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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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14 順応と判断が速い聖女

 エリザベスさんの再教育を始めてから一週間が経った。


 といっても、人気ひとけのある所で銃を使うことはできないし、そのためだけに領域を展開するつもりもないので、できることが限られていた中でだけれど。



 さて、当初は何をどう教育するかの具体的な案は無かったけれど、理屈の上では「電撃を無効化できれば銃撃を無効化するのも難しくない」はずなので、ひとまず電撃の耐性をつけることにした。



 訓練方法は単純。


 まずはテーザー銃のような低致死性の電撃装置を、あらかじめエリザベスさんの身体に装着しておく。

 起動すると彼女の身体に激痛が走って筋肉が麻痺する。

 それだけ。


 もちろん、特殊なプレイなどではない。


 目標は電撃が効かなくなること――なのだけれど、事前に対策していれば無効化、あるいは耐えられるレベルに低減されてしまう。

 それでは私が意図しているような訓練にはならない。

 そういった魔術や結界の能力を上げるとか安定させることが目的ではないのだ。

 さきに挙げたように、意識しなくても効かなくなるのが最終目標である。



 なので、装置の起動は私がリモートで――警戒して先出し魔術で防御していると、魂や精神に直接痛みを与えてやることにした。


 エリザベスさん曰く、「死ぬよりつらい」後者のお仕置きよりは「死にそうなくらいに痛い」前者の方がマシらしい。

 そして、対策不可能な後者よりは、神のご加護か気合いでどうにかできる可能性がある前者しか選択肢がないとのこと。


 激痛で思考能力が低下する上に電撃で筋肉まで麻痺してしまうと神に祈るくらいしかないのかもしれないけれど、私の知る限りではこんな状況で助けにくる神はいない。

 神はそんなに暇では――暇かもしれないけれど、お人好しではない。

 なので、信仰心では何も解決しない――いや、湯の川には与えてもいない加護とかに目覚めて「解決できました! ありがとうございます!」と感謝してくる狂信者もいるし?

 突き抜ければなんとかなるのかもしれない?


 それはそれで困るけれど、幸いなことにエリザベスさんの祈りは届かず、ただただ耐えるだけだった。


 ……これではただの拷問ではないだろうか。


 しかも、事情を何も知らない教会関係者にバレると大変なことになるので、悲鳴を上げるとか表情にも出させてもいけない。

 なので、素振りが見えたら即絡みついて絞め落としていた。

 恐らくじゃれ合っているようにしか見えなかったと思うけれど。


 ……そういえば、夏のイベントで買った薄い本に、似たような内容の物がいくつかあったことを思い出した。


 ヤバい。

 バレたら――結果を出せなければ、聖女とSMプレイに興じていただけになってしまう。




 そうして、今更ながらに危機感を覚えていたところに、エリザベスさんが何かに覚醒する兆しが見え始めた。

 もちろん、「痛いのが気持ちいい」とか性的な嗜好ではない――いや、あるいはそうなのか?

 とにかく、電撃を受けてから魔術を使えるようになってきたのだ。


 それまではただ耐えるだけだった。

 確かに耐えられる強さや時間は徐々に伸びていた。


 しかし、単純に痛みや麻痺に慣れた――とは考えにくい。

 こんな短期間で慣れるようなものなら軍隊などにはそういう訓練があるはずで、拷問なんて行為は成立しなくなる。

 魔術の適性が影響している――というのも、それならもっと優秀な魔術師がいてもいいはずだ。


 彼女は意志の力で痛みを克服して、麻痺した身体を動かそうとしていると考えるのが妥当か。

 意志の力で身体を動かす――それは領域構築の第一歩だろう。

 まだまだ最初の一歩を踏み出したばかりだけれど。


 適性のある人がSMプレイとか拷問されただけで覚醒するなら、世界はもっと魔法に満ちているはずだ。

 ……いや、トシヤの例もあるし、あるいは私が気づいていないだけでそうなのか?

 おのれ、トシヤめ。

 決して悪い人ではないのだけれど、いつも変なところで例外になる厄介な人でもある。


◇◇◇


「最初はどうなることかと――うぐっ!? お、思いましたが、これも主の――うぐぐっ! 酷いですよ!」


 それから更に一週間。

 一般人の制圧が目的の電撃程度では嫌がらせ程度にしかならなくなった。

 なので、顔を合わせるととりあえず連打している。



「主とか神とかは置いておいて、進歩しているのはエリザベスさんが努力しているからですよ」


 すぐに「主」とか「神」などとふざけたことを言い出すのはエリザベスさんの悪い癖だけれど、努力は素直に認めてあげないといけない。

 それと、タイミングが読めると効きが悪くなるようなので、リズムは不規則にした方がいいらしい。



「本当は私も『主っ』とか疑問に思ってるんですけどねっ。聖女としての立場もあるので、御神苗さんの前でしか言えっませんけど」


「そうなの?」


「もちろん幼い頃は信じてたんですよ? でも、そういうのって歳を重ねるにつれて純粋なものじゃなくなるじゃないですか。それから司祭様に才能を見いだされて――司祭様たちの起こす奇跡に感動してまた信じるようになってたんですけど、御神苗さん見て一気に覚めましたほぅ!」


「……そうなの?」


「だってそうでしょう? 御神苗さんの起こす奇跡って格というか次元が違いますし、本当に神様がいるなら御神苗さんにそんな力を与えてるのはおかしいじゃないですかあぁん!」


「酷い言われよう……。まあ、目が覚めてよかったじゃないですか。結局は『力を使って何をなすのか』が重要なのですから、よく分からない存在に与えられた力に満足して成長を止めるとか溺れてしまうよりは、邪悪な私に鍛えられて自力で掴み取った方がいいでしょう?」


「……確かに教会にも邪悪でクズなくせに偉い立場の人もいますし、それに比べれば御神苗さんは有能なだけマシですけど」


 ……もしかしてディスられているのかな?



「邪悪でも何でも『利用してやる』くらいの強かさでいいんですよ」


 私に対するアルとか悪魔とかはそんなところもあるしね。

 もちろん、私が彼らを利用することもあるし、


 いずれにしても、崇拝されるよりは付き合いやすいし。



「そんな、利用だなんて……」


「たとえ話――というか、心構えの話ですよ。エリザベスさんの現況もそうですしね」


 もちろん限度はあるけれど、言及する必要は無いだろう。



「そもそも、私が表に出ているのは残り四か月ほどだと公言しているのは知っているでしょう? 必要以上に遠慮したり怖がっても時間の無駄ですよね」


『キミたちのところでもNHDみたいな組織への対策とか、闇災害の多様化に手を焼いてたでしょ。前者はほかの組織との連携も模索してたようだけど、どこも技術の流出を懸念して団結には至らず、結局は人的被害を理由に見て見ぬふりだったようだし、後者は宗教観や伝承に特化した魔術じゃそれ以外に対応できなくなってたよね』


「私、難しいこと分かりません……。そうなんですか? うごぅ!?」


 朔は話す相手を間違えたようだ。

 仕方ないので電撃マックス。



「でも、みんなが思ってるほど御神苗さんが危ない人じゃないのは分かります。怖いけど。それに、不思議な説得力もあります。すごく怖いけど」


 随分と怖がられているようだ。

 人間でも耐えられる程度に訓練の質は落としているのだけれど……。

 そういえば、こういうのって飴と鞭の両方が必要と聞いたことがある。

 やはり、痛みだけだと駄目なのか?



「どんなに恐ろしくて過酷な試練でも、乗り越えれば御神苗さんに近づける――いつかは御神苗さんみたいになれるんだって信頼感があるから耐えられるんです。先人の辿った道の安心感とでもいうんですか、主のお導きに近いかもです」


「最初に言ったと思うけれど、訓練の内容より意識の方が重要で、こんな訓練に何の意味があるのかは私にもよく分からないよ? 少なくとも、私はこんな訓練はやっていないしね」


 おっと、エリザベスさんの表情が電撃を受けた時以上にヤバい感じに。



「じゃ、じゃあ、この耐え難い痛みに意味は無かったと!?」


「それを決めるのはエリザベスさん自身かな」


「もしかして、ほかにも方法があったんですか!?」


「それもエリザベスさん次第かな」


「むーーーーうぅっ!?」


 頬を膨らませて抗議してくるエリザベスさんが鬱陶うっとうしかったので、電撃スイッチオン。

 やはりほとんど効いていない。

 確かにそんなに考えての訓練ではないけれど、この結果だけを見れば上出来では?


 そもそも、訓練内容に不満を言う前に、ただ言われるがままに従っていた意識の低さを反省するのが筋だと思うのだけれど。



「訓練内容を変えますか?」

「はい!」


 食い気味で即答だった。



「変えたからといって楽になるかは保証しません――というか、能力を伸ばしたいならつらくなると思いますよ」

「では保留で!」


 判断が速いのはいいのだけれど、ちょっと不安になってしまう。

 大丈夫かな? 闇バイトの募集や変な宗教に引っ掛かったりしないかな?

 あ、もう手遅れか。


 エリザベスさんのことを想うなら、どんな苦境でも逞しく生きていけるように厳しくしてあげるべきかな。

 今度は飴も忘れないように。

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