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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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24 マウント富士山

――ユノ視点――

 苦労の末に辿り着いた呪界入り口。


 しかし、そこには先客――フジンの里にいた人たちの一部――年配の人たちと、すめらぎのふたりが待っていた。


 先回りされた――というか、ショートカットのようなものがあるのだろう。

 よくよく考えると、毎回この手順でここに来るのは大変だろうし。

 私が関係者なら絶対に作る。


 しかし、パイモンさんはこれを知らなかったのか?

 あれだけ複雑な手順を覚えられるくらいに調べていたのなら、これも知っていていいはずだけれど――。



 まあ、いい。

 今はそんなことを気にしている場合ではない。



 柳田さんと清水さんは拘束されていて、いわゆる人質状態である。

 またか――と、莫迦のひとつ覚えには辟易する。


 私に逆らうとか抗うのはいいのだ。

 意見があるなら遠慮なく言えばいい。

 そうして自らの意思で私に向かってくるなら私も真剣に受けて立つけれど、人質は必要ないでしょう?

 そもそも、そんな程度の低い工夫で私がどうにかなると思われていることがすごい侮辱なのだけれど。

 助けようと思えばいつでも助けられるし、見殺しにするどころか私が手を下してもいいし、あまり褒められた行為ではないけれど生き返らせるとか新たに創ることだってできるのだから。



 ただ、今回に限っては、いつもと雰囲気というか何かが違う。


 まず、拘束されているふたりに悲壮感とかそういう色は一切無い。

 何なら、「なぜそんなドヤ顔ができるのか」と先に問い詰めたいくらいである。

 私が助けると思っているのか――まあ、今回は事後処理をぶん投げるつもりなので助けることになると思うけれど、五体満足である必要はないんだよ?



 一方のフジンのお爺さんお婆さんたちはみんな号泣している。

 早々に粗相している人もいる。

 いい大人が恥も外聞も無くである。

 ……どっちが人質なのか、恐怖なのか老化なのかも分からない。


 ちなみに、「年齢を重ねると精神的に熟成する」というのは「人による」としかいえないもので、お年寄りだから落ち着いているとか人格者だとは限らない。

 むしろ、肉体的には前頭葉の老化にしたがって、新しいことに挑戦する意欲が失われたり感情の抑制が利かなくなったりするそうだ。

 この状況もそれが原因のひとつかもしれない。



「なんでこんなことになったんじゃあ……!」


 そんなの私が訊きたいよ。



「儂らにどうしろというのだ……!」


 それも私には分からない。

 どういう意図でこの状況を作ったの?



「神様、お願いします。どうか儂らの平穏を返してくだされ」


 それは頼む相手を間違えているなあ。



『……どういうつもりで立ち塞がっているのかが分からないんだけど、やるつもりなら受けて立つし、言いたいことがあるなら聞くよ』


 相手の都合とかお構いなしに好戦的な朔も、これにはさすがに困惑気味である。

 きっとこんな状態のお年寄りと戦うのは絵面が悪いとか思っているのだろう。


 私としては、その意思を優先したいところ。

 しかし、戦意は見えない――恐怖に混じって敵意……拒絶? が見えるくらい。

 恐怖そのものを拒絶しているのかもしれないけれど、その大元は私なのだろうし、大きく間違ってはいないはずだ。

 なので、朔の言ったとおり、彼らの意思を確認するのが先決なのだろう。



「お前さえ、お前さえ来なければ……!」


「私たちはただ穏やかの老後を送りたかっただけなのに……」


「わ、儂らを殺しても、犠牲になった者は帰ってこん! 奴らもそんなことは望んでおらんはずだ!」


 さて、何を主張したいのかもさっぱり分からないぞ。



『……私たちが来なくても問題はここにあるし、穏やかな老後を送れるかは――パイモン?』


「はい。さきにも申しましたが、早ければ二、三十年で、遅くとも百年以内には破綻するかと。その結果もさきの説明のとおりです」


「「「……!」」」


 そんなにショックを受けることか?

 さきに言ったとおりのことだし、人質をとったところでそれは変わらないよ?



『自力でどうにかするというならそれでもいい。でも、今すぐにやってもらう』


「そっ、それはなんでも無茶がすぎる!」


「普通の闇払いでも、何日、いや何か月も――時には年単位で準備して事に当たるというのに!?」


「限界まで時間があるのだろう? それなら――」

「千年近く何もできず、現在も計画どころか準備も無いようでは、十年そこらでの解決は期待できませんからねえ」


『ここでやり合って十年後のポテンシャルを確かめるのはいいかもね』


「「「……!」」」


 朔は優しいなあ。


 残念だけれど、ここにいる彼らの――呪界の落とし子とでもいうようなところで可能性が止まってしまっている彼らに呪界をどうこうするのは難しいと思うのだけれど。



「そういうことでしたら、ここは私にお任せを。戦闘能力でどうにかなる問題ではありませんが、私を超えられないようでは望み薄でしょうし、ユノ様の極炎では呪界ごと破壊してしまいますしね」


『そう? じゃあ、任せようかな』


 また勝手に会話が進んでいく。


 よくあることではあるけれど、人間相手に無茶はしないでほしい。



「言ったな!? こいつを倒せば猶予が貰えるのだな!? 言質とったぞ!」


「よっしゃあ! 勝てる、勝てるぞ! 失言だったな――いや、これが年の功というもの!」


「若造が……。ここ(呪界)は我らがホームグラウンドぞ、しかも転移能力者ごときがこの人数を相手にできるとでも思っているのか?」


 そして、情緒不安定なお年寄りがにわかに活気づく。

 どういう根拠かは分からないけれど、パイモンさんには勝てると思っているようだ。


 それと、この中で一番の若造は私なのだけれど、あのおじさんは誰に向けて言っているのだろう?



「あちらもやる気充分なようですし、早速――」


 当のパイモンさんは、そんな雑音をまるで気にすることなく領域を展開する。


 普段はふざけていることも多い人だけれど、そこはやはり大悪魔である。

 一見して分かる領域を展開できるのはさすがというほかない。



 そうして、樹海を塗り潰すように魔界が出現した。

 もちろん、私は悪魔が生活している方の魔界は知らないのだけれど、パッと見た感じでそうと分かる――ある種のテーマパークのような領域である。


 そして、領域と一緒に出現したのが見た目にもヤバい悪魔や魔獣たちである。

 彼の部下なのかキャストなのかは分からないけれど、おもてなしの準備も万端。



「ゲンチ……? はて、どなたでしたかのう? 最近どうも物忘れが酷いもので……」


「誰だ勝てるとか言った莫迦は!? だから儂は止めろと言ったのだ! 責任取って狩られてこい!」


呪界(ホーム)魔界(アウェイ)に早変わりだと!? 転移とかそんなちゃちなものじゃねえ……もっと恐ろしいというか数が多い!」


 フジンの人たちは錯乱している。

 老化すらも使いこなしてこの場を乗り切ろうとしている人は逆にすごいかもしれない。



「側近でもここまでの領域を展開できるとは……。見誤っていましたねえ……」


「ユノさんの領域みたいに命の保証がある気がしないんですが!? あの怪物がそんな忖度をするようには見えないんですが!?」


 すめらぎのふたりも困惑している。


 この領域は私も予想していなかったものだし、柳田さんが見誤ったのも仕方がない。

 そして、清水さんの予感も正しい。

 キャストの皆さんの、雇い主のパイモンさんにではなく私へのアピールというか圧がすごい。

 きっとやりすぎる。



「いかがでしょう、私の領域は」


「……貴方らしさが出ていていいんじゃないでしょうか」


『この領域には特殊な効果が何も無い。強いていうなら敵対者に対しても地力で事足りるという傲慢さ、ただただ力を誇示する――マウントを取るためだけの領域か。ちょっと主張がくどくて気持ち悪いけど、こういうのもアリかな』


「お褒めいただき光栄です」


 ……私はともかく、朔のは褒めたのかな?


 まあ、朔の言うとおり、自身の力を誇示するだけの領域――表現を変えると、自らの力を十全に使えるという自身にのみ作用する自信に満ちたもの。

 過信でもないようだし、いっそ清々しくてとてもいい感じである。



「それじゃあここは任せてもいい? 試練がどうとかって状態でもないみたいだけれど、おかしなことにならないように――」

「ま、待ってくだされ! いけ――供物! 供物を捧げれば呪界は安定するのです!」


 もう話すこともないかと判断して先に進もうとしていたところに待ったがかかる。


 何かあるならもっと早く言って――いや、この期に及んでということはろくでもないことかも?



「ああ、わざわざ触れずにいたというのに……」


 パイモンさんはその内容を知っているっぽい。

 そして、黙っていたということは、大勢に影響がなくてろくでもないことが確定である。



「ユノ様、黙っていて申し訳ありません。実は、彼らは供物――生きている人間を捧げることで呪界を安定させられると思っているようで」


 生贄かー。

 やっぱりろくでもなかったな。



「フジンさん、貴方方は何ということを――!」


 柳田さんが抗議の声をあげる。

 もっとも、ポーズだけなのか、それとも御神苗うちの反応を気にしているのか語気は弱めだ。



「呪界を安定させるためには仕方がなかったのだ!」


「儂らとて好きでやっていたわけではない!」


「私らが生贄になることだってあったんだよ! そういうところを汲んでおくれ!」


 フジンの人たちが必死に弁解しているけれど、私に捧げたものでなければとやかく言うつもりはない。

 さすがに子供を犠牲にしているなら話は別だけれど、パイモンさんが私の不興を買うような情報を黙っているはずがないしね。


 もちろん、だからといって賞賛もしないけれど、彼らの評価等に影響を与えるものではない。



「それで、どれくらいの効果があるものなの?」


「確かに一時的には落ち着くようですが、長期的には気休め程度でしょうか。まあ、実際に見てもらった方が分かりやすいですかね」


 救えないな――って、ええっ?


 パイモンさんが流れるような動きで魔法を使って、その衝撃波でフジンの人を呪界に叩き落とした。



「ゲ、ゲン!? あんた、何しとんのじゃ!?」


「ちょっとは年寄りを労わろうと思わんのか!?」


「貴様ら、鬼か!? 人の心とか無いのか!?」


 フジンの人たちは抗議すれども反撃はしない――というか、より及び腰になった。


 もっとも、パイモンさんの領域の中とはいえ、あれだけ鮮やかにやられては実力差――というのも烏滸おこがましいけれど、気づいてしまっても仕方がない。


 そして、私の感覚では呪界が安定したとかそういう感じは一切無い。

 誤差か気のせいか――哀れすぎて言葉が出ない。



『……とりあえず、ここは任せる。回収できそうならしてくるよ』


「はっ。お任せください」


 さきのあれの後では任せていいのか難しいところだけれど……。


 まあ、私は私のやるべきことに集中しよう。

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