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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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17 皇女の苦悩と勇者の密談

――第三者視点――

 メーディアに保護された勇者(仮)たちは、「屋敷の外には出ないこと」などのいくつかの条件の下、ひとまずの自由を与えられていた。

 日本人の感覚としては「自由」とは程遠いが、素性も定かではない彼らを保護してくれるだけでも親切だということは理解できる。

 何より、まだ実感がないため文句は出なかった。


 あるいは少し前に同胞によって処されたクレーマーを見ていたからかもしれない。

 力を得た今だからこそわかる。

 あれは本気とは程遠かった。

 ちょっと勝てそうな気がしない――と。



 一方、メーディアにしてみれば、付きっ切りで見ているわけにもいかないので、しっかりとした監視をつけておきたいところである。

 しかし、それで心証が悪くなるようでは本末転倒である。

 寝首をかかれないようにするためにも、「利用するつもりはない」と信用してもらうことが最優先だった。



 また、これは慢性的な人手不足の中で起きた突発的な事態だった。

 さらに、被召喚者のひとりが行方不明らしく、その捜索もしなければならない。

 そんな事情で、いつも以上に人手が足りていない。

 資金にはまだ余裕があるが、金で雇っただけの人間をどこまで信用していいかと考えると、むしろ人手が足りない方がマシまである。



 そして、メーディアにも味方が増えてきたとはいえ、損得や勘違いで彼女を支援している者も多い。

 彼らについても、重要性の低い案件や、損得でしっかりと結びついている案件なら任せられるが、本件については非常に機密性や重要性が高く、飽くまで彼女の保身の都合でしかないので損得は度外視である。


 いくら人手不足でも、そういった事情では彼らの手を借りるのも非常にリスクが高い。


 危機管理上、本心から信用できない者に詳細を明かすわけにはいかない。

 とはいえ、一切の情報を与えないと、「冷遇されているならこちらにも考えがある」「裏切った方が得か?」と離反されるおそれもある。

 信用しきれなくても、使いどころを間違えなければ役に立つ者たちであり、簡単に切り捨てるわけにはいかない。


 だからといって、中途半端な情報を与えてかかわらせると、認識の齟齬そごや矛盾から別の問題が発生するのは経験上珍しいことではない。

 場合によっては、矛盾の発覚を切っ掛けに強請(ゆす)られる可能性もある。

 というか、過去の周回の似たような状況で強請られたことがある。

 同じ轍は踏めない――いつか「ざまあ」してやるとなっても無理はない。


 したがって、「勇者(仮)を自由にさせる」という方針はそういった者たちに対する牽制でもあり、監視はつけたくてもつけられなかったというのが実情だった。



 結局、メーディアは、勇者(仮)たちには護衛の意味も込めて、ユウジたち親衛隊をつけた。

 ユウジたちには、「勇者様(仮)たちが不自由しないように、可能な限り配慮して」とだけ命じて。

 その方が勇者(仮)の好感度が上がると信じて。


 そして、信用に足らない者たちには、勇者(仮)との直接的な接触ができない関連案件を回すことに決めた。

 その際に、「貴方だから任せるのです」「時が来れば――」などと言っておけば、しばらくは上手く踊ってくれるだろうと期待して。

 それでは一時凌ぎにしかならないが、本当に対策が必要なのはほかの皇族や大魔王勢力、邪教徒をはじめとした不穏分子である。

 解決には程遠いと理解していても、現状ではそれ以上のことができなかった。


◇◇◇


 一方、屋敷内のみとはいえ自由を与えられた勇者(仮)たちは、猫羽姉妹の呼びかけで一堂に会していた。

 突然の召喚と慣れない環境に困惑し、疲れている者も多かったが、それが重要なことなのは理解していたので反対する者はいなかった。


 後手に回って、若しくは因縁つけられて分断されて――というのは異世界召喚ものの漫画や小説でよくある展開だが、都合よく能力が開花したりしないのはチュートリアルで経験済みである。

 ここでの協調性の無さは生死に直結する可能性があり、日本にいた時のように保護者等に守ってもらえる状況でもない。


 それに、悪人――容疑者、あるいは未遂段階の者を躊躇ちゅうちょせずに制裁を加えた猫羽姉妹に逆らってまで()を通す状況ではない。

 というか、特に団藤(アトム)のような、彼女たちに好かれていない自覚のある者は何が切っ掛けで襲われるか分からない。

 そして、姉妹の豹変の理由も分からないので、現在進行形で自己防衛しなければならない状況だった。




 発起人であるレティシアに割り当てられた部屋に全員が集まると、そこで簡単な自己紹介を済ませてから、現状の再確認が始まった。

 広めの個室とはいえ、さすがに16人も入ると窮屈になるが、皇女や彼女の息がかかった者に聞かれないようにとなると我慢するしかない。


「ゲームみたいな剣と魔法のファンタジー世界っていうのにはワクワクするんだけど、帝国っていうのがちょっとあれな感じ?」


「ゴクドー帝国って、AWOにあったのと同じなのかな? ここはゲームの中の世界なのかな?」


「AWOにもあった魔法やスキルがあって、町並みとかも感じが似てるけど、どうなんだろうね?」


 話題は当然、AWOとこの世界の類似点に及ぶ。


 幸いなことに、ここにいる者たちは多かれ少なかれAWOをプレイ――というより、ガッツリと嵌っていた者たちが多い。

 例外は姫路(リナ)くらいのものだが、彼女は持ち前の適応力と演技力で、さも上級者であるように見せていた。



 さておき、特に年少組には中二病を卒業しきれていない者も多い。

 説得力しかない女神と会ったことで、悪化した者もいる。

 それを抜きにしても、「AWOの世界が現実になったら」と考えたことは一度や二度ではないし、VRでしか経験したことがない世界が、フルダイブどころかリアルで存在しているのだから興奮しないわけがない。


 それでも、突然の家族や友人との別離には素直に喜んでばかりもいられず、更に年長組の行方不明者の存在と女神との約束もあって、我が儘を言える状況にない。

 また、ゲームでのゴクドー帝国がどういう国かを知っていれば、迂闊うかつなことはできない。



「AWOのゴクドー帝国って、町中でも悪魔族やアンデッドや邪教徒やPKが出現して戦闘になるから、イベント以外で行ったことないんですよね」


「NPCも悪い奴が多かったよね。第八皇女も設定だけあったけど、かなりの独裁者気質だったみたい」


「あー、私もそれ見たかも。とんでもなく酷いことする人でみんなに恨まれてたとか。でも、ここの皇女様はそんな感じなかったよね」


「無邪気そうな聖女様も懐いてたしね。実はいい人なのかも。っていうか、あの聖女様って、この前の大規模アップデートで追加されたイベントの聖女様と関係あるのかな?」


「レイドボス倒すために犠牲になるんだよね……。関係無いことを祈るしかないね。今の僕らじゃボスも倒せそうにないし」


 勇者(仮)たちは、中途半端に知識があることで余計に混乱していた。




 AWOでは、ゲームの世界観やイベントにこの異世界の情勢や出来事などをそのまま反映することが多かったが、さきの大規模アップデートの追加イベントのように「if」のものも増えてきていた。

 その原因がユノの出現と活躍であることは言うまでもなく、ゲーム内でも彼女を登場させるための伏線でもある。



 また、悪魔たちの真意はともかく、AWOサービス開始時点でのメーディアは、モラルの低い帝国においても輪をかけてクズな最低皇女で、暗殺や謀反を受けてもやむなしといった人物だった。

 その後、転生者であることと死に戻りの能力を自覚した彼女の奮闘によって評価は回復――どころか右肩上がりになっていたが、悪魔たちにとっては修正する必要性を感じない些事だった。



「引っかかるところもあるけど、ここはAWOのことを忘れた方がいいんじゃないかな? 少なくとも、AWOを根拠に先入観を持つのは駄目だと思う」


「俺も同感だ。それよりも、今はユノを捜さねえと。ユノならすぐにどうこうなるとは思わねえけど、早めに合流した方がいいだろ」


「一応、皇女様には事情を話して捜索をお願いしてるけど、“ユノ”って名前はこっちの世界じゃありふれた――別の国を守護する女神様の名前と同じらしくて、下手に嗅ぎまわってると立場上因縁をつけられかねないとか……」


「最初に言ったけど、お姉ちゃんは私たちのサポートをするために、わざと別行動してるんだよ。捜されるとかえって迷惑だって」


「チュートリアルもクリアできない人が姉さんの心配をするなんて烏滸おこがましいですよ。向こうから接触してくるまで、素直に自分の心配をしましょう」


 AWOとこの世界の関係は、そこまで知らされていない猫羽姉妹には分からない。

 それでも、ただの人間がユノを心配するのは無駄でしかなく――むしろ、「やりすぎないか」という心配があるのだが、それを回避するためにも彼らに勝手な行動をされると困る。


 そのために、こうしてコミュニケーションをとる場を設け、彼らの情報と能力の把握と、これからの方針を統一することを企んでいるのだ。

 最悪の場合は、全員を洗脳するつもりで。

 もっとも、それは最後の手段であり、その前段階として「対話」や「実力行使」が予定されていたが。



 猫羽姉妹にとって、対話が難しいと思っていた年少組の少年少女たちが素直に言うことを聞いてくれたことは幸運だったというほかない。


 年少組にとっては、分かりやすい悪者に対して悪・即・斬した姉妹は、手慣れすぎている感に若干引いた(ビビった)ものの正義であり、尊敬すべき先輩である。

 それと、女神(ユノ)との「良い子にしていてね」という約束(のろい)が合わさり、素直に話が聞ける下地ができていた。



 また、姉妹にとって、実力行使の際に最大の障害になると考えていた伊達(マキ)が、自己紹介の後で「これより、ボスの妹さんたちの指揮下に入る」と宣言して沈黙してしまったことも幸運だったといえるだろう。


 戦闘になれば、領域的に一日の長がある姉妹の方が有利なはずである。

 しかし、彼女もユノの直接の指導を受け――領域内のこととはいえ、直接ユノに殺された経験があることは軽視できない。

 力を合わせても姉の劣化コピーにも至らない姉妹では、負けないにしても思わぬ痛手を被る可能性は否定できない。


 なお、マキが姉妹に擦り寄ったのは、正攻法ではユノに子分と認められないから――合流できた暁には、ふたりに執り成してもらおうという魂胆からである。

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