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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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08 海上の会場

 妹たちに無断でこっそり護衛アドンとサムソンをつけたら即座にバレて怒られた。


 もちろん、使い魔たちは姿も気配も消していた――気配の方は私には分からないけれど、彼らの自己申告ではそういうことになっている。

 ただ、気づける妹たちが優秀なのだと言われると、それが言い訳であったとしても悪い気はしない。

 私の教えが間違っていなかったとの証明にもなるしね。


◇◇◇


 ということで、当初の予定どおりに防波堤を強化しよう――と、一泊二日の合宿に向かう。



 今回の講習会は、御神苗うちとは直接の交流が無い組織も参加する。

 しかも、海外の。

 報告を受けている分では、某国王室系と最大手宗教系――どちらも秘密組織なので、所属をおおやけにはできないそうだ。

 一般常識ではあり得ない言い分だけれど、私たちも嘘塗れだし、すめらぎがいろいろと保証するというので気にしないことにした。

 というか、宗教の方は断りたいところだったけれど、皇に一任していたものを私の都合で取消すとか条件の後付けは禍根が残りそうなので諦めるしかない。



 それはそれとして、そんな人たちを家に招くと間違いなく目立つ。

 今回は規模も多くてマンションの収容人数を軽く超えるし、一般人(姫路さん)も住んでいるし――いや、住んでいなくてもやらない。

 悪目立ちしすぎる。


 ということで、開催場所も皇に手配させた。



 そんなこんなで、すめらぎが用意したヘリコプターに乗せられて、真っ直ぐ会場――というか、海上へ。

 妹たちが襲撃を受けたり、今回の――次回以降を開催するつもりはないけれど、選に漏れた組織が押しかけてくるのを防ぐために、船の上で行うことになったのだ。


 領域を展開するなら場所はどこでも構わないのだけれど、移動時間が長くなるのはどうにかしてほしかった――若しくは同乗者に配慮してほしかったところ。

 初対面の人――通訳の人らしいけれど、俗にいう「陰キャ」ぽくて目も合わせてくれない――見るからに「構うな」オーラが出ていると話しかけづらい。

 自己紹介以降、共通する話題も特に無いのに長時間閉鎖空間に置かれるとか、お互いにとって苦痛でしかないよ?

 人選ミスでは?




 さておき、途中で一度補給を受けて更に飛び、見えてきたのが豪華客船。

 その遥か先には空母交じりの艦隊――空母打撃群というのか? も見える。

 行き先はどっちだろう?

 通訳の人に訊いてみようかとも思ったけれど、高所恐怖症なのか出発前以上に「構うな」オーラが強くなっていたので断念。



 どちらかというと、豪華客船の方がいいな――という私の願いが通じたのか、ヘリコプターはそちらに着艦した。


 ただ、秘密組織の物だからか、一部に真っ当ではない設備や物資も見受けられる。

 もちろん、表からは見えないようにされているけれど。

 それでも、誤解のしようのない軍艦よりはマシか。


 そして、出迎えてくれたのは銃を持った軍人さん――いや、戦闘服を着ているだけで、ただのテロリストとかの可能性もあるのか?

 少なくとも、人種的に皇とか公安の人ではないし、乗員でもないっぽい。


 なお、その兵士さんのひとりが何やら話しかけてきているけれど、私の名前が出たことと「ナイストゥミーチュー」くらいしか分からなかった。

 兵士さんの緊張がすごいので、ただの挨拶なのか別の意図があるのかも判断できない。

 通訳さんは怯えていないで仕事をしてほしい。



 ただ、言葉は分からなくても分かることもある。


 船のホールに乗員と乗客らしき人たちが三百人以上が集められていて、武装した兵士さんたちが包囲している。

 ほかにも、見張りこそいないけれど、厨房とか船室とかで拘束されている人とかもいて――両者の差は戦闘能力の有無だろうか?


 しかし、船の規模的にそれで全員というわけでもないのだろう。

 今も船内を虱潰しに捜索している兵士さんたちがいる。


 私たちも、ヘリポートが船首にあることと朔の領域範囲の問題で全てを把握できているわけではないけれど、これはいわゆる「シージャック」とかいうものだろうか。

 というか、朔なら翻訳もできると思うのだけれど、してくれないのは何か考えがあるのか、また悪巧みしているのか。


 仕方がないので、私にできる範囲で頑張ろう。



「アーユーシージャック?」


「……Jack? No」


 兵士さんに問うてみたけれど、通じていない模様。

 英語が間違っているのか、シージャックではないのかも分からないので、早くもお手上げである。



「御神苗さん、“シージャック”は和製英語です。この場合は“hijack”が適切かと」


 ……そんなことより通訳して?

 いや、そういう状況でもない?

 非難よりも避難した方がいい感じ?



「アーユーハイジャック?」


「ノー! ワタシタチ、トモダチネー!」


 日本語で答えが返ってきたけれど、それは違う。

 


「わ、『私たちは友達だ』と言っています」


 それはもう分かっている。


 何が何だか分からなくなってきたぞ?


◇◇◇


 しばらく不毛なやり取りが続いたけれど、兵士さんには敵対の意思は無いようで、銃口を向けられたりはしなかった。

 ただ、言葉はよく分からないものの、私を彼らのヘリコプターに乗せてどこかへ連れていきたいのは分かる。

 もちろん、何も分からないままに従うつもりはないので無視しているけれど、そろそろ飽きてきたので動こうかと思う。



 しかし、兵士さんがテロリストなどであれば排除すればいいのだけれど、少なくとも私には敵意を向けていない。

 テロリスト仲間だと思われている可能性も無くはないし、船内に問題があるのも同様で、状況がさっぱり分からない。

 分からなければ訊けばいいだけではあるけれど、私は英語が得意ではない。



「通訳さん、状況を説明できる人を呼んでもらうことってできますか?」


「えっ、私? 本業は通訳ではなくて事務なんですが……」


 最初の挨拶で通訳だと言っていたはずなのだけれど?

 皇はなぜこんな人を寄越したのか……。



「でも、分かりました。呼び出してみます」


「ノー! ストーップ!」

「ひえっ!?」


 おい、この状況で電話を使おうとする人がいるか!?

 兵士さんが一斉に銃を構えたじゃないか。



 兵士さんたちは私には銃口を向けないように細心の注意を払っているようだけれど、通訳さんに対しては容赦が無い。

 気配とかはよく分からないけれど、いつ撃ってもおかしくない感じである。

 少なくとも、莫迦なことをすれば即撃ちそう。

 語気強めの英語で何か警告しているし。


 ただ、莫迦は死ななければ直らないというけれど、死んでも直らないのはあっちの世界で証明済みである。

 もちろん、それはこっちの世界の人には知る由もないことで、現状で通訳さんを失ってしまうと一か八かの実力行使になってしまうのが困りどころ。

 なお、一か八かなのは、この兵士さんたちに正当性があるかないかの部分である。

 それではどっちが莫迦なのか分からない案件になってしまう。



「私の言葉を翻訳して彼らに伝えてもらえますか?」


 兵士さんの持つ銃からマガジンとか弾丸を抜き出し、それを分かりやすく見せることで通訳の人を安心させると同時に、兵士さんには銃が私には効かないことを示す。

 もっとも、魔術や異能力に理解がなければ伝わらない可能性もあるけれど、無駄な抵抗をするなら物理で拘束するだけだ。


 とりあえず、こちらを攻撃できる位置にいる兵士さんは3人。

 無力化するのは簡単――いや、やはり事の全体像を把握するまでは実力行使は控えよう。

 状況も少し動いたしね。



 朔の探査範囲に、清水さんと彼女に守られた柳田さんが入ってきた。

 捜索中の兵士さんたちから逃げ回っているようだ。


 私の所感では、船内が広くて隠れる場所も多い上に相手も人手不足なので、逃げるだけならさほど難しくはない。

 アポートに見せかけて呼び寄せようかと思ったけれど、それで状況が悪くなる可能性もあるのでしばらく様子を見るべきか。



 同時に、遠くに見える空母からも何かが発射されて、高速でこちらに飛んできている。


 飛行機ではないようだけれど――ミサイルでも――ロボット? あ、中に人間が入っている!?

 それが5人――5機というべき? が、編隊を組んで飛んでくる。

 ア〇ンジャーズとかそういうものだろうか?

 まさか、現実にいるとは……。


 といっても、作品を見たことがないので名前以上のことは大して知らない。


 正義の味方に興味が無い――というか、善悪は私の行動基準ではないし、結果的に秩序を乱している自覚はある。

 世界の秩序を守っている人たちからすると、さぞ厄介な存在だろう。

 けれども――



「どちらかというと、分不相応なものに手を出そうとする人が主原因だと思う」


「「「?」」」


 などと正論を言ってみたところで理解は得られない。


 とにかく、正義の味方は私の味方ではないと考えるのが妥当である。

 だからといって、明確な敵でもないのが面倒なところ。


 どうしたものか。

 私独りのことなら迷うことなく逃げるのだけれど。

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