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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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11 ネコに鰹節

――ユノ視点――

 私は今、なぜか深い森の中にいる。

 既視感が酷い。

 状況もとても酷い。


 いきなり町中とか人の目のあるところに出現するわけにはいかないことは理解できる。

 それでも、町中でも人目につかないところもあるだろうし、町の外ならいくらでもあるでしょう?

 つまり、森の中である必要性は無かったはずだ。



 とはいえ、済んでしまったことを嘆いても仕方がない。

 事前に打合せていなかった私にも非はある。

 そんなことより、今は可及的速やかにここから脱出することが先決である。



 そのために喫緊の問題なのが、今は朔が私から離れて単独行動中――つまりサポートが無い状態ことである。

 端的にいうと、こういう場所では自然に掛かるようになっていたモザイクが無いのだ。


 なので、虫とかがどこにいるのか分からない。

 動物の排泄物とか死骸なら臭いでも分かる――それも結構なストレスだけれど、それが自然のサイクルなのだから仕方がない。


 しかし、虫は駄目だ。

 いや、虫にも自然のサイクルの中で重要な役割があることは理解している。

 けれども、そんな嫌悪感を抱く形にしなくてもよかったのではないだろうか?

 以前アドンとサムソンが楽しそうに話していた「ボッキディウム・チンチンナブリフェルム」とか、どんな理由があってそんな姿になった?

 道理に合わない。


 ……とにかく、目には見えなくても、良すぎる耳が何かが動いているような音を捉えている。

 怖い。

 時期的には冬眠しているはずで、ただの葉擦れとかだと思うけれど、冬場でも虫が出ることはあるので油断はできないのだ。



 もちろん、そんな場所を無警戒に動き回れない。

 今は誰かに見られている気配がないので宙に浮いているけれど、そうできなくなった時にどうするかは考えておかなければならない。



 だからといって、避けるために探すのも本末転倒。

 接触するよりはマシだけれど、見るだけでも大概ストレスなのだ。

 領域としてではなく、ただの光学的情報として処理しないといけないし、それだと魂とか精神が見えないのでどう動くかも分からない。

 つまり、いきなり大ピンチである。



 しかし、最初に召喚された時――いや、朔と出会う以前はもう少し割り切って行動できていたように思うけれど、今は当時よりも苦手になっている気がする。

 便利な能力に慣れて弱くなってしまったのだろうか。

 というか、今更だけれど、なぜ朔は単独行動をしているのだろうか。



 一応、一部に素性が割れている私が帝国内で大手を振って活動するのはまずいとか、能力的な実験などいろいろな事情があることは理解している。

 しかし、それならそれでもう少し配慮があってもいいのではないだろうか?

 具体的にいうと、私が苦手な物へのモザイク。

 あれは私に不要な情報だけをほぼ完全にシャットアウトしてくれる素晴らしいものだった。

 まれにアイリスやアルとかの顔に掛かったりもするけれど、不要な情報なのだろう。




 ……などと愚痴をこぼしても状況は改善しない。

 突発的な召喚だったので対応しきれなかったと言われればそれまでのこと。

 団藤くんとかパンツも穿いていなかったしね。

 トイレの最中――高校生にもなってパンツを脱いで?

 妙だな……。

 いや、裸族なら脱げる機会には脱ぐか?

 排泄の最中ではなかっただけマシだったのか?


 ……また話が逸れそうになっていた。

 団藤くんのことも今はどうでもいい。

 とにかく、ひとまず現状の確認を行うことにする。



 まず、現在の私は、湯の川などにいる私と朔とは切り離されて、独立した存在になっている。

 そして、妹たちについてくれているはずの朔も、湯の川にいる私と朔とは切り離されていて、ここにいる私とのみ繋がっているのだろう。


 一応、元に戻ろうと思えばいつでも戻れる感じ?

 その逆は私ひとりでは難しそうなので試してみるわけにはいかないけれど、それが分かっているから殊更慌てないで済んでいる。


 ちなみに、本来なら一定以上は離れられない私と朔がその条件から逃れているのは、真由の《お姉ちゃん召喚》スキルをアンテナ代わりに使っているからだそうだ。

 理屈とかはよく分からないけれど、魔法やスキルには有効射程が存在するので、あまり離れすぎるといけない――とは言われているけれど、「家族の絆」というのは距離で断てるものではない。

 妹たちが困っているなら、世界のどこであっても駆けつけるのがお姉ちゃんというもの。

 ……さすがに異世界とかになると無理かもしれないので、これ以上召喚とかされないようには気をつけてほしい。

 まあ、そこは朔がついているなら大丈夫か。



 とにかく、こんな状況になっているのは朔の好奇心の暴走、若しくは悪巧みのためだろう。


 もちろん、帝国の中枢にいる人たちには私の素性を知っている、若しくは何かに気づいてしまう人もいるかもしれないということで、私がみんなと同じように召喚されることを避けた対応に間違いは無い。

 ……きっとそのはずだ。

 しかし、妹たちやクラスメイトたちを放置するわけにもいかないし、その後に私が対応した少年少女たちにも不幸な目には遭ってほしくない。

 一応は祝福とか加護を与えてみたけれど、そんな技能を学んだ覚えはないので、ただの雰囲気的なもの――気休め程度だと思う(※《真なる女神の祝福》HP及びMP自動回復/効果期間180日。《真なる女神の加護》1日1回限定でステータス超強化及び致命傷の完全回復/効果期間90日)。


 なので、朔だけが潜入してみんなをバックアップするという話になった。


 微妙に話が飛躍した気もするけれど、朔が見てくれるなら安心なので、それ以外のことは些事と割り切る。




 ただし、その代償がこれである。


 真由とは家族なので、どんなに距離が離れても心は繋がっている。

 多分。

 真由のスキルがアンテナ代わりになっている限りはそれが証明されているといってもいいのだろう。


 しかし、私にとっては朔も家族――というか、私の半身とでもいうようなものだと思っているけれど、朔の能力とかサポートは私には届かない。

 朔は私のことを友達だと思っているようなので、その齟齬(そご)が理由だろうか。

 家族と友達のどちらが重要かは人によって違う――いや、重要か不要かではなく、なりたいものになろうとする姿勢が重要で――……はて、何の話だったか。



 とにかく、この状態を維持するために、私が領域展開などの大規模な能力の行使をするとか湯の川等にいる私との統合は禁止。

 そうすると朔まで統合されてしまうだろうとのこと。


 私には理論とか難しいことは分からないけれど、とにかく、この問題が片付くまでは朔に頼らず人間として過ごせということだ。

 ……後者はいつものことだけれど、前者はいきなり前途多難である。

 せめてモザイクだけでも掛けてほしい。




 いずれにしても、朔が頼れない以上、現状は自力で切り抜ける必要がある。


 もちろん、虫だけは自力ではどうにもならない――地域的、季節的にも気温が低いので、アクティブな虫はいないと思うけれど、「絶対」ではないし、落ち葉の下とかで冬眠している可能性もある。

 ゆえに、手持ちにある物で工夫するしかない。



 現在の所持品は、携帯電話と中華鍋とお玉、それとお財布。

 お財布の中には現金たっぷり。身元の分かるカードとかは無い。

 後者が必要な場面では、指でも鳴らせばすぐにパイモンさんとかセーレさんとかがやってきて対処してくれるので、私が持っている必要が無いのだ。


 さて、湯の川とかにいる私と接続するわけにもいかないので、領域内に入れている物を共有できない――つまり、これが全てである。

 いや、正確には今身につけている制服と下着、認識疎外の指輪とさっき作ってもらったばかりの道具強化の指輪もあるけれど、ここで役に立つような物ではない。


 ちなみに、道具強化の指輪とは、簡潔にいうと「道具が壊れにくくなる」という素晴らしい物である。

 もちろん、私の全力に耐えられるような物ではないので過信はできないけれど、料理くらいならできるようになるのではと期待している。




 さて、現状確認も終わったところで、特に名案は浮かばない。


 そもそも、領域を展開できないので目的地も分からない。

 現在地と湯の川の位置くらいなら分かるけれど、そっちに近づくのは止めておいた方がいいし、向こうの私も近づいてこないだろう。

 一応、ここに召喚されるまでのことは情報共有できているし。



 特に役に立ちそうな物は無かったけれど、生きていくだけなら水も食料も酸素も必要無い。

 しかし、虫が出るかもしれないので野宿は無理。

 町中なら出ないという保証は無いけれど、間違いなく森の中よりはマシだと思う。

 なので、どこでもいいので町に行きたい。



 目的地を探るためにも飛ぶか――いや、制服を破くわけにもいかないので翼は出せない。

 もちろん、翼を出さなくても飛べるけれど、翼も魔法も無しに飛んでいるところを目撃されると面倒か。

 不可視化は領域構築の応用であり、真由のスキル――延いては朔にも影響が出るおそれがあるので使わない方がいいだろう。



 だったら跳ぶか。

 一瞬なら「目の錯覚」とか「蜃気楼」で押し通せるだろう。


 ただ、何十メートルも一気に跳ぶのは服へのダメージが心配になる。

 少なくとも、ストッキングは駄目になるだろう。


 なお、召喚された時はキッチンで料理中だったので靴は無い。

 これも喫緊で対処すべき問題だろう。



 一応、魔物を倒すと装備品をドロップすることもあるそうだけれど、大抵は冒険者などの遺品である。

 血とか体液とか破片が付いていることもあるそうなので、あまり当てにはしたくない。

 というか、偶然とか幸運に頼るのではなく、未来は自らの力で切り開くものだ。



 そうすると、やはりこのお鍋とお玉で――いや、料理魔法でどうにかならないだろうか。


 素敵なステーキなら鉄板も出てくるし――熱々だから装備にするには向かないか?

 あれらは冷めないので、いっぱい付けていると物理的に暑苦しい人になってしまう。



 だったらどうする……?


 ヌメヌメとかベタベタするような物は不適切。


 乾燥している物といえば、干物、乾物、燻製など。

 フリーズドライはよく分からないので今回は除外するとして……。


◇◇◇


 苦労の末に出来上がったのが、乾燥昆布や海苔をベースにした最低限の衣服と、鰹節を成形した物を組み合わせた和風の――割烹(かっぽう)ならぬ甲冑(かっちゅう)である。

 ……「かっ」しか合っていないのは愛嬌だ。いや、5割もあっていれば上出来か。


 念のため、顔を隠すための面頬も付属していて、兜の前立てにはエビフライ(タルタルソース付き)が用いられている。

 ……エビフライって洋食だったな。

 まあ、養殖物ではないので良しとするか。


 なお、鰹節が世界で一番固い食品というのは有名な話。

 そして、「エビフライの尻尾まで食べるか食べないか」という議論もあるけれど、昆虫嫌いの私からキチン質など出るはずもなく、サクサクとした歯応えの素敵な何かなので基本的には美味しく食べられる。


 もちろん、残したとしても責めるつもりはない。

 好き嫌いなく何でも食べられるのは素敵なことだけれど、好き嫌いも個性のひとつとして尊重するべきで、アレルギーとかがあると命にもかかわる。

 それに、残した尻尾を地面に埋めておけばいい肥料になること間違いなし。

 エビデンスは湯の川。エビだけに!



 とにかく、防御力的にも食品ロス問題的にも優秀な一品である。

 あえて名付けるとするなら、「カツオ武士」か「エビ無頼」だろうか。なんちゃって。



 なお、素材はどれも湿気に弱い性質の物だけれど、私が創った物なのでその点は心配要らない。

 予備の衣服を手に入れるまでの繋ぎとしては充分――あまり人前に出なければ大丈夫だろう。




 とにかく、真っ当な衣服を手に入れるために、一刻も早くこの場を離れるためにも帝都以外で最寄りの町を探さなくてはならない。

 ということで、ひとまず控えめに大ジャンプ。


 上空五十メートルくらいからでは町は発見できず。

 しかし、東方に十キロメートルほどの地点に街道らしきものが見え、その少し先で魔物――トラっぽい動物にも見えるけれど、群れているからやっぱり魔物か? と戦っている人たちがいる。


 状況はよく分からないけれど、死傷者も多くて戦局的に有利とはいえない感じ。



 これは恩を売って町の場所を訊き出すチャンスか?


 それなら急ぐべきだけれど、問題は現場までどうやって行くかだ。



 いくら緊急事態でも森の中を走っていくのは嫌だ。

 瞬間移動もいいけれど、目撃されないタイミングを待っていると手遅れになる可能性もある。

 だったら、目撃されないギリギリまで瞬間移動して、残りの距離をほかの手段で埋めるか。



 その前に、本当に道具が壊れにくいかのチェックとして、お玉で中華鍋をカンカンと叩いてみる。


 ――うん、いい音はするけれど壊れないし、そんな気配もない。

 どういう理屈なのかは分からないけれど、これならいけるか。




 中華鍋に乗り込んでから、戦場に近い街道脇の茂みに瞬間移動する。

 ――世界が割れるような音がして、カツオ武士を含め、お鍋とお玉がヤバい音を立てて消失した。

 いわゆる全裸である。

 ただの物質では、瞬間移動――存在が重複する負荷に耐えられなかったのか?


 とにかく、直接彼らの目の前に出なくてよかった。

 見られて恥ずかしい身体はしていないけれど、TPOって大事だしね。


 それに、今のうちに気づけてよかったということにしておこう。

 それと、創ったばかりのカツオ武士や単純な構造のお鍋やお玉くらいなら私でも再構築できるのも不幸中の幸いである。



 気を取り直して、ササッと着替える。

 そこからお玉で地面を漕いで進む――いわゆる「一寸法師スタイル」で戦場を目指す。


◇◇◇


「そんなっ!? 隊長! しっかりしてください!」 


「あんたが隊員庇ってどうすんだよ!? いくら回復役ヒーラーが重要だからって、あんたが倒れたら駄目だろ!」


「カノン、早く隊長を回復しろ! 間に合わなくなっても知らんぞー!」


「やってるわよ! っていうか、さっきのすごい音は何だったの!? 新手の魔物!?」


「分からん! 目先のことで手一杯だ!」


 現場はフィナーレに向けてのクライマックス。


 物理的なエースなのか精神的支柱なのかは分からないけれど、隊長さんが回復役さんを庇って負傷して、意識不明の状態のようだ。

 残った隊員さんたちがどうにか立て直そうと奮闘しているけれど、明らかに浮足立っている。

 このままだと遠からず押し潰されるだろう。



「くそっ、バフが切れそうだ! 掛け直してくれ!」


「すみません、MP切れです! ポーションも切れたので回復もできません!」


「こっちも矢が尽きた! ナイフも折れた! 心も折れそうだ!」


「くっ! こんな時にあいつらがいてくれれば――いや、姫様とあいつらが生き残っていれば、俺たちの犠牲は無駄にはならん!」


 さらに、命綱である回復手段まで絶たれたとなるとチェックメイトである。


 それはそうと、これが「ここは俺たちに任せて先に行け」展開だろうか?

 初めて見た。

 ……いや、どこかに既視感というか見たことがあるものが交じっている気がするけれど。


 それはともかく、ここでこれ以上の犠牲は出ない。

 私が来たからね。



「姫様の作る新しい世を見てみたかったが、ここまでか。無念だ――うおおっ!? 何だあれは新手の魔物か!?」


「なんかヤベーのが出たぞ!? 木の邪妖精――いや、悪魔か!」


「隊長、マジで起きて!」


 だというのに、現場の悲壮感が一気に跳ね上がった。

 どうやら、私が魔物と間違われているようだ。


 そんなに怪しかっただろうか……?

 これくらいならアルスの冒険者にもいたと思うのだけれど。


 まあ、トラっぽい魔物もビビッているので、追い払ってからフォローすればいいか。

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