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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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19 フジンの人々

 まずは話し合いということで、柳田さんからフジン側担当者に「今から行く」(※拒否権無し)と連絡を入れてもらう。

 その直後、「私たちも行くことを伝えた方がよかったのでは?」と気がついたので、もう一度電話をかけてその旨を伝えてもらって即転移。



「急にそんなことを言われても困る――」

「初めまして、御神苗ユノと申します」

「……どうも、今電話している柳田です」


 そうして、柳田さんとの電話中だったフジンの担当者さんの目の前に到着。


 場所は公民館とか集会所のような施設だろうか。

 そこに大勢の人が集まっていて、ちょうど何かを話し合っていたところだったようだ。


 まあ、その「何か」は十中八九私たちのことだと思うけれど。



「動くな」



「「「――っ!?」」」


 一方的な名乗りだけで挨拶も交わしていないのに失礼かとも思ったけれど、状況を理解して――あるいは混乱して妙なことをする前に動きを封じておく。


 なお、この言葉による領域の扱いにも慣れてきたので、ターゲットの指定や心臓とか生命活動を止めてしまうようなことは滅多になくなっている。

 世界には真に完璧なものは存在しない――可能性という揺らぎが無ければ進歩とか進化も無いので、これ以上はどうしようもないっぽい。

 あるいは私が未熟なだけかもしれないけれど、恐らくは「※効果には個人差があります」というものだと思う。



「これで力の差は理解できたと思います。下手なことをしなければ身の安全は保障しますので、ひとまず話をしましょうか」


 と言ってから、「話を聞かせるだけならこのままでいいのでは?」と思い直す。



「まずは現状の説明をしますので、そのまま聞いてください。では、パイモン」


「はっ」

「「「――――っ!?」」」


 身体も動かせず声も出せないフジンの人たちが困惑しているのが伝わってくる。

 さきの言葉から解放されるのを期待していたせいか、不満とかもあるっぽい。



「質疑応答は後で行いますのでご心配なく。ただし、説明は一度しか行いませんのでしっかり聞いてくださいね」


「「「!?」」」


 混乱していて話が理解できなかった――では困るので、念押しの言葉と一緒に極炎を出して見せる。


 途端に、不満ではなく涙や鼻水とか諸々が噴出した。

 循環機能を止めていないせいだろうか。


 感情的には恐怖とか絶望しか伝わってこない。

 この工程は必要なかったかもしれない。



「ご紹介にあずかりましたユノ様(いち)しもべパイモンと申します。では、まずは貴方方が『聖地』などとよんでいるものについてですが――」


 とても話し合いをする環境ではなくなっているけれど、パイモンさんは何事も無かったかのように話し始めた。

 メンタルが強い。


 というか、さらっと外堀を埋めようとするあたり、油断も隙も無い。

 もっとも、彼らにアピールしたところでさして意味は無いのだけれど……僅かでも意味があることなら手を抜かずにやる姿勢は褒めるべきか?

 いや、可能性は無限だけれど、時間は有限だから微妙かなあ……。


◇◇◇


 パイモンさんによる状況説明はあっという間に終わった。


 まあ、富士山麓の龍穴が不安定なことと、万一の場合の被害予測くらいだしね。

 さらに、私たちがその調査にきていることを合わせても二分かかっていない。



 もちろん、それだけで納得する人はほとんどいないようだ。



 まず、最も多い勘違いが「すめらぎが御神苗を味方につけて龍穴を奪おうとしている」というものだ。


 こういった懸念が出てくる時点で、彼らが龍穴を独占したいのだと分かる。

 調査イコール排除ではないことは少し考えれば――考えなくても分かること。

 恐らく無意識だと思うけれど、そう思い込んでいるのは「自分たちが独占しているもの」という認識があるからだろう。



 次いで多い勘違いが、「龍穴に独占するだけの価値がある」というもの。


 恐らく、彼らの魔力量が平均より高いのは、何らかの方法で龍穴から力を得ているからだろう。

 そして、そのアドバンテージを手放したくないと思っているのだ。



 もっとも、これに関しては誤解を解くのは簡単である。


 私に対して富士山の龍穴がアドバンテージにならないのは、さきの極炎で多少なりとも証明している。

 また、清水さんの短期間での能力上昇も、千年近く自惚れていた彼らに対するこれ以上ない皮肉になっている。

 何より、彼ら自身が富士の龍穴よりもネコハの健康飲料の方が効果があると理解しているのだ。

 抽選申込み履歴とか登録されている発送先でバレバレなんだよね。



「んんー? 貴方方は先月もネコハコーポレーション通販サイトの抽選に大量に応募していましたよね? そういうの全部分かっているんですよ? 特にそこの貴方、ものすごく好意的な長文レビューを投稿していますよね。毎度ありがとうございます」


 パイモンさんにそう指摘された時の彼らの表情といったら……。




 そして、そこが理解させられると勘違いの最大派閥も勢いを失う。


 ここでフジン内部で意見が割れた。



 多数派は、自分たちだけのアドバンテージが過去のものになっていることを認められず、私たちを頑なに拒否する層。


「何を言われようとも富士のお山は先祖代々守り続けてきた我らが聖地! 余所者に任せるわけにはいかん!」


 彼らの主張はこんな感じ。

 ただし、極炎にビビっているのか目を合わせようとはしないし語気も弱い。



 次点で、補償次第では龍穴を手放してもいい派。


「我々にとって命よりも大切なものを手放せと仰っているのですから、それなりの補償がありませんと」


 などと供述しているけれど、自分たちが占有しているものの管理を自分たちでするのは当然のこと。

 その代行をするのだから、本来なら対価を要求するのはこちらの方になるのだけれど。



 そして、「土地や年寄りたちに縛られ続けるのは嫌だし、明渡しちゃえばいいじゃん」という少数派。


 この主張は若い人に多く――というか、拒絶派はご年配の方が多く、補償を寄越せ派は中年に多い。

 割合的には、少子高齢化の波はここでも例外ではないといったところ。



 さて、建前としては「先祖伝来の聖地云々」だけれど、拒絶派は年齢的に新しいものに触れるとかやり直しがつらいと感じているようで、補償を寄越せ派は現在と将来的な生活水準の心配が勝っている。

 一方で、特に恩恵にあずかれていなくて能力もそれなり程度でしかない若い人たちは、「お役目とかしきたりより自由を!」と歓迎ムードである。




 フジンという集団の特徴として、高齢になるほど戦闘能力が高い傾向にある。



 一般的には、魔力容量の成長は幼少期の伸びが良く、青年期以降は右肩下がりで伸びなくなるといわれている。

 アルが言うには、「おっぱいと同じで、十五歳くらいで成長限界が決まる」とのこと。

 なぜおっぱいに例えたのかは分からないけれど、それと同じく例外になる人もいるし、やはり同じように健康状態や加齢などで萎んだりもする。

 ……なるほど。

 例えとしては優秀なのかも?



 ちなみに、これに私の視点で補足するなら、幼少期に魔力の伸びが良いのは、良い意味で自分の限界を知らない(可能性に満ちている)からだと思う。

 しかし、歳――というか、経験を重ねて自身や世界をはっきりと認識していくと可能性も定まっていくので、それ以前と比べて魔力の伸びも鈍化するのだ。


 もちろん、「鈍化」であって「停滞」とか「減退」ではないので、訓練次第では伸ばす余地もある。

 自身の限界を追求し続けている人とかは伸び続けると思うし、妹たちにも挑戦し続けることを意識させているのできっと問題無い。


 それに、私のように根源まで認識できるようになると、そもそもの「魔力容量」に意味が無くなる。

 もう私自身が魔力というか魔素だからね。

 アルの好きなおっぱいに例えると――おっぱいの先駆者――()()オニアか!



 ……さておき、一般的には青年期以降は魔力容量を伸ばしにくくなるけれど、青年期以降でなければできない――あるいは非推奨な魔力容量増加手段もある。

 これもアルの大好きなおっぱいに例えていうと、「豊胸手術」とかそんな感じの外的要因によるものだ。


 具体的な例としては、ネコハの健康飲料がそれ――いや、あれは例外かな?

 あれは幼少期の子に与えても害は無いはずだしね。


 しかし、幼少期に豊胸手術を受けるような子がいないのは、未成熟な心身にはそれが負担にしかならないからだ。

 栄養価の高い蜂蜜が一歳未満の乳児にとっては毒となることがあるとか、異世界でも低年齢での魔力回復薬マナポーション使用が非推奨だったりと、心身が成長していないと受け入れられないこともあるのだ。




 とにかく、フジンの人たちにとっての外的要因が龍穴にあることは間違いない。

 というか、そこは彼らも否定していない。


 その詳細については語りたがらないので分からないけれど、興味も無いのでどうでもいい。


 ただ、その恩恵にあずかれるのは一定以上心身が成熟してから、その後も更に段階があるとか継続的に伸ばしていけるとなると、能力の高い人はどうしても高齢者に多くなってしまう。

 その結果、性質たちの悪い年功序列みたいになっているのだろう。

 それが若い人たちが離反しようとしている理由だろう。



 お年寄りたちは優先的に恩恵を得ることで能力を増強、あるいは維持し、若さを保つ。

 もちろん、不老不死になるわけではないのでいずれは死ぬけれど、その後釜に座るのもお年寄り。


 力のあるお年寄りは、自分たちもそうされたように、その座に就いた特権とばかりに若い人たちこき使う。

 若い人たちには不満が溜まるけれど、逆らっても返り討ちに遭うだけだし、秘密を抱えている以上逃げることも許されない。

 もちろん、敢行することは可能だけれど、リスクが高すぎる。

 それでも、ほかの組織の平均よりは強いことや、いずれは自分たちにもその番が回ってくる――と、無理矢理納得させていたところに前提を崩す事態が起きた。



 若い人たちにとっては、何十年後かの特権――あるかも分からないものと引換えに自由が得られる大チャンス。


 お年寄りにとっては、特権と都合の良い労働力を同時に失う大ピンチ。


 その中間層にとっては、生活水準を守るためにはどちらに味方するべきなのかを見極めなければならない重要な局面。


 なので、それぞれ必死になるのは理解できる。


 ただ、私たちとしては、そういう話をしにきたのではないのだけれど。

 どこで間違ったのかなあ……。

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