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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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04 暴発

――第三者視点――

 ゴクドー帝国による特殊勇者召喚は、ここしばらく不発続きだった。


 何をやっても異世界人を召喚できない期間がしばらく続き、最近になって召喚できるようにはなったが、ユニークに限らずスキルを分離できない。

 だからといって、「普通の勇者」として運用できるかというと、ユニークスキルが弱すぎて――というか、封印というか制限が掛かっていて、即戦力としては扱えない。

 一方で、公式に召喚した勇者オージは歴代の勇者と比較してもトップクラスの能力を持っていたが、彼が例外なのかほかに原因があるのかは分からない。


 そこで、財務局から研究所に対して「原因究明を優先してほしい」との申入れがあり、大掛かりな召喚は一時的に凍結されることになった。

 帝国の財政を預かる財務局としては、限りある予算を浪費する――あまつさえ、ほかに回すべき予算まで寄こせと言う研究に「待った」をかけるのは当然のこと。

 彼らとしても、その研究が国家にとって重要なもので、必ずしもすぐに結果に結びつくものではないと理解しているが、無い袖は振れないのだ。



 そこに、予算の大部分を占めていた実験材料(亜人奴隷)の確保――砦の消失などの理由で新たな調達に問題が発生していたことが直撃する。


 亜人奴隷調達と一次販売は基本的に帝国の直轄事業であり、入手コストの増大や収穫量の減少は販売価格に反映される。

 とはいえ、強制的に売りつけることまではできず、奴隷商人たちの予算にも限りがある以上、総取引額は大きく変わらない。

 つまり、単価や販売数にはさして意味が無く、増大したコスト分だけ利益が減少していることになる。

 消失や損壊した砦の再建費用を考えると、大赤字といってもいい。


 そして、奴隷商人たちによる奴隷販売価格を規制する法が無いため、高騰する奴隷市場に歯止めをかけられない。

 特に嗜好品としての需要が高かった亜人奴隷は、価格の上昇に伴って酷い扱いを受けることが減り、不用奴隷買取り事業にも影響を与える。


 そうしてできた、資金も無い、現物も無い現状では、それまでと同じように研究を続けさせるわけにはいかない。

 財務局として、皇帝肝いりの研究に最大限忖度したとしても、これが限界だったのだ。




 それが急遽(きゅうきょ)、しかもかなり自棄な形で実行されたのは、様々な理由で関係者が追い込まれていたからだ。


 原因究明といわれても、システムのアップデートが理由なのはほぼ確実である。


 しかし、彼らにそれを確かめる術が無い。

 パッチノートなどは公開されないのだ。


 当然、断定したとしても反論されないが、解決策あるいはそれを導くための道筋を提示できない。

 それで財務局の態度が変わることはないだろう。

 つまり、彼らにとっての「原因が判明するまで」とは、一時的な凍結ではなく、事実上の廃止宣告だった。



 帝国を実験場にしていた不死の大魔王ヴィクターの配下がこれを良しとしないのは当然のこと。

 ヴィクターからの指示は長らく届いていないが、目覚ましい結果を出せていない状況で失望されているかもしれないからと考えると焦りしかない。

 財務局にまで手を回していなかったのはヴィクターの落ち度だが、回していても無い袖が振れないのは変わらず、振れるように帝国の繁栄に協力するのはそれはそれで人類に仇なす大魔王として間違っている。

 とにかく、彼らとしては、何が何でも早急に結果を出すしかなかった。


 そして、禁忌を侵している自覚があった人族の研究者にも、「今更歩みを止めることなどできない」「これまでの犠牲を無駄にはできない」「止まるんじゃねえぞ」と、従う気が無い者が多かった。

 そもそも、ここで止めたからといって許されるとは限らない。

 ならば行けるところまで行くしかない――となるのも無理はない。


 また、「結果さえ出せばいいんだよ!」「ここクビになるって、口封じされるんじゃねえの?」「俺、この実験が成功したらプロポーズするんだ」と野心や保身に走る者もいた。

 はっきりいって手遅れだが、彼らも諦めるわけにはいかなかったのだ。


 そうして、様々な思惑が絡み合って、そして最後のチャンスということで一層の強い想いとありったけの資材を注ぎ込まれた特殊召喚が行われたのだ。


 その結果、成功とも失敗とも判断しづらい状況が発生した。




 まず、異世界人の召喚には成功した。

 しかも、合計で21人もだ。

 世界新記録である。



 ただし、この召喚の主目的であるユニークスキルの奪取には失敗している。


 マニュアルどおりにステータスの自己申告をさせてみると、ほぼ全員がユニークスキル持ち。

 能力の詳細が不明な者もいるものの、勇者召喚においては「ユニークスキルを持っている」という事実が重要になる。

 ユニークスキルが無い戦士や魔法使いには替えが利く――よほどのハズレでなければ使い方次第。

 一見ハズレでも、何かが切っ掛けで化けて「ざまあ」されることもあるため、よほどのことがない限りは慎重な扱いを求められる。


 つまり、今回の被召喚者の大半は一般的な勇者と変わりがない。

 ある意味では「快挙」といえる結果である。



 しかし、この事実を公開して詳細を他国に知られると、非難を受けることは想像に難くない。

 それ以上に、召喚された本人たちに他国の勇者召喚の実情を知られると、反乱を起こされる可能性もある。

 これがひとりふたりなら分断して洗脳もできたかもしれないが、21人もとなると同時には不可能で、不信感を抱かれた時点でアウトだと考えると強硬手段は採れない。



 さらに、一部の被召喚者たちが「友人がひとり行方不明だ」と言っていることも看過できない。


 その行方不明者の名が最近話題の世界樹を司る女神と同じなのは偶然としても、彼女がここではない時や場所で召喚されていたとすると大問題である。


 彼女が彼らと同様にほかの者たちを心配するのは当然のこと。

 彼女がどういう行動に出て、その結果がどうなるかはさっぱり予想できない。

 野垂れ死んでくれればいいが、他国にでも流れつかれると大変なことになる可能性が高い。



 また、彼らはさきに召喚された勇者オージほどではないにしても、全員が最低限以上の魔力やスキルの扱いを習得している。

 だからといって、実戦経験の無い彼らを即戦力とは期待できないが、教導を理由に刷り込みを行うことも難しくなった。


 そして、問題解決を先送りにするために、部署として彼らを匿い続けるのは予算的に不可能である。

 むしろ、今回の召喚で予算を使い切ってしまったので、翌月以降、彼らの給料が出るかも怪しい。

 結果さえ出ていれば予算の増額や追加もあったかもしれないが、諸事情を勘案すると隠蔽に予算を割くべき事案であり、場合によっては責任を問われる立場にある。

 こんな莫迦なまねはするべきではなかった――と後悔しても後の祭り。

 下手に報告すればその時点で首が飛ぶ可能性があり、隠蔽し続けることもやはり資金的に不可能である。


 この状況に、「さっさと最前線に投入して、上手く全滅してくれれば――」とも考えてしまう者も少なくない。

 召喚コスト的には大赤字だが、「損切り」と考えると仕方がない。

 ただし、中途半端に生き残られるとやはり問題で、念のために暗殺者を用意するにも全員分は不可能。


 起死回生を狙って行われた勇者召喚(ギャンブル)は、きっちりと彼らに引導を渡しにきていた。


◇◇◇


 通常の勇者召喚や特殊召喚のマニュアルが役に立たず、関係者が右往左往していたのは真由とレティシアにとっては好都合だった。


「お姉ちゃんのことなら心配しなくても平気ってことと、それよりも、自分のことを心配しないと――ってみんなに伝えないとね。まずは綾小路さんたちからかな」


「足並みを揃えた方がいいですし、手札は隠しておいた方がいいと思うので――ひとまず、元の世界の魔術や訓練用の尻尾のことは内緒にしておいた方がいいですよね」


 ふたりは、まずは魔術師組の掌握に努めることにした。


 ユノの不在に声を荒げているのは、彼女の本性を知らない一般人組の方だが、稲葉と姫路のおかげで暴走の可能性は低い。

 したとしても、現段階で彼らにできることはたかが知れている。


 今後のことを考えると手札はできるだけ隠しておきたく、彼ら――団藤や伊藤が多少痛い目を見るくらいは許容せざるを得ない。

 最悪の場合には、使える手札を全て使って強引に帝国から脱出することを考えてだが、ふたりだけならともかく、補給も覚束ない中で一般人を護りながらは現実的ではない。


 それでも、手札がバレてしまえば切っ掛けすら作れなくなる可能性があり、後は姉や湯の川に頼るしかなくなる。

 そうすると、ゴクドー帝国だけでなく、世界規模の大事件に発展する可能性は排除できない。

 それでは「のんびり冒険者ライフ」という彼女たちの夢が遠退いてしまう。


 そうならないために、姉妹と同じ手札を持っている彼女たちの方を抑えておく必要があると判断して、現場の混乱に乗じて説得を行った。



「そうですわね。ユノさんならどこでも逞しく生きていけそうですし……」


「私たちはみんな隠蔽いんぺい系のスキルを取っていますので、多分バレていないと思いますが」


「尻尾も内緒にするの? 結構扱えるようになってきて――チュートリアルでもかなり助けられたんだけど。そういえば、みんなはチュートリアルどうだった?」


 姉妹の説得は、ユノの実力の一端を体験している者たちには素直に受け入れられた。

 むしろ、彼女が騒動を起こした時に備えて実力を隠蔽しておこうとする方針は最初から一致していた。


 それでこの話は終わり、それよりもとばかりに、話題はさきのチュートリアルに移る。



 神々が用意したチュートリアル場は、魔力やスキルの基本的な知識や扱い方を学ぶことを主目的とした特殊な空間だった。

 時間的な制限がある以上「万全」とはいかないが、そこで基礎を学ぶことで多少なりとも召喚先での生活の助けになるだろう――という配慮である。


 ただし、今回のように複数人同時の場合、チュートリアル進捗状況に差が出るのは当然のこと。

 そして、特に魔力に対する感覚は個々人によって違うため、他者の存在が邪魔になることもある――と危惧されたため、それぞれ個別の空間で行われていた。


 そのため、他者のチュートリアルがどういうものだったかは当人以外には分らない。



「魔力操作やスキルの使い方などはそう苦労はしませんでしたわ。ユニーク以上のスキルは段階的に解放される――といいながら、最後のあれは何でしたの? スキルが解放されてもいないのに竜を斃せなんて無茶苦茶ですわ」


「やはりお嬢様の所でも竜が出ていたんですね。私は反則かとも思ったのですが、尻尾を使わせてもらいました――といっても、防御するだけで手一杯でしたが……」


「私も尻尾を使って、そこそこ善戦できたと思うんだけど、最後の最後で大暴れされて焦っちゃって……。もっと冷静に対処できてれば――っていうか、式神も併用してれば……」


 とはいえ、チュートリアルの内容自体はほぼ同じである。

 棚ぼた的に得た力に浮かれている場合を想定して、最後に下位竜との戦闘を用意しているのも同じ。


 多少のチートがあったとしても、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れになる。

 それを仮想世界でガツンと突き付けて、その結末も体験してもらおう――という親切設計である。



 さきに勇者として召喚されたオージも、《次元斬》という強力なスキルを持ちながらも使いこなせず敗北していた。

 《次元斬》の性能的には急所に当たっていれば勝てていた可能性があるが、彼のスキル発動より竜のブレスの方が早かっただけのこと。

 ブレスではなくても、その時点での彼と竜の基礎能力差を考えると単独での討伐は難しい。


 これがただのシミュレーションで、本当に死ななかっただけでも幸運である。

 現時点では勝てない敵も存在する――と理解させるのもチュートリアルの意義なのだ。



「私は勝ったよ。尻尾を使って、三十手くらいかけてだけど。まあ、お姉ちゃんとの訓練よりは楽だったね」


「私は何か出てきそうな感じだったから魔法準備してて、出てきた瞬間に吹っ飛ばしたよ」


 ただ、早くも例外が出現していた。


 片や間合い操作というていの何かで完封し、片や神懸かり的な反応で出現と同時に集中砲火を浴びせて完勝して、モニタリングしていた神々を困惑させていた。



「あれを斃せたのですか……。でも、さすがに御神苗さんの直弟子ですわね」


「さすがです。おふたりが味方だと心強いですね」


「そうね。ユノさんが味方だと違う意味で怖くなるし――それより、これからどうするの?」


「なんでか召喚した方も混乱してるけど、少なくとも観賞用に召喚したってことはないと思うから、いつかは戦場に出るとか任務が与えられると思う。あ、お姉ちゃんはそれに備えて外から準備や協力をするって」


「なので、分断されたり単独行動はしないようにって――あ、近いうちに姉さんの協力者というか仲間が合流してくるはずですので、そのときが来たら紹介します。とりあえず、姫路さんや男子たちにも状況を説明しましょう」


「分かりましたわ。さすが御神苗さん。どんな状況でもブレませんのね。ですが、それ以外の方々はどうします? どなたかの知人とかでしょうか?」


「私の知人はいません――というか、私の交友関係はお嬢様とほぼ同じですし。一条さんは?」


「私の知り合いもいないわ――って言いたいところだけど、あの稲葉たちと一緒になって『ボス出せ! ボスどこ!?』言ってる人、公安の人じゃない? 貴女たち、意外といい神経してるわよね……」


「「……」」


 ありったけの資材を注ぎ込んで行われた最後の特殊召喚は半暴走状態になっていて、彼女たち9人を召喚した後、少し間をおいて6人、3人、2人、1人――と、キレの悪い便のように異世界人を召喚していた。


 最終的に、耐久力の限界を超えた魔法陣が小さな爆発を起こして止まったが、その爆発の中で召喚されていたのが公安の伊達で、今は元気に怒り狂っていた。



「……とりあえず、知り合いがひとりってことでいいのかな。ほかにもガラの悪そうなのがいるけど、様子を見るしかないかなあ」


「第一に自分たちの身の安全を優先して、本気でヤバそうなら姉さんと相談して脱走でもしましょうか」


 被召喚者の中には、伊達以外にも危なそうな者たちがいた。


 二十歳前後らしき三人組の男性は、目出し帽を被り、長ドスやナイフ、鉄パイプ等で武装していて――と闇バイトか事件の香りがする。

 ふたり組の中年男性は、ヨレヨレのスウェット姿で、社会どころか部屋からも出ていない――風呂にも入っていないことがはっきりと分かる脂の乗り具合と、見るからに社会不適合者である。


 後者は特に悪さをしたというわけではないが、年頃の女子には生理的に厳しい。

 そういう意味では下半身丸出しの団藤も同じだが、為人ひととなりが分からないため評価はより厳しいものになってしまう。

 なお、団藤の評価は為人も込みで「最低」であり、彼らの評価は「雑魚モンスター」である。

 理由があれば、いつでも討伐できる。


 それでも、クラスメイトを見捨てられるほど割り切れない彼女たちは、優先順位を付けつつもクラスメイトの説得に当たった。

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