表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
664/725

15 クラスチェンジ

 私が放課後をエリザベスさんと過ごしていることは誰にも隠していない。

 というか、領域でも展開しないと隠しようがない。

 なので、訓練やそれに関係する言動を一般人にバレないようにする必要がある。


 もっとも、完全に人目の無い状況というのはなかなかないもので、ちょっとした機会があれば電撃を――現在では指弾も交えて攻撃している。

 もちろん、粉砕してしまわないように手加減はしているし、弾くところを見られず、射線に気をつけて、パチンコ玉はすぐに回収すれば証拠は残らないので問題は無い。


 しかし、以前にもましてリアクションが薄くなっている。


 先日の訓練内容についての話の後、「意識の高い御神苗さんなら電撃受けても効かないっていうんですか!?」などと分かりきったことを抜かすので、実際に効かないところを見せてあげたのが刺激になったのだろうか。

 そもそも、私に電撃が効かないのは「意識が高い」からではなく「純粋」だからだ。

 貴女に電撃がよく効くのはそれだけ不純ということ――と教えてあげたのもよかったのかもしれない。


 とにかく、人を動かすには「やってみせ、言って聞かせて――」というのが重要なのだろう。

 そして、それに倣うなら次のステップは「褒めてあげる」ことだ。


◇◇◇


 元より金の聖女(エリザベスさん)銀の天使(わたし)がいる教会と評判になっていたところ、何かある(私が攻撃する)たびに転んだり持っている物を落としたりする聖女は知らないうちに「ドジっ子属性持ち」と認識されていた。

 そして、それを優しくフォローしているように見える私は「ママ属性の化身」ということになっていた。


 意味が分からない。

 とはいえ、聖女とか天使よりはマシか。



 さておき、痛みに耐えたり傷を癒すことはできても、慣性や衝撃までは消せないのが現在のエリザベスさんの限界だ。

 もっとも、そこまでできるなら訓練の必要はもう無いのだけれど、意識の低さの改善にはまだまだ時間がかかりそうだ。


 そして、現在の方針は「褒める」ことである。

 それも、飴と鞭の「飴」に相当するもの――つまり、「幸福感」とか「快感」を与えるものでなければならないのだ。



 現在のエリザベスさんは、電撃を受けた際の瞬間的な筋肉の麻痺や指弾の衝撃までは消せずに、転んでしまったり持っている物を落としてしまったりする。

 それでも、特にダメージを負ったりはしないし、負ったとしてもすぐに回復できる。

 防御力とか耐久力という面では及第点である。


 しかし、それを目的に訓練しているのだから、できて当然のことを必要以上に褒めても仕方がない。

 それでいいなら「あんよが上手」とかでもいいのだから。


 なので、「二次被害を出さないなんて優秀ですね」などと無理矢理褒める。

 さらに、ご褒美として撫でてあげたり抱っこしてあげたりマッサージしてあげたりとサービスもする。


 多くの子供――時には大人をも骨抜きにする私のサービスは、エリザベスさんにも効果は抜群だ。

 口では「嫌です」「駄目です」などと言うものの、抵抗は一切しない。

 身体は正直である。



 ただ、傍目にはその光景がとても仲睦まじいものに見えるらしい。


 それが噂になると、どんなものかと見にくる人が増える。

 教会という場所柄か行儀の悪い人は少ないけれど、訓練の邪魔になって仕方がない。




 さらに、家の人に何か命じられたのか、魔術師三人組が遠巻きに監視してくるようになった。


 エリザベスさんは、界隈では今や有名人みたいだし、注目されるのも仕方がない。

 ――と、最初はそう思っていたのだけれど、朔が言うには『講習会にいた人からエリザベスの情報が漏れて、それが綾小路とかに伝わったとは考えにくいから、ユノが目をかけてる魔術師に興味があるってだけじゃないかな』とのこと。


 言われてみると、あの場にいたのはエリートばかりで、情報の扱いなどについてはキッチリ教育されているだろうし、その方が説得力がある。

 それに、エリザベスさんが開花させた能力がバレているとすれば、彼女たちのような未熟な人が監視に来るのもおかしいか。



 綾小路さんたちは、魔術の知識はあるものの隠密の心得は無い――挙動不審な点と差引きすると悪目立ちしている。

 通報されていないのは、制服を着ているおかげで生徒だと判断できるからだろう。

 いっそ、堂々としていた方がいいような気もするけれど、組織間の問題になるとかを危惧しているのか――どちらにしても問題になりそう。



 もちろん、彼女たちが監視できる状況では、私からも見聞きできるということである。


「私たちは褒められたことなんてないですのに、なぜあの方だけあんなに甘やかしますの?」


 綾小路さんは何を言っているのだろう。

 少なくとも、今の貴女に褒められるところは無いよ。


「御神苗さんに限って人種差別ということはないと思いますが……。やはり脳筋より美男美女が優遇されるということでしょうか」


 内藤さんも何を言っているのか。

 脳を筋肉に、筋肉でものを考えられるのは領域構築の第一歩だよ。

 化粧や美容整形などで変えられるものより優先するのは当然ではないか。

 貴女がその階梯にないだけで、エリザベスさんのお花畑が現実性を帯び始めているだけだよ。


「そんなの、御神苗さんから見たら『御神苗さんかそれ以外』かでしょ。でも、客観的に見ると美女同士の絡み――性に無知そうな金髪に、ドSな銀髪が……! いいわね!」


 ……?

 いや、一条さんは本当に何を言っているの?

 天才とか神童といわれる人には違う世界が見えているのか?

 やはり「神」と名の付くものはろくでもないね。



「くっ、挟まりたい!」


 魔術師三人組と一緒ではないけれど、姫路さんも頻繁にやってきては「脳が壊れる!」とか「これが新たな驚異の部屋(ヴンダーカンマー)!?」などとよく分からないひと言を残して去っていく。

 最近――というか、彼女はあれから勉強や趣味とか習い事にと、傍目には過剰なレベルで打ち込んでいるので、上手く息抜きができていないのかもしれない。

 ご飯を作ってあげる機会を増やすか……。



 ほかにも、稲葉くんや団藤くんに伊藤くんたちもちょくちょくやってくるし、藤林先生は毎日壁際で腕を組んで見守っている。


 進路――というか、公安に所属することが決まっている団藤くんや条件付きで冒険家になることを認めてもらったらしい稲葉くんはともかく、外部受験を控えている伊藤くんは大丈夫なのか?

 それに、藤林先生も、教師は激務だと聞いていたのだけれど……、こんな所に入り浸っていてもいいのだろうか。もしかして、忙しさのあまりに現実逃避しているの?



 とにかく、こんな状況になってしまうともう訓練どころではない。

 もっとも、この状況では悪い人も迂闊うかつに動けなくなると考えると、ある意味ではエリザベスさんの安全が確保されたともいえる。


 そもそも、当初の予定では、「自衛」は応援が来るまでもたせるだけの最低限で充分だったのだ。

 今の訓練は更に上を目指すためのものでしかない。

 それに、明らかに信者や野次馬ではない人も増えてきていたし、いわゆる「潮時」だったのかもしれない。



「これこそ神のご意思なのです! 御神苗さんはやりすぎたのです! これを機に悔い改めてください! でも、甘やかしてくれてもいいんですよ!」


 そうして、攻撃を受ける頻度が下がったエリザベスさんが勝ち誇る。

 何に勝ったのかは分からないけれど。


 そして、こうまで挑発されると素直に止める気が失せる。



「この程度の障害に私が屈するとでも? 邪魔をするなら神だってぶっ飛ばしますよ」


「あー、いけませんよ。そんなの、神様がお許しになっても私が許しません!」


 ……「ぶっ飛ばす」と言ったのを窘められるかと思ったけれど、なんだか想定外の言葉が返ってきた。

 というか、どういう立場でものを言っているのだろう?


 とはいえ、言動はお花畑でよく分からない人だけれど、素直で人懐っこく直向ひたむきな性格で芯の強いところもあってかどうにも憎めない。

 というか、神さえ信仰していなければかなりの好人物なのに残念である。



「そうですか。では、霊薬作りの練習でもしましょうか」


「えっ? 随分あっさりと諦めるんですね」


 素直に喜んでおけばいいのに。

 まあ、こういうところが憎めない理由なのだけれど。



「続けたいならどうにかしますよ」


「絶対に嫌です! 悪魔よ、去れ! でも、天使のような御神苗さんは残って甘えさせてください!」


 ……私を悪魔とか天使扱いか。

 エリザベスさんなりのユーモアなのだと思うけれど、センスがちょっと酷い。

 特に後者は侮辱と受け取られても仕方がないよ?



「そんなこと言わずに、一緒に悪いことしましょうよ」


「は、破廉恥なことは駄目です!」


 なので、私も冗談で返してみたのだけれど、何を想像したのやら。

 というか、「破廉恥」とか難しい日本語を知っているな。

 まあ、「アニメで日本語を覚えた」というエリザベスさんの日本語の理解度からすると、言葉のチョイスを間違えている可能性もあるけれど。


 言葉は通じても話が通じない人もいることを思えばよほどマシだけれど、私もいろんな言語を学ぶか――いっそ、テレパシーでも習得するか。

 朔とのやり取りのようにイメージで伝達できれば、口下手の汚名は返上できるしね。


(それはどうかな。ユノはイメージも下手っていうか、常人には難解すぎると思うよ)


 ……そうなの?


(場所の説明に地球儀――いや、天体儀持ち出されるレベルだよ。不要な情報も多いからフレーミングも大変だし)


 ……そんなはずは。


(それに、情報量が多すぎる。常人にユノの思考を流したら、良くて死ぬか廃人、悪いと異形化してもおかしくないよ。ボクも種子で、更に分析や予測で対応してるからどうにか成立してるけど、予測を超えてくるとか予想しようがないものを出されると対応が遅れるんだ。純粋な処理能力じゃユノの方が遥かに上だからね)


 ……その割には朔の手のひらで転がされているような気がするけれど。 


(予測に嵌ったときだけだよ)


 なるほど。

 頻度からすると私が単純なのか。


 ちょっと悔しいけれど、だからといってやり方を変えるのも違うしなあ。


 それに、そうやって私を利用しようとするのは朔だけではない――というか、朔は味方をしてくれることも多い。

 最近は平和だし――特に地球では窮地に陥るようなことがないので完全に気が抜けているけれど。

 ここ最近で朔が本気になったのは、良質な魔法少女モノを見つけた時くらいだ。


 なお、当該作品が「魔法少女に憧れていた少女が何の因果か悪の組織の女幹部になって、その立場を利用して魔法少女にエッチな悪戯をする物語」という内容だったのでちょっと警戒していた。

 場合によってはエリザベスさんを生贄にするつもりだったのだけれど、今のところは何かを企んでいるような気配は無い。

 まあ、日本でそのまま再現できるようなものでもないしね。



 それでも、念のためにエリザベスさんを身代りにできるように仕込んでおくか?

 どうやら彼女も日本のアニメとかが好きらしく、魔法少女にも忌避感とか異端といった感情は無いようだし。

 それなら、実の無い「聖女」(※ユノの偏見)より夢と希望がある「魔法少女」(※朔の主張)の方がいいかもしれないしね。

 人間の一生は短いのだし、やりたいことをやるのが一番だよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ