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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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幕間 神が来たりて

 今日も日本は平和である。


 政治家を狙ったテロとか闇バイトだの殺人事件などはあるけれど、それぞれ小口で個別に対応するしかないものばかりだ。

 人間が存在している限りは無くならない類のものだろう。



 一方で、組織的な犯罪については驚くほど少なくなった。

 まだ動いているところもあるけれど、大半は組織の末端にいる危機意識の低い人たちで、近く組織に処分されるだろうとのことだ。



 こんな状況になった理由が、私がアメリカ大統領を暗殺したからだというのだ。



 もちろん、私にはアリバイがあるし、手口にしても私がやったという証拠はどこにも無い。


 なのに、パイモンさんの伝言が犯行声明みたいになってしまって、何よりみんな信じてしまったのでもうどうにもならない。

 しかも、暗殺に対するノータイムのカウンターで、警備が厳重なホワイトハウスにいる大統領を大手通販サイトより迅速にあの世に送れる――となると、大きな組織のトップにいる人ほど怖くて仕方がないのだそうだ。


 そんなに怖がらなくても、私とは無関係なところに突撃したり、わざわざ正義の味方をするつもりはないのだけれど、皮肉なことに、私の言葉は彼らには届かない――というか、もう何を言っても脅迫になる。

 脅迫されないように、電話線を引っこ抜いて携帯電話を破壊している人とかもいるそうだ。

 すめらぎへの問合せもかなり減っているそうで、微妙な感じの感謝の電話がかかってきて、そう教えてくれた。



 というわけで、日本だけではなく、世界的にかなり平和になった。

 力で世界を支配したかったわけではないのだけれど、現実はままならないものだね。


◇◇◇


 もちろん、湯の川も今日も今日とて平和である。


 特に得意分野とかこれといった目標は無いけれど、貢献ポイントが欲しい――という人たち向けに、アニメとかで見るような「奴隷がぐるぐる回すやつ」が作られて高速回転しているくらいに平和である。

 ……平和って何だったかな?

 それと、これで稼げる貢献ポイントってどうなのかな?


 まあ、みんな良い笑顔で回しているのでハムスターとかの回し車に見えなくもないし、やっぱり平和なのだろう。




 さて、富士の呪界で保護して湯の川に連れてきたカナメくんの精神状態は、日に日に良くなっている。



 といっても、まだ生まれて間もない雛鳥が親鳥の後をついて歩く程度のもの。

 私の後をひたすらついてくる様子はとてもプリティーだけれど、自発的に何かをしようとか私以外に興味を向ける気配はまだ無い。

 自発呼吸すら危うかった時に比べれば格段の進歩――呼吸の仕方は教えてあげられないので、そういう意味では峠は越えたけれど、まだまだこれからである。


 現代だと子供の死亡率も低くなっているけれど、時代を遡るほどに高くなるのは周知の事実。

 由来とかは忘れたけれど、「七つ前は神の内」ということわざもある。

 つまり、平安時代生まれのカナメくんは、人一倍気をつけなければならないのだ。



 もっとも、私からカナメくんを奪おうとする神が現れればぶっ殺すけれど。

 来るなら来い!



「ユノちゃん、来たわよー! また年末年始いろいろやるんでしょう? お姉さんもまぜて!」


 来やがった!

 大魔王だけれど神格持ちのアナスタシアさんである。


 お祭りの気配に惹かれてやってきたようだ。

 湯の川(うち)は貴女のためのリゾート地ではないんだよ?



「拙者もいるでござるよ! 拙者、このお祭りのために一発芸を極めてきたでござる!」


 クライヴさんもいるのは想定内。

 むしろ、ひとりで来させなかったのは、ほかのふたりを褒めてもいい。


 しかし、貴方が目指していたのは武芸の頂では?

 目指すべきものを見失っていない?



「突然押しかけてすまんな。先にお前さんの都合を確認しろとは言ったのだが……」


 半裸だけれど比較的常識人のバッカスさんも一緒だ。

 彼的には筋肉が正装だと思っているようだけれど、相手の都合の前に、ドレスコードを確認してね?

 カナメくんも恐怖しているし。


 とはいえ、基本的には裸族の私も同意したいところはあるけれど、さすがに青少年の目もあるような場所では控えた方がいいと思う。



「それはそうと、その子は? また拾ってきたの? すごい力を持ってるみたいだけど、ちゃんと使い方を教えてあげないと駄目よ?」


「ふむ、鬼――とは少し違うでござるか。――はっ! もしや、拙者の子では!? 多腕で、よく見れば顔は拙者似! つまり、いつの間にか拙者とユノ殿は結婚していた!?」


「落ち着け、莫迦者が! それはそうと、その子にはなかなか光るものがある。どうだ、吾輩に預けてみんか? 立派な筋肉に育ててみせるぞ?」


 おっと、敵はバッカスさんだったか。

 カナメくんは渡さないぞ!

 少なくとも、自らの意思で選択できるようになるまではね!



「急にファイティングポーズを取って何を威嚇しておるのだ?」


「これは、拙者の多腕を見込んでの、子育て相談!? 初の共同作業でござるな! うぼぁ!?」


「クライヴ、いい加減にしなさい! ユノちゃん。ごめんねえ。でも、こいつが莫迦やりだしたらすぐ止めないとエスカレートし続けるわよ?」


 む、クライヴさんもカナメくんを狙っているのか?

 バッカスさんは囮だったか?

 アナスタシアさんは味方……でいいのか?

 いや、この人の可愛いもの好きは異常だし、カナメくんが危ない!

 もうみんなまとめてやっつけるか?




「ユノ! あんた、私から『豊穣』だけじゃなく『愛』の座まで奪う気なの!? この、泥棒ネコ!」


 そんなところに、更に女神がやってくる。

 しかも、身に覚えのないいちゃもん付きである。

 ヤ〇ザでももう少し段階を踏むよ?



「ホーリー様、お待ちください! 噂の出所はキュラス神聖国――非公認聖樹教が活発な国です! そんな噂に意味はありません!」


 ヤ〇ザ系女神についてきたのは、彼女の巫女であるアイリスだ。

 話がよく見えないけれど、どうやら祭神を鎮めようとしているようだ。

 頑張れー。



「あら、愛と豊穣――いえ、今は愛と欲望の女神だったかしら? 『愛』を失って欲望だけだなんて、お似合いなんじゃない?」


「俺もフレイヤが『豊穣』を司っていたことは疑問に思ってたからなあ。人間にも、本人にもそんな恩恵無かったろ。今はピッタリでよかったじゃねえか」


「吾輩は金銭が絡んでくる『愛』はどうかと思っておったが……。『欲望』だけになると、それはもう悪神ではないか?」


 そこに三魔神も絡んでくる。



「何よ、あんたら。また来たの? 暇なの? というかさ、ただでさえ魔王とか古竜の脅威が減ってるのに、仕事サボらないでくれないかしら? 役に立たないなら滅ぼすわよ?」


「へえ、貴女にできるの? 試してみる?」


「俺の愛と欲望、権能など無くともお前に劣るものではないぞ?」


「お前さんの愛と吾輩の筋肉、どちらが厚いか勝負だの!」


 魔王は煽りに弱いので、当然荒れる。

 というか、ここでの「暇なの?」はフレイヤさんも含めてみんなに刺さるのではないだろうか。



『みんな忙しいんだから、邪魔するなら叩き出すよ』


「「「あっ、はい」」」


 しかし、朔の正論の前に一瞬で沈静化した。


 年末年始のこの時期、本当に暇を持て余しているのは私くらいだからねえ。

 お祭りが始まれば忙しくなるけれど。


 本当なら、フレイヤさんにも三魔神にも仕事はあるはずだけれど、息抜きも必要なのは理解している。

 それでも、せめてみんなの邪魔はしないでほしいものだ。



『でも、確かに大魔王が頻繁にフラフラしてるのは良くないねえ。ただでさえ勢力図が変わってて空白地帯が多くなってる――それですぐにどうなるものではないけど、抑止力が消えて莫迦なことを考える人間が増えたりするのは困るって主神が言ってたよ』


 そこは主神たちの都合だけれど、彼らの過去の失敗から、人間には適度な脅威が必要だと思っているようだ。

 もっとも、適度な脅威があっても人間同士で争っているのだけれど、それはさほど気にしていない。

 もしかすると、先史文明大戦がトラウマになっているだけなのかもしれない。



「確かに、私たち以外で残ってるのってヴィクターだけなのよね。あの子は――抑止力としては頼りないわね」


「いや、堕天使の――何と言ったか、ア、アル、アルマジロ? ほら、名前が思い出せんがいただろう?」


「アルマロスだ。だが、あやつは人間に大魔王として認知されておらんし、抑止力にはなり得んな」


「あんたら、ここに来るのも『バレなきゃいい』って考えてるかもしれないけど、人間って案外莫迦にできないからね? この娘見てみなさいよ。人間がここまでになるのよ? 神を出し抜くかもしれないのよ?」


「「「……」」」


 フレイヤさんの言うとおり、アイリスは莫迦ではない。

 いつも助けられている私がいうのだから間違いない。


 しかし、三魔神の反応はちょっとニュアンスが違うような?



「でもまあ、抑止力って観点だとあんたらもあんまり意味が無いしねえ」


 これもフレイヤさんが言うように、アナスタシアさんの支配領域は人が住める環境ではない北の果て、クライヴさんとバッカスさんは離島なので影響が限定的。

 機能していないわけではないけれど、要所ではない。



かなめだったのはミーティアとアーサーの縄張り、それとエスリンの支配領域。現存してる所ではヴィクターかな。特にエスリンの支配領域は早めに対応した方がいいと思うし、ヴィクターの所も場合によっては支援した方がいいかもしれない』


 カナメくんが名前を呼ばれたと思ったのか、足にしがみついて見上げてくる。

 可愛いけれど、貴方のことではないの。

 とりあえず、撫でておくか。



「ヴィクターには魔王集会を開こうって呼びかけているんだけどねえ、最近はいつ訪ねても留守なのよ」


「居留守だとは思うのでござるが、さすがに勝手に家探しするわけにもいかんでござるからなあ」


「あやつに筋肉があればもっと本気で語り合えると思うのだが、脳すらも無いようではな」


「ま、あんたらに来られたら隠れたくなる気持ちは分かるわ。そうだ、ユノ。あんた、あいつの元配下連れて行ってみたらどう?」


「あ、それ、良いアイデアね。あの子、小物だけどプライドだけは高いから」


「元部下から逃げるようなことはできんだろうなあ」


「そうとなれば、できるだけ戦闘能力の低い者を連れて行くといい」


 なぜか勝手に決定事項にされつつある。


 まあ、特に予定も無いし――今の湯の川でブラブラしているだけに見えるのも心苦しいので、それくらいの仕事は引受けても構わないのだけれど。



「じゃ、それは任せるわ。それよりもあんた、今夜私の部屋に来なさい」


「それより? 何かあるならここで言ってくれれば」


 夜と言われても、カナメくんを寝かしつけなければいけないのだけれど、千年近く眠っていたこの子を更に寝かせるのは大変なんだよ?



「あたしはここでも構わないんだけど――愛の女神の名に懸けて、あんたに『愛』の何たるかを教えてやるつもりなんだけど、本当にいいの?」


「えっ、カナメくんもいるし、いかがわしいのは駄目」


 さすがに神が公序良俗に反することはないと思うけれど、一応予防線を張っておく。



「じゃ、やっぱり夜に私の部屋に来なさい」


 ……「いかがわしい」のは否定しないの!?



「ホーリー様! 見学させていただいてもよろしいでしょうか!」


 えっ、アイリスは止めてくれないの!?



「もちろんよ。巫女としてしっかり学びなさい。ああ、それと、トシヤのところでローポーションを買ってきておいて」

「畏まりました!」


 食い気味に走って行っちゃったよ。


 ローポーションって、ローションとポーションを合わせた悪ふざけの産物だよね?

 湿潤療法とかいっているけれど、治療の現場では使われていないと聞いたよ?

 それと私を呼んだことは無関係だよね?



「フレイヤ、済まなかった。お前こそ愛の女神に相応しい。だから俺も見学していいか?」


「クライヴ!? この莫迦者が! 本当に嫌われても知らんぞ!?」


「じゃあ、ユノちゃん。明日の晩は私の部屋に来てね! お姉さんと一緒にいっぱい楽しいことしましょうね!」


「アナスタシアまで!? フレイヤ、やはりお前さんの愛は人を歪ませる! 悔い改めよ!」


「はん! 愛なんて元々多かれ少なかれ歪んで狂ってるものよ! それもひっくるめて受け止めるのが真実の愛ってもんでしょうが! あんたの筋肉だってそうでしょうが!」


「ぐっ、これは一本取られたか!?」


 なんだか分からないけれど喧嘩は止めよう?

 愛が理由だと私には止められないし。


 とりあえず、ヴィクターさんのところにでも逃げるか。

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