表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
660/725

11 お返し

 米軍の()()()()()()()で、思ったほど被害は出なかったのは幸運だったのだろう。

 ……建前は重要なのだと念入りに釘を刺されたけれど、本気で私がアメリカに攻撃すると思っているのだろうか?

 いくら私でもこの件とは無関係な人を攻撃したりはしないよ?

 私を何だと思っているのか……。


 さておき、船には表社会では要人扱いの人もいるので、彼らも国際問題にならないように配慮したのか、それともその要人たちが無駄な抵抗をしなかったからか、その両方か。

 米兵さんたちは加害が目的ではなく、乗員乗客もそれを理解していた――お互いにプロならこんなものか?


 結局、人的被害はすめらぎから派遣されていた通訳さんひとりだけ。

 事件解決後に指を切った料理人とかはカウントしなくていいと思う。


 さて、通訳さんの件は私にも責任の一端はあるけれど、米軍が余計なことをしなければ――むしろ、最大の責任は彼自身にあるのでは? と、責任転嫁しても意味が無い。


 しかし、なぜ彼があんなにイキっていたのかという疑問は残る。

 プロではなかったからか?


 いずれにしても、私にできるのは彼の死を無駄にしないことだけだ。



 ――と、一夜明けて思い返してみると、やはり腹が立ってきた。

 昨晩は彼らのせいで食事のグレードは下がるわ品数も減るわ遊興施設の稼働も限定的だわで、楽しみの多くが奪われてしまった。

 せっかくの機会なので、夜通し遊んで湯の川にノウハウを持ち帰ろうと思っていたのに。


 しかも、その穴埋めとして待っていたのは、皇や公安の人たちと王族や教会のお偉いさんたち、又はその部下たちによる即興の催し物である。

 私を退屈させないようにという意思は伝わってきたけれど、率直にいって地獄だった。

 王室的、あるいは宗教的禁忌ジョークとか笑いどころが分からないんだよ?


 おのれ、米軍め。




 さて、今日は早朝から講習直前の健康診断やら能力測定やらが行われている。


 会場がうちではないので、特に随員の数などに制限を付けなかったところ、それぞれの組織から医師やら研究員やら技術者やらが大量についてきた。

 講習前後のデータを取って何かに活かそうとしているのだ。


 私の方はというと、準備が済んだ人たちから私の許へやってきて得意な能力を申告とか披露するので、その寸評をしてあげている。

 なお、忖度するとデータとして役に立たないというので、全て辛口である。



「皆さん、息を止めて何をしているんですか? それで呼吸を卒業したつもりなんですか? では、試しに心臓を止めてみましょうか。大丈夫、呼吸を卒業できていれば死にませんよ」


 皇の受講者には清水さん経由で基本を教えてもらっているはずなのだけれど、彼女を含めて理解できている人がいなかった。

 とはいえ、一朝一夕で身につくものでもないのし、さほど期待はしていなかったけれど。

 それでも、みんなして息を止めて顔を真っ赤にしている様子は莫迦にされているようにしか思えない。



 公安の方も似たり寄ったりだけれど、前回も参加していていっぱい死んだ安倍さん上井さん伊達さんあたりは呼吸の質が変わっているような気がする。

 もしかすると、普通はそういう段階を踏んで卒業していくものなのかもしれない。


 なお、一番状態が良いのは観さんだったりする。

 でも、彼女は死んだことはないはずだし……?

 もしかして、ただの過呼吸とか?


 ……よく分からないな。

 今回初参加の砂井さんや名前を知らないくのいちさん、それと団藤くんの家にいた用心棒の人を上手く使えばデータが取れたりするだろうか?




「へえ、お見事です。それで、それは昨日の余興の続きでしょうか?」


 参加者にも制限を付けなかったせいで、イギリス王室の第二王子までもが参加している。

 名前はアレクサンダーさんかアレクさんだったか、そんな感じ。

 余興の時に名乗っていたネタか本気か分からないもので、改めて確認するつもりも無いので講習中は「殿下」で通そうと思う。



 ちなみに、古くから存在している王侯貴族は、その立場や歴史的に魔術や異能力のことを知っている――というか、その頂点であることが多いらしく、それ自体は不思議なことではない。

 ただ、王位継承権が低いとはいえ王族を船に乗せて――というか、この船の実質的な所有者はイギリス王室らしい――はともかく、警備の杜撰さと実際に襲撃を受けたことは「正気か?」と問わざるを得ない。


 なお、王子の能力は「本人そっくりの分身を作る」というもの。

 ただし、私の分体とは違って1体しか出せず、精度はそこそこだけれど分身の能力は本人の能力の半分以下で、筋力とかは一般人程度しかないらしい。

 しかも、分身を出している間はその制御に手一杯で、本人の能力もごっそり下がるとか。

 少なくとも、戦闘とかには使えない謎の能力である。


 それでも、界隈では「世が世なら王になっていただろう」と評価されるくらいに魔力が高く、能力も使いこなせれば――と期待されている。

 私的には、前者は相対的に肯定してもいいのかもしれないけれど、後者は具体的なイメージができていない時点で落第だ。


 私の感想にショックを受けながらも「ふっ、おもしれー女だ」などと強がっている彼には悪いけれど、現状では「王様だーれだ?」とネタに使うことくらいしか思いつかない。

 ……あら、おもしれー王子様になったかも。




 王侯貴族と同様に、魔術や異能力及び闇に対して一家言あるのが、古くから存在する宗教系団体である。

 今回参加しているキリスト教系の人たち――教派には詳しくないのだけれど、「司教」とか言っていたのでカトリックだろうか? いや、秘密組織だしあまり関係無いのか?


 まあ、それはここではどうでもいい。



「領域っていうか、これってただの結界ですよね? というか、領域が使えるなら、昨日の兵士さんくらいならどうにでもなったでしょう?」


 問題は、自信満々に「貴女ほどではないが私たちも領域が使えますよ」と言っていたのが、どう見ても結界だったことだ。

 しかも、うーんと長い時間をかけて魔力を練り上げてから、何やら祝詞みたいなのを唱えつつ、飽きてきた頃に「悪魔よ、去れ!」とか大声を上げてびっくりさせてきた――と、想像を超える駄目さである。

 結界自体は強力だそうだけれど、戦闘中にこんな儀式をやるとか正気の沙汰ではない。


 とはいえ、私にも領域と結界がどう違うかを言葉で説明するのは難しい。

 可能性が限定的というか閉じているというか――いや、領域もわざと限定的にすることはあるし?

 いずれにしても、決まった効果だけを出すだけのものなら結界だろう。

 この結界に何の効果があるのか知らないけれど。

 領域という意味なら、自分自身を魔法で構築した殿下の方がマシだと思う。


 とにかく、ひと回り以上歳が上で、更に立場もある男性を否定しなくてはいけない私のことも考えてほしい。



 しかも、その後に連れてこられた聖女のひとり――治癒魔術に適性があるものの私とそう歳が変わらない少女が、もっとマシな領域を展開しているのでさあ大変。


 といっても、能動的に展開しているのではなく、ただ漏れているとか垂れ流しているだけのもの。

 効果も「彼女と一緒にいると心が安らかになる」とか「触れられると気持ちいい」とかその程度のもので、現状ではあまり役に立たないものである。

 少なくとも、戦闘などで興奮している人を鎮められるほどではないし、何なら聖女然とした(作りものっぽい)態度が鼻について逆に煽ってしまうかもしれない。


 同僚からの評価も後者のものらしく、「独特の癒されるような雰囲気はあるけれど、緊急時はイライラさせられる」と辛口である。

 それでも「能力的には優秀だし、その不思議な雰囲気についても何か分かるかも?」ということで連れてこられたようだ。


 それが、「成長すれば、ネコハ製品と同じような物を作れるかもしれませんね」などと口にしてしまったことで大変なことになった。



 みんなの彼女を見る目が一瞬で変わった。


 当の本人は、私が褒めたのが意外だったか、若しくはみんなの反応かで目を丸くしているだけ。

 教会関係者の何人かが私に詰め寄って母国語で捲し立てているけれど、何を言っているのかさっぱり分からない。


 それに聞き耳を立て、彼女をはじめとした聖女たちを値踏みする人たち。

 みんな「成長すれば」という条件が頭から抜けているようだ。



「……御神苗さん、それは本当ですか? 場合によっては、彼女の受講は拒否しなければなりませんが……」


 柳田さんも、彼女に危機感を抱いているようだ。

 ネコハのように世界のバランスを壊すとでも思っているのだろうか。

 品質についてはこれからの努力次第だし、ネコハほど量産できないと思うので、そんなに影響は無いと思うのだけれど。


 というか、「他人が使っても充分な効果が見込める」という彼女の資質がまれなだけで、自分専用のポーションを作るだけなら誰でもできると思う。

 もちろん、基本を身につけた上での話で、資質の分だけ効果などは劣化するけれど。



「心配しなくても、そんなに大層なものではありませんよ。なんでしたら、柳田さんも作ってみます?」


「は!? いや、ちょっと待ってください、そんな簡単に――」

「疑問や苦情は講習が終わってからで。時間がもったいないのでそろそろ始めましょうか」


 これまたみんなに注目されて焦る柳田さんを制止して、強引に話を進める。



「これから現実時間で五時間、体感時間で百日の領域を展開します。初参加の方は魔力の認識を変えて呼吸を卒業することを目標に、二回目の方は脳で考えて筋肉で身体を動かすことの卒業を目指しましょうか」


「領域とはいえそんなことが可能なのか……? だが、時間を支配するような領域で『時間がもったいない』とは一体?」


「ヤベーな、言っていることの意味がひとつも分からん。やはりおもしれ―女だな」


「はい? 私たちはあれだけ死んだのにまだ呼吸を卒業できていないのですが? 肉体からも卒業とか、そんなに卒業を急がなくてもよくないですか!?」


 さて、この期に及んでゴチャゴチャ言っている人もいるけれど、楽しい講習会じごくの始まりだ。

 そして、貰ったものは3倍にして返すのが礼儀というもの。

 昨晩の宴会で思いついたこともいくつかあるし、いろいろと試してみようと思う。


 といっても、領域内で死ぬことはないので、現実では経験できないことを存分に味わってほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ