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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十八章 邪神さんと聖なるもの
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06 バランスブレイカー

 今日はネコハコーポレーション引渡しに向けて、公安の担当者との立ち合いに参加している。

 名実ともに私のものを譲渡するのに「参加」と他人事なのはいかがなものかと思うかもしれないけれど、法的あるいは事務的なことはさっぱり分からないので専門家にお任せするのが最善なのだ。


 ということで、譲渡条件などは三上さんと亜門さん、それに悪魔たちの協力を得てまとめられていて、法的な義務及び書類的なことは先方が負担することになっているので私の出番は無い。



 一方で、私でなくてはできないことも存在している。


「美味しくな~れ☆萌え萌えキュン!」


「……分かってはいたが、やはりこういうカラクリだったか……」


「普通に考えて、果実やハーブと蜂蜜で霊薬が作れるはずがないしな」


「ああ。素材の組合せだけで霊薬ができるなら、料理人とかみんな錬金術師になってるぜ」


 とまあ、原材料と作業工程だけでは再現できない「美味しくな~れ」とおまじないをする部分については私が説明しなければならないのだ。


 改めて人前で実演するのはなかなかに恥ずかしいものがある。


 だからといって無言でやっても伝わらないし、無関係な言葉だと混乱させてしまう。

 なお、妹たちを「一緒にやってみない?」と誘ってみたけれど、当然のように断られた。



 仕方がないので、仕事と割り切って精一杯可愛くやってみせた。

 どんなことでも堂々とこなしていればツッコミは入らないものなのだ。

 ……いや、「萌え萌えキュン」は要らなかったかもしれない。



 もっとも、いくら丁寧に教えてみたところで私と同レベルでできるようになるのは難しい。


 三上さんや亜門さんくらいの魔力があれば強引に魔力回復薬を作ることはできる。

 それでも、その効果が充分に得られるのは魔力的な相性が良い人に限られてしまう。


 もちろん、錬金術的な手法で汎用性の高い物を作ることも可能だけれど、新たに設備投資するのは時間もコストもかかるし、何より錬金術師の育成が難しい。

 それに、ただの魔力回復薬と私のお呪いをかけた水は全くの別物である。

 同等の物を作ろうとするなら領域構築以上が必須技能なのだ。


 とまあ、譲渡に関してはいろいろと問題があった。



 一応、解決策もいろいろとあった。


 例えば、設備にこっそり神の秘石でも埋め込めんでおけば、何十何百年と効果が続くようにすることもできる。

 しかし、人の手に余る物を残していくのはよろしくない。


 そういう意味では会社を潰してしまった方がサッパリしてよかったのだけれど、ある程度話が進んだ状況から白紙に戻すのは信義則にもとるといわれても否定できない。

 思い付きで行動するのは駄目だね。

 特に、周りにいるのがイエスマンばかりのときは。

 何が「さすがユノ様、ナイスアイデアです」だよ。みんなすごく苦労しているじゃないか。


 いっそ潰れる前提で引渡した方が――やはり父さんと母さんが作った物が駄目にされるのは面白くない。

 なので、ある程度()になるよう頑張るしかなかった。




 その解決策として作られたのが、マジカルマニ車――通称「マジ車」である。


 魔力を流すとクルクルと回り、内蔵されている神の秘石から魔素を抽出する装置である。

 一応、簡単には破壊できないように造っているので、秘石そのものを抽出することはできないと思う。



 さて、このマジ車は、流す魔力が強ければ強いほど、質が良ければ良いほどに高速回転して魔素の抽出量も上がる。


 もちろん、秘石があれば完結していることなので、魔力でマニ車を回す意味は特に無い。

 ただ、秘石だけでは奪い合いになるとか、人間の成長に繋がらないということで用意した嫌がらせ――いや、領域訓練用の仕掛けであり、それなりの説得力を持たせるための装置である。


 なお、発案者のアルによると、「最近は太陽電池とモーターで回るマニ車もあるらしいし、権利の問題は無いと思う」とのこと。

 発案者が信仰心どころか他人すら信じていないので、功徳とかは貯まらないと思う。



「ぐぬぬ……! お、重い……!」


「ミ、ミリくらいは動いたか!?」


「ははっ! 俺なんか心臓が止まりそうだぜ!」


 もっとも、「魔力で動く」といってみたものの、正確には「魔素で動く」であって、基本ができていない人だとこんなざまである。

 死にそうになっている人はもう止めた方がいい。


 というか、私が基本を教えた人たちは前線で仕事をする人たちなので、この場には来ていない。

 恐らく、これから先も来ることはない――いや、一線を退いた後の受け皿にもなるか?

 いずれにしても、彼らがそうなるのはまだまだ先のことだし、やはり全体的な底上げが必須か。



「近いうちにすめらぎ主導の講習会がありますので、先方と協議して何人か参加させるようにしてください」


 引渡しの際には向こう何年分かの美味しさは確保しておくつもりだけれど、それが尽きる前にある程度は回せるようになってもらわなければ困る。

 というか、マジ車が急ごしらえで、調整もアルが忙しい中で適当に行ったため、ここまで回せないものだとは思ってもいなかった。

 どうしよう?


 追加で来た人たちを鍛えるしかないか。

 そうすると、また百日コースかな……。

 二度手間になるのは不愉快だけれど、適当にやってきたツケが回ってきた感は否めないので、せめてこれ以上がないようにするしかない。



「それは有り難い! ……ところで、『何人か』というのは実際のところ何人までならよろしいでしょうか? それと、もしよろしければ、領域の講習以外にも、戦術的な指導もしていただければと――あ、いえ、お忙しいのは重々承知しておりますが!」


「領域が使えるようになれば、それ自体が戦術になりますよ?」


「もちろんそれも承知しておりますが、直近の脅威に対応するため――といっても不確実な予想に基づくものですが……」


 あっ、まずい。

 面倒事の予感。



「実は、最近になって――正確には御神苗殿の登場以降、この業界に大きな変化が起こりまして……」

「そ――」


 そういうのはまた今度って言おうとしたのに!



「この業界が閉鎖的な理由は今更語るまでもありませんが、日本では一般国民は当然として、総理もその存在を知りません。そして、我々は一応『公務員』という肩書ではありますが、自衛隊のように総理に統率権がありません。もちろん、我々が政治に干渉することもありませんが」


「あの――」

「多くの組織は我々と同じようなスタンスで――これは少数派の魔術師や異能力者が多数派の一般人から身を護るためのものです。いくら特別な力を持っていても、現代兵器での飽和攻撃には敵わないことは、貴女がNHDに対して証明済みですので。しかし、だからこそ米中露のようなトップや軍上層部がそれらを知っているところも『魔術師・異能力者の脅威度はテロリスト程度』と安心していられたのです。警戒はせねばなりませんが、気にしすぎてもどうしようもないということですな」


 話のスケールが大きいなー。

 面倒事でなければいいのだけれど。



「ですが、その認識も御神苗殿が壊してしまわれた。お兄さんの方は姿を消して空を飛び、戦術級の異能力者を鼻歌交じりで圧倒するわ火の玉になって特攻するわ。貴女も貴女で、武装勢力の拠点や大悪魔の領域を小一時間で攻略するわ、龍神様や空亡を瞬殺ですよ。『触らぬ神に祟りなし』って言葉をご存知ですか? もうどっちが神か悪魔なのか分かりませんよ」


 ……話題が際どい。

 鎌をかけているとすると、それこそ「触らぬ神~」に矛盾するので、疑われているわけではないと思うけれど。



「失礼ながら、我々の見解では『通常兵器では貴女方には対抗できない可能性が高く、大量破壊兵器でも貴女の領域を攻略することは不可能』となっていまして……。当然、魔術や異能力でも敵いません。恐らく、ほかの組織でも似たような結論が出ているでしょう」


 戦力分析されたくらいで失礼とは思わないけれど、面倒事に巻き込もうとするのは失礼を通り越していると思うよ?

 だから、そろそろ止めよう?



「敵対すると勝ち目は無い。それ以前に、独裁者たちは暗殺が怖くて仕方がない。しかし、交渉するにも伝手も手札カードも無い。素性を伏せての襲撃は全て不発。そして、証拠の有無など貴女方には関係無く、報復やその巻き添えになった組織も少なくない」


 ……何それ、知らない。

 悪魔たちの仕業だろうか?



「そのおかげで、今では御神苗殿に仕掛ける者はほぼいなくなりましたし、無関係な抗争も随分と減りました。ふふ、多かれ少なかれどこも被害を受けていますからね……。とまあ、御神苗殿にその気がなくても軍事バランスまで崩壊しているのが現実なのです」


 そんなことを言われてもなあ……。


 攻撃されれば反撃はすると思うけれど、暗殺とかそんな発想になるのも分からない。

 可能か不可能かでいえば可能だけれど、理由も無くやらないよ?



「もちろん、我々は御神苗殿が理由も無く力を振るわれることはないと……思って……信じて……たいと思っておりますが?」


 そこははっきり言いきろう?

 いや、まあ、NHDに関しては先制攻撃だったし、一般人まで巻き添えにしたので説得力が無いけれど。

 せめて奪った可能性以上のものを生み出せるようにしようとは思っているけれど、そこは言い訳しない。



「ただ、誇りやら面子やら野望やらを諦めきれないところは暴走の可能性を無視できません。我々としては『愚か』としか言えませんが、歩みを止めると後ろから刺されるようなところもありますので、彼らも必死なのは理解できます。それでも、最近は領海や領空侵犯も随分減ったそうですし、我が国を名指しでの批判や挑発も聞かなくなりましたがね」


「……それはうちに関係ありますか? というか、皆さんは私たちを何だと思っているのでしょうか」


「本当のところは分かりませんが、厄介な国が一斉に大人しくなったとなると勘繰ってしまいますな。むしろ、外交の成果であれば喜ばしいのですが」


 うーん、どう判断していいのか分からないな。

 皇や公安に接近しすぎたのが失敗だったか?


 そもそも、日本で生まれ育って今も暮らしているので多少の愛着はあるけれど、日本の味方とかそういう意識は特に無いのだ。

 少し前なら外国語がさっぱりだったので移住とかは考えられなかったけれど、今なら朔もいるし、私も数人喰えば――は駄目か。

 そういうのは禁止されていたはずだし、バレた時のリスクがリターンに釣り合っていない。


 いずれにしても、今更野心的な国家に移住するのはあり得ないかな。

 やはり、彼らに防波堤になってもらうのが正解か。



「とにかく、御神苗殿の実力を理解していながらも退けない組織もいまだに存在しています。そして、そういった組織が狙うのは、御神苗殿と交流のある我々ということになるでしょう。当然、御神苗殿を刺激しない範囲ででしょうが、既に隊員の誘拐未遂は何度か発生しておりますし、引き抜き――は尋問や洗脳されると分かっていて引っ掛かる者はいないと思いますが、これも何度も報告を受けています」


 一応、防波堤にはなっているのか。



『それはうちの関与するところではないし、誘拐とかは以前からのことでは? 交渉のチャンネルもあるんでしょう? ますそっちで努力するのが筋じゃないですか?』


「もちろんその努力はしておりますが、追い詰められている者にそういった正論や道理は通じないのですよ。結局、我々が自衛できる力を身につけるしかないと考えておるのですが、独力――安倍らによる指導では分かりにくい――というより、安倍らもよく分かっていないようですので、もう一度御神苗殿の力をお借りしたいと思う次第でして……」


「それならやはり領域を――そのための基礎を身につけた方がいいかと思います。なので、魔力の扱いが上手い人で感覚を言語化することに長けている人がいれば、次の講習に参加させてください」


 まったく、防波堤を作るのも楽じゃないね。


 何事であれ頑張る人は好ましいけれど、頑張らせすぎても駄目なのも難しいところ。

 軍事バランスはもう手遅れかもしれないけれど、これ以上想定外のものを壊すわけにもいかない。


 だったら、生存と逃走能力を重点的に鍛えるか。

 彼らの役割的には、生き残っていれば経験とか戦術も追々身につくだろうし。


 着地点が見えていないのが不安だけれど、やれるだけやってみようか。

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