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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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16 マリア様もみてる

 エリザベスさんの魔法少女化計画といっても、大半の魔法少女が標準装備している戦闘技術を教えるわけではない。

 それは確かに彼女に不足しているもので、ゴチャゴチャ言っている間に殴り倒した方が被害が少なく済むこともあると思うけれど、それなら「魔法」の部分が重火器でも鈍器でも構わないし、そもそもが少女である必要も無い。

 厳ついおじさんに拳骨げんこつ食らって説教されるより、可愛い女の子に「マジカル」とは名ばかりのお仕置きをされたい人が多い――ということなのだろうか。


 とにかく、彼女の回復系魔術の適性や健康飲料(ポーション)製造能力は、戦闘とは無縁の性格に由来していると思われる。

 なので、現状で下手に戦闘力を与えてしまうと彼女の良さが失われてしまうおそれがあるのだ。

 もしかすると、運動神経の悪さが影響しているところもあるかもしれないので、むしろ教えない方がいい。



 ちなみに、アイリスも運動神経は悪くて戦闘が好きではないけれど、彼女の愛は非常に攻撃的で、「恋愛は戦争」と思っているからかさほど影響は無かった。



 さておき、この件は教会関係者にも伝えておいて、このまま不器用でいてもらおう。

 多様性が尊重される時代だし、ひとりくらい戦闘能力皆無で逃げ足だけは速い魔法少女がいてもいいだろう。




 そうして、エリザベスさんに本来の予定どおりに霊薬作り――魔力の扱い方を教えていると、ギャラリーが増えた。


 理由は恐らく私と彼女の距離感が以前よりも近く、物理的な接触も増えた――仲睦まじく見えるからだろう。


 実際のところは、「エリザベスさんの身体に触れると同時に軽く侵食し、彼女がそれに抵抗する」という訓練をしているだけである。

 訓練は漫然とやっていても大した効果は望めないので、適度に緊張感を持ってもらうのが目的だ。



 ただ、今回の侵食では朔のガス抜きも目的としているため、痛みや恐怖ではなく快楽を与えるようにしている。


 朔が言うには、『痛みには耐えられても快楽には抗えないものなんだよ』とのことで、半信半疑ながらに試してみると思いのほか効いた。

 もっとも、痛みや恐怖は生存に必要なもので、快楽は生きる目的というか喜びになると思うと当然の結果なのかもしれない。


 しかし、『このまま訓練したらこれも克服するかも』とのことなので、趣向を凝らしたり緩急をつけたりが必要になる。

 面倒くさい。


 とはいえ、上手くいけば湯の川の訓練にも革命が起きるかもしれないので頑張ってみようと思う。

 ……起こしていいのかな?


 いずれにしても、件の魔法少女ものの内容そのままなので、子供たちには見せられないけれどね。



 さて、魔法少女が相手ではないけれど、反応が初々しい聖女を玩具にできて朔も楽しそうだ。


 実行している私には「世間体」というリスクがある――と思っていたのだけれど、教会という組織はセクハラに寛容なのか、咎められるどころか「仲良きことは美しきかな」と応援される始末である。



「御神苗さんのこれまでの行いに間違いがあったでしょうか? エリザベスさんも嫌がっていませんし、それが答えです」


 神父さんはネコを被っている私を完全に信用していた。

 人を見る目がないな。

 悪い女の人に騙されたりしないかと逆に心配になるよ?



「私には分かっていますよ。御神苗さんは若くして聖女として認められた彼女の孤独を察して――過激なスキンシップはそれを埋めるためのものでしょう」


 理事長さんには何が分かっているのだろうか。

 エリザベスさんの真の所属すら知らないのだから仕方がないとはいえ、「セクハラで孤独を埋めている」という結論に至った理屈が分からない。



「うちの姉がエロすぎる……。転性したら淫婦だった件? インプっていうかサキュバスかも?」


「これが薄い本で鍛えた成果ですか。本人に性欲が無いところが余計に性質が悪いですね」


「レティ、ここで『タチ』とか言っちゃ駄目」


「えっ!? そんなつもりじゃ!?」


 ……妹たちにはこんな姿を見られたくなかったけれど、湯の川で過ごすようになれば時間の問題でもあったし、前倒しになっただけと割り切ろう。


◇◇◇


 そんな平和な時間にも終わりの時がやってくる。


 切っ掛けはすめらぎの柳田さんからの一本の電話。

 いつものようにエリザベスさんを弄っていた時にかかってきて、バイブレーションに驚いた彼女が鳴った。



「そんな固くて大きい物を振るわせるなんて酷いです!」


 エリザベスさんが何を言っているのかはよく分からないけれど、本来ならアルか悪魔たちを経由するはずのものが直接きたというだけで非常事態だと分かってしまう。



「突然申し訳ありません。いつもの窓口にもアルトさんにも繋がらずに、少々緊急だったもので……」


 などと柳田さんは恐縮しているけれど、アルとセーレさんは湯の川でのクリスマスイベントの準備で異世界に帰っている。

 当然、電波は届かないので連絡がつかないのは仕方がない。



 ちなみに、湯の川のモットーは「汝のなしたいようになすがよい」である。

 もちろん、さすがに完全に自分のしたいことだけをやっていては生きていけないというか社会が成立しないので、そういったものをきちんと認識しようという話である。

 不自由なのは仕方がないけれど、せめて義務とか責任とかに縛られて自分を見失ってしまわないように。



 ただ、それでは大掛かりなイベントを成立させるのは難しい。


 私としては、頑張っている人たちへの応援代わりに節目節目に歌ったり踊ったりするくらいは仕方がないと思っているけれど、さすがにひとりひとり個別にするつもりはない。

 やるとしても、特別な人の前だけにするべきだろう。


 それと、企画立案とか設営までは関与しない。

 そういったものが準備できていないとか不足があれば相応のパフォーマンスで済ませるつもりだ。



 そのあたりはみんなも理解しているというかわきまえている。

 そして、最高の舞台を準備するためには努力だけではどうにもならないことも理解している。


 自分の家とか公共設備なら「いつか完成するだろう」とか「最低限使えればいいし、必要ならその都度改修すればいい」となるのだけれど、私の物となると最高のものでなければ気が済まないらしい。

 どうかしているね。



 そこで頼られるのが、実績もあってリーダーシップもあるアルである。

 それに、アルやアイリスの要求なら多少無茶なものでも通ると思われているところもあるかもしれない。


 そんなわけで、アルは湯の川で陣頭指揮を執っていて、セーレさんは随分前からその物資調達を担当しているらしい。

 現場を見ているわけではないし、特にセーレさんとは顔も合わせていないので詳細は分からないけれど。

 とにかく、連絡がつかないのは当然である。



 それでも、パイモンさんはこちらに残っていって、彼が取次ぎをする手はずになっていたのだけれど……。

 まあ、本当はアクマゾンのお偉いさんらしいし、現在はセール期間(ブラックフライデー)中で忙しいのかもしれないけれど。

 それならそれで言ってくれればいいのにね。



「タイミングが悪いとそんなこともありますし、気にする必要はないですよ。それよりも、何かお困りごとでも?」


 いずれにしても、「かけ直せ」と切捨てるわけにもいかないので、セクハラは朔に任せて私は会話に集中する。


 ……あれ?

 役割が逆では?

 いや、私もセクハラが得意なわけではないけれど。


 まあ、いいか。



「ええ、実はつい先ほど私たちも襲撃を受けまして……。いえ、清水が守ってくれたのでどうにか逃げ切れましたが――御神苗さんも息が荒いようですが、もしかしてそちらでも?」


「いえ、私の方は問題ありません。というか、私は呼吸をしていません」


 エリザベスさんの乱れた吐息が聞こえちゃったか。

 というか、なんだか興奮していない?

 新しいプレイとかじゃないよ?



「それで、襲撃を受けたというのは?」


「現在進行形で襲われてます!」

「エリザベスさん、ステイ」


「ぐえっ!?」

「は? え、やはりそちらでも――」

「彼女のことは気にしないでください」


 話の腰を折るエリザベスさんの首を絞めつつ――この人、ちょっと喜んでいない? もうそんな階梯に?


 とにかく、音声だけではこちらの状況を把握できずに困惑しているであろう柳田さんに先を促す。

 まあ、こんな状況を説明できないしね。



「……分かりました。とりあえず、そちらは大丈夫なのですね。詳細は電話で話すようなことではないですし、会って話がしたいのですが……その、できれば救援に来ていただけると有り難いのですが」


『分かりました。手配します』


 皇とか公安の応援では駄目なのか――という疑問はあるけれど、朔が答えてしまった。

 朔なりの考えあってのことだと思うので異議を唱えるつもりはないけれど、その「考え」を教えてほしい――いや、どうでもいいか。

 また悪魔たちに動いてもらうだけだし。



「少し用事ができましたので今日は帰りますね」


「そんな!? ここまでしておいておあずけなんて……! 私、どうにかなっちゃいそうです!」


 ……エリザベスさんはどうしてしまったのだろう?

 やはり、加減が分からない快楽責めは危険だったのではないか?



『その想いを霊薬作りに向けるんだ。上手くできたらご褒美をあげるよ』


「はいっ! 頑張ります!」


 あれえ?

 なんだか上手くいっている?


 よく分からないけれど、まあいい。


◇◇◇


 ひとまず、パイモンさんに連絡を――って、繋がらないのだったか。


 だったら――って、いるじゃないか。


 姿や気配を消した上で物陰に隠れ、こっそり私を撮影していたパイモンさんを見つけた。

 向こうもバレたことに気づいて焦っているけれど、野次馬に紛れて悟らせないようにしていたとはなかなかやる――と賞賛してあげてもいい。

 まあ、何を何のつもりで撮っていたかによるけれど。



「我々ソフト百合原理主義にとって、それ以上に重要なことはこの世界に存在しないのです。ゆえに、柳田など放っておいていいかと思うのですが……。しかし、ユノ様たっての願いとあれば仕方がありませんな」


 パイモンさんはそう供述すると、柳田さんたちの救援に向かった。


 というか、なぜ私が無理なお願いをした感じになっているのだろう。

 釈然としないけれど、実害が出ていないならまあいい。

 追及しても躱されるだけだしね。



 それに、仕事自体はキッチリやる――いや、仕事をサボって盗撮していたし……?

 ソフト百合とやらが絡まなければ大丈夫だと思うけれど……?


 まあ、柳田さんたちも無能ではないし、戦闘以外でなら自衛もできるだろう。

 そういうことにしておこう。

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