちからは嫌われている。

 現状分かる範囲では、「みんなが不当に扱われる可能性は低いけれど、第八皇女と敵対関係にある勢力の動向には注意が必要」とのこと。


 それを踏まえての今後の方針だけれど、みんなは「こっそり実力を磨きつつ様子を見る」で、私は「必要な情報を諜報部に集めさせている最中だから余計なことはするな」である。

 朔は私をトラブルメイカーだとでも思っているのだろうか?

 朔の方がよほどそうだと思うのだけれど、全くもって失礼な話である。



 それはさておき、みんながいい人に保護されたことは幸運だった。

 妹たちだけならどんな状況からでも逃げ出せると思うけれど、みんなの面倒を見ながらというのは私の教えにないし、子供たちを見捨てるような教育もしていないのだ。

 状況次第では即脱走――という可能性もあっただけに、無理をしなくていいのはとても有り難い。

 機会があればお礼をしなければ。




 ルルは、更にみんなの能力についても調べてきていた。

 といっても、クラスメイトの分は盗み見ていたのである程度把握しているし、知ったからといってどうというものでもないのだけれど、丁寧な仕事は称賛に値する。



 妹たちは、隠蔽系のスキルと最低限の生活魔法、後は耐性に全振りして、残りのポイントは保留している。

 ……今にして思うと、この「保留」という選択があの場で明言されていなかったのは問題か?

 とはいえ、あそこにあったスキルカタログは、本来であれば厳しい前提条件を満たしていなければ取得はおろか候補として表示もされないものがあったりしてお得らしいし?

 ……よく分からないのでとりあえずこの件は保留で。


 とにかく、ふたりは戦闘能力的にほぼ現状維持。

 一応、シミュレーションとはいえ下位の竜を倒せたみたいだし、いきなり魔王を相手にするでもなければ平気だろう。

 先行きが不透明なのでスキルポイントを保留しているのもいい判断だと思うし、アドバイザーに朔もついている。

 当面は問題無いだろう。



 稲葉くんは、適性では非の打ち所がない「勇者」だったらしい。

 しかし、本人のやりたいことを優先してサバイバルや斥候系の能力を重点的に取得した結果、「冒険野郎」になったらしい。

 なかなか愉快な人である。


 聞くところによると、彼のお父さんも「ファ美肉」だか「バ美肉」だかになったらしいし、彼がこうなるのも時間の問題だったといえばそれまでのこと。

 もっとも、下手に戦闘方面に振るよりは柔軟性があった方が生存率は高そうだし、結果的には悪いものではないように思う。



 姫路さんは、高レベルの《鑑定》に加えて話術や詐術などの非戦闘系対人スキルを、更に魔法やスキルに対する耐性を優先的に取得しているそうだ。

 隠蔽系スキルでそれらを隠しつつ、交渉で優位に立とうということだろうか。

 直接的な戦闘能力は低いけれど、勝敗は戦う前に決しているものだと考えると、彼女の存在はみんなの未来の要になるかもしれない。



 魔術師組の三人は、魔力を上げるとか魔法の効果上昇系が主で、余ったポイントで体力や防御力の補正を上昇させている。

 長所を伸ばして、最悪の場合に逃走できるだけの体力を――と考えると悪いものではないけれど、姫路さんのように工夫とかできなかったのは少し残念に思う。

 とはいえ、ほかの人の足を引っ張るようなものではないので充分か。



 団藤くんは、なぜかユノを守るつもりだったとかで、防御力とか防御スキルに全振りしたらしい。

 彼なら私を守る必要が無いことは知っているはずなのだけれど――もしかして、公安に記憶操作でもされていたのか?


 それに、防御力に注ぎ込んだというのもイメージに合わない。

 ……彼の家を襲撃した時は重傷だったし、そのあたりで思うところでもあったのか?


 理由はさておき、結果としては隠蔽系スキルを最大まで上げていないのも含めて評価不能。

 まずは自分自身を守ることに注力してほしい。



 そして、伊藤くんは、AWOと同じようなスタイルで戦うためのスキル構成にしたらしい。

 具体的には、身体能力強化と術技が解禁されるだけの各種武器スキル及び複数の武器を持ち歩くための《固有空間》、その他補助スキル多数。

 はっきりいって、現状では「器用貧乏」。極めれば武器なんて何でもいいと考えると、「大器晩成」でもない。

 せめて武器種を絞って特化していれば……。



 私――というか、朔がアドバイスした中学生たちは、大体はそのとおりにスキルを取得したようだ。


 彼らへのアドバイスのポイントは、ズバリ「役割分担」。

 単独でも生存できるように配慮しつつ、彼らが揃っていると相乗効果が生まれるようにして分断を防ごうという目論見だ。

 丸ごと実戦投入される可能性はあるけれど、能力の高さを理由に分断されたり、戦闘能力皆無で廃棄されるよりはマシ。

 気休め程度に掛けた祝福が役に立ってくれることを祈るしかない。



 そもそも、隠蔽系スキルも含めて、上手くいくかは帝国次第――莫迦には道理は通じないし、状況が逼迫ひっぱくしていれば「やむを得ない」という判断もあるだろう。

 そうなった際は、みんなで力を合わせて乗り越えてもらうか、私が無茶苦茶にすることも考えなくてはいけない。


◇◇◇


 アルバイト三日目。



 やはりオープン直後から大盛況。

 というか、昨晩からの私の出待ちがそのまま行列を作っていたらしい。


 大将から「通行の邪魔になるし、止めさせるように言ってくれないか」と頼まれたけれど、「余韻に浸ってたら朝になってただけだよ。今日は飯食ったら帰ってまた来るから心配しないでいいぜ」「ユノちゃんの歌が膝にきちまってな。収まったら帰るから」「ご心配には及びません。我々が騒ぎが起きないよう警戒しておりますので、どうか存分に歌ってください」と拒否された。

 そして、「通行の邪魔だ!」と言った人が逮捕されていた。

 無力な私を許してほしい。



 開店後は、大将の料理はいつもどおりに好評だけれど、「ユノちゃんに愚痴を聞いてもらって慰めてもらいたい」「膝が限界だから看病してほしい」「逮捕されてよかった!」とかいう注文と妄言も同時に入ってカオスになっている。


 さらに、噂を聞きつけてやってきた貴族らしき人がピカピカと光りながらお供をいっぱい引き連れてやってきて大渋滞。

 というか、大事故になった。



「店主、この店はいくらだ? 言い値で買おう、好きな金額を言うといい。こんなサービス、滅多にないぞ?」


「鎮まれ! 第六皇子ダイゴの名において、今日からこの店は我が直轄とする! 異議は認めん! おっと、こうしてはおれん。早速侯爵令嬢との婚約を破棄してこなくては!」


「ええい、この愚民どもが! 散れ、散るのだ! その少女は我々強正教の巫女、若しくは私の女神様となるお方である! 触れるでない! 天罰下すぞゴミどもめが!」


「ユノちゃん、悪いがこれ以上君を雇っていられない……。すまない、すまない……」


 クビになった。


 まあ、相手が悪い――気持ちも悪いので大将にどうにかできる問題ではないし、お店に迷惑を掛けるわけにもいかない。

 これ以上迷惑を掛ける前に逃げよう。



「ああっ、女神様!?」


「店主、貴様……! こんなことをしてタダで済むと思うな――だが、彼女の私物を差し出せば許してやらんでもないぞ!」


「我が花嫁が逃げたぞ! 絶対に捕まえろ! だが、傷のひとつでも付けた時にはただで済むと思うな!」


 更にお尋ね者になってしまった。


 一応、当初の目的は達成しているからいいのだけれど……いや、よくなくない?

 というか、一部の人がすごく光っているのは何なのか。


 ……まあ、逃げ切ってから考えればいいか。

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