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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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10 ファーストインプレッション

 その後、メーディア宅でそれぞれの自己紹介に続いて状況の説明、今後の方針について話し合いが行われた。

 なお、別邸に隔離された者たちについてはゆっくり時間をかけて、完治しない程度に治療する予定で、話し合いが行われるかは未定である。



 どちらにしても、被召喚者たちの立場は、当面の間はメーディアの預かりとなる。

 しかし、召喚の事実を完璧に隠蔽(いんぺい)できていない以上、いずれはどこかから横槍が入るのは避けられない。


 そこで、それを少しでも遅らせるため、追及される前にあえて国政関係者及び皇位継承権者――秘密を守れる範囲にのみ公表する。

 事実として勇者を預かっているが、疚しいところは無いと示すためである。

 彼らなら無暗に機密を拡散することは無いだろうし、場合によっては防波堤になってくれるかもしれない。

 さらに、「勇者としては不安定なため、能力の向上及び安定を図るため訓練期間を設ける」として、手元に置き続ける理由を作るとともに、無理矢理戦場に送られないよう配慮することにした。


 当然、言葉だけで信用されることなどあるはずもなく、「勇者を独占して何を企んでいるのか」等の反発があるくらいは予想されるが、それは特大のブーメランにもなる。

 訓練以上のことは何もしていない、疑うなら見に来い――と言ってやればいいだけのこと。

 そして、見に来た者たちに対して「これ以上の待遇や環境を用意できるのか」と問うてやればいい。

 彼女が日本人たちを手元に置くのは保身のためであり、彼らを使って何かをしようという気は一切無いからこそ、ほかの者たちにはできないことも可能になるのだ。



 そして何より、勇者を運用するには非常に金がかかる。

 通常、勇者はパーティー単位で行動することが多いが、その活動資金は当然として、勇者の負担を減らすための露払いや行く先々で受ける補給と立ち去った後の後始末などなど、付随する業務は非常に多い。

 当然、費用もかなりのものになり、本来であれば国家予算で対応すべき案件である。


 ただし、それは公式に召喚した勇者であればの話で、非公式の勇者たちの存在が明らかになると他国の反発を受けるのは必至。

 召喚方法まで明らかになれば、世界中を敵に回すおそれもある。


 したがって、特に定めがあるわけではないが、今回のようなケースでは後見人が負担するのが当然の流れである。

 しかし、複数人の勇者を運用できる者はそうはおらず、まだ訓練が必要な状態ともなるとなおさらである。

 その上で強引に引き抜いて、犠牲でも出したとなると、責任を問われる――良くても失脚は免れない。


 つまり、ここで必要なのは「権力」よりも「財力」であり、それがなければ指を咥えて見ているかちょっとした嫌がらせくらいしかできない。

 金を持っていてよかったと心底思うメーディアだった。



 さておき、メーディアは死に戻り能力のおかげで、未来で起こるはずのイベントをいろいろと知っている。

 彼女の行動次第で展開が変わってくることもあるが、あるはずのものが理由もなく無くなったりはしない。



 メーディアの行っている様々な活動にはかなりの資金が必要であり、本来皇室から出ている分だけでは到底賄えない額である。

 もっとも、公費に頼り切ってしまうと、「貴族の道楽」だとして民衆からの反感や不満の素となることもあるため、独自のクリーンな資金集めはいつの周回でも重要な課題だった。


 そこで活きるのが、周回ループで得た知識だ。

 周回で得た人々の意見、特定の状況における需要や「あったらいいな」などは、基本的に腐ることのない金の卵である。

 それを周回を重ねるごとに蓄積していき、十全に活かせるよう試行錯誤する。


 そうして、今では名だたる商人たちからも一目置かれる存在となっていて、「皇女」という立場でなければ暗殺されていた可能性もある。

 というよりも、それも彼女が暗殺されないギリギリのラインを狙ってのことで、時には公共事業や慈善活動などを通じて彼らにも利益を出させたり、民衆にも頻繁に還元することで味方につけるように立ち回っていたのだ。



 そういった背景から、メーディアにはほかの皇位継承者よりも遥かに金銭的な余裕があった。

 慈善活動などに利益の多くを費やしていても、「ここぞ」というときに使える分は確保してのこと。

 さすがに勇者が2桁にもなるとかなりきつい――というか、長期的には破綻してしまうが、また睡眠時間を犠牲にしてまだ実行に移していない資金調達計画を進めるしかない。



 とにかく、勇者が金の卵を産むニワトリであったなら壮絶な争奪戦が起きただろうが、現状ではただの金食い虫でしかない。

 将来性に投資するのも悪くはないが、先立つ物がなければスタートラインにも立てない。

 無理をしてスタートラインに立ったとしても、後が続かなければ無理をした分だけ損になる。


 したがって、「現時点で入れられる横槍にはさほど注意する必要はなく、勇者が戦力として計算できるようになってからが本番」とメーディアは考えていた。


 そして、ずっとは無理だが、引き延ばしは可能。

 少し頭の回る者たちなら、メーディアの資金枯渇を待って漁夫の利を狙うだろうし、その方面での妨害が予想される中でどれだけ資金を安定させられるかが勝負となる。



 それでも、どちらかというと、勇者たちを納得させる方が難しい。


 特に血気盛んな年頃の男子たちは、身のほどをわきまえずに闘争を求めるものだ。

 異世界での生活や戦闘に慣れて、自身の能力が分かってくれば――それこそ猫羽姉妹のように落ち着きも出てくるだろうが、現状の浮つき具合では実戦は危険すぎる。


 チュートリアルで痛い目に遭っていて、それ以前の勇者たちよりはマシだったとしても、異世界で生きることに慣れたメーディアからすると、まだまだヒヨッコである。

 というか、なぜ日本人のはずの姉妹があれほど戦い慣れしているのか、こんなにも落ち着いていられるのかが疑問すぎる。

 一体どんな生活を送ればこんな日本人が出来上がるのか。

 前世では引き篭もりでコミュ障気味だった彼女には想像もできない。




 メーディアとして転生してからは、引き篭もっていたりコミュ障のままだと殺されてしまうので、どうにかそれらから脱却して人並み以上に人付き合いや腹芸は上手くなった。

 それでも、複数の日本人――特に猫羽姉妹のような戦闘民族との交流は未経験。

 ピュンと消えたかと思うと相手の前に移動していて、無力化というか去勢まで行っている――言葉が届くより先にヤラれている可能性があるとなると、慎重に慎重を重ねて立ち回るしかない。


 しかし、これまでの周回で得た知識を活かすにも、この展開はメーディアの記憶には無いものであり、選択の正誤は全く分からない。

 だからといって、頭を空っぽにして思考放棄するわけにもいかないので、彼女は手掛かりを求めて被召喚者たちを観察する。



 年少組の6人については、直前に女神様と出会った経験が強烈だったのか、驚くほど素直で謙虚、それでいて落ち着いている。

 本人たちが言うには、その女神様から特別な加護を貰っていて、「ずっと見守っているから良い子にしていてね」とのお願いに応えるために心を入替えたとのこと。

 そこまでなら「良い話だなー」で終わるのだが、「悪い人がいたらぶっ殺すので、いつでも言ってください!」などと言うのは良い子なのかどうか分からない。

 ついでに、幼気(いたいけ)な子供たちを聖戦士に仕立て上げる女神様の意図も分からない。

 少なくとも、子供たちに――肉体的にはメーディアの方が年少だが、人生経験が違うので子ども扱いしてしまうのはさておき、そんな機会を与えないように頑張るしかない。



 この場にいる日本人の中で最年長の伊達は、「ボス」に執着しているが、そのボスに怒られることを怖がっているのか問題行動を起こす気配は無い。

 というよりも、ボスがいないのでやる気も無い様子だった。

 主人意外には従わない、とてもよく躾けられたイヌのような雰囲気がある。

 一方で、主人の命令があれば命を懸けてでもやり遂げようとするような狂気も垣間見え、予断を許さない。



 最初に召喚されたグループでは、猫羽姉妹以外にも姫路が怪しい――《鑑定》でも会話にも不審な点は無く、人当たりはよく気配りも上手だが、猫羽姉妹とはまた違った何かがあるような気がする。

 例えるなら、感情が豊かなAIを相手にしているようなイメージだろうか。

 その豊かな感情すらも作りものだとすると、どこに本心があるのか分からない。

 メーディアの思い過ごしという可能性も捨てきれないが、()というのは案外莫迦にできず、肝心な時には役に立たないものだ。

 いずれにしても、用心に越したことはない。


 ほかにも、綾小路と内藤が何かを隠しているのは一目瞭然。

 お巡りさんが見たら絶対に声をかけるくらいに挙動不審である。

 一緒にいる一条には不審な点は見当たらないが、恐らく同じだと考えるべきだろう。


 みんな綾小路たちくらいに分かりやすければ助かるのだが、それは姫路たちが優秀という証明でもある。

 上手く味方につけることができれば心強いのだが、そのためにも彼らの為人ひととなりや求めているものを知らなければならない。

 もうタダで手に入るものに命を預けられるほど能天気には生きられない。

 メーディアが求めているのは、「ギブアンドテイク」若しくは「WIN-WIN」の関係なのだ。



 そうして、気取られないように注意深く観察していると、見えてくるものもある。


 むしろ、見えなくてもいいモノも見える――団藤の股間から時折チラ見えするモノのせいで、集中力が殺がれてしまう。


 メーディアは、人生経験は豊富とはいえ、男性経験は皆無である。

 皇女という立場で、最初の周回はそれを差引いても嫁の貰い手も無いくらいのクズで、以降の周回では結婚や恋愛にかまけている暇がなかったのだ。


 彼女の事情はさておき、団藤のダンドーが丸出しなら速やかにズボンを用意するのだが、本人的には隠しているつもりで、しかも誰もツッコまないとなると彼女も触れにくい。

 というか、必要なら自己申告するのが筋である。


 とにかく、チラリチラリと見えるとどうしても意識が奪われてしまう。

 結婚や恋愛から距離を置いていても、興味が無いわけではないのだから。

 可能性は低いが、これが策だとすると相当なやり手である。


 とにかく、彼女としては彼を味方にはしたくないところだが、彼らの関係性が分からないうちは切り捨てるわけにもいかない。



 いずれにしても、勇者及び勇者になれなかった日本人もメーディアの死因にかかわってくるので、「保護」や「良好な関係の構築」という判断に間違いは無い。

 隔離している犯罪者たちくらいになると話は変わってくるが、団藤の問題は服があれば解決するはずのもの。

 それに、戦闘中などではいろいろなモノがポロリすることはそれなりにある。

 彼の粗末なモノ程度なら可愛いもので、フォーマルな場でもなければ殊更騒ぐことでもない。

 そう言い訳して、彼のことはひとまず保留。


 稲葉と伊藤は――姫路と団藤もそうだが、一番の関心事は行方不明のクラスメイトだ。

 全力で捜して、見つけ次第保護すると約束したことでひとまずは大人しくなったが、現実的には「非常に難しい」と言わざるを得ない。

 召喚魔法には解明されていないことの方が多いが、特に事故が起きた際には何が起こるか分からないのだ。



 現在では勇者召喚に失敗することは少なくなったが、過去には災害規模の事故も起こしているし、不発などは数えきれないくらいにあった。

 そして、時折現れる野良日本人(ゆうしゃ)は、「勇者召喚に失敗したことが原因で、召喚場所と時間がズレて召喚されたのではないか」という説もある。


 もっとも、それは主神たちでも証明のしようがないことである。

 特定個人の召喚を実行でもしない限り、誰かも分からない日本人が突然異世界に現れた原因など調べようがない。

 ただ、猫羽姉妹の召喚を前に分からないままでは問題があるし、『それが本当だったら、空中とか深海とかに召喚されて、人知れず死んでる日本人もいそうだね』という朔の発言を受け、本腰を入れて調査を始めたところである。

 その結果が出る前に邪法によって召喚され、無事だったのは「幸運だった」としかいいようがない。



 さておき、行方不明の日本人については、妹であるはずの猫羽姉妹が一切心配していないことも、メーディアにとっては気になるところだ。

 姉妹と同等の能力を持っている――噓か真か召喚魔法から自力で逃れるような比較にならない能力を持っているのなら、それも納得できるところである。


 しかし、そんな危険な発想に至る人物が野放しになっていることには恐怖しかない。

 姉妹の「お姉ちゃんなら大丈夫」には、違う意味で信頼性が無い。

 もしも彼女が姉妹以上のイカれ具合だとすると、発見したとしても説得できるかは怪しい。



 とにかく、この日本人たちとの良好な関係構築は、メーディアの最優先事項になった。

 やらなければならないことは多く、人手がまるで足りないが、また睡眠時間を犠牲にしてでもどうにかするだけ。

 初動以降はノープランで、後のことは日本人たちとの関係次第になってくるが、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応していくしかない。


 また、別邸で治療(かんきん)中の5人の不穏分子のことも忘れてはいけない。

 横槍が入った時の駒にしようか――とも考えたが、万一彼らが強大な能力に覚醒して「ざまあ」されたらと考えるとそうもいかない。



 それらの解決策を見つけるため、メーディアはグループを統率しているであろう人物の攻略にかかる決意をする。

 候補としては、猫羽姉妹か姫路、次点で稲葉だろうか。


 というか、どう考えても最有力候補は、危険人物のひとりである伊達が「ボスの妹」と一目置いている猫羽姉妹だが、違う意味でも有力すぎて腰が引けてしまう。

 姉妹にはなぜか必要以上に構われ――というか可愛がられているのでチャンスはあるはずだが、攻略となると時には不都合な事実を明かす誠実さも必要で、機嫌を損ねると――と考えるとやはり怖い。

 コミュ障からは脱却していても、Z戦士との対話はそういう次元の話ではない。

 彼女たちと語らえるような肉体言語は習得していないのだ。


 それでも、状況を考えると時間も無駄にはできないので、まずはとびっきりのお茶とお菓子をたっぷりと用意をすることにした。

 Z戦士といえば大食い――と連想したからかどうかは定かではない。

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