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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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16 木を隠すなら森の中

 ギルドから逃げ出して、ネコでも不可能かと思うようなパルクールを駆使して追っ手から逃げる。

 というか、なぜ追われるのか。

 追われるほど悪いことはしていないと思うけれど――逃げられたら追いたくなる動物の本能的なものだろうか?

 それなら仕方ない――いや、追われる方は堪ったものではないけれど、叩きのめして事件にするわけにもいかないので、やはり逃げるしかない。



 しかし、速度や身のこなしでは私が遥かに上回っているけれど、土地勘の差で先回りされたり、上ってこれない高所や入ってこれない閉所に隠れても《鷹の目》とか《ダウジング》とかのスキルで見つけてくる。

 というか、《ダウジング》ってなんなの?

 私の何に反応しているの?

 怖いから止めてほしいのだけれど?


 とまあ、エリート冒険者さんの連携と捜査能力、なかなか侮り難かった。


 それでも、彼らが「嬢ちゃんの必要な物は全部俺たちで用意するから戻ってくるんだ」派と「嬢ちゃんに必要なのは、そう、『自由』さ。だから行かせてやれよ。でも、きっと戻ってくるよな、俺たちの許へ!」派に分かれて争ってくれたおかげで、どうにか撒くことができたのだ。

 なお、「俺のパーティー――いや、人生には君が必要なんだ! 共に歩もう! 死がふたりを別つまで!」派は、両派に「「今すぐ死ね!」」とボコられていた。

 やはり、人間の敵は人間ということかもしれない。


◇◇◇


 さておき、落ち着いたところで改めてカクーセイキュウを観察してみる。



 町並みは辺境の町とは比較にならないくらいに整備されていて、砦よりも遥かに清潔だ。

 素晴らしいね。

 町の名前以外は。


 人的には、「学園都市」という名のとおりか、学生や学園関係者のようなモヤシっ子(※偏見)が多く見られる。

 そして、迷宮都市アルスにいた冒険者のような混沌というか猥雑な人は見当たらないので、本当に「都市」という感じがする。


 ただ、ゴクドー帝国のお国柄に由来するものか、それとも勉強ばかりやっているせいで不健康になっている(※偏見)からかは分からないけれど、空気が悪い――というか、瘴気というほどでもない澱んだ魔力があちこちに溜まっている。



 特に、これでもかとマウントを取りにきている巨大な聖堂らしき建物――ゴクドー帝国の国教でもある武神を祀った物。

 ここで信仰されているのはアーレスさんという戦いの神で、管轄地はローゼンベルグの南くらい。

 以前はエスリンたちも信仰していたとか。


 なお、彼曰く、「この地にはほかに管轄している神がいるし、距離的に離れすぎていることもあって、信仰されても大した恩恵は与えてあげられない」とのことだけれど、教会の人間たちにとってはその方が都合が良かったのかもしれない。


 とにかく、邪念や欲望で濁った魔力が白亜の建物にべったりと纏わりついている。

 可視化されれば立派な邪神殿である。


 これが神を祀る物ではなく、自分たちの欲望を満たすための物であることは明白。

 こんな物を「貴女を祀る神殿です!」と言われたら、間違いなくぶっ壊す。

 自主性とかで許容できる範囲を大きく超えているといわざるを得ない。


 彼だってそうしたいそうだけれど、余所の神の管轄地なので手が出せないのだとか。

 神であっても(しがらみ)は無くならないっぽい。

 世知辛いねえ。


 そんな彼だけれど、最近――私のファンクラブに入会してからはそんなことはどうでもよくなったらしい。

 というか、直接的に加護を与えなければいけない信徒がいないことを逆手にとって、頻繁に湯の川へ遊びに、若しくは出稼ぎに来るようになった。

 すごく迷惑です。


 そういえば、クライヴさんも闘神――戦いの神カテゴリーだったか。

 その手の人には迷惑な人しかいないのだろうか。



 とにかく、ホーリー教の教会はまだ健全だったのだと理解させられた。

 異世界ってすごいね。

 もちろん、褒めたわけではない。


◇◇◇


 さて、それらを踏まえて客観的に状況を確認すると、私の姿(カツオ武士)は間違いなく悪目立ちしている。

 通報されるのも時間の問題とみた。



 つまり、さっさと着替えるべきなのだけれど、私の能力や目的を考えると普通の服は耐久度に不安がある。

 本気で動くようなことはないと思うけれど、少し動いただけで壊れるような安物は論外だ。


 できれば魔法で強化されている物が望ましい。

 もちろん、その分の値段が高くはなるけれど、それくらいのお金はニックさんから貰っている。

 冒険者登録に失敗した分もあるしね。


 もちろん、私の体質的に、私に対する魔法効果は打ち消してしまう可能性が高い。

 ずっと無効化を無効化し続けるのも面倒だしね。

 それでも、服自体に掛かっているものは残る可能性がある。

 そうでなくても、魔法の品は素材の質が良かったり耐久性が高かったりするので、普通の服よりは遥かに丈夫なはずなのだ。


 ニックさんから服を貰わなかったのもそれが理由である。

 というか、奴隷用の服はその商品価値を最大まで高めるため、煽情的であったりマニアックだったりと、町中で着ていいものではなかった。

 特に「逆バニー」とかいう狂気の産物。

 あんなイカれた衣装をどこでどんなタイミングで着るのか。

 公共の場で着ていれば間違いなく捕まるだろうし、意中の人の前で着たとしてもドン引きされるだけでは?


 可能性だけを見ると面白くもあり、細部まで手を抜かないところは褒めるべきか悩んだけれど、子供用のエッチな衣装はやはり駄目だと思う。



 なので、冒険者向けの防具を探したかったのだけれど、学園都市の特性か、魔法使い用のお店が大半で、近接戦闘職用の武器や防具を扱うようなところは少ない。

 また、魔法使い用の装備に付与される魔法効果は、着用者の魔力向上や魔法構築のサポートをする方向に全振りされることが多く、耐久性に関してはその犠牲にされる。

 つまり、私の求めている物とは方向性が真逆になる。


 そして、戦士用の軽装や重装はこの町では売れないので、取扱いしている店からして少ない。

 恐らく、魔法効果の掛かっている物など皆無だろう。

 そういった物が欲しければ、比較的近くにある帝都に行って買うか、迷宮都市で掘り当てればいい――ということらしい。



 そんな事情で、ここではまともな防具は手に入らない。

 いや、本当に欲しいのは「服」なのだけれど、魔法の掛かった服というのは貴族が着るような物で、そういった物を扱うお店は一見さんお断りのところが多い。

 そして、ニックさん――奴隷商人程度では門前払い。

 もちろん、冒険者の身分ではいうまでもない。


 朔がいれば、「盗みに入れば?」と言うかもしれない。

 しかし、盗んだドレスで走り出すのが許される(※許されません)のは14歳まで(※少年法)だ。

 というか、「罪にならないからやる」ではなく、やると決めたらやるのが私の流儀である。

 やるならせめて拘りを持ちたいので、ひとまず保留で。



 いっそ、平民用の服を買って、私の能力で再構築するか?

 シンプルな造りの物なら可能だし、耐久性も向上すると思うけれど――濫りに神器を創るのはまずいかな?

 見る人が見れば分かってしまうらしいし。

 つまり、カツオ武士も見る人が見れば美味しいやつだと分かるということ。

 というか、既にネコが集まってきて、おねだりするように鳴いている。

 うふふ、可愛い――じゃなくて、早くなんとかしないと。




 後ろ髪を引かれる思いだったけれど、ネコたちには鰹節を与えて逃げてきた。

 喧嘩をせずに食べていればいいのだけれど……。



 さて、町中だけならもう加工無しの平服でもいいかと思うのだけれど、外では逆に目立つ。

 それに、できれば顔は隠したいけれど、それが似合うものとなるとなかなか難しいように思う。

 面頬に合う平服とか見たことないし、覆面とかだと普通に不審者だし。



 などと考えながら歩いていると、少し興味を惹かれる看板を見つけた。


 “ムシリトール魔術学園制服仕立承ります。各種魔法付与もご相談ください”


 学園の名前に思うところはあるけれど、学生の多い町でそれに紛れられるのはいいかもしれない。

 それに、町の外でも学生っぽい人たちを見かけていたことも思い出した。

 その時は、「町に近づくほどによく似た服装の人を見かけるようになった」としか思っていなかったけれど、学生のアルバイトか課題だったのだろうか。

 とにかく、あれが「制服」であるなら納得だ。


 デザイン的にはスカートが短すぎたと記憶しているけれど、それはこの世界の資源事情を考えると仕方がない。

 最悪は自前のタイツでも穿けば済むことで、それ以外は普通に可愛かったように思う。

 外で活動できるくらいなのだから性能的にも問題は無さそうだし、顔は――魔法使いらしくフード付きのローブかマントでも羽織るか。

 そういうスタイルの人もそこそこいるし。



 ということで、早速元気よく入店。


「頼もう! 制服を1着仕立てていただきたい!」


「いらっしゃいま……強盗!? いや、刺客か!? い、命だけはお助けを! いやあああ!」


「う、うちはしがない仕立て屋です! ひ、人様に恨まれるようなことは……多少ぼったくったりはしてますが、命を狙われるようなことではないはずです!」


「え、えい衛兵! もしもし衛えい兵さん!? えいえいおーじゃなくて! 強盗団――いや、カマクラ武士! ゴートゥーカマクラ? じゃなくて!」


 おっと、カツオ武士スタイルだったのを忘れていた。

 私に攻撃の意思は無いけれど、お店の人にしてみれば突然鎌倉武士がやってきたようなものかもしれない。

 というか、こっちの世界の人でも鎌倉武士を知っているのか?

 そうか、転移転生してきた日本人の仕業か。



 それよりも、待って。

 奥の店員さん、通報しないで。


◇◇◇


「この町じゃフルアーマー冒険者は少ないんだから、特にその甲冑は厳つすぎるし、そういうところ自覚しないとだめだよ?」


「はい、すみません。次からは気をつけます」


 しばらくして衛兵さんがやってきて怒られた。


 怒られただけで済んだのは、ニックさんが身元保証人だからか、素顔を曝したからか。

 若しくは両方――奴隷商人と鰹節香る昆布出汁美少女のコラボで思考停止したのかもしれない。

 とにかく、連行されずに済んで助かった。



「まさかお客様だったとは思いもせず、失礼いたしました。早速採寸からしていきたいと思いますので、お召し物を――お飯物……?」


 お店の人もかなり落ち着いてきたけれど、まだ少し後を引いている様子。


 もっとも、日本にいた時のチャレンジの中には裁縫系統も含まれていて、私の身体の寸法もキッチリ測っている。

 それどころか流出している。

 流出の経緯はさておくとして、これがあれば仕立屋さんの負担も減るかと渡してみたところ、なぜかすごく落ち込まれた。

 一から十まで自分たちでやるのが矜持だったとかだろうか。


 そうだとすると申し訳ないのだけれど、私にもやらなければならないことが多い。

 さらに、本筋ではないけれど期限付きの約束もあるので、余計な時間はかけたくないのだ。

 我慢してもらうしかない。


◇◇◇


 ゴクドー帝国もほかの多くの地域と同じく、年度始めは一月一日である。

 なので、仕立屋さんの繁忙期は年度末までで、この時期に制服を仕立てようとする人はほぼいない。


 そんな事情もあって――なくても最優先で仕上げると意気込んでいたので、完成は三日後となるそうだ。




 本格的な活動はそれからになるけれど、それまでにしておかなければならないこともいっぱいある。


 その中でも最優先なのが、この町にもいるであろう湯の川の密偵との接触である。



 雇用創出だなんだで、ゴニンジャーを顧問とする諜報機関が作られてから二年弱だったか。

 それなりに使えるようになった人から現場に派遣、あるいは実地での研修を行っていると聞いたことがある。


 当時は「そんなことを報告されてもなあ」と適当に聞き流していたけれど、まさかこんなところで頼ることになるとは思いもしていなかった。



 ただし、湯の川諜報機関の詳細は私も知らない――知ってしまうと因果になるので、知らないように努めていたというべきか。

 サボっていたとかではないよ?


 とにかく、帝都に潜んでいるのは間違いないとして、距離的に近く規模も大きいカクーセイキュウにもいる可能性が高い。

 そんな彼らを探すことが第一目標となる。



 本来なら冒険者ギルドで彼らにだけ通じる感じの指名依頼を出すつもりだったのだけれど、あの様子だと少し難しい……もう無理かもしれない。

 あそこにいたエリート冒険者さんたちなら、どんな無理難題でも「嬢ちゃんのためなら!」と受けないとも限らないのだ。

 そんなことにならないようにという意味での指名依頼なのだけれど、お節介とか親切心とかで目が曇っている人には理屈が通じないこともある。

 嘘を嘘であると見抜けない人に依頼掲示板を使うのは難しいのだ。




 ということで、ギルドを利用するのは最終手段として、次善の手段を模索する。



 呼び出せないなら、こちらから出向けばいい。

 そして、諜報員がいそうな場所といえば、情報が集まる場所だろう。

 冒険者ギルドはその最たるものだ。


 ほかにもお金や物が集まる商工ギルドもそうだろうか。

 私も鰹節を取扱う商人として潜り込むことも可能――かもしれないけれど、情報は商人の生命線だろうし、その土俵でやりあうのは難しいかもしれない。

 もちろん、湯の川諜報員との接触が目的なので、ほかの商人と張り合う必要は無いのだけれど、誰とも接触しない――存在感ゼロでは諜報員も私を見つけられないおそれもある。

 だからといって、ボロを出して、彼らの仕事に支障をきたすようなことも避けなければならない――ということで、これも却下。



 ほかに情報が集まりそうな場所といえば、酒場だろうか。


 もっとも、そこで得られる情報の大半は酔っ払いの与太話だと思うけれど、それなりの立場の人が酔って口を滑らせることもあるかもしれない。


 それに、そういう喧騒の中で他人には聞かれたくない話をする人も一定数いるとアルから聞いたことがある。

 その大半は小悪党らしいけれど、いろいろ末期なゴクドー帝国では小悪党には事欠かない。

 つまり、諜報員が張っている可能性も高い。



 ということで、次の目的地は酒場に決定。


 ただし、客として――制服を着て酒場に行くと、補導されるか、「おいおい、ここは嬢ちゃんの来る場所じゃねえぜ。お家に帰ってママのミルクでも飲んでな!」的な流れになる可能性が高い。

 特に後者はギルドのエリート冒険者による演技ではなく、ガチの酔っ払いが絡んでくるのだ。

 もちろん、古竜という飲んでもいないのに酔っぱらっているような連中と付き合っている私が普通の酔っ払いに後れを取ることはないけれど、騒ぎを起こすとまずいので絡まれた時点でアウトである。


 だったらどうするか――は簡単である。


 アルバイトだ。


 未経験だけれど、お皿洗いや掃除くらいなら誰でもできる。

 というか、私の家事は神レベルである。

 あまり神を自称したくはないけれど、鍛冶の神を信仰していたドワーフたちが、家事の匠たる私を信仰するようになるくらいなのだから、決して過言ではない。

 むしろ、私くらいになると、料理を運ぶつもりでうっかり()まで運ぶかもしれないので気をつけなければならない。



 とにかく、日本では接客業は止められたけれど、今は認識阻害装備もある。

 役に立っているかは怪しいけれど。


 お店に掛かるかもしれない迷惑は、そもそもの帝国が末期でいつ崩壊してもおかしくないのだから、さほど問題にはならないと思う。


 仕事内容的には、もし酔っ払いに絡まれたとしても、自衛くらいはできる。

 更に酔っ払わせて足腰立たないようにするか、どさくさに紛れて精神分離パンチでも叩き込んで「飲みすぎは身体に毒ですよ」とでも言って寝かせておけばいい。


 それに、接客が駄目でも調理もできる。

 異世界の酒場なら質より量が求められていて、お客さんも味の良し悪しなんて分からないだろう(※偏見)し、私が作っても大した騒ぎにはならないはず。


 つまり、これはもうやるしかない。


 アルバイトが、未来への第一歩。

 バイト探しカツオ武士、行きます!

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