表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
703/725

18 勇者結託、ところにより変態

 一方で、猫羽姉妹のクラスメイトたちに対する態度は適当だった。


 ふたりの豹変ぶりや異常な戦闘能力については、「ユノの妹なら仕方ないか」という理由で軽く流された。

 彼らは、ユノが絡むと大体の不条理は呑み込めるようになっていたのだ。

 ある種の耐性が付いた、若しくは正常な思考能力が破壊されていたといってもいい。


 ユノが絡めば正気を失う者たちに、細やかな配慮などするだけ無駄なのだ。



 ただし、それゆえに非合理的な判断、あるいは無謀な行動をとる可能性もあるのだが、それはもう手の施しようがない。

 魔術師三人組はユノを敵に回すような行動はとらないだろうが、一般人組は個性の強さと無知ゆえに何をしでかすか想像もできない。


 姉妹は、それを少しでも抑制しようと、「ユノのため」という名目で彼らをコントロールしようとしていた。



「えっ、行方不明の人って、あのチュートリアルクリアしたの? すげー」


「でも、それくらいできないと召喚から脱走できないって考えると説得力あるかも?」


「それか、女神様が手を貸したんじゃない? あの女神様すごい優しかった――隠蔽系のスキルが重要とかいろいろアドバイスもしてくれたし」


「それだったら、私たちも逃がしてくれてるんじゃない? 多分、その人が特別だったんだよ」


「でも、女神様すごい美人だったね。光ってて見にくかったけど、あれ絶対美人だよ」


「カラーリングは堕天使みたいだったけどね、あんな説得力しかない美人は初めて見たよ」


 年少組の言う「女神様」のことは、彼ら以外には分からない。

 一方で、「ユノ」という少女のことも、年少組には分からない。

 したがって、それらが同一人物だと結びつくことはなかった。



「美人ってんなら、うちのユノもかなりのもんだぜ。つーか、女神より上だったわ」


「そんな美人いるの? っていうか、先輩らのクラスの女子、めっちゃ美人なんだけど?」


「それよりもってこと? 羨ましい……。これ何てギャルゲ?」


「ちょっと! あたしたちは可愛くないっていうの? いや、確かにそこの先輩とかすごい美人だけど……」


「貴女たちはまだ花開く前の(つぼみ)なんだし、これからもっともっと可愛くなるよ。それと、ユノさんが私より、女神様より綺麗なのは本当。世界中の綺麗な物全部集めたって、ユノさんには敵わないかな」


「マジか、すげー」


「そういや、AWOですっごい美人いるって噂になってて見にいったら、マジで女神様みたいな人がいたわ」


「私も聞いたことあるけど、それって創作アバターじゃないの?」


「それ、きっとユノさん。乖離率0%の本人アバターだよ」


「クラスに女神様がいるって、それ何てエロゲ?」


「ちょっと! エッチなゲームは18歳未満はやっちゃ駄目なのよ!」


「うるせー。男子には駄目って分かっててもヤラなきゃいけないことがあるんだよ!」


「不潔……! でも、そんな綺麗な人がいるならすごいモテたんだろうな。羨ましいなー」


「少し前は教会の美人シスターと仲良くしていましたわね」


「すごく絵になっていましたね。というか、隠し撮りが高額で販売されていましたよね」


「あれだけ百合百合してると、間に挟まろうって無謀な男はなかなか出てこれないわよね」


「教会ってことは、先輩ら名城? 家柄良くて顔も頭も良いとか、人生って不公平すぎん?」


「先輩らの中で告白した人いるの? 稲葉先輩とかすごいかっこいいし、成功すると思うけど」


「いやあ、僕なんか、告白しても――あれ? したような……?」


 それよりも、「美人の同級生」の話題は年頃の少年少女たちの関心を惹くもので、話の流れが一気に傾いた。

 また、AWOに突如として現れた女神のようなプレイヤーの話は有名で、年少組の中には見たことがある者もいた。

 そんな美人がクラスメイトなど、ギャルゲームでしかあり得ない。

 ちょっとエッチなシーンがあれば絶対に買う。

 かなりエッチなゲームなら、法律の壁を超えてでも買う。できれば、次元の壁も超えたい。

 男の子とは大体そんなものである。


 そんな想像をしたのはひとりやふたりではなく、男子だけでもない。

 アトムに至っては、何を想像したのか前屈みになっている。



「なんで団藤が自分の物みたいに言ってんのよ。あれはうちのお姉ちゃんよ。お姉ちゃんと付き合いたいなら私を倒してからにしてよね」


「真由ちゃん、そこは『私たちを』だよ。それと、私たちも一応チュートリアルをクリアしてるので、挑むならそのつもりで」


「「「……」」」


「あたしならワンチャン――いや、でも、ボスの妹さんに手を出すのは……。っていうか、元々あたしがボスの物だし?」


 もっとも、直後の猫羽姉妹の宣言でチンピラたちの末路を思い出し、すぐに萎れてしまった。


 姉妹にとっては、洗脳が解けそうになった稲葉博人(ハクト)に慌てて対応しただけ――本心でもあったので殺気が漏れてしまっていたのだ。

 殺気に慣れていない者たちには刺激が強すぎた。



「それはともかく、皇女様も言ってたけど、私たちが戦力になるってバレたら、間違いなく戦場とかに送られる。それも、多分バラバラに――最悪、使い捨てにされると思う」


「なので、私たちは力を磨きつつも実力を偽って、姉さんからの接触を待つ――要するに、適度に異世界を楽しみながら時間稼ぎをするのがいいと思います」


 それを誤魔化すように、猫羽姉妹が話題を変える。



「私は異議ありませんわ。個人で動いてどうこうなる状況ではないですし、皇女殿下にも私たちを利用するつもりはなさそうですし」


「まだ信頼するまでには至りませんが――少なくとも敵対する理由は無いと思います」


「私も了解よ。竜みたいな化け物にひとりでいるときに出遭ったら終わりだし、できる限り集団でいた方がいいと思うわ」


「あたしも従うよ! ボスの妹さんの命令はボスの次に優先されるから!」


 それに、魔術師三人組とマキが賛同する。


 残りの者も、マキの異常なテンションに困惑しながらも、対案を出せないので消極的肯定になる。



「それで、重要なのは隠蔽系のスキルなんだけど、最大まで取れてない人いる?」


 それを確認した真由(マユ)が話を前に進める。


 隠蔽系スキルの重要性については女神から説明があったので、知らない者はいないはずだ。

 ただし、強制されたわけではないので、取得していない者もいるかもしれない――と考えての確認だった。



「……あの、計算間違えて8までしか取れなかったんですけど、10まで必要ですか?」


「俺は取ってすらいねえ」


 名乗り出たのは、年少組の少年がひとりとアトムだけだった。

 素直に名乗り出てくれたのは有り難いが、その素直さは隠蔽系スキルを取る方で発揮してもらいたかったところ。


 それに、年少組の少年の方は、計算間違い――故意ではないとの申告で反省もしているようだが、むしろ誇っているようにすら見えるアトムには猫羽姉妹も頭を抱えるしかない。



「8くらいあったら多分大丈夫だと思うけど……、念のため、最大まで上げてた方がいいと思う」


「下半身すら隠してなかった団藤君には期待してませんけど、ここに来るまでにこっそり鑑定系のスキルを受けていると思うし、これから受ける機会も増えるはずです。団藤くんだけバレて徴集されることもあるかもしれませんね」


「……っ! ト、トイレの途中で召喚されたんだからしょうがないだろ!」


 そんなアトムを、レティシアがチクリと刺す。

 もっとも、「見捨てる」という選択肢も発生した中で、皮肉のひとつで済ませたのは寛大といってもいいだろう。



 アトムが言い訳――ただし、下半身が露出していたことのみ以上のことをしなかったのは、マキが睨みを利かせていたからである。



 公安扱いになっていた彼は、同じく公安所属のマキとは面識があった。


 彼女は、彼の師匠である(フー)の教育係である。

 そして、ボコボコにされていた虎から何度も愚痴を聞かされていたので、その実力についてもある程度は理解している。

 チート能力を手に入れた今でも、「条件は相手も同じ」と考えると、ビビるのも仕方がない。



 マキからすれば、特にアトムに思うところは無かった――が、それは先ほどまでの話。


 彼女は職業柄、正体を隠すことの重要性をよく理解していた。

 主に、目撃者は全員消す方向性で。


 さらに、ここでは支援部隊がいないことまで考慮して、スキルポイントの大半はそれを埋めるために使用しているくらいには後方支援の重要性も理解している。


 出来の悪い後輩でもそれくらいは理解していて当然で、その弟子である彼にも伝えているはずだと思っていたのがこれである。

 猫羽姉妹がゴーサインを出さないので大人しくしているが、姉妹が不在か合図が出れば即制裁を加えていただろう。



「あんた、ズボン脱いでトイレする派なの? いや、全然興味は無いんだけど。それはそうと、私たちはチュートリアルクリアの特典でスキルポイントを余分に貰えてて、しかもアイテムの形でだからほかの人に譲渡できるんだよね」


「さすがに未取得から最大値にはならないと思いますけど、足りない分はどうにかしてもらうしかない――ということで、はい、どうぞ」


 彼らにとって幸運だったのは、猫羽姉妹がチュートリアルのクリア報酬として、譲渡可能なスキルポイントを貰っていたことと、それを未使用でとっておいたことだった。


 姉妹にも、アニメやゲームのような「異世界チート生活」に憧れていた時期はあった。


 しかし、いざ現実になってみると――頂点の高さを知ってしまうと、多少のチートで喜べる心境ではなくなった。


 それに、過程を飛ばして結果だけを受取る「スキルポイントを使ったスキル取得」には、思った以上に魅力を感じなかった。

 一応、訓練や努力次第でスキルや魔法が習得できることを知っていたこともあるが、数字やスキルを並べただけではエンドコンテンツの攻略は不可能。

 むしろ、それらに頼らない応用力などを鍛えた方がマシに思える。


 それに、「過程をすっ飛ばす」のは(ユノ)の悪い癖である。

 無意識にやっていることも多いのでなくせはしないだろうが、少しでも減らすために、身内である自分たちがそういう姿を見せなければとも考えた。


 もっとも、それはそれとして、貰ったスキルポイントは全て耐性の上昇などに注ぎ込んだが。

 人の好意を無駄にしてはいけないと教えることも重要だった。



 さておき、レティシアの言うように、譲渡できるポイントでは、未取得から最大値にはならない。

 それどころか、8から9に上がるかも怪しい。


 ふたりの獲得したスキルポイントは、一般的な観点ではかなりの量のポイント――単独(ソロ)で下位の竜を討伐した際に獲得するであろうものに相当する。

 それでも、スキルや魔法のレベルは高レベルになるほど次のレベルに上げるためのポイント量が増えるため、最大値まで上げきるにはそれ以上の膨大なポイントが必要になる。

 適性の有無でレベルアップに必要なポイント量が変わることを合わせても、下位竜1体で上限に達するほど安くはない。



 一方で、《鑑定》は様々な場面で役に立つ便利なスキルで、適性にほとんど左右されずに取得できるというメリットはあるが、高レベルの所持者は意外と少ない。


 戦闘を生業にする者にとっても役に立つスキルだが、高レベルになるほどほかに優先順位が高いスキルが出てくる。

 少なくとも、戦闘能力が直接上昇するものではない《鑑定》に割けるポイントは無い。


 当該スキルを使用することで蓄積される熟練度を上げることでもレベルアップは可能だが、魔物を斃してスキルポイントを貯める方法より効率は落ちる。

 というより、ほかに優先順位が高いものを上げた方がいい。


 真に《鑑定》スキルを必要とする研究者などには戦闘が不得意な者が多く、スキルポイントを得やすくするために戦闘系スキルを取るようでは本末転倒である。

 ちなみに、そういった者たちに対しては組織的な支援が行われるのが普通だが、それでも上限に達するような者は世界で十人に満たないだろう。

 アルフォンスのように上限突破しているのは変態の所業というほかないが、領主としての権力や英雄としての実力と比肩するくらいに凶悪なスキルとして、特に敵対者には恐れられている。



 さておき、上限には届かないとしても、アトムでも6か7くらいまでは上がるはずで、無いよりはマシである。

 相手の《鑑定》レベルを上回っていればいいという条件で、現段階でバレていないならしばらくは大丈夫。

 メーディアが高レベル《鑑定》持ちの人物を手配したとしても、その前に朔と合流できれば対策や対応もできるだろう。

 だからといって、それが自助努力を放棄する理由にはならないので、できる範囲のことはしておこう――というのが姉妹の考えだった。



「えっ、あの、本当に貰ってもいいんですか?」


「あっ、レティ、ズルい! 私もそっちの子にあげたかったのに!」


「いいんですよ。でも、ちゃんと隠蔽系のスキルを上げてね。それと、真由ちゃん。今はそういう状況じゃないでしょう? 露出狂でも一応クラスメイトなんだし、助け合わないと」


「分かってる、分かってるけど! うーーーー!」


「……その汚らしい物触るような態度はさすがに傷付くんだけど?」


「ナニ触ったか分かんない手で触らないで! とにかく、それでちゃんと隠蔽してよね!」


「分かってるってーの」


「それで過去も隠蔽できたらいいのにね」


「なんだと伊藤てめー調子に乗ってんじゃねえぞ!?」


「まあまあ。団藤もタイミングが悪くて苛立つのは分かるけど、猫羽さんも言ってたとおり、何をするにしてもみんなで協力した方がいいのは間違いない。一刻も早くユノさんと合流するためにもね」


「ユノさんがすごいのは知ってるし、助けてくれるっていうなら安心だけど、それは私たちが努力しなくていい理由にはならないからね」


「まあ、そうだな……。俺らが強くなれば、ユノの負担も減るかもしれねえし」


 猫羽姉妹の誘導が上手かったのか、あるいは少年たちが単純だったせいか、彼女たちの思惑どおりに話が進んでいく。


 姉妹にも「異世界生活を堪能したい」という欲はあるが、クラスメイトの能力と現状、姉の能力を考えると不用意なことはできないしさせられない。




 結局、この場では「高度に柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処」という方針で一旦解散となった。


 戦闘能力があるからといって、組織の運営や運用ができるわけではない。

 どれだけゲームに似た世界であっても、特定の敵を斃せばとかシナリオのクリアでエンディングを迎えるわけでもない。


 それでも、日本でのそれぞれの状況を鑑み、「日本に帰ることよりも、この世界で生きていくことを優先して、ひとまずは帝国や皇女との付き合い方を考える」ことで一致したことは成果といえるだろう。




 その日の深夜、黒い子猫に擬態した朔が猫羽姉妹と合流した。

 そうして、彼女たちは召喚されたその日に帝国内での活動基盤を手に入れた。



 なお、朔が即座に合流できなかったのは、なぜか森の中に出現してしまって移動に時間が掛かったことと、湯の川諜報部と接触していろいろと指示を出していたからだ。

 前者の原因は朔にも分からないが、彼ですらそんな状況なのだからユノ対策は必須であると判断して後者に及んでいたのだ。


 ちなみに、この当時のユノは、不審者たちから有り金を巻き上げようとして迷宮を創っていた。

 そして、諜報部の包囲網が完成する前に冒険者ギルドで騒動を起こしたりもしたが、それ以上に拡大しなかったのは彼らの尽力によるものである。


◇◇◇


 追撃に警戒しながらキャンプで休息をとっていたスティーヴ隊が、「キャンプの近くに森のようなものが発生した」ことを知ったのは襲撃から3日後のことだった。

 もっとも、噂自体は森林型迷宮発生後すぐに流れていたのだが、それを認識できる余裕ができたのがそのタイミングだっただけである。



 ただ、噂を聞いただけでは理解も判断もできない話である。

 確認するにもそれだけの余裕が無い――その意味があるのかさえも分からない。



 そもそも、キャンプにいる間は彼ら以外の人目もあるため、刺客も活動しにくくなるだろう――と考えて滞留していたのだ。


 彼らの主人は、部下どころか一般市民や亜人にまで優しい素晴らしい人物な上に金もたんまり持っているので、この状況であれば無断外泊やツケによる予定外支出も大目に見てくれるはずである。

 わざわざ危険に飛び込む理由が無い。


 なお、この当時の彼らの主人は、戻ってこないどころか連絡も寄こさない彼らを心配していたが、緊急事態の対応に忙殺されて身動きが取れなくなっていた。



 しかし、噂の調査でキャンプの人口が増えると、今度は刺客に取って有利な状況となる可能性がある。


 増援を要請するにも、さきの襲撃で主人との連絡を取るための魔道具が破損していて、修理をしなければ使い物にならない。

 その修理をするにも、情報漏洩などのリスクを考慮すると信頼できる者にしか任せられない。


 隊員のひとりに伝令を任せることも考えたが、伝令として孤立する者と隊長スティーヴを守るために残る者たちの両方のリスクが高まる。

 だからといって、回復していない――回復するかも分からない隊長を守りながらの移動はそれ以上にリスクが高い。


 というより、隊長の状態が分からないことが最大の問題だった。


 一応、時折脈動しているので、死んではいないらしい。

 しかし、彼らの《鑑定》レベルでは「熟成中」としか分からず――むしろ、余計に分からなくなった。


 それも含めて、どれだけ考えたところで答えが出るものではないが、最大の警戒対象だった刺客たちが森林型迷宮を盛るための養分となっていることなど分かるはずもない。




 そうして、身動きが取れないまま更に3日が過ぎると、昆布締めされていたスティーヴに変化が現れた。


 完全変態する昆虫のように背中側の昆布が割れて、そこからかつてスティーヴだったものが出てくる様子は軽いホラー。


 しかも、彼にはさきの戦闘での傷跡が無いどころか、お肌はスベスベで髪はサラサラ、ボディはムキムキで満面の笑顔。

 以前から信仰心にヤバいものが見え隠れしていたが、見た目でも主張してくるヤバい奴になっていた。



「……スティーヴ隊長ですよね?」


 だからなのか、スティーヴを看病していて間近で変態を見てしまった隊員カノンは、回復を喜ぶよりも困惑が勝っていた。


 もっとも、彼女以外の隊員も程度の差はあれ同じ心境である。



「おはよう、カノン。どうやら、お前たちには心配をかけたようだな。すまなかった。――実は夢の中で女神様に会ってな、『こっちに来るのはまだ早い』と追い返されたよ。だが、そのおかげで元どおり――いや、生まれ変わった気分だ」


 突然語り始めたスティーヴ。


 しかし、彼以外の隊員たちにとって、彼の変わりようは「気分」とかそういうレベルではない。


 隊長のひと回り大きくなった体長は軽く二メートルを超えていて、背中に翼が生えたかのような、胸がケツになったかのように膨れあがった筋肉は最早外骨格。

 それにサイズ据置きのにこやかな顔をちょこんと乗せると立派な魔物である。



「さきの問いの答えだが、女神様の慈悲で熟成された私は、スティーヴであってスティーヴではない。今の私はスティーヴの頂点にして女神様のしもべ、いわばスティーヴキングとでもいうべき存在! 女神様はいつも私の側にいる!」


「そうですか……。それはその、おめでとうございます」


「じゃあ俺、お祝いに隊長の服買ってきます! その格好で外出たら捕まるか攻撃されると思いますんで、ここで大人しくしててくださいね!」


「待って! ついでに教会での解呪の予約も取るべきでは!?」


 隊員たちは、外見だけでなく頭の中までおかしくなった隊長スティーヴに更に困惑するが、こんなものをそのまま世に放つわけにはいかない。



 彼らは最低限の準備を済ませると、人目を避けるように夜中にキャンプを発った。

 そうして、カクーセイキューに無事に辿り着いたものの入市拒否からの拘束コンボを食らって、その報を受けた彼らの主人も困惑させることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ