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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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05 衝突

 混乱していたのは特殊召喚の関係者だけではなかった。


 彼らに召喚された異世界人たちもまた、自分たち以外に召喚された者がいることを知らなかったため、社会経験不足による過度な緊張から、あるいは目論見が外れて動き出す切っ掛けを失っていた。



 特に三人組の男性たちには非常にやましいところがある。


 彼らは遊ぶ金欲しさに空き巣や強盗を繰り返し、当然のように証拠を残しまくって警察にマークされ、懲りずに罪を重ねようとしていたところを警戒強化中の警官に見つかって追われて単独事故を起こした――というのが召喚される寸前の出来事である。


 そんな経緯で、彼らは強盗スタイルで召喚された。

 ファンタジー異世界においても言い逃れできないレベルの怪しさである。


 それでも、彼らは「女神(※ユノではない)にはスルーされたし、異世界人なら言い包められるだろう」と楽観的に考えていた。

 当然、根拠など何も無い。

 そういったことを考えられる頭があるなら、最初から空き巣や強盗などしないのだ。


 しかし、現実として同郷らしい少年少女たちに腫物扱いされている状況はなかなかに厳しい。

 さすがにこの状況で物陰に連れ込んで脅すようなことはできない――と考えられるだけの、動物並の知能はある。

 彼らの発言次第で、この世界での自分たちの扱いが変わるかもしれないと考えると気が気ではない。


 それでも、お互いにチート持ちでも暴力なら自分たちの方に分があるし、逃げるだけならどうにかなる――と根拠の無い自信を持っているので平静を保っている。

 そして、虎視眈々とその機会を窺っていた。


 なお、彼らにとっての「平静」とはオラついている状態のことで、一般的な感覚とは異なっていることには注意したい。



 六人組の少年少女は、稲葉たちと同様の――魔術や裏社会などに繋がりのない普通の中学生たちだ。

 異世界についての適性の有無は微妙なところだが、揃って日本で事故に巻き込まれた記憶があり、助からないだろうと理解していることもあってか、現時点での反応は悪いものではない。

 幾人かはAWOのような世界にチートを与えられて召喚されたという事実に、困惑しながらも興奮している。

 残りの者も、明らかに彼らより年上の稲葉たちが「ユノがいない」と狼狽しているところを見て、少しばかり冷静になれていた。

 それでも、経験の乏しい彼らには、知らないおじさんや危ない男たち、見た目だけなら文句なく勇者や聖女の高校生に話しかけるとか張り合って声を上げることは難しかった。



 残る二人組――同じタイミングで召喚されただけで面識のない者たちも、自分たち以外の異世界人たちに困惑していた。

 このふたりに共通しているのは、高齢無職(※職歴無し)であったこと、SNS等で過激な発信をして開示請求からの訴訟を受けていたことなど、社会的な意味で危機にあった点だ。


 三人組の男性たちもそうだが、そんな者たちにまで救済が必要なのかは議論の余地がある。

 というより、彼らは異世界に適性があるというよりも現代社会に居場所がない、あるいは相応しくないだけで、環境だけが変わっても同じことを繰り返す可能性がある。


 それでも、第二波の六人組を担当したユノから再びバトンを託された担当の神々は、更生の可能性に賭けて彼らを送り出した。


 博打でいえば「大穴狙い」であることは彼らにも分かっていた。

 よほどのことがなければ外れるのが順当で、彼らとしても悩むところだったが、卒業間近の中学生に対するユノのママ具合に心を打たれていたのでそうなった。


 しかし、自分たちの境遇を社会や親などのせいにして引き籠っていたのが彼らである。

 環境が一新されて、「若返ればやり直せる」と考えて、スキルポイントの多くをそれに注ぎ込んで幾許かの若返りを果たしたが、自分たちより若くてスキルポイントを有効活用できている者たちを前にして腐らずにいられるかは不明である。

 というより、早くも腐り始めていたのだが、言動に出さないのは年の功などではなく、犯罪者然とした三人組とユノがいなくてオラつく団藤が怖かったことと、何より久々に見た母親以外の生身の女性に目を奪われていたからである。


◇◇◇


 そんな状況を動かしたのは、騒ぎを知って駆けつけてきたゴクドー帝国第八皇女【メーディア・B・ゴクドー】だ。


 もっとも、異世界人たちには、供や護衛も連れず息を切らせて駆け付けた、この場にいる誰よりも年若い少女がそんな高貴な身分だと分かるはずがない。

 そんなときに活用する《鑑定》も、皇族や高い身分の者には当然のように妨害が施されているため、付け焼刃が役に立つことはない。



 メーディアがこうまで慌てて駆け付けたのは、特殊召喚の関係者がいつかやらかすと知っていて、その対応が非常に重要だと考えていたからだ。



 一方で、特殊召喚の関係者たちもメーディアにマークされていたことは知っていたが、こうまで早く発覚するのは想定外――彼女の優秀すぎる頭脳と異常な勘の良さは知っていたが、意図的に考えないようにしていたことだ。


 監視の目があるのは承知の上。

 特殊召喚を行える場所には限りがあり、知られている以上は全てを秘密裏に行うことはできないのだから、どこかで冒険する必要があるのは仕方がない。


 それでも、皇女の敵対派閥を通じてではあるが逆に監視もしていたし、情報戦を仕掛けたり――時には暗殺や襲撃も行った。


 しかし、彼女の勘と運の良さ、そして精強な護衛たちの活躍で、いずれも失敗、あるいは不発に終わっている。


 彼らにとって、真の首謀者たる自分たちが処罰されていないのは不幸中の幸いだったが、彼女にどのような意図があるのかが読めないため楽観はできない。


 そうして、彼女の不在を狙い、「突発的」といっても差し支えない特殊召喚の実行で、異世界人を召喚したまではよかった。

 ただ、隠蔽いんぺいを行う時間までは与えられなかったことと、そもそものキャパシティを超えただけである。




「……貴方たちへの処分は後です」


 メーディアは、狼狽している、あるいは敵意を隠しきれていない関係者に沙汰の保留を告げると、異世界人たちと向き合う。



 メーディアには特殊な能力があり、そのおかげで「いつかは特殊勇者召喚を強行する」ことは想定できていたが、この数はさすがに想定外だった。

 現時点ではこれが良いことなのか悪いことなのかは彼女にも判断できないが、慎重な対応が求められるという点では変わりがない。



「私はゴクドー帝国第八皇女、メーディア・B・ゴクドーと申します。異世界から来られた勇者様方には私どもの都合でご迷惑をお掛けすることになってしまい、誠に申し訳ございません。私は国を代表して何かができる立場ではありませんが、皆様には私にできる限りの配慮を――」


 メーディアの「ゴクドー帝国」という言葉に反応した者の反応は大きくふたつに分かれた。


 一方は、ネーミングセンスの酷さを嘲笑あざわらう者たち。

 もう一方は、AWOという有名なゲームにも同名の国があったことを思い出し、その関連性について考えている者たち。


 一部に世界の裏側も知っている者もいるが、彼女たちの関心はそこにはなかった。



「あーあ! 俺らこれから大事な時だったってのに、何てことしてくれちゃってんの!? どう落とし前つけてくれるんだよ!」


「そんな薄っぺらい詫びでどうにかなると思ってんの、皇女サマよ? 誠意が足りないんじゃないの? 土下座しろよ、土下座。分かる? ジャパニーズ土下座」


「てか、ゴクドー帝国って、何それウケルぎゃはは! 俺らを鉄砲玉にでもするつもり? でも残念! 誰がお前らに従うかボケ!」


 世界には、人の話を聞かない者がいる。

 そして、相手に非があれば、何をしても構わないと思っている者もいる。

 その際、自身のことを棚に上げることも珍しくない。


 もっとも、彼らの場合は内面にも外面にもやましいところがありすぎて、この場を掌握、若しくは離脱したいという焦りが先にきていたことによる暴走である。



「そ、そ、そうだぞ! これは誘拐――立派な犯罪だぞ! 速やかな解放と謝罪と賠償を要求する!」


「げひ、皇女様にいろいろとお世話をしてもらえるならとりあえずは我慢するけどうぇへへ」


 それに乗っかる陰湿な男たち。

 そのひとりは真正のロリコンだった。


 しかし、それが彼女たちの逆鱗に触れた。



「大の大人が子供に突っ掛かって恥ずかしくないの? っていうか、『大事な時』にそんななりしてるのって正気? うちのお姉ちゃんは可愛すぎて顔を隠さなきゃいけないレベルだけど、あんたらのは輪郭からしてつまんないの分かるし」


「凶器にしても、(なまくら)なのはともかく白鞘しろさやは何のつもりでしょうか? それ保管用ですよ? 気でも狂ってます? あ、凶器じゃなくて狂気ってことですか。納得」


 メーディアを糾弾する流れを真由とレティシアがぶった切る。


 何だかんだと言いつつもユノに影響を受けている彼女たちは、ユノほど極端でも適当でもないが幼い子供の守護者であり、ユノ以上に好戦的だった。



「ロリコンとゴキブリは見つけ次第殺す。慈悲は無い。dieの大人にしてやる」


「皇女殿下、すぐに済みますのでご安心ください」


 ふたりはロリコンに向かって静かに殺意を燃やす。

 といっても、この場ではさすがに命までは奪うつもりはないが、何かしらはしっかりと殺す気でいた。



「なんだお前ら!? 俺らは被害者だぞ!? 文句を言う権利くらいあるだろ!」


「ちっ、雑魚が。チートスキルとか貰って調子に乗ってんだろうがよ、相手見てモノ言えよ!」


「こういう生意気なメスガキはきっちり理解させて躾けてやらないとな。それが大人の役目だよなあ!」


 当然、年長者であり能力的にも自信がある男たちが、小娘に言われっ放しで黙っているはずもない。


 彼らの中にも《鑑定》スキルの所持者がいて、その使用結果に基づいての対応であるが、彼女たちに最高レベルの《偽装》が掛けれらているなど想像もしていない。



「『殺す』とか安易に使ってると、いつか自分に返ってくるんだぜ。開示請求とかな! ああああおっ!?」


「軽い気持ちでやったとかそんなのは関係無いんだよ。お前も慰謝料払うか? ――おひゅうっ!?」


 一方で、ロリコンたちは過去の教訓を活かして反撃していたが、その甲斐もなくレティシアの指弾で股間を撃ち抜かれていた。

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