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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第三章 邪神さん、華麗に羽化する
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08 迷宮攻略3

 迷宮攻略4日目。


「もう40階!? 1日10階以上のペースってすごいな……」

 テッドさんが大袈裟に驚く。

 しかし、道順が分かっていて、罠などのリスクが最小限まで抑えられているなら誰だって余裕だろう。


 それはさておき、今日からアルの《転移》魔法のお世話になるので、多少とはいえ時間が短縮できるようになった。


「俺の魔力は大量に消費するけどな」

 などと言いつつも得意げなアル。

 まあ、魔力の回復に関しては、私がひと肌脱げばいいだけだ。

 とはいえ、不用意な発言や接触は要らぬ誤解を招くので、アルの手を取って両手で包むように握る。


「え? 何? えっ!? ごふっ!?」

 アルが鼻血を出したのと、エリーさんの槍の石突がアルの脇腹にめり込んだのは、ほぼ同時だった。

 手を握られて鼻血を出すとは思えないので、腹部を殴られて出たと考えるのが自然だと思うのだけれど、それってヤバくない?

 迷宮より病院に行く?


「ユノ、魔力の回復をしてあげようとしたのは分かりますが、ひと声かけてからにした方がいいですよ?」

 男同士なのに? と思っても口答えはしない。

 女心には私に理解できない機微があるのかもしれないし、男同士であっても違う意味で誤解されることもあるかもしれない。

「はい」

 とりあえず、こういうときは素直に謝るのが、最も早く問題を終わらせる方法なのだ。



「あはは、本当に気持ち良いわ。抱き枕に欲しいわー」

「駄目ですよ。うちの自慢の英雄なんですから」

「やはりプニプニでスベスベでモチモチでツルツル! ――いつまで触っていても飽きがこないな」

「ユノさんは良い匂いもしますよ!」

「この子の魔力――もしかして、魔素? すごい。気持ち良い。持って帰りたい」

「普通は他者の魔力など受け容れられるものではないのじゃが、ユノから出ておるのは清純で純粋で濃密な魔素じゃからな。当然、やらんぞ」


 素直に謝罪した後、私に触れると魔力が超回復することを伝えたところ、試してみようと揉みくちゃにされた――というか、今もされている。


 その様子を見ているアイリスたちは文句を言うどころか、なぜか誇らしげである。

 嫉妬くらいはされるのかと思っていたのだけれど、やはり女心は分からない。


「俺も試したいんですけど……」

「テッドはダメ」

 寂しそうに眺めているテッドさんに手を差し出そうとしたけれど、フローレンスさんに引き戻される。

 仲間外れはよくないと思う。

 口には出さないけれど。



「迷宮に入る前に酷い目に遭った……」

 アルの無実は証明されたはずなのだけれど、こうやって声をかけてきたのは、奥さんたちが充分に私を堪能した後だった。

 もう少し早く助けてほしかった。


「鼻血なんて出すのが悪いんでしょう?」

「何を考えていたのか――破廉恥な」

「不潔」

 無実は証明されていなかった。

 なぜだ?

「お前らもああやってユノに上目遣いで見られてみろ――いや、悪かった。ユノも唐突な行動は勘弁してほしい」

「ごめん」


『アルフォンスたちはどこまで進んでるの?』

 私たちのやり取りには構わず、朔が本来の目的に引き戻す。

 さすが、朔だ。

 空気が読めないことが、良い方に作用している。


「70階のフロアボス前だよ。到達したのが13くらいの時だったんだけど、その時は犠牲が出そうだったから挑戦しなかったんだ。

――いや、今でもきついかもなあ」

「あれには挑戦したくないなあ。肉食って無敵――いや、状態異常は防げるのかな?」

 想像以上に進んでいた。

 大したものだ。


 さておき、70階のフロアボス――門番のことだと思うのだけれど、それについて尋ねてみたところ「行ってみてのお楽しみ」とはぐらかされた。

 まあ、十年以上も前の情報が今も役立つのかは分からないし、アルの言うとおり楽しみにしていればいいだろう。



 私としては最深部到達が目的なので、70階から先に進みたかったのだけれど、アルたちに却下された。

 私とミーティアはともかく、アイリスとリリーの戦力を把握したい――というか、《鑑定》結果で力不足と判断されたのだろう。


「まずはお互いの戦力の把握だな」

 というジーンさんの提案が採用されて、とりあえず41階から再開することになった。


◇◇◇


「予想以上に強い。――でも、変則的すぎて評価しづらいなあ」

 かなりの場数を踏んでいそうなテッドさんでも強いと感じるのなら、現段階ではそれでいい。

 というか、私やミーティアを組み込んでパーティーとして機能させるのは、かなり難しいと思う。

 ふたりとも単体で運用する駒だし。

 パーティーとしての戦力が、ミーティア単体の戦力を上回るのは難しいだろう。


「前衛がミーティアさんだしね。安定感が別次元だからできる構成――というか、これもうレベリングだよね」

 エリーさんが正鵠を射る。

「アイリス様の指揮はなかなかのものだ。的確で、迷いが無い。それに、先も見えている。訓練次第では、もっと大きな隊を動かせるようになるだろう」

「あの若さでこのレベルはすごいこと」

 ジーンさんとフローレンスさんも何か頷きあっている。

 ベテランならではの観察眼的なものがあるのだろうか。


「それより、ユノちゃんは全然戦わないのね?」

『ユノは集団行動に向いてないから』

 その言い方では誤解を招きそうだけれど、確かに向いているとはいい難い。


「ユノちゃんが戦ってるところ見たかったなあ。ま、うちのご当主様みたいなもんだとは思うけど」

「そうねえ。アルも結構ひとりで行動するの好きよね」

「うむ。挙句、新しい嫁を連れて帰ってきたりな」

「私たちはアルのお目付け役」

「うう……」

 なるほど、言いたい放題言われても何も言い返せないところとかはよく似ている。

 私が嫁を連れて帰るようなことはないと思うけれど、普段から誤解を招くような行為は慎もうと思う。




 一時間ほど探索したところで、アルの魔法で50階まで《転移》した。

 ミーティアがいる以上、雑魚戦では私たちの――アイリスとリリーの実力は測れない。

 なので、彼らのいうフロアボス戦で実力を見たいようだ。


 50階に配されていたのは、上半身は人間の女性なのだけれど、下半身が蛇の異形が5匹――5人? 

 ただし、かなり大きい。

 身長――胴体も、尻尾も、胸も。頭の高さは二メートル以上はあるだろうか。


 その奥には、同型で更にひと際大きく、背中にはミーティアのものによく似た翼がついた、いかにもボス的なのがひとり。

 計6人の蛇女が、曲刀や槍、盾などで武装していた。


 私としては、ウネウネニョロニョロしているけれどブヨブヨヌメヌメしていなさそうので、ギリギリセーアウセーフ。

 上半身だけならセーフ、下半身はアウト、全身ではギリギリセーフ?

 直接手を出さないので、セーフにしよう。



 戦闘開始前に、リリーがアイリスの指示に従っていくつかの仕込みを行うと、その後にミーティアが戦端を開く。


 蛇女のひとりがミーティアに当たって、親玉がその背後を狙う。

 そして、残りは全てアイリスに向かってくる。


 真っ先に指揮官を狙う辺り、親玉の知能はそれなりに高いようだ。


 しかし、それはアイリスの想定の範囲内で、さきに敷設していたリリーの指向性の《爆裂》が地雷のように発動して、蛇女たちをひと纏めになるように吹き飛ばす。


 そこにリリーが追撃。

 蛇女たちが体勢を立て直す前に周囲を《狐火》で囲って隔離に成功する。


 アイリスとリリーは、防御のみで凌いでいたミーティアの援護に向かうと、今度は親玉がアイリスを狙って動き出す。

 思いのほか素早い親玉の攻撃で、なす術なく斬られたアイリスはリリーの作った幻影で、

本物のリリーとアイリスは、その間にミーティアの相手をしていた蛇女を集中攻撃で撃破していた。


 戦闘前に好きなだけ準備できるからこその戦術ではあるけれど、こうも上手くいくと自信にもなるだろう。

 後は親玉との三対一の勝負で、取り巻きを囲んだ《狐火》を切らさないように注意して、チクチク削っていれば戦闘終了だ。




「戦略の組み立てが上手いなあ。あちらさん、完全にアイリス様の掌の上だな」

 時間の問題となった戦場を見ながらアルが総括に入って、奥さんたちやテッドさんも首を縦に振って肯定する。

 アルたちの目から見ても、アイリスたちの戦闘能力は認めるに足るらしい。


「レベル的な不安はあるし、偏りがある分変則的だけど、実力は充分だ。次は俺たちが見せる番だな」

 アルの宣言で一斉に「「「おう!」」」と気炎を上げる面々。

 この人たちは、見た目に反して体育会系らしい。


◇◇◇


 彼らは体育会系ではあるけれど、脳筋ではなかった。

 久しぶりの実戦ということで、勘を取り戻すのとウォーミングアップに小一時間、51階以降の敵を相手にしていた。


 冒険者さんや騎士さんが到達できない場所での戦闘がウォーミングアップというところに、彼らのレベルの高さが窺える。


 重装備のジーンさん――ビキニアーマーを着る踏ん切りがつかなかったらしい――が、前線で《挑発》スキルを使って魔物を惹きつける。

 このスキルは、最近ミーティアも取得していたので知っている。

 範囲内の敵の注意を惹きつけることができるのだ。

 ただし、お肉の魅力には敵わない。


 さておき、ジーンさんに集った魔物をエリーさんが崩して、テッドさんが止めを刺す。

 その間、後方にいるフローレンスさんから魔法や弓による狙撃が間断なく撃ち込まれていて、エリーさんとテッドさんの援護や、《挑発》から漏れた敵の処理がされていた。

 言葉にすると簡単なことだけれど、それが恐ろしく精密に、そして迅速に行われている。

 アルはといえば、強化魔法で彼らの身体能力の底上げを行っているだけ。


 つまり、充分な余力を残して戦っているのだ。

 パーティー戦とはこういうものなのか。



 王国内――近隣諸国を見回しても最高水準にある彼らの戦い方は、アイリスやリリーにはとても参考になるものだと思う。

 ただ、《薙ぎ払い》とか《兜割》などと、見れば分かるような術技の名前を叫ぶのが気になった。


 後になってアルに訊いたところ、術技や魔法の名前を叫ぶことによって、威力が10〜20%ほど上がることがあるのだそうだ。

 さらに、術技の名前が違っていても、それっぽければいいらしく、深く考えない方がいいと言われてしまった。

 それでも叫ぶことで「起こり」が分かってしまうのでは――と思うのだけれど、それもよほどのレベル差がなければ不利にはならないのだとか。


「俺も日本でちょろっと剣術習ってたから気持ちは分かる。でも、生半可な技術じゃスキルには勝てないんだよ」

 何とも理解しかねる話だけれど、実体験を基に言っていることは理解できた。

 確かに、身体能力の限界や物理法則の壁などの差がある以上、同列に語っても意味が無い。

 誰にとっても、多かれ少なかれ世界とは理不尽なものだ。

 アルの言うように、深く考えすぎない方がいいのだろう。


◇◇◇


 60階のフロアボスは、ふたつの首がある下位竜だった。

 本当に、「またか」と言いたい。


 数の力は確かに存在するけれど、こういうことではないと思う。

 この様子では、そのうちクリとかウニの棘のように首が生えた物体が出てくるのではないだろうか?


 それはさておき、ミーティアに竜の位の違いについて訊いてみると、大雑把には下位と中位は力の差で、上位は知性の差――ざっくり分類すると、言葉を話せれば上位に分類されるのだとか。

 それはつまり、学習能力の高さを示すものであって、その時点で下位や中位より弱くても、伸びしろがまるで違うのだとか。

 そして、永く生きた竜は竜王とも呼ばれて、他の竜とは一線を画す存在として扱われることからも――更にミーティアのような古竜と呼ばれる竜は特殊な存在で、竜でもあり精霊に近い――。


 堰を切ったように喋りだすミーティアに、訊かなきゃよかったと思いつつ適当に相槌を打つ。

 必要なことは必要なときに朔が覚えてくれるだろう。

 やはり、細かいことは気にしない方がいいらしい。



 アルの奥さんたちとテッドさんが、短期決戦用の強化魔法を纏うと、更に《完全防御》のスキルを発動したジーンさんが先陣を切って竜に突撃して、その注意を惹く。

 そして、上手く位置取りを調整しながら――竜の視界からアルたち外すように誘導しつつ、牽制して竜の動きを制限する。

 そこへ、フローレンスさんの水の結界を纏ったエリーさんが側面から襲いかかって、片方の竜の首を牽制する。

 竜がそれに反応した一瞬の隙に、テッドさんが《兜割》の術技でもう片方の竜の首に深い傷を負わせると、そこへ更に《鎧砕》と《無限連撃》のスキルで同じ個所を滅多切りにして、瞬く間に首の一本を切断してしまった。


 解説役のアルが、ノックバックがどうとか、クールタイムがどうとか説明してくれているけれど、意味はさっぱり分からない。


 まあ、アイリスたちに説明しているのだろうと思って、適当に頷いておくに留める。


 そうこうしている間にも、フローレンスさんの放った矢が残った首の片目に突き刺さったところに、エリーさんの《穿孔撃》の術技が竜の口内を貫いて、戦闘は終了していた。 



 魔法やスキルをフル活用した短期決戦。

 動きの激しい的をピンポイントに狙える技量、お互いを信頼した連携などなど、どれを取っても見事というしかない。

 それぞれ単体の動きは、スキルや魔法の効果が分からない私には評価できない。

「見事なもんじゃのう。中位くらいまでなら充分に倒せるじゃろうな」

 ミーティアですら、飽くまで上から目線ではあるものの素直に称賛しているくらいだ。アイリスとリリーに至っては言葉も無いようだ。

 なので、これがこの世界での正攻法とかそういうことなのだろう。


「ミーティア殿は別として、アイリス様もリリーちゃんもまだ若いのだから、いずれこれくらいはできるようになるさ」

「そうそう。ふたりとも才能あるからすぐに強くなるよ!」

 ジーンさんとエリーさんが軽い感じでふたりを励ましている。

「久しぶりにレベルが上がったな。やっぱ竜とやるのはリスクもリターンもでかいな! ――と、すみません」

 久しぶりというレベルアップに気を良くしていたテッドさんが、ミーティアの正体を思い出したようで、慌てて頭を下げる。

「よい、気にするな。力のある竜ほど強者には敬意を払うものじゃ。じゃからお主らは誇っておればよい」

 この言葉を聞けば、どれだけ懐が広いのかと感動してしまいそうになるけれど、実際は竜の矜持とかなんとかで結構面倒臭い。

 テッドさんが感激しているので、指摘はしないけれど。


「それじゃ、俺とユノとミーティアさん以外の実力は見れたわけだし、その6人で臨時パーティーでも組んでみようか」

 アルの提案は願ってもない機会なので、有り難く利用させてもらう。




 4日目は66層まで攻略したところで終了となった。

 中途半端な階層だけれど、アルの《転移》魔法のおかげで移動の問題が発生しない。

 羨ましい限りだけれど、時空魔法の適性を持っている人自体が少なく、初歩の初歩である有視界内の《転移》ですら高い適性がなければ成功させられずに、そのまま多くの人が挫折してしまうらしい。


 ミーティアなら使えそうなものだけれど、彼女の答えは「天空の覇者にとって《転移》など邪道じゃ」とのこと。

 迷宮内での《転移》であれば、空は全く関係無いのだけれど。

 なので、できるけどやりたくない――ということであれば理解できる。

 しかし、ミーティアは「邪道」の一点張りで、答えになっていない。

 嫌なら嫌で、できないならできないでも構わない。ちゃんと言ってくれれば、私はミーティアの意思を尊重するのに。

 竜の矜持、本当に面倒臭い。

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