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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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09 人質

 ――こっちに来ないで。

 そんな祈りも空しく、あっという間にア〇ンジャーズ(仮)に包囲された。



 ア〇ンジャーズ(仮)の人数は5人。

 外見上は、映画とかに登場しているものほどスマートではない――金属製の宇宙服、あるいはパワードスーツに外骨格を付けた物で、無限の彼方かなたへさあ行くぞしそうな感じ。

 戦闘能力は不明――飛行能力があることと、いくつかの武器を内蔵しているのは領域で確認済みだけれど……?


 私の感覚ではこんな物を着て戦闘するなんて正気の沙汰ではないけれど、ただの移動用かもしれない?

 背中の飛行装置を使っての移動はそこそこの速度が出ていたようだし。

 最近は妹たちもジェットで空を飛ぶようになったし、現代人のイメージでは、人が空を飛ぶのに必要なのが翼ではなくジェットになっているのかもしれない。



 さて、そのうちのひとりが目の前に降りてきて、残る4人は上空で包囲を継続したまま待機中。


 それはそうと、なぜか全員両手を挙げている。

 敵対の意思は無いけれど、最大限警戒しているというところか?

 武器を手に持っていなくてもスーツ――ア―マー? ……どちらでもいいけれど、内蔵されているのは分かっている。

 機械的なことはよく分からないけれど、撃つ気になればいつでも撃てるのだろう。

 そういう中途半端な態度が一番困る。



「御神苗さん、あそこの彼が『こんなメスガキを連れてくることもできないのか、ゴミどもめが』と言ってます」


「No! 悪意ある翻訳は止めてくだサーイ!」


 先制したのは通訳さん。

 上空で呟いていたフルアーマー兵士さんの独り言を、頼んでもいないのに翻訳してくれた。

 しかし、目の前のフルアーマー兵士代表が慌ててそれを否定する。


 そんなに慌てなくても「lady」と言っていたのは聞こえているし、通訳さんのは意訳か誤訳なのは理解している。

 ……いや、「ready」だったらどうしよう?


 とにかく、ただでさえ状況が分からなくて困っているのに、通訳さんも兵士さんも迂闊うかつなことは言わないでほしい。



「失礼しました。初めましてテ、御神苗ユノサン。ワタシはアメリカ海軍secret特殊部隊の、お会いできテ……It's a great honor! 日本語少し、難しいデス。間違えたら、ゴメンナサイ」


 ほら見ろ。


 通訳さんが余計なことをしたおかげで、兵士さんも慣れない日本語で困っているではないか。



「御神苗さん、こいつら莫迦です」


 だから、余計なことを言わないで!



 それにしても、英語が苦手な私と、日本語が苦手な兵士さんと、悪意の塊の通訳さん。

 最悪の組合せである。


 ……仕方ないので呼ぶか。




「――っ! この感覚は御神苗さん!?」

「うおっ!? な、何が!?」


 逃走中だった柳田さんと清水さんをお取り寄せする。

 首根っこを掴んで持ち上げている形なので、混乱して怪我をするようなことはない。



「こんばんは、柳田さん、清水さん。お取込み中でしたか? 出直した方がいいですか?」


「あっ、本当に御神苗さんだ! こんばんは! 助かりました!」

「こっ、こんばんは? ――いえっ、助かりました! どうかご協力をお願いします!」


 ふたりの混乱具合は想定以下。

 一方で兵士さんたちの反応は少し過剰で、フルアーマー兵士さんたちの装甲が変形して武器が生えてくるし、ノーマル兵士さんの中には弾丸の入っていない銃を構える人もいた。


 そして、通訳さんは私を盾にするように後ろに隠れている。

 判断が速い。



「抵抗しなければ危害は加えませんので、大人しくしていてくださいね」


「ヤンキーゴーホーム!」


「大人しくしてって言ったばかりですよ!?」


 この通訳さん、正気じゃない!




「柳田さん、状況の説明を。貴方方には後で聞きますので、しばらく大人しくしているか、そのまま帰ってください」


 私としてはそのまま帰ってくれると嬉しいのだけれど、まあ無理だろう。

 この業界に物分かりがいい人などいないのだ。

 現場単位では力を示せば理解させることも可能だけれど、現場にいない人にはなかなか通じない。

 それに、現場だけで対応してきた結果がこれかもしれないと思うと、根本的な解決にはならない。


 なので、ひとまず話を聞いてみようと思う。




「私にもよく分からないのですが――」


 という前置きから始まった柳田さんの供述では、この船での講習会――の前に予定されていた懇親会の準備をしていたところ、こちらの兵士さんたちがいきなり乗り込んできて制圧された。


 この兵士さんたちの所属は、彼ら自身が口にしたようにアメリカ海軍所属の対魔術師及び異能力者を専門とする特殊部隊で、通称を【Exec()utio()ners()】という。

 つまり、彼らの任務は悪質な魔術師や異能力者を排除・捕獲することで、ここには私を筆頭に該当者がたくさんいるということになる。

 ……いや、私が目的なら到着以前に仕掛けているのはおかしいし――柳田さん、貴方たちはないをやらかしたの?



 さておき、この船には受講予定者も多くいるし、戦力的には一方的に制圧されるようなものでもない。

 ただ、非戦闘員を守りながらでは充分に実力を発揮できなかったようだ。

 それに、首尾よく撃退できたとしても、母艦からの攻撃を受けてはひとたまりもない。

 ある意味、船を丸ごと人質に取られたようなものだ。


 ――と、柳田さんに分かっている事実はそんなところ。




 分からないのは、処刑人の意図だ。


 柳田さんや各組織の個人と直接絡むことはなくても、組織間の交流はある。

 そして、関係性は国家間のそれと同程度には悪くない。



 今回の講習は、「多様化している闇災害に対応していくために、業界トップの特別講師を招いての短期集中合同講習会」という名目で開かれている。

 なので、対人に特化している処刑人や類似の組織には声をかけていない。


 それがここにいる理由が、「何らかの手段でこの講習会のことを知り、妨害若しくはそれ以外の目的」なのか、彼らの主張のとおり「極秘任務での移動中に偶然不審船を発見。同盟国や周辺海域の安全を守るためのやむを得ない措置」なのかが判断できない。


 というより、十中八九前者だけれど、国家間の力関係やこの船に武器などが積まれていることが問題で、日本の領海上での臨検のようなまねも日米地位協定のせいで追及できない可能性もある。

 さらに、皇や公安の人の素性が公にできないのが致命的で、何もかも彼ら(テロリスト)のせいにして「不幸な事件」にしてしまうこともできるのだ。



 処刑人の追加の言い分としては、私のことを知っていたのは部隊の性質上当然のことで、ここでの遭遇は偶然らしい。

 ただ、談笑できる状況ではないので、自分たちの艦に招待しようとしていたそうだ。


 嘘くさい。

 あらかじめ用意していたような話も、貼り付けたような笑顔も、アーティスティックスイミングのようにピタリと揃った相槌も。

 絶対練習していただろう。


 ただ、通訳さんを介してのことなので――彼がちょくちょく私情を挟んでくるせいで評価がしづらい。

 私が抱いている不信感の何割かは彼に対してのものなのだ。

 イソップ寓話の「嘘を吐く子供」を知らないのか?


 というか、柳田さんも英語を話せるのだから、通訳を交代してくれてもよかったのに。

 双方の話を聞こうとした私の意思を尊重して不要な発言を控えたのかもしれないけれど、通訳さんの暴走を止めるのは必要なことだったと思うよ?

 もっとも、今は直接フルアーマー兵士さんと英語でやり合っているので、それどころではないようだけれど。


 もちろん、通訳さんが通訳してくれているけれど、彼を信用していないので何を言っているかは分からない。




『それで、結局のところ、私をさらってどうするつもりだったの?』


「オゥ! 攫う、違う! 誤解、人聞き、悪いです」


 朔が助け舟を出してくれた――というより、飽きてきたのかな。

 私はもちろん飽きている。



「デモ、御神苗サン、こんな所いる、良くないです。いろんな意味で」


『私がどこで何をするかは私が決めることです』


 朔も片言の日本語の相手はやりにくそう。


(ユノの相手をするよりはマシかな)


 どういう意味!?



「御神苗さん、我々の仲間だけではなく、他国の方もかなりの人数が人質になっていますので、ここはひとつ穏便に……」


「人質、違います。彼ら、悪い人。この船、危ない物、たくさん」


「御神苗さん、あいつらの方がテロリストです! 今すぐ殺ってしまいましょう!」


 柳田さんは私を何だと思っているのか。


 フルアーマー兵士さんも、私が何も知らないと思って話を盛ったな?


 通訳さんはもう口を挟まないで。

 貴方の不用意な発言はみんなの反感を買っているよ?

 それとも、自身が共通の敵になることで矛先を逸らそうとしているの?



『私はどちらの味方でもないし、組織間のしがらみや思惑には興味がありません。現在、皇に窓口になってもらっているのも「そういう流れだった」ってだけで、拘りは無いです。役に立たない分には教育することもあるけど、邪魔になるなら処分するよ』


「聞いたか? お前らなんか即処分――って、なんで俺!? うわあああぁぁぁ!?」


 朔の言葉を証明するように、邪魔しかしない通訳さんを船から投げ捨てた。

 生きていたら後で回収しよう。



『キミたちはこの船が危険だって言ってたけど、ここで一番危険なのは私だよ。キミたちの主張を通すなら、私とやり合うことになると思うけど? そうじゃないなら今すぐ帰って、私に用があるなら皇を通してね』


 おっ、さすが朔。

 私のまねにしては言葉遣いが雑になっていたけれど、内容はいい感じになった気がする。



「……御神苗さんには、もっと大きくテ自由が相応しいです。ワタシたち、正義と御神苗さんのタメ、親切。みんな、ハッピー」


「人質をとるようなまねをしておいて、何が正義ですか! 頭ハッピーセットですか!?」


 うーん?

 フルアーマー兵士さんは論点の摩り替えで、柳田さんは論点を間違えている。



「人質とは、誰の何に対してですか? この船の乗員乗客は私にとっての人質にはなりませんし、それでもという大義名分や信念があるならどうぞご自由に」


 まず、勘違いされても困る――特に困らないかな?

 いずれにしても、人質はノイズにしかならないので排除しておいた方がいい。


 いや、どうせなら「人質のとり方」というものをレクチャーしてあげた方がいいか?

 それなら分かってくれるかもだし。



「むしろ、人質というなら――あの艦には何人くらいの人が乗っているんですかね?」


 彼らがやってきた方向――遠くに見える空母を指差してそう尋ねる。

 しかし、日本語か質問の意図が分からないのか、返答は無い。


 まあ、いい。

 領域展開は禁止されている――目視できる範囲の認識となると表面的なところしか分からないけれど、恐らく数百人かそれ以上?

 さすがに沈めてしまうようなのはまずいので、先端部分を狙って――。



「オーマイガッ!?」


 飛行甲板の一部が吹き飛んだ。

 可燃物でも置いてあったのか、煙も上がって大騒ぎになっている。


 ……軽くデコピンしただけなのに。

 ちょっと揺らすだけのつもりだったの。


 ……日も暮れていて距離もあるので誤魔化せないかな?


 フルアーマー兵士さんは頭を抱えて私と壊れた空母を交互に見ている。

 そして、時折私に何かを言おうとするも言葉が出ずに、また空母に視線を戻して大袈裟に嘆く。


 アメリカ人、リアクション大きい。

 というか、これは間違いなく見えているな。


 こうなっては堂々と押し通すしかない。

 多少の無茶でも強めに言っておけば「そうかな……そうかも?」となるものだし。



「私にはあれくらいならいつでも沈められますし、この船内にいる四十数人もいつでも始末できます」


 この船の全部を把握できていないので討ち漏らしはあるかもしれないけれど、「全滅させられる」とは言っていないので嘘ではない。



「……ワタシたち、敵に回すですカ?」


『そんなこと言って大丈夫? これまでのやり取りで、命令とか任務って言葉は出てこなかった――恐らく、拗れたとしても国は巻き込みたくないんだよね? うん、素晴らしい愛国心だ。まあ、私としては国ごと相手にしても構わないんだけど、試してみる? 今のは見える範囲だったけど、その気になれば地球の裏側でも攻撃できるよ?』


「……っ!」


『理解できたらこんなつまらない小細工は止めて、真正面からやり合えるだけの力を用意するか、素直に皇と交渉してね。――ということで、今回は見逃してあげるから諦めて帰ろうね』


「「「……チッ」」」


 朔のフォローもあって――なんだか荒っぽい話になってしまったけれど、抵抗する気は無さそうだし、舌打ちくらいなら結果オーライか?

 戦闘では負けなくても、その後のことを考えると戦闘になった時点で負け――というか、勝者がいない不毛なものになっていただろうし。


 NHD襲撃にはこういうのを抑制する目的もあったそうなのだけれど、大国には効果が無かった――いや、今までよくもったというべきか。

 人間は喉元過ぎれば熱さを忘れるものだしね。

 そうでなければ戦争なんて何度もしないはずだし。


 とにかく、今回のことに凝りて、後半年ほど大人しくしていてくれるといいのだけれど……。


 最悪は悪魔でも動かそうか。

 見返りに何を要求されるかが不安だけれど、世界大戦が起きたりするよりはマシだろうし。

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