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幕間 稲魂

 真由とレティシアが湯の川に来るまで半年となったところで、ソフィアがクリスたちと一緒に開発したアイテムを持ってきた。


 その名称を「月の加護」といい、湯の川産の高級な魔石を素に作った「アンデッド系魔物の日中能力制限を無効化する」効果がある物だとか。


 どうやら、彼女は「レティシアがこっちに来たら生活サイクルを合わせよう」とか、場合によっては「一緒に冒険しよう」と考えているようで、そのための補助具のようだ。



 よく分からないけれど、ソフィアくらいの基礎能力があれば、能力の減衰があってもふたりの足を引っ張るというほどのものにはならないはずだ。

 少なくとも、ふたりが戦闘に慣れる間くらいは取りつくろえるだろう。

 さすがに大魔王でも相手にするなら話が違ってくるけれど、その可能性がある大魔王も残すは堕天使と骨のみ。


 というか、改善すべきはむしろ「ソフィア自身のコミュニケーション能力」の方で、困ったことがあれば暴力で解決しようとする姿勢が問題ではないだろうか。


 そもそも、湯の川の魔石があれば、多少なりとも日中能力制限を埋められると思う。

 今更こんなアイテムを作ってどうしようというのか。



「あんた、莫迦でしょ。魔石の力でそのまま強くなるってことは、真由とレティも強くなるってことだから私が頼られなくなるでしょ」


 ……ソフィアが何を言っているのか分からない。


 頼られたいから、自分だけ強くなりたい――ということ?

 それならアイテムに頼るではなく訓練しようよ。



「確かに、湯の川産魔石を持てば誰でも強くなれる――が、身の丈を超える力を持つのはお勧めできないのだよ。ユノ君も同じ考えだろう?」


 いくらクリスがフォローしたところで、ソフィアの発言は消えないよ?



「まあ、湯の川の人たちは、みんな魔素のおかげで魔石とか関係無いくらいに強化されているし、ユノちゃんが危惧するのも分かるわ」


 ぐぅ。

 セイラは痛いところを突いてくるな。


 しかし、言い訳をさせてもらえるなら、「湯の川」という地域限定で、恩恵に多少の個人差はあっても、特にそれを理由とした争いなどは起きていないのだから問題は無いといえる。

 むしろ、より強い恩恵を受けようと努力して、それが素直に称賛されると同時に一層の励みになる世界になっている。


 ……何の話だったか?



「とにかく、そういうことだから、効果のテストをしたいのよ」


「ただ、湯の川では魔素が濃すぎるせいで調査ができないからね」


「湯の川の外――ユノちゃんや世界樹の影響が無い所でデータを取りたいの」


 なんだかよく分からないけれど、そういうことならひとつ心当たりがある。


◇◇◇


 ということで、やってきました魔族領。



 ここはとある事情で魔族と吸血鬼が共存する村である。



「おっ、ユノさんやないですか! いつもながら神出鬼没やね」


「これはユノ様。ご覧ください、この光り輝く水田を! いえ、ここまでの輝きを放つ地は『エデン』というべきでしょう! これもこの私が開発した時空農業魔法の成果です! 稲を完全に等間隔で植えることを魔法で実現したおかげで田植えの労力が軽減され、雑草や害虫駆除も楽になりました! その結果、収穫量だけでなく質の向上も間違いありません!」


「あ、こんにちは、ユノ様! 今日は兄貴は一緒じゃないんですか? というか、いつ迎えに来てくれるんですか?」


「ユノ様こんにちは! 今日はもしかして私を迎えに? 良い子にして待ってたし、そろそろかなーって思ってたんですよ!」


 ……水田とエデンをかけたのか?


 というか、いきなりかまされると後のことが頭に入ってこないのだけれど?

 時空魔法が何だって?

 お米作りと何の関係が?



 ……とにかく、仲良くやっているようで何よりである。

 それと、ポジティブなのは嫌いではないけれど、私の管轄ではないことにまで首を突っ込むつもりはない。



「こんにちは。アルは仕事で手一杯だから、今日は来ていないよ。余裕ができたら顔を出すように言っておくね。それで、今日は――」


 それでも、私が話し始めると黙って聞いてくれるくらいには理性は残っている。


 なので、簡単に事情を話すと、素直に協力してくれることになった。

 まあ、吸血鬼にとってはデメリットらしいデメリットは無い話だしね。


「うおお! 太陽を完全に克服した私はユノ様の次くらいにパーフェクト農人! お米も笑顔も輝くにっこりニコル! つまり、にっこにっこるー!」


 ……デメリット、無いよね?




 さて、ニコルとかいう吸血鬼の言うとおり、収穫間際の田んぼは見事な金色に染まっていた。


 というか、稲というには金色すぎる。

 チョルノービリ(チェルノブイリ)でもこんなに光っていないと思う。

 もちろん、そこには行ったことがないのでただのイメージだ。


 しかし、この現象は何なのだろう?

 稲光いなびかりというのは雷のことだし?

 同じ品種のはずの湯の川の稲はこんなことにはなっていなかったけれど……?



「ああ、これですか。こんなに綺麗に色付くとは予想してなかったんですけど、奪還戦の時のいろいろ――吸血鬼の遺灰とか、ユノ様の恵みとか、そういうの(肥料)が原因かもしれません!」


「お兄さんも『後始末』って言っていろいろしてたしね。もしかすると、これが愛かも! きっとそうだわ! コメに愛はあるんや!」


「ユノ様に頂いた我が左腕にも意味があるのではないかと愚考します! 実はこの左腕、部分的に転移させることが可能になったのです!」


 うーん、見なかったことにしよう。



 とにかく、当事者たちが満足しているならそれでいい。

 むしろ、私たちが介入してこの程度で済んでいるのは上出来である。

 後は適当に視察した感でも出して帰ろう。




 さて、村の復興はほぼ終わっていて、食糧事情も吸血鬼たちが狩猟に協力しているおかげでどうにか凌いでいる。


 吸血鬼と人間の戦闘能力の差から狩りのコストが低く抑えられることと、吸血鬼の食事が人間の僅かな量の血液で済むため、狩ってきた獲物がそのまま人間たちに与えられることなどが理由だろう。



 ちなみに、吸血鬼の《吸血》スキルによる魔力摂取は、食事での栄養摂取より効率がいいらしい。

 そして、母乳は血液から作られる物だ。


 なお、母乳が白いのは赤血球が含まれていないこととカゼインという成分が理由だけれど、血液が混じって赤みを帯びることもある(※長期間続く場合や判断に迷った際は医師に相談しましょう)。

 基本的に赤ちゃんが飲んでも問題無いので、吸血鬼が飲んでも大丈夫。


 そこから理論を発展させて、人間の母乳で代用しようと――処女が母乳を出せるようになる魔法が開発中だった。


 ……早く帰っておけばよかった。



「ユノ様であれば処女授乳も可能と聞きました! そこで、我々にもその秘術をご教示いただけないかと」


 そんなこと誰に聞いたの……?


 とはいえ、母乳自体は妊娠や出産をしていない女性や男性(※大量に出る場合は早めに医師の診断を受けましょう)でも出ることがあるそうだし、私でなくても不可能ではないと思う。


 そもそも、私が出しているのは母乳ではなく、アルコールやソフトドリンク、あるいは素敵な何かである。

 むしろ、母乳以上に美味しさや栄養価に優れているものが出せているのに母乳に拘る必要は無いはずだ。

 少なくとも、母乳が出ないことでクレームを受けたことはない。


 ……「牛乳を出せ」と言われたことはあるけれど。

 しかし、私から出た乳は「牛」乳といっていいものなのだろうか?



「魔法の本質を理解すれば――自身の可能性を活かせるようになればできるようになると思うよ」


 とにかく、魔法の本質を理解して実行できればそれくらいは造作もないだろう。


 全身が凶器になるならおっぱいになることも可能。

 そして、おっぱいになれるならミルクになることもまた可能なのだ。

 そうまでする必要があるかは別として。



「それはそうと、貴方たちは結婚しないの?」

 

 とにかく、これ以上変な話になっても困るので、適当に話題を変えさせてもらう。



「え、こんな奴と結婚なんてしませんが? というか、兄貴の嫁になるために頑張って括約――いや、活躍してます!」


「こんな変態なんて眼中にないですよー。っていうか、吸血鬼の私とお兄さんが一緒になった方が象徴になると思いません!?」


 話題転換失敗。


 いや、ある意味では成功か?

 なんだか本気で嫌がっているし。


 というか、息ぴったりだし、これが俗にいう「ツンデレ」とかいうものか。



「結婚式には呼んでね。ご利益は無いと思うけれど祝福してあげる」


「じゃあ、兄貴に早く迎えにきてもらえるよう言っておいてください!」

「じゃあ、お兄さんとの式の時にはお願いします!」


 何が「じゃあ」なのか分からないけれど、面倒くさいので後はアルに任せよう。

 ウマに蹴られたくもないしね。

 お読みいただきありがとうございます。


 一か月少々頑張ってみたところ、次章のストックが9話になりました。

 話はあまり進んでいません……。

 中途半端なところで投稿が途切れると「何の話だったか……?」となりそうな気がするので、ある程度まとまるまで中断します。


 十二月中の再開を目指して頑張りますので、本作の存在を忘れないでいてもらえると幸いです。

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