表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
666/725

17 神の作り方

 帰宅してしばらくすると、パイモンさんから「柳田たちを回収しました」との報告があった。


 彼が出発してから一時間弱のことである。

 姫路さん用の夕食を作ろうかと思っていたのだけれど、下拵えくらいしかできなかったよ。


 仕事が早いのは結構なことだけれど、作りかけのこれはどうしようか。



 さておき、パイモンさんの方はというと、本来なら移動だけでもヘリコプターで片道一時間以上のところを、お得意の転移魔法を使って時間を短縮している。


 本来なら超長距離転移も隠しておきたい手札――戦力の秘匿ではなく必要以上に恐怖とか警戒されないためにだけれど、今回は柳田さんたちの安全を確保するのが優先なので致し方ない。

 もっとも、そういった能力があること自体は明らかにしているのでそこまでの混乱はないと思うけれど、実際に見るのと聞いただけのものでは印象が違うだろうし、最悪は洗脳することも考えなければならない。

 といっても、そのあたりの線引きや実務は悪魔がやるので、私の手間にはならないけれど。


 とにかく、柳田さんたちが生きている間に保護できた。

 その後、対象周辺の安全を確保してひとまずの任務完了。

 というか、襲撃者は深追いをしなかったようで戦闘などは発生しなかったそうだ。


 また、この報告をする時点で、簡易なものではあるけれど調査もひと通り終えているとのこと。

 非常に優秀だといわざるを得ない。


 さきのひと幕がなければなあ……。


◇◇◇


 それから十分ほどして柳田さんたちと合流した。


 パイモンさんには彼らを安全な場所に届けるようにお願いしていたのだけれど、この世で最も安全な場所は私の側で、清水さんが負傷していて任務の継続が困難とのことでうちに来ることになったのだ。

 面倒な話は私のいないところでやってもらいたかったのだけれど……。



 ちなみに、清水さんの負傷は左前腕の骨折だった。

 一応は私の教えを受けたのだし、それくらいは気合でどうにかしてほしかったところである。

 エリザベスさんは一日に何回も骨折していたけれど頑張っていたよ?



「ご迷惑をお掛けしました。実は――」


 そして、私の「面倒な話は聞きたくない」内心を無視して話し始める、テレパシー系の能力に目覚めた柳田さん。

 もっとも、私の心のうちは読めないようだけれど、社会人なら雰囲気で分かると思うよ?

 あるいは分かっているからこそ強引に切り出したのか?



「襲撃を受けたのは本日の十五時三十分頃、御神苗さんにお願いしようと考えている案件で、関係者との交渉の帰りでした。ご想像のとおり、襲撃者はその関係者でして――もっとも、組織としては『過激派の暴走』ということにしたかったようですが、ほら、私テレパシー系の能力に覚醒したじゃないですか。まあ、相手の考えていることがハッキリ分かるものではないですし、それを証明する手段も無いわけですが、確信は得られました。彼らは――」

『力を得て浮かれてるのは分かったから、要点だけを』


「……申し訳ありません。その前に、御神苗さんの認識では龍脈や龍穴、要石かなめいしとはどのようなものでしょうか?」


 ……おおっと、話が長くなりそうなので朔に任せようとしていた矢先に突然の質問が。

 しかも、意図がさっぱり分からないものである。

 素直な感想としては「また竜か」だけれど、そういうことを聞きたいのではないだろうし?



『特に意識したこともなかったけど……確かにそういう場所はあるね』


 いわゆる「パワースポット」とか「聖地」とか、八割方は名ばかりけれど、実際に何らかの力が働いている場所は確かに存在している。


 最近では夏に行ったイベントの聖地だろうか。

 ……いや、あれを「聖地」というのは語弊がある?


 とにかく、善悪正誤は別にして、人の欲望を刺激する何かがある場所だった。



『でも、魔力の本質とか世界の在り方を考えると、あれだけ局地的なものは道理に合わない――世界の魔力の大半が人間の目には見えてないだけだとしても偏りすぎてる。物質や形状によって魔力伝達率が違ってくるのも事実だけど、それでは説明がつかないものも多いようだし……』


 人間の意識がそう形作っているのだと思うよ。


 魔術師さんたちが百鬼夜行を強化していたのと同じで、特徴的なものを信仰したり畏れたりし続けたのが世界に焼きついたのだ。

 もしかすると、創造者の認識が作用して最初からそう創られたのかもしれないけれど、それを維持・発展させたのはそこで生きている人たちだと思う。



『なるほど。人間が目に見えるものに意味を与えて歪な神を創り、目に見えてない可能性(かみ)を殺してる――そう考えると面白い』


 その表現は、ちょっとポエミーで正確ではない――というか、かなりの補足が必要になると思うけれど、「そういうところはあるよね」と納得できるものでもある。


 人間は長く連なる尾根を見て「竜の背に見える」だとか、狭い洞窟とかを産道に見立ててそこを通っただけで生まれ変わった気になるとか、いろいろなものに意味を見いだす。

 そして、本当に特別な場所にしてしまう。

 そういったものが一概に悪いわけではない――想いを形にできるのは素晴らしいことだけれど、悪い方向にも作用することもあるし何でもかんでもというのは感心しない。


 地球を人間に例えてみると、鼻筋とか耳の孔とかに魔力が集まったりしないよね?

 ……いや、待てよ?

 トシヤがお尻から魔力を出したり入れたりするのを見たことがあるぞ!?

 おのれ、変態め。ここでも例外として立ちはだかるか!


 まあ、それも人間が神を創るのだという証明になるのかもしれない。

 お尻から産まれた神にはご愁傷様だけれど。



『…………』

「…………」


 それはさておき、何が朔の琴線に触れたのかは分からないけれど、何やら思索を始めて沈黙してしまった。

 そして、柳田さんたちは私の答えをじっと待っている。


 途中でぶん投げられても困るんだよね。

 あ、先にぶん投げたのは私か。


 仕方ない。

 自分でどうにかするか。



「さて、世界ができた時がどうだったのかまでは分かりません。それでも、現在の状況は百鬼夜行と同じく人間が作ったものだと思います。百鬼夜行との違いは、利用可能な状態にある――いや、百鬼夜行も利用しようと思えばできるし……? うん? できない方がいいのか?」


 力自体は使い方次第なので善悪を論じるのはナンセンスだけれど、制御しきれない力に振り回される人間はいつの世にもいるものだ。

 チャレンジ精神もいいのだけれど、大した根拠も無い人のはギャンブル――負けが確定しているのは自滅というべきか。

 奇跡的に上手く使えたとしても、そんな幸運がいつまでも続くことはない。

 結局、その後のことを考えると、地道にやるのが一番の近道だと思う。


 ……あ、まさか、既にチャレンジ失敗か、それに近い状態のものがあるのか?

 その尻拭いを私にさせるつもりなのか?



「私にとっては利用価値が無いものですので、それに対してどうこうしようとは思っていなかったのですけれど……。全ての龍脈や龍穴とかをどうにかするのは、人類を滅亡させて世界をリセットするくらいにやらないと無理ですね。局地的なものなら――ケースバイケースでしょうか」


「……対処できるのですか?」


 手段を問わなければいかようにも――だけれど、さすがにそんなことを堂々とは言えない。

 それでいいなら私を頼ってくる意味が無い――彼らでも可能なのだろうし。



「ですから条件次第です」


 それでも安請け合いはしない。


 本当に危険なものなら悪魔たちから報告なり警告なりがあったはずだし、恐らくそこまで差し迫った状況ではないはず。


 というか、私としてはよく分からないものに手を出したくないというのが正直なところ。

 ただでさえ加減が難しいのに、基準まで分からないものを持ってこられても困るのだ。


 襲撃者の素性や武力行使に至った理由など無視して潰してもいいなら楽なのだけれど、ただの権利争いだったりした場合はもっと困ったことになる。

 別に「正義の味方」を名乗りたいわけではないけれど、自身の行動には相応の理由を持ちたいものだ。



「条件というのは……? まだ関係者間での話がまとまっていませんので、私にはその先の権限がありません。御神苗さんに協力していただくつもりでやってきたのは事実ですが、組織として報酬などの話はまだ……! もちろん、私にできることなら何でも――」

「いえ、そういう条件ではなくて」


 イケメン気味とはいえ妻子あるおじさんの「何でも」はあまり嬉しくないな。

 変な勘違いと覚悟をされる前に正しておこう。



「どういう解決を望んでいるか――希望とか最低限のラインとかです。もちろん、全てそのとおりとはいきませんし、対価はきっちり頂きますので」


 現金や現物での対価は使いきれそうにないので必要ないし、置き場所に困るような物を貰っても困るのだけれど、無報酬で仕事をするのは禁じられている。

 契約に厳格な悪魔を通していることもあるけれど、私たちが廉価で仕事をしたりすると失業する人が出てくるかもしれない。

 そうして職を失った魔術師が、魔術を捨てて堅気の生活に順応できるかは難しいところで、悪魔たちの予測では六割近くが傭兵や犯罪者になるとのこと。

 NHDを叩いてそういった人たちを牽制したとはいえ、魔術師であることに誇りを持っていてほかの生き方を知らない人がいなくなるわけではない。


 恐らく、柳田さんたちを襲ったのもそんな人たちなのだろう。

 皇や公安などでそういった人たちの受け皿を作るとかすれば解決したりしないだろうか?


 彼らの話を聞いた後になるけれど、そういった方向に話を持っていってみるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ