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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十九章 邪神さんの帝国再潜入おまけ付き
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 大きな問題はひととおり片付いて、無事に年も越した。

 冬休み直前まではいろいろと忙しかったものの、アメリカ大統領の乱心以降、次のターゲットにされたくない人たちが自粛してくれたおかげで年末年始は久々に落ち着いて過ごせた。

 人間は喉元過ぎれば熱さを忘れるものだけれど、私たちが表舞台――いや、地球から引き揚げるまでもってくれればいいなと初詣でお祈りしてみた。



 なお、妹たちとアルは湯の川で過ごしているので、日本にいる私はひとりで年始年末を過ごしていた。

 まあ、亜門さんたちにお正月の挨拶をしにいったりもしたけれど、酔っ払いに絡まれるのもつらいので長居はしなかった。



 そうしてまた学校が始まった。


 二週間という短い冬休みだったけれど、久し振りに会った何人かは見違えるような成長を遂げていた。



 まずは稲葉くん。


 将来の冒険の予行演習として冬富士登山をしたとか。

 やり遂げたことが自信になったか、お父さんに認められたことで心が軽くなったのか、休み前よりも大きく見える。

 富士山が無くなっていなくてよかったね。



 団藤くんも、公安の扱いになってしっかり鍛えられたからか、物理的に大きくなっていて努力の跡が窺える。

 ただし、中身はあまり変わっていないようだけれど。


 肉体と精神と魂はそれぞれ影響し合うものとはいえ、今はまだ誤差程度のもの。

 というか、筋肉を鍛えるだけで精神や魂も洗練されるなら、ボディービルダーはみんな聖人になっているか、聖職者がみんなマッチョになっている。

 暑苦しさでむせ返るような教会とか、今以上に嫌だよ?



 そして、魔術師三人組もひと回り成長しているように見える。

 魔力や魔術に対する認識を改め、意識して訓練しようと心がけているのだろう。

 基本中の基本だけれど、短期間の成果としては素晴らしいことである。



 なお、一番の成長を見せてくれたのは姫路さんだ。

 彼女には特に何も教えていないのに、なぜか自身を確立――領域を構築しつつある。

 もちろん、魔力については何も分かっていないようなので超人になったりはしていないけれど、努力家の彼女が何者になるかは非常に興味深い。

 またご飯を差し入れにいこう。



 一方、妹たちの成長はさほどではない。

 私と一緒にラスボスになるための遊びに興じていたのだから無理もないか。

 もっとも、モチベーションの向上とか維持的には充分に役立ったので、完全に否定するものでもなかったけれど。



 最後に、私もラスボスの品格やら作法やらはひととおり覚えてみたものの、使いどころはよく分からない。

 というか、内容的には魔法少女の亜種みたいなものだったし、朔の悪巧みのひとつだったのだろう。


 まあ、いい家族団欒(だんらん)になったのは事実なので、大勢に影響がないところで試してみるくらいはいいかもしれない。

 どうせ名場面集とかで配信されるのだろうし。


◇◇◇


 さておき、私たち姉妹には、就職活動や進学のための受験は関係無い。


 会社の方も、公安と皇に管理を委託する形で、実質的には譲渡の目処も立った。

 彼らにとっては運営資金問題の解消にもなるし、私たちにとってもいろいろと手間が省けるWIN-WINの措置である。


 万一、彼らの一部の隊員が悪さをしたとしても基本的に私たちの知ったことではない。

 武力行使を受けた場合はゴーレム化しておいたタヌキの置物が鎮圧してくれるだろうし、何も問題は無い。



 なので、後は卒業後の異世界移住を待つばかり。

 といっても、私については自力で行き来できるようになっているので、妹たちをどうするかだけの問題だけれど。



 妹たちには、下手に異世界に召喚されないようにと保護プロテクトが掛かっていた。

 ふたりとも勇者召喚に付される「異世界に適性がある」という条件に引っ掛かりやすいため、別々に召喚されたり、帝国のような劣悪な環境に召喚されないようにという配慮である。


 結局、家に突然出現した神の秘石を利用して自力で異世界にやってきたけれど、それまで無事だったのはその保護のおかげで間違いない。



 しかし、それで家族が揃ってめでたしめでたし――と、そう単純なことではないらしい。


 異世界にやってきた妹たちだけれど、システム上では保護は掛ったまま。

 これが異世界で生活する上でどのような影響があるのか、主神たちでも分からない。


 そのまま普通に生活できればいいのだけれど、不意に保護が解けた際などに何が起きるか分からないことや、解けなくても、ある日突然元の世界に送り返される可能性もあるとのこと。


 つまり、本格的に異世界で生活する前に保護を解除しておいた方が堅実だと思われるけれど、ほかにどんな影響が出るのかも不明なので、いきなり解除することもできない――という状況らしい。



 現在、天界――というか、父さんによる妹たちの保護の解除と、それと同時に湯の川でソフィアが召喚を行う方向で話が進んでいる。


 一応、召喚魔法の原則で「現在進行形で召喚されている存在が重複して召喚されることはない」というものがあるので、ある程度は懸念を解消できるそうだ。


 問題は、保護を解除した瞬間に予測できない何かが起きることだけれど、それは私がどうにかするしかない。

 とはいえ、あまり気合を入れすぎるとソフィアの召喚魔法まで無効化してしまうので、明らかにまずい状況になるまでは静観するしかないのだけれど。




 さて、学校生活に話を戻すと、名城では内部進学の人が多いせいか、「自由登校」という風習はほぼ無い。

 外部進学希望の人が来なくなったりもするけれど、そこは日頃の行いなどがよければ寛容に対応してくれるようだ。



 三年A組の外部進学希望者は、伊藤くんと稲葉くん、それと姫路さん。

 前者ふたりは本番で大きなミスがなければ合格は確実、後者は海外の大学を受験するつもりなので時期が違う。

 なので、みんな普通に登校してきている。


 みんな「ユノさんと会えなくなるのは寂しいから」などと言っているけれど、これは友達が作れたと思っていいのだろうか?

 普通に考えると社交辞令だけれど……。


 まあ、いい。

 いずれにしても、残りの期間、友達になれるよう全力で振舞うだけだ。


◇◇◇


 そうして、区切りに向けて穏やかに過ごしていたある日、妹たちに夕飯を作るために実家へ帰省していた時のこと。



「お姉ちゃん、何か出た!? え、ちょっと、めっちゃ光ってるんだけど!? これどうしたらいいの!?」

「姉さん、私たちの知らない間にまた何かやりました? っていうか、本当にどうすればいいんです!?」


 料理ができるまでの間、領域操作の訓練をすると言っていた妹たちが騒ぎ始めた。



 私がいるキッチンに届いてくるのは声だけで、何が起きているかはさっぱり分からない。


 辛うじて分かるのは「光る何か」が出て焦っていること。

 それが「黒光りしているヤツ」のことであれば私では役に立てない。


 それでも、能力を理由にやるかやらないかを決めるのは、力を得て自身を見失っている勇者と変わらない。

 できるかできないかではなく、やる意思があるかどうか――必要なのは能力の有無ではないのだ。


 それに、妹たちが困っているなら助けてあげるのがお姉ちゃんというもの。

 それが成長の妨げになってはいけないことは分かっていても、真由の持っている変なスキルのせいかお姉ちゃんとしての本能がそうさせるのか、どうにも抗えない。



「今行く!」


 とにかく、一刻を争う事態かもしれないので、ごちゃごちゃと考える前に行動に移す。




 そうして現場に到着して目にしたのは、足元に魔法陣を発生させている妹たちだった。

 いや、困惑している様子を見るに、彼女たちが出したものではないのかもしれない。


 光っているのは妹たち自身――いや、魔法陣か?

 いずれにしても、Gでなかったのは幸いだ。



「これ何!? 訓練してたら急に湧いてきたんだけど!?」


「何か仕掛けられてる感じがあって、どうにか耐えてるんですけど……!」


「……もしかして、異世界召喚の保護の解除とか実験とかの案件かな? 私の方には何も連絡は来ていないけれど――」

「どうしたらいいの!? 身を任せればいいの!?」

「そんなに長くは耐えられそうにないんですけど!」


『確認する時間も無さそうだし、とりあえずユノもついていけば? 多少問題があってもユノがいれば最悪にはならないでしょ』


「じゃあそれで!」

「姉さん、早く!」


 なんだか分からないけれど、妹たちに抱きつかれた。

 恐らく、私がフライパンとお玉を持ったままだったので、手を掴めなかったからだろう。


 私たちがくっつくと、妹たちそれぞれの足元に出ていた魔法陣も合体して輝きを増す。


 その直後、以前にも経験した激しい光に包まれた。


◇◇◇


 あまり乗り心地が良いとはいえない転移が終わると、床も壁も天井も真っ白な部屋の中にいた。

 あるいは神族や悪魔の領域に近いものとでもいうべきか。

 私や朔の領域とは別物だし、それらともまた微妙に違う気がするけれど――そういえば、帝国の特殊勇者召喚に対処するために避難所を作ると聞いたような気がする。

 異世界に召喚される人間のための一時的なものと思えばこんなものかもしれない?



 そこに、ひと柱の見目麗しい女神がいて、人として何か大事なものが欠けている気がする微笑みを顔に貼り付けてこちらを見守っている。


 そういえば、そういう役割の人を配置するとも聞いた覚えはある。

 確かに、この場所でこの配役ならそれなりに説得力がある。

 私じゃなければ彼女が新人だということには気づかないだろうし。


 つまり、さきのあれはやはり異世界召喚だったのだろう。



「ひとまず、『よく来ました』と言っておきましょうか、異世界の者たちよ」


 みんなが多少落ち着いてきたところを見計らって女神が話し始めた。


 私でも分かるくらいに神気を発している――かどうかはよく分からないけれど、すごくキラキラしている。

 同時に、地鳴りのような効果音も出ている。

 後者の方は効果がよく分からないけれど、頑張っていることは伝わってくる。


 この役職はつい最近作られたものなので、訓練期間は一年にも満たないはずである。

 そんな新神ルーキーが一生懸命気張っていると思うと少し微笑ましいし、応援したくなる。

 笑顔の件も、これが今の彼女の精一杯だとすると、追求すべきではないのだろう。


 ただ、問題は――。



「『異世界の者』ってどういうことですか!? 僕たち、さっきまでコンビニで話してただけなんだけど」


「塾の帰りにコンビニに寄ったら偶然ふたりと会って――で、なんかユノさんの話で盛り上がってたのに」


「話に夢中でちょっと周りが見えてなかった――気がついたら車が突っ込んできていて……あっ! ユノさん!? どうしてここに!?」


 それは私の台詞である。


 ここにはなぜか稲葉くんと伊藤くんと姫路さんもいた。


 姫路さんが、受験費用や学費の足しにとアルバイトをしているのは知っている。

 そういうのは御神苗うちで持ってもいいよとは言ったのだけれど、「頼るにしても、全部頼り切りというのはまずいと思うんです」と押し切られたのだ。


 そうして、彼女がコンビニエンスストアで働き始めたことは知っている。

 そのお給料だけで全ての費用が賄えるはずはないのだけれど、足りない分は――というか、卒業までに必要な分は私が出すつもりである。


 もちろん、彼女はお金稼ぎにかまけて勉強を疎かにすることはないし、空いた時間で習い事にも精を出している。

 ちょっと鬼気迫る感じで心配にもなったけれど、精神的には全く問題が無い。


 とにかく、こうして目標に向けて頑張っている人には好感を覚えるので、せめて身体的にはフォローしてあげようと、時折食事に誘ったり差し入れを持っていったりして応援していた。



 さておき、そのアルバイト先に稲葉くんがやってきて?

 いや、勤務時間中に雑談をするはずもないだろうし、時間的に考えて仕事終わりに出会って雑談していたところに伊藤くんもやってきて、話をしていた――というところだろうか。


 運が悪いことに、暴走した自動車か、あるいは異世界召喚エフェクトに巻き込まれてここにいると。



「私たちは訓練中にちょっとした事故が起きまして……。気がついたらここに」


「何が『ちょっとした』ですか!? お嬢様が手を出さなければ私だけの犠牲で済んだかもしれないのに!」


「悪いのは竜胆じゃなくて、あのおっさんでしょ。竜胆が上手く拡散させたから怜奈は即死せずに済んだんでしょうし」


 しかも、綾小路さんと内藤さんと一条さんまでいる。


 訓練中に何かが起きたということはわかるけれど、それでなぜここにいるのかはさっぱり分からない。



「お、俺も特訓してたら……」


 さらに、団藤くんまで。


 しかも、なぜか下半身が露出している状態である。

 どんな訓練をしていればこうなるというのか。



 とにかく、私の知り合いばかりがいる状況で、「偶然」と考えるのは虫がよすぎる。


 それでも、私たちの召喚が暴走してこうなったのかというと、それも違うような気がする。

 もしそうなら、伊達さんとか綾小路さんのお姉さんもいるだろうし。



 ひとまず、心当たりを確認して回るしかないか。

 面倒なことになっていなければいいのだけれど。

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