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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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13 暗躍

 背後から「待ってください!」「せめてキャンプまで一緒に!」「この海苔貰っていいんですか!?」などとかけられる声を無視して中華鍋を漕いでいく。

 街道沿いなら虫も少ないと思うけれど、念のために一貫性を重視した形である。


 なお、しばらくそうしているとコツも掴めてきて、鍋に回転をかけてカーブしたり、急加速や急旋回、大ジャンプなどもできるようになった。


 中でもジャンプがお気に入り。

 なぜなら、昆虫類は自力だと十メートルくらいまでしか飛べないと聞いたことがあるからだ。

 確認とかは怖くてできないけれど、テレビで言っていたから嘘ではないはずだ。

 つまり、ジャンプしている間は平和なのだ。


 ついでに、虫が嫌う匂いとか音波を出すといいのかもしれない――と思いついたものの、何の匂いがとか周波数とか細かいところが分からないので断念した。

 なお、お鍋をお玉で叩いてみたけれど、材質の問題か私が乗っているからかは分からないけれど、特に音は響かなかった。



 さて、もうずっと空中でお鍋を漕いでもいいかなと思わなくもない。

 その程度のアンカーでこの分離状態が破綻することはないと思うし。

 というか、私が私としてある時点で、ある種のアンカーが打たれているともいえるからね。


 もっとも、状態的に問題が無かったとしても、状況的に――人に見られた場合にスキルで説明がつかないような行動はよろしくない。

 大ジャンプくらいなら「そういうスキルか」でスルーされても、お鍋で空を飛んでいたら「あれは何だったんだ?」と、その謎が解決するまで何度も話題に上る可能性がある。

 そうすると、暇な人が調査を始めないとも限らない。

 そんなことから私の存在に辿り着かれることは避けたい――いや、妹たちの耳にも入るかもしれないので、絶対に避けなければいけない。

 なので、人の気配に注意しながらキャンプ地を目指していた。




 私には領域無しでは気配を感じ取る能力が無いことを思い出したのは、上空からキャンプ地を目視できる辺りにまできた時のこと。

 ――よく考えると、私が領域で認識できるのは魂や精神の状態であって、それらが認識できない人たちのいう「気配」とはまた違うもののような気がする。

 というか、みんなが言う「気配」って一体何なの?


 ……それは今考えることではないか。

 どうせ考えても分からないし。



 とにかく、私が想像していた「キャンプ」は、馬車を停めたりテントを設営したりできるスペースに、簡易な防柵と物見台でもあれば上等――アルスの迷宮前のようなものだった。

 冒険者たちの互助で成立している、ちょっとした安全地帯とでもいうか。


 しかし、そこは城壁が低くて防衛兵器が無いだけで、充分に「町」といえるものだった――あるいはそうなる過程にある所なのかもしれない?

 帝都に近い――歴史的背景を考えるとこれが完成形?

 とにかく、この場所の危険性や利便性を天秤にかけてこうなったのだろう。

 現状では「宿場町」とでもいうのが正確だろうか。



 結局何が言いたいかというと、城壁の上で哨戒していた人に私の姿を見られたかもしれない。

 いや、発見される少し前に「何かがある」ことには気づいていたけれど、ジャンプは急には止まらない。

 もうひとつ理由を挙げるなら、私が想像していたキャンプとは違っていたことで反応が遅れたのだ。

 それがなければお鍋で姿を隠せたかもしれない。


 まあ、済んでしまったことは仕方がない。

 それに、まだまだ距離があるし、夕刻で薄暗くなっていたので詳細には見られていないと思う。

 ……思いたい。


 いや、しかし、相手は望遠鏡らしき物を使っていて、しかも何かに驚いて二度見していたので、異常に気づかれたのはのは間違いないんだよねえ。


 よくよく考えれば、町に接続している街道――というほどの物でもないけれど、警戒するのは当然のこと。

 そして、私がうっかりしているのもいつものこと。

 つまり、今は反省するよりもこれからどうするかを考えた方が建設的ということである。



 といっても、このまま何食わぬ顔でキャンプに立ち寄るか迂回するかくらいしかないけれど。

 そして、熟考の末、迂回することに決めた。


 理由はいくつかあるけれど、端的にいうと「そこに私が求めている物が無さそう」からだ。

 せめて、普通の衣服を扱っていそうな商店とか、近隣の情勢を調べるのに有効な冒険者ギルドとかがあればよかったのだけれど、見えたのは宿屋くらい。

 それも、衛生的にどうかと思う感じの物だ。

 冒険者からすれば、雨風を凌げて暖も取れると野宿よりはマシなのかもしれないけれど、人間にとって良い環境なら(G)にとっても同じ。

 冬眠していない個体がいてもおかしくない。

 そんな場所に宿泊なんてとんでもない。

 私は先に進ませてもらう。

 もちろん、メインストリートがそんな感じなので、それ以外の場所についてはお察しである。



 それに、私としては、夜闇に紛れて進んだ方が効率が良い。


 私にはあまり影響のないことだけれど、多くの人が夜になると視力が低下するらしい。

 また、夜行性の動物や魔物は強力で凶暴なことが多いので、そもそもの外出を控えるのだ。


 私だって、夜行性の虫とかには気を遣う。

 特に、私が素肌を露出していると、ライトトラップみたいに寄ってくるからね。



 とにかく、わざわざそんな危険の多い夜間に移動をするのは、特殊な事情がある人か犯罪者くらいのもの。


 つまり、万一道中で遭遇したとしても、お互いに相手のことを話さないはず。

 場合によっては、その場で口封じしてしまっても問題は無いはず。




 そうと決まれば、善は急げである。

 私は善悪には拘らないので、とにかく急げというべきか。



 さて、町があるのはキャンプから北と東だったか。

 名前のインパクトだけが頭に残っていてどっちに何があったのかは忘れたけれど、帝都に近い方ということで北を選択。

 念のため、人目を避けるためにキャンプを西回りで迂回する。


◇◇◇


 その途中で、なんとも怪しい集団を発見した。


 彼らは、それぞれ武装はしている――獣や魔物が出ることもある屋外なので、それ自体は珍しいことではないけれど、冒険者とは雰囲気が違う。

 ……装備に統一性があるからだろうか。


 その装備も夜間迷彩とでもいうような色合いである。

 魔物相手だと、視覚的な優位性より同士討ちになる危険性の方が高いように思う。

 むしろ、対人――というより、暗殺の方が向いている。

 あるいは邪教の徒か。


 特に後者は邪教徒だとバレると捕まってしまうので、顔や素性を隠したい――というのは理解できるけれど、なぜかみんな黒装束でいるため逆に目立つとアルが言っていた。

 私が見た邪教徒さんたちも、黒尽くめのローブか全裸だったように思う――今思い返しても胸糞悪い現場だったな。

 いずれにしても、帝国は治安の悪い所である。



 さて、冒険者や暗殺者ならともかく、邪教徒であれば見逃すわけにはいかない。

 私は警察でも正義の味方でもないので多少のやんちゃには目を瞑るけれど、「神の意志」などと抜かして責任の所在を余所に丸投げするのは許さない。

 下手をすると、私と結びつけられる可能性もあるし。

 帝国での聖樹教はただでさえ人心を惑わす邪教扱いなのだから。


 なので、邪教徒は見つけ次第処分する。

 もちろん、聖樹教徒のことではない。

 冤罪にならないように気をつけなければならないけれど、見分ける方法は簡単である。



「こんばんは。悪いことをするには良い夜ですね」


「!? 何だ貴様は!? どこの手の者だ!? というか、何だその異様ななりは!?」


「どうしてここがバレた!? まさか、先発隊からの連絡が途絶えたのは貴様のせいか!」


「いや、相手はひとりだ! 始末してしまえば問題無い!」


 おっと、見分ける前に襲ってきた。

 なんだか誤解もあるようで、邪教徒かどうかも分からないけれど、ろくな人たちではないのは確実なので遠慮なく処分しておこう。



 今回は手加減しなくていいので楽でいい。

 キャンプからは充分に離れているし、目撃者もいない――いなくなるからね。

 とはいえ、無駄にいろいろと飛び散らせてグロテスクなことになるのは避けたいので、物理的な手加減は必要になる。


 もちろん、領域展開は禁止されているので使えない。

 それでも、視線や声も私の領域で、それくらいは大丈夫――だと思うけれど、朔がいないので細かな制御が利かなくなっている可能性があるか?

 朔は事前どころか事後の報告も無く私の能力を制御していて――助かっていることが多いけれど、それ無しでどうなるかが分からないのは困りものだ。

 今後は面倒でもきちんと情報共有するようにしよう。


 とにかく、「見えている」とか「声が届く」範囲の世界改竄なら領域展開しなくても可能だけれど、朔のサポート無しでやるとどうなるかはよく分からない。



 例えば標的を認識して「死んだ」ことにして済めば楽だと思う。

 しかし、認識が雑だと何がどこまで死ぬか分からない――最悪は根源まで傷付けてしまうかもしれない。

 そういうのは非常によくないと思う。


 なので、標的から「魂」は除外した方がいいのだけれど、精神的に死んだだけではゾンビになるとかほかの何かに憑かれたりするし、それが魂に悪影響を与える可能性は否定できない。

 それに、肉体的な死に関しては定義からして分からない。

 脳死? 心停止? 呼吸停止?

 クラゲなどのように脳や心臓が無い生物もいるし、プラナリアとかだと分裂するらしいし。

 それに、人間でも私や妹たちのように気合があれば生きていられるのだから、部位破壊や停止などはその条件に入らないだろうし。



 などといろいろと考慮すると、人間ひとりを人間として死なせるなら、やはり物理的に破壊するのが妥当――という結論に回帰してしまう。

 目安としては「社会死」判定できるくらいか。

 多少グロいのは我慢するしかない。

 むしろ、私が安易に人を殺さないようにという枷になっていいのかもしれない。

 アンデッドや気合で生きている人には効果が薄いけれど、リカバリーが利くだけやりすぎるよりはマシなのだろう。




 それなら、以前に練習させられたラスボスの作法とかを試してみるのもいいかもしれない。

 ただし、今回は朔がいないので、その時に練習した技とか魔法は使えない。

 それでも、結局のところは「良い感じに派手だけれど、攻撃力自体はそれなり」という条件を満たせばいいだけなので、創造性でカバーすればいいだけだ。



 ということで、私から半径20メートルの範囲で地上から1.5メートルの高さに「異世界」を展開してみる。


 富士呪界でのアシヤドーマンさんが使っていた「次元斬」とやらを基に――次元を斬るというのはよく理解できなかったため、異世界を創って代用している。

 なお、領域としてではなく「異世界で」のところがポイントで、領域の展開だと翼や輪っかが出てしまうけれど、これは料理を出すのとそう変わらない――食べられない料理を出したとでもいうか。


 ただし、実戦投入――というか試験運用すらしていないので、どうなるかは知らない。

 上手くいけば手刀で首を斬る作業ともおさらばできるので、そうなることを期待したい。




 狭い範囲とはいえ、世界が断裂――というより、世界同士の重複? が起こった。


 世界の規模的には基となる世界の方が大きいけれど、階梯では私の創った方が上なので、基の世界側の境界面が崩壊する。

 境界面を中心に、いつぞやの天使に襲撃された時のように世界が割れて、それを修復しようとする世界の力が流れ込んでくるけれど、私の異世界が邪魔で修復と同時に壊れていく。


 もちろん、その崩壊は不審者さんたちも巻き込んでのこと。

 世界以上に脆弱な彼らは崩壊と再生を繰り返していく間に「人間とは何ぞや」と考えさせられるような異形になっていく。


 思っていたのとかなり違う。


 これはちょっとまずいかな――と思って異世界を消去してみると、行き場を失った「世界を修正しようとする力」が溢れてさあ大変。



「わー……」


 ある種の魔力暴走の結果、ちょっとした林とか森だったのが立派な樹海に早変わり。

 というか、富士の呪界に似ている――あるいは天然の迷宮(ダンジョン)が生まれたとでもいうべきか。



 私はただ、不審者さんたちの身包みを剥いで、《固有空間》内の物を巻き上げて――持ち物は市場に戻(換金)して、死体は大地に還して有効活用しようと思っていただけなのに……。


 まあ、不審者さんたちの魂や肉体を糧に立派な迷宮ができたと考えればギリギリセーフか?

 きっと、この迷宮からはいろんな資源が採れるようになると思うので、人間視点ではかなりお得だし?


 何より、世界樹は生えていないのでセーフだと思おう。

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