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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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07 皇女(1)

 メーディアは、ヘタレには見えない堂々とした態度で、被召喚者たちを自宅に招くことに成功した。


 関係者たちを、拘束しているとはいえその場に残していくことには不安が残る――せめて牢にでもぶち込んで時間稼ぎにしたいところだったが、優先順位を考えると仕方がない。

 メイコが連れてきた応援には、詳細は明かせないまま事細かに指示を出したが、どこまで効果があるかは分からない。

 ただ、必要なことをしなくても余計なことをされても問題になる可能性があるので、しないわけにはいかなかったのだ。


 なお、その途中、猫羽姉妹に護衛を易々と突破されて、「え、あいつら治療するんですか? 絶対ろくなことになりませんよ? できれば玉無しのまま――むしろ、処分した方がいいと思いますけど」「そうですよ。あ、私たちへの建前とか手を汚したくないっていうなら私がやりますけど。あ、大丈夫です。ロリコンとゴキブリは滅ぼすべしっていうのが家訓なので」と持ちかけられて、恐怖で涙が出そうになったがどうにか堪えた。



 当然、話題の五人はほかの被召喚者たちとは別邸に隔離・監禁する運びとなった。


 手間も金もかかるが、彼らとこの姉妹を一緒にはしておけない。

 姉妹はメーディアに対して好意的で――というより、実の妹かのように世話を焼きたがっているし、彼らに対しては彼女自身を含む全員が嫌悪感を抱いていたが、だからといって「やっちゃえ、皆さん」とは言えない。


 あのような問題児であっても、一応は勇者である。

 むしろ、勇者率は彼らの方が高い。

 というか、かの五人以外の勇者クラスは団藤というオラついた少年だけ。

 勇者がゲシュタルト崩壊を起こしていた。


 また、独断ではあるが、現在の彼らはメーディアの管理下にある。

 当然、問題や事故が起きれば責任を取らされてしまうし、処分においては独断ではできない。

 少なくとも、現時点では。


 今回の件で、しばらくでも大人しくしていてくれれば助かるのだが、あの手の輩に改心することなど期待できない。

 ユウジたちが言うには、「先生に会えば人生変わりますよ」「変わらないと死にます」とのことだが、彼らはその「先生」のことになると少しばかり狂信者っぽくなるので、真に受けるわけにはいかない。

 そして、今回召喚された者たちが「ユノさんに会えば人生変わりますよ」とか「女神様に会ったら人生変わった」などと張り合い出して胃が痛い。

 そして、「君たちの先生も“ユノ”って名前なの?」「先生じゃなくてクラスメイトだけど」「クラスメイトっていうか、完璧で究極のアイドル?」「私たちの先生も歌って踊れる完璧で究極の神アイドルだったけど」「同一人物――はさすがにないか」「「「偶然って怖いね」」」と意気投合してしまって頭も痛い。



 とにかく、かの問題児たちは、あれだけ酷い目に遭っていても喉元過ぎれば熱さを忘れるか、逆恨みしてすぐにでも莫迦なことをしでかすだろう。

 メーディアはそういった愚かな人間を何人も見てきた。

 目の前には見たことがないタイプの怖い人間がいっぱいいて自信が揺らいでいる――むしろ、彼らの愚かさに安心感を覚えてしまうが、問題行動を許すわけにはいかない。

 一応は親衛隊クラスの腕利きを彼らの監視役に就けるつもりだが、「殺してはいけない」という条件下では、クズ勇者たちのユニーククズスキル次第で突破される可能性が無いとはいえない。

 したがって、重大なことをやらかす前に何か手を考えなくてはいけなかった。


◇◇◇


 メーディアは、日本人や日本のことをよく知っている。

 これまでの周回での経験や彼女の護衛に元日本人が多いことも理由のひとつだが、彼女自身も元日本人――転生者だったからだ。



 前世ではコミュ障気味のオタクだった彼女が転生したのが、元の世界にあったゲームにそっくりな世界である。

 なぜ転生することになったかは覚えていないが、恐らくは不摂生な生活が原因なのだろうと納得することはできた。

 それで済ませられるくらいに、元の世界に未練はなかった。



 しかし、そこまでならゲームやアニメなどでもよくある展開だが、転生先が破滅フラグが立ちまくっている悪の帝国でしかも皇女である。

 恋愛シミュレーションゲームの悪役であったなら、シナリオを覆してイケメン王子様をゲットできたかもしれないが、あいにくそこは筋書きなど無い剣と魔法の世界。

 そんなただでさえ弱肉強食の世界で、そうでなくても「強さこそが正義」を地で行く帝国皇女の好感度はマイナススタート。

 メーディアに向いている矢印はほぼ殺意のみの、身内も――それこそが敵な状態では、皇族であることは恩恵ではなく厄難である。




 それに気づいたのは、約3年前。

 メーディアが12歳の誕生日を迎えた日のことだ。



 帝国皇女として傲慢に、そして放蕩の限りを尽くして生きていたメーディアは、二十歳を目前に何者かの襲撃を受けて命を落とした。

 その瞬間に流れ込んできた前世の記憶。


 そんなタイミングで思い出しても意味が無い――と思って、思いつく限りの言葉で神を罵倒したが、普通に目が覚めた。

 しかし、起き上がってみると、自身の身体が若返っていることに気づく。


 それが「死に戻り」の能力だと気づいたのは、「あれは酷い悪夢だったね」とスルーして、流されるままに生きていたら再び暗殺されて、またもや12歳の誕生日時点に戻った時だった。




 当然、メーディアはすぐに「死に戻り」について調査を開始した。

 ゲームでは当然のように存在する「死に戻り」だが、現実では特級の異常事態(バグ)である。

 そして、ゲームには、RPGやシミュレーション、アクションなどといった種類がある。

 さらに、個々の作品によっても「死に戻り」の詳細は異なる。

 上手く使いこなせばRTA(Real Time Attack)にも使えたりするが、デメリットが設定されている場合がほとんどで、何も知らないままに頼っていい能力ではない。



 しかし、どれだけ調べても詳細は不明。

 文献等では創作や噂以上のものは発見できず、《鑑定》スキルでは調べられないどころか表示すらされない。

 もっとも、後者は他者に知られる可能性が低いということで、悪いことばかりではないが。

 あるいは《鑑定》レベルが限界突破すれば分かるようになるのかもしれないが、彼女の立場でそこまでスキルを上げるのは難しい――というより、不可能に近い。


 実戦を重ねてレベルを上げて――というのは、皇位継承権が低いとはいえ皇女がすることではない。

 それが許されるだけの才能があれば違うのかもしれないが、12歳時点での能力は「やや優秀」程度。

 地盤を整えるとか後ろ盾も無く冒険者のまねごとを始めれば、あっという間に暗殺されることくらいは経験しなくても分かる。


 また、能力を知られた場合にどういう扱いを受けるかを考えると、信用できない者には些細な情報も漏らせない。

 特に帝国では、禁忌に触れるような冒涜的な研究が行われているので、能力が露見してしまうと死ぬよりつらい目に遭うかもしれない。

 そう考えると、眠る際には寝言にも対策をするレベルで人間不信に陥ってしまう。

 表に出して怪しまれると意味が無いので、無理をして社交的に振舞っているが、周回ごとにコミュ障は悪化している。


 したがって、自身を実験台にして自力で調べていくしかないのだが、試験的に死んでみることはできない。

 ステータスにスキルとして表示されていない以上、いつ能力が消失してもおかしくないのだ。

 本当に死んで終わりならそれでも――と思わなくもないが、「ここまで頑張ったのだから、今回こそは報われたい」という想いが勝る。

 当然、死の恐怖や苦痛を忌避する気持ちはあるが、まだ心は折れていないというか、どこからともなく聞こえてくる「SEKIR〇から逃げるな」との声にゲーマー魂が反応してしまう。

 難しすぎて、癇癪を起して「もう止めた! 二度とやらねえ!」とぶん投げたコントローラーを、数分後には持ち直してプレイを再開する心境である。


 もしこのクソゲーにハッピーエンドがあるなら、これだけ苦労しているのだから、さぞ感動的なエンディングが用意されているのだろう。

 諦めてしまうのはもったいない。


 特に今回の周回は、ちまたで話題になっている「湯の川」なる神の国が絡んでいるのかもしれない。

 だったら、頑張ってみる価値はある。

 少なくとも、湯の川の発生条件や接触するための条件くらいは掴んでおきたい。

 もしかすると、これまで一切自殺をしてこなかったことが条件(ごほうび)かもしれない――と考えると、一層自殺はできなくなる。

 そうして、試すのは本当に行き詰った時だけと心に決めた。



 とはいえ、それは今回の周回に入ってからの話である。

 それ以前は、結局は過去と同じ轍を踏まないように気をつけるくらいしかできず、大きな賭けに出ることもできなかった。

 そうしてメーディアは、何度も何度も――数えきれないくらいに死んだ。


 ある時は他国や大魔王が攻めてきて。

 時には兄弟姉妹に人身御供として担ぎ上げられ。

 またある時は疫病や事故の巻き添えを食って。

 更には民衆や勇者の反乱で。


 単純な不運も多いが、「ゴクドー帝国皇女」の肩書が持つデバフがすさまじく、それを知って手を差し伸べてくれる人はほぼいない。

 それどころか、何か不都合があればここぞとばかりに責任を取らされ、何も無くても因縁をつけられてやはり責任を取らされる。

 支援者や応援してくれる人は周回ごとに徐々に増えてはいるが、まだまだ状況を覆せるほどではなかった。




 そうして分かったことといえば、「死に戻り」は何らかの理由で彼女が死亡した際、彼女がその記憶を持ったまま過去に戻れることだけだ。

 どれだけ過去に戻れるかは自身では決められない。

 12歳の誕生日に戻されることが多いが、その周回の死の直前、あるいは重要な選択肢が出現している場面もあった。

 条件付きの「タイムリープ」といってもいい。


 しかし、能力を活かして解決をしようにも、人物は当然として状況にも様々な事情があり、それらが複雑に絡み合っているので、単純にひとつずつ対処していけばいいというものではない。

 ひとつに解決の目処が立っても、ほかの問題が発生することもある。

 それどころか、何をどうやってもバッドエンドになることすらある。

 そもそも、問題はひとつではなく、常に同時に進行しているのだから、目の前のことに場当たり的に対処するのでは遅いのだ。


 ゲームやアニメ等でそれを見ている者にとっては娯楽かもしれないが、我が身に起こると地獄でしかない。


 元より帝国の抱えている問題は大きすぎて、ひとりで全てに対応することなど不可能なのだ。

 それでも、この能力を他者に知られると「より酷い未来」が待っている可能性が高いので、本当に信用できる者以外には話せない。

 そのため、おいそれと協力者も増やせない。



 そうして何度も何度も死に戻りをしながら、どうにかしてハッピーエンドに繋がるルートを探っていたのが現状である。


 そうして、今回試しているのは帝国脱出ルートである。


 ひとりで帝国を救うのは荷が重すぎる。

 無責任と罵られたとしても、トゥルーエンドではないとしても、そろそろ救いが欲しい。

 どのみち、現状には行き詰まりを感じているので、打開するためにもちょっとくらい寄り道してもいいじゃないか――と、逆ギレ気味に。


 とにかく、身分も何も捨てて、帝国を離れてしまえば問題の大半は関係なくなる。

 死んだことにして身を隠すことができれば上出来。

 どこかで聞いたことのあるような計画だが、考えることは皆同じようなものなのだ。


 脱出先の最有力候補としては、ロメリア王国か。

 上手くいけば湯の川に繋がっているかもしれない。


 ただし、そういった気配を少しでも察知されると即座に国家反逆罪等に問われるため難度は高い。

 それでも、メーディアは座して死ぬより戦って逃げることを選んだ。

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