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22 合流

 ヘリコプターで飛ぶこと三時間弱。


 現場は有名な観光地から少し離れたところにある海岸線。

 皇や魔術師の皆さんが、万が一の場合にも被害が最小限に抑えられるようにと出現場所を厳選・誘導して、当日は公安の協力も得て魔術・物理の両面で封鎖済みである。


 とはいえ、考え無しにヘリコプターで直接着陸とか低空飛行をすると目立ってしまうおそれがあるので、少し離れた浜辺に降りる。

 私ひとりなら高高度からの飛び降りで済んだのだけれど、妹たちが嫌がったのだ。

 高所恐怖症なのだろうか。


 ちなみに、どんな高さから落ちても、空気抵抗のおかげで平均的な成人男性なら時速二百から三百キロメートル程度にしかならないらしい。

 高さにすれば四百メートルほどで、体重の軽い私たちならもっと遅くなる。

 つまり、受け身が取れれば余裕なはず。

 実際に、高度一万メートル以上から落ちて生還した人もいる(※様々な好条件が重なっての結果ですので、絶対にまねしないでください)。

 それを知っていれば怖がる理由なんて無いし、それくらいは鍛えているつもりなのだけれど……。


 実は私は妹たちに信用されていないのか――いや、頭では分かっていても最初の一歩は怖いのかもしれない。



 結局、飛び降りたのは私だけで、妹たちは普通に降りてきた。


 お手本があれば飛ぶかと思ったけれど、予告も無しに飛んだせいか心の準備ができなかっただろうか。


「こんばんは、観さん。今日もいい天気ですね」


 それよりも、出迎えに来ていると思われる観さんに挨拶だ。


 彼女とはこういった仕事で会う機会が多い。

 能力的に何かを期待されているのか、面識があって人格的に適切という理由でアサインされているのかは分からないけれど、私の監視もほぼ毎日しているようだし、きちんと休みは貰えているのだろうか?

 私からひと言申上げてあげようか?



「え、ええ、こんばんは、御神苗さん。まさか貴女が降ってくるとは思いませんでしたが……。というか、あんな高さから落ちてくるとか正――平気なんですか?」


 む、挨拶のついでにさらっと正気を疑おうとしたな?



「終端速度に達するほどの高さじゃないですし、受け身を取れば平気ですよ」


「受け身……? 直立したまま足から落ちてきましたけど?」


「魔力とはその人の可能性で、魔法とはそれを実現させるための手段です。自分自身という魔法を自在に操ることができれば、手でできることを足でもできるのは当然です。というか、手とか足とか分類するのもナンセンスです。基本ですよ? 講習の時にも話しましたよね?」


 何度も言ったような記憶があるし、難しいことは言っていないと思うのだけれど、思いのほか理解できていないようだ。



「あ、今日は猫羽さんもご一緒なんですね。初めまして、公安系の特殊組織所属の、観です。組織名は頻繁に変わりますので、ただの観とおよびください――って、これも偽名なんですけどね」


「初めまして、猫羽真由です。それはそうと、お姉ちゃんの言うことを真に受けない方がいいですよ。きっと間違ってはないんですけどね」


「猫羽レティシアです、よろしくお願いします。――ええと、姉さんは自分が特別だって意識が希薄ですから。そこに至るまでのステップがいくつも抜けているんだと思います」


「あー、やっぱりですか。あの尻尾の道具を使う訓練はそのあたりの疑問の解消になるんですかね?」


「あ、あれは結構いいと思いますよ」


「姉さんにしては良いアイデアでしたね」


「ところで、おふたりはどれくらい出せるんですか?」


「私は6本です」


「私は7本ですね」


「さすがですねえ。うちでは安倍と伊達の3本が最高で上井が2本、私は不器用なので1本だけですよ。何かコツとかあるんですか?」


「あれ、自分の身体と同じくらい魔力伝導率が良いですよね? だから、自分の身体と同じように魔力を満たして――最初は流すでもいいかと思います」


「『流す』『循環させる』『満たす』の順で慣れていけばいいかと。循環と満たすの間の壁がすごく高いですけど」


「ありがとうございます。参考になります――と言いたいところなんですが、みんな『魔力で満たす』というのがよく分からなくて苦労しています……。魔力での身体強化とは違うんですよね?」


「あー、そうですよねえ。言葉で説明するのはすごく難しいんですけど、魔力は魔力なんですけど、見えてないものも含めて?」


「今の皆さんの認識している魔力って、皆さんの本来の魔力のごく一部なんです――って説明でいいのかな?」


「どうなのかな? 別にあるわけじゃなくて、気づいてないだけというか。私たちはお姉ちゃんが気づかせてくれたけど」


「それも下地ができてきた時にふと気づいた感じだったし、とりあえずは尻尾を使って地力を上げるのがいいのかな?」


「なるほど……、参考になります。ありがとうございます」


「いや、私たちも人に教えるのは慣れていなくて――というか、教えることになるなんて思ってもなくて。拙い説明ですみません」


「教えられるほど熟練してるわけでもないですしね。未熟者の意見で混乱させてしまったのでしたら申し訳ありません」


「いえ、私たちから見れば立派な姉弟子ですので、参考にさせていただきます」


「え、観さんたちを弟子にしたつもりはないけれど?」


 うちの妹たちが初対面の大人を相手に社交的に振舞えていることに感動していたら、こっそり言質を取られそうになっていたので訂正しておく。


 あれはちょっと基本を教えてあげただけで、弟子とかそういう大層なものではないのだ。

 というか、「弟子」という名目で押しかけられると困る――伊達さんなんかはまとわり付いてきそうだし、それくらいは察してほしいね。



「お姉ちゃん、そういうとこだよ!」


「姉さん、もう少し人の気持ちを考えましょうよ」


 だというのに、妹たちに非難された。

 なぜだ。



「いえ、御神苗さんがそういう性格なのは分かってますし、何だかんだと言いつつもこうして力を貸してくれていますのでそれで充分です。それに、本当に弟子だと言われると舞い上がっちゃう娘もいますしね」


 分かっているじゃないか。



「今日はその伊達さんとかは?」


「今日は別行動ですね。一応、『この機に乗じて』と考える勢力がいないとも限りませんので、今回は特に広範囲をカバーすることになっていまして。伊達にはかなりゴネられましたが」


「すみません、うちのお姉ちゃんのせいでご迷惑をお掛けして……。でも、お姉ちゃんなら敵が増える分には問題ありませんよ」


 なぜ私が迷惑を掛けたことに?

 とはいえ、敵が増えるだけなら問題無いのはそのとおり。

 敵味方の区別をしろと言われると――味方の顔も分からないようだと面倒だけれど。



「いえ、御神苗さんのおかげで人員不足や資金問題も改善していますから――フーや日暮なんかも参加していますので、トータルで見れば環境はよくなっているんですよ」


 日暮さんは先日会ったけれど、フーって誰? Who is フー?



「それより、襲撃の可能性があるんですか? 私たちは実戦慣れしていないので、敵味方の識別をする余裕があるかどうか……」


「いえ、御神苗さんに潰された組織の残党の一部が懲りずに集まって『被害者の会』みたいなのを結成しているという情報があって、念のためです。それよりも、見学ではなく、おふたりが参加されるんですか?」


「そうですよ――というか、いけるところまではふたりに任せて、私は後方支援に徹するつもりです」


「ええっ!? 実戦慣れしていないのに、いきなり百鬼夜行退治をふたりでですか!? 正――本気ですか!?」


 また正気を疑おうとしたな?



「私も控えていますので危なくなる前に下がればいいだけですし、それができないような鍛え方はしていないつもりですので。もちろん、乱入してきた人が巻き添えになっても助けませんので、注意してくださいね」


「妖怪の中には人に化けるとか人を惑わすものもいるそうですので、その懸念は当然かと。何があっても戦闘区域に入らないように通達しておきますので、万一加勢が必要な場合は何か合図をお願いします」


 魂や精神も見える私にとって、特に知り合いに化けられたとことで見分けがつかなくなることはない。

 それでも、人に近い妖怪がよく知らない人に化けていたりすると――個性の範囲に収まってしまうと難しくなる。

 というか、そんなよく知らない人のためにいちいち確認するのが面倒なので、全て妖怪として処理させてもらう。

 妹たちに負担をかけたくもないし、どうでもいいことで手を汚させたくもないので、そこだけは私の独断で。

 そもそも、これが行き当たりばったりのものだということを忘れてはいけない。

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