表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
667/725

18 龍穴

 考えが甘かった。

 というか、状況が悪すぎて甘っちょろいことを言っている場合ではないっぽい。


 聞けば聞くほど私でなければ不可能な案件――私でもどうすればいいのか分からないけれど、どうにも地球規模のことなのですめらぎとかの手に負えないのは仕方がない。

 なので、どこまでやるか、どこまで許容できるか、対価をどう設定するかの問題である。


◇◇◇


 まず龍脈や龍穴というのは流派によって定義が違うので、細かいことは置いておく。

 大雑把にまとめると、龍脈は大地とか星の魔力が流れる道で、龍穴はそれが集まっている場所だと思えばいいらしい。

 それ自体の良し悪しも今は置いておいて、結局はそれをどう使うかが重要で――魔術師界隈ではそのための道具ツールや制御装置を「要石」と呼称しているそうだ。



 今回問題になっている龍穴の場所は、日本人なら誰もが知っているであろう日本最高峰。

 独立峰の活火山で山頂部には神社まである――と、龍穴ができるとか成長する条件が私の推測どおりならこれ以上ない逸材である。


 ただし、今回の件においては表向きの富士信仰とか浅間せんげん信仰は関係無いらしい。

 いかにもいわくありげな存在だけれど、そんな目立つ立場で闇払いの仕事をこなすのは困難を極めるのだろう。




 柳田さんたちを襲ったのは、千年くらい前から闇払いに従事にしていた【フジン】という集団だ。

 その名称と縄張りからから「富士」と関係しているのは分かるけれど、「ン」がどこから来たのかは不明。

 よくある「訛り」にしてもそんな変化をするかな……?

 なぜか微妙に引っ掛かるけれど、それも今回の問題には直接影響するものではないので置いておく。



 柳田さん――というか皇の目的は、フジンが管理しているという要石の確認だった。


 彼らにとっては神聖なそれを部外者に触れさせたくない――という気持ちは分からなくはない。

 しかし、樹海――というか()()とでもいうような危険な領域が発生している状況では皇も簡単には引き下がれない。


 一応、フジン側は「知らずに呪界に迷い込むことがないように結界が張られている」とか、「要石は適切に管理されていて呪界との関連性は無い」と主張している。

 客観的には、前者は事実で、後者は未確認。

 したがって、皇としてはそれを鵜呑みにはできない。


 だからといって実力行使に出るわけにもいかない。

 基本的に、彼らは友好的な組織である上に大きな力を持っている。

 つまり、協力的な強力な組織ということ!


 ……そんな組織と敵対するのは皇にとって得策ではない。

 過去には彼らのおかげで助かった案件もあるし、多少のことには目を瞑ってでも友好的な関係を維持しなければならないのだそうだ。



 一方で、フジン側も頑なに拒絶して資金等の援助を打ち切られるような事態は避けたいのだろう。


 そこで、「呪界に呑まれてしまわないレベルの魔術師のみ」「何があっても責任は問わない」などの条件の下でなら――と呪界の調査を認めた。

 もちろん、生存能力と戦闘能力、それと調査能力も別ものだけれど、さきのふたつを持った人がいないと呪界内で調査する人を守ることもできない。

 余計な被害を出さないためにも、まずは最低限の能力があることを証明しろ――という趣旨らしい。



 もちろん皇も何度か挑戦してみたものの、その前哨戦であるフジンの戦士との試合で敗れてばかり。

 というか、そこで勝てる算段があったからそんな許可を出したのかもしれない。


 悪魔たちの調査では、皇の戦闘員の平均的な戦闘能力を100とすると、フジンのそれは250くらいで高い人だと500――と、ちょっと勝負にならない感じらしい。

 なお、この数値化は悪魔たちの主観によるもので、一般成人男性の平均が20くらいで、それに拳銃を持たせると70くらいと判断に困る感じである。

 武装次第ではフジンの人も危ない――だから殊更強気には出られないのか?



 そんなところに、私の講習を受けた清水さん(戦闘能力387)が善戦した。

 善戦止まりなのは対人経験の差だろうか。

 横着せずに間合い操作も教えておくべきだったか?


 さらに、柳田さんが「本番では御神苗さんにも手伝っていただく予定ですので、どうか許可を!」とか言ったせいで、どう足掻こうが負けないと高を括っていたフジンのお偉いさんたちは大慌て。

 急遽慣れない妨害工作に走った――ということらしい。


 私自身には特に嫌がらせとかは無かったけれど――家に届いていた差出人不明の「聖地に手を出すな」「お願いですから手を出さないでください」「一生のお願いです!」の手紙は彼らから?

 聖地に心当たりが無いから悪戯かただの怪文書だと思っていたよ。

 聖女にならいっぱい手を出したけれどね。

 そっちは抗議を受けていないどころか「もっとやれ」と言われていたくらいだしね。


 しかし、妹たちを襲撃したのも彼ららしい。

 よし、ぶっ殺すか。

 聖地がどんなものかは知らないけれど、地獄が現実にあることを教えてやる――といいたいところだけれど、少なくとも実行犯はみんな自害している。

 それに、首謀者まで連座制にするにしても調査が必要だし、残念ながら呪界の対処の方が先なので、ひとまず後回しにしておくしかない。



 さて、条件はクリアできなかったとはいえかなり際どかったところに勝手に私の名前が出されたものの、フジン側の対応は表面的には変わらず。

 むしろ、私の悪行を列挙して、「そんな危険人物を要石に近づけるわけにはいかない!」と反発を強めた。


 しかし、皇側も「御神苗さんにはいろいろと協力もしていただいている。うちの清水を短期間にここまで鍛え上げたのも御神苗さんだ。そもそも、法に抵触する、あるいは倫理的に問題があることをしているのは我々も同じ」と私を擁護。

 それにフジンが「そんな奴が龍穴を支配するとどうなるかも想像できないのか!」と反発し、皇――というか柳田さんも「御神苗さんくらいになると、龍穴なんかに興味無いわ!」ともう擁護というよりただの味方撃ち(フレンドリーファイア)が飛び出し、更に「日本一の富士龍穴だぞ! 莫迦にすんな!」「健康飲料に負ける龍穴(笑)」と口喧嘩に発展。


 そのまま喧嘩別れでもしていてくれればよかったのだけれど、私が上級国民にお灸を据えたり百鬼夜行退治に協力したのを自分の手柄かのように柳田さんがマウントを取りにいったのがフジンの危機感を煽ったか、それで彼らの行動がエスカレートしていったようだ。



 ただ、妹たちには返り討ちに遭って、私にはメッセージすら届かなかった。

 そこまで強硬に拒絶するということはやましいところがある証明のような気がするけれど、この程度のぬるさなのは迷いがあったからだろうか。


 そうして対応が定まらないうちに柳田さんがテレパシー系能力に目覚めて、彼らが調査に応じる気が無いことが発覚。

 さすがに詳細までは分からなかったそうだけれど、正論暴論織り交ぜて強気に交渉していたら襲われた――ということらしい。


 ……半分以上柳田さんのせいではないだろうか?




 しかし、フジンそのものや彼らが管理しているという要石は、悪魔たちの調査対象にもなっていた。


 その調査によると、フジンという組織は決して悪性のものではない。

 さきの報告にもあったとおり能力値の平均は高く、時として皇や他組織の応援として闇払いに参加することもある。


 ちなみに、今年の百鬼夜行退治に参加しなかったのは、御神苗うちが参加していたからだそうだ。

 私たちの能力には興味があるようだけれど、既に皇との交渉中だったこともあって、直接会っての脅迫とか懐柔を嫌ったのだろう。


 とにかく、彼らの高い能力の理由が富士の龍穴にあることはまず間違いない。

 調査を拒絶しているのは、「独占しておきたい」という理由もあるのかもしれない。



 ただ、悪魔たちの調査でも要石を見つけられていない。

 調査能力とか粗探しに定評がある彼らでもとなると、相当なものと判断せざるを得ない。


 だったら呪界にあるのかもしれない――と考えるのは当然のこと。

 関係者以外立入れないような魔術が仕掛けてあったそうだけれど、悪魔たちの目を欺けるほどのものではない。


 そうして呪界の調査も行われることになったけれど、その役目を負った調査員は呪界に入ったきり帰ってこない。

 殺されたか、呪界に囚われたか――戦闘や死体などの痕跡が無いので恐らく後者だと思われるけれど、時空魔法の適性が高い調査員が帰ってこれないとなるとやはり相当なものだ。


 パイモンさん曰く、「さすがの我々でも星の力には敵いません」とのこと。

 それでも当たりをつけるとするなら、「呪界――領域内部の時空が転移不可能なレベルで歪んでいるのでかもしれません。程度によっては私でも囚われてしまうかと」とのことだ。

 そして、その場合は私以外に調査できる人がいない。

 ほかがどれだけ歪んでいたとしても、私が私を諦めない限りは歪むことはないからね。


 ただし、私の調査能力がゴミ以下なのも事実である。

 恐らく、朔に期待しての人選だと思うけれど、私が動かなくてはいけないのは確定――いや、放置という選択肢もあるのでは?



「ちなみに、私の見立てでは領域強度は上の下、精度は中の下でした。決して安定しているとはいい難く――安定していたとしても、人工物で千年近くも持続するのは『神の領域』といっても過言ではありません。正直なところ、龍穴の力を上手く利用しているとしても人の手でなしたとなれば奇跡というほかなく、いつ破綻してもおかしくありません」


 まあ、「上の下」とか「中の下」などと言われてもよく分からないのだけれど、問題は「破綻するとどうなるか」だね。



「破綻するとどうなるかは予測できません。想定される最悪は、瘴気、若しくは澱んだ魔力で広範囲が汚染され、その余波で富士山が噴火。その火山灰や火砕流に乗って更に魔力汚染範囲が拡大して、首都圏にも甚大な被害が発生するでしょう。被害規模は算定不能――国家機能停止からの闇災害多発で日本という国家が消滅する可能性もあります」


「大惨事じゃないですか!? なぜもっと早く教えてくれなかったんですか!?」


「まあ、教えたところでどうにかなるものではないですし、その最悪でも我々は生き残れますから」


「「……」」


 そんな目で私を見ないで。

 私も知らなかったんだよ。



「それに、そんなに心配しなくとも、下手に手を出さなければ十年やそこらで破綻することはないと思われますので」


「そういう莫迦をやらかすのがいないとは言いきれないでしょう!? 人間の愚かさなんて歴史が証明しているじゃないですか! それに、そういうリスクがあるというだけで他国組織からの脅迫材料になり得るんですよ!?」


「ああ、その心配は不要です。富士で起きた魔力災害は龍脈を通じて各地にも伝播しますので、どこもそれどころではなくなります。ははっ」


「笑いごとじゃないですよ!? 日本だけじゃなくて世界的な危機じゃないですか!」


 とまあ、こんな感じで思っていたより大事おおごとだった。



『私たちには影響ないかもしれないけど、そんな未来は望んでないしね』


 そうだねえ。


 人間が自らの意思で滅びを選ぶなら仕方がないけれど、今回はそうではない。

 それもよくあることといえばそうだけれど、さすがに被害規模が大きすぎるというか、自覚の無い一部の人の暴走で世界が滅ぶのはさすがに阻止したい。

 それか、いっそのこと全部バラして世界的な問題にするか――は、駄目かな。

 混乱に加えて時間的な制限もあることから、自暴自棄になる可能性を否定できない。


 なので、もう皇の依頼を待っている状況でもない。


 最悪は強硬手段になるとして――その前に選択の機会くらいは与えてみるか?

 多少なりとも――情報提供程度でも「人間が協力した」という実績のようなものが欲しいし。

 それが何の役に立つかは分からないけれど、可能性を残すという意味では無いよりはマシだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ