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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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14 出遭いは突然に

 街道沿いにずーっと北に進んだ所にあったのは、学園都市カクーセイキュウだった。


 情報収集的にはもうひとつの方がよかったのだったか?

 いや、何かあったときのことを考えると帝都に近い方が都合が良いし、必要なら改めて移動すればいいだけのことだ。



 さて、学園都市はその性質上、年度初め――こちらの世界では新年になると、人の転入が増える。

 新年から一か月以上経過している今も入市審査に並ぶ人の列は長く、最後尾の方からは「五時間待ち」という話が聞こえてきた。

 それでも、最繁忙期は数日待ちとかもあるそうで、「これくらいなら世間話でもしていればすぐさ」とゆったりと構えている人が多い。



 そんな人たちの世間話から帝国や学園都市の情報などが得られるので、待ち時間については問題無い。

 それよりも、今の私は身分証明を持っていないことと、入市税を払えないことが問題だ。


 後者はそのあたりで山賊でも狩ってくれば済むことだけれど、領域に頼らずに山賊を捜すのは少し骨が折れる。

 キャンプ近くで遭遇した不審者さんたちから巻き上げていればよかったのだけれど、不慮の事故で迷宮(ダンジョン)になってしまったしね。


 しかし、そうしてお金を得たところで、改めて今の私を客観視してみると冒険者基準でもかなり怪しい。


 それでも、身分証明さえあれば、冒険者にはイカれた格好の人が多いのは周知の事実だし、犯罪歴が無いことも合わせてある程度の信用を得られただろう。

 しかし、外観だけでいうと、どちらかというとカツオ武士は山賊の方に親和性がある。

 素材は海産物なのに。


 とにかく、カツオ武士には学問より獄門がよく似合う――いや、学術都市だと鰹節に豊富に含まれているDHAやEPAが重宝される可能性も?

 それなら、商人――いや、運び屋ということにしてみるか?


 というか、もう夜を待って城壁を乗り越えるか?

 今なら審査に忙殺されていて警備が薄いみたいだし。

 それも迷宮発生の報告が届くまでだと思うけれど。



 などと考えていたところに、一台の馬車――の中に乗っている人が目についた。


 辺境の町で何度か利用した奴隷商人さんだ。

 よく見れば、護衛の人たちにも見覚えがある。


 後ろの大型荷馬車は商品――奴隷だろうか。

 そろそろ別の商売をした方がいいと忠告したはずなのだけれど……。



 まあ、いい。

 ここで出会ったのも何かの縁かもしれないので、挨拶くらいはしておこう。

 そのついでに、何か耳寄りな情報がないかとかこっそり町に入る方法とかを聞き出すとしよう。


◇◇◇


「止まれ! 何者だ!?」

「怪しい奴め! 名を名乗れ!」

「くっ、なんだか分からんが涎が出てきやがる!」

「《誘惑》スキルでも使ってやがるのか? それ以上近づくんじゃねえ!」


 姿を現して接近すると、当然のように護衛の人たちが集まってくる。



「ごきげんよう、ケビンさん。辺境ではお世話になりました。――ちょっと装備が変わっているけれど、ユノですよ」


 大きな騒ぎになる前に、名乗ると同時に少しだけ面頬をずらして素顔を見せる。

 私の名前はありふれているけれど、顔の方は「一度見たら忘れられない。でも、鮮明に思い出すには脳の処理能力が足りない」という特殊なのもらしいので、「余の顔を見忘れたか」的な心配はないはず。

 駄目なら肌でも見せるか。

 桜吹雪は入っていないけれど――入れ墨どころか何も入っていない肌はそれはそれで特別だしね。



「……!? おっと、ユノ様でしたか。これは失礼いたしました。お変わり……変わ……いや、ちょっとか?」


「ケビン隊長、こちらの方はもしかして……。ってことは、例のチビッ子デュラハンも……!?」


「申し訳ありません! ボスにはこんな商売もう辞めようって言ったんですよ!? でも、これが最後だからって!」


「お、俺はまだ死にたくねえ! 収穫出張サービスなんてあんまりだ! 命だけは、命だけはどうかご容赦を!」


 もっとも、肌を見せるまでもなく、彼らもすぐに私のことを思い出したようで、それ以上の騒動には発展しなかった。

 というか、彼らが思い出したのはマリアベルのことか。

 その主人に対して、客としてならともかく、剣を向けたのは耐えられなかったのか。


 そうして、戦闘には発展しなかったものの、みんな武装解除して全面降伏の姿勢である。

 人目がある所で、そういう悪目立ちすることは止めてほしいのだけれど……。


◇◇◇


 その後、従順になった護衛の人たちに、馬車に乗っている奴隷商人さんへと繋いでもらった。


「ご無沙汰しています。お元気そうで何よりです」


「ユノ様こそお変わりなく……変わ……乾? ――とにかく、またお会いできて嬉しく思います」


 といっても、彼も外でのことは認識していたようで――その上で知らん振りをしていたようだ。

 それでも、逃げられないと悟って覚悟が決まったのか、お店に通っていた時と変わらない遣り取りで会話が始まった。



「最近はこの辺りで商売を? というか、そろそろ商売を改めた方がいいと忠告したはずですよね」


「……実は辞めようとはしたのですが、事業の整理や手続きに手間取っていたところに、我々奴隷商人に『犯罪奴隷や亜人を中央に献上せよ』との実質皇帝陛下名義のお触れが出されまして……。従わねば多額の罰金を支払わなければならず、下手をすると我々自身や親類まで奴隷にされてしまいますので……」


「横暴すぎる」


 こんなことを予見して「辞めた方がいい」と言ったわけではないのだけれど、想像以上に酷いことになっていた。



「残念ですが、これが現在の帝国です。大方、辺境の砦をいくつか失ったことで財政的に厳しくなって、我々奴隷商からの搾取という形で補填しようとしておるのでしょう」


 ……私のせいか?

 いや、こんなことは予見しようもないし、それ以上にアクロバティックな施策に走る帝国がおかしいのであって、合わせ技一本で不幸な事故というほかない。



「我々の商売は社会的に重要な役割を果たしているという自負はありますが、生活に必須というわけではありません。犯罪奴隷などは自業自得ですが、貧しい家の子を買い叩いて奴隷にする――そういった悪いイメージが我々にはついていますので、この件で我々に同情的な者は多くありません。ですが、そういった家庭にも、そうでもして金を得なければ一家心中するしかない現実があるのです。我々はそこに希望を繋いでいるのです。それに、ユノ様ならご存じかと思いますが、私はそんな事情がある奴隷に対して、可能な限り条件の良い雇い主を紹介することにも誇りをもっておりました! それが――」


 それはそうと、すごい勢いで喋るな。


 (やま)しいことがあるというより、それだけ鬱憤うっぷんが溜まっていたというところか。



 とにかく、奴隷商人さんの話を要約すると、タダ同然で奴隷を奪われることは仕方がないと考えている。

 ただし、その奴隷がどういった扱いを受けるかには――想像でしかないところもあるけれど、不満がある。

 しかし、帝都にいる娘夫婦に累が及ぶかもしれないと考えると、従わざるを得ない。

 それでも、奴隷をただ不幸にするような商売はプライドが許さず、いろいろと理由をつけて引渡しを先延ばしにしていたけれど、それももう限界。

 とりあえず帝都に入る前に、「補給」名目でカクーセイキュウに寄ってみたものの、ここから先のプランは無いらしい。




「奴隷はまたこちらで引取りましょう。それと、その身ひとつでよければ、帝国を出る手伝いをしてあげてもいいですよ」


 少し考えてみたけれど、ここで会ったのも何かの縁だし、少し手を差し伸べてみることにした。

 単独行動中とはいっても、帝国の禁忌妨害作戦に参加してはいけないわけではないしね。



「!? まことですか――いや、それだと娘夫婦に迷惑を掛けてしまうかもしれません。お気持ちは有り難いですが――」

「そうならないように配慮しますし、何なら娘さん夫婦も亡命させてもいいですよ」


「そんなことができるのですか!?」


 今の私は能力に制限がかかっているし、考えなければいけないことも多いけれど、「可能」か「不可能」かでいえば前者だろう。



「いろいろと仕込みは必要になるけれど、多分問題無いです」


 最大の問題は、今の私には瞬間移動が使えないことだ。

 なので、湯の川に直送はできない。

 それに、現状維持するのに、湯の川とかにいる私を迎えに寄越すわけにもいかない。


 まあ、ゴニンジャーでも呼べれば解決すると思う。

 どうやって呼ぶかは考えなければいけないけれど。



「……それで、私はその見返りに何をすればよろしいので?」


 ふふ、察しの良い人は楽でいいね。



「作戦決行までの間、私の手伝いをしてもらえます? 今、少し事情があって、お金や身分証明が無くて――あ、それと服も無いんです。とりあえず、この辺りで自由に活動できるだけの基盤と、貴方たちの脱出準備が整うまでの間――長めに見積もって十日くらいかな? 支援してもらえれば」


 急げばその半分くらいでもできそうな気もするけれど、クラスメイトたちの情報収集も兼ねると余裕を持たせた方がいいだろう。



「十日ですか……。引き伸ばし期間としてはギリギリですが、中央からの亡命準備期間としては破格ですな……」


 彼の頭の中ではいろいろな計算が行われているのだろう。

 私には、何をどう計算すれば何が求められるのかさっぱりだけれど。

 十日と言ったのも、根拠とか一切無いからね?

 多少の無理は利くと思うよ?



「承知いたしました、すぐに手配いたします。ですが、ユノ様の場合、身分証明は冒険者ギルドで発行された方がよろしいかと」


 承知しちゃったか。


 というか、身分証とかについても計算していたのか?


 とはいえ、身分証についてはそのとおりか。

 ……いや、そうなの?


 よく分からない。

 それでも、こういう時にアドバイスをくれる朔がいないのだから、自身で判断するしかない。



 ひとつずつ候補を考察してみると、一般市民登録だと町の出入りが面倒になるし、商業ギルドなどでの登録も単独での出入りは怪しまれるだろうし、やはり冒険者が妥当なところか。


 まあ、最初はそうするつもりではあったし、最初の入市時の身元保証人とか名目上の雇い主になってくれるだけでも充分だ。

 それと、虫が出ない清潔な宿とかも用意してもらおうかな。

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サブタイトル「出遭いは突然に」 出会いでも出逢いでもないのが高ポイント。
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