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02 お礼

――ユノ視点――

 球技大会が終わって最初の週末。


 文化祭の準備も始まっていなくて、百鬼夜行退治まで若干の余裕がある期間。


 というか、文化祭の方は出し物すら決まっていない。

 私を軸に何かをするのは私の意思を無視して決定済みだけれど、その先はコスプレ喫茶か鉄板焼きかお酒を出さないキャバレーかキャットファイトなどなどで揉めている。



 コスプレ喫茶は、まあ分かる。

 文化祭の出し物として「喫茶店」は定番だし、プラスアルファで「コスプレ」になるのもお約束だ。

 それだけに競合も激しいと思うけれど。



 鉄板焼きは、夏休み中の旅行での私が料理をしている動画が理由のようだ。

 しかし、どうにも調理担当は私ひとりで、ほかのみんなは「食べる役」になるとかいう狂った話になっているのが気になるところ。

 そういうクローズドなのは文化祭の趣旨的にどうかと思うよ。



 キャバレーは、本来の意味は「舞台がある飲食施設」のことであって、いかがわしいお店のことではない。

 要は私に何らかのパフォーマンスをさせたいのだろう。


 問題は、この案を出したのが藤林先生だということで、本来の意味ではなく性風俗店だと勘違いした生徒たちから「汚い大人」のレッテルを貼られてしまったことだ。

 一応、姫路さんが本来の意味を知っていてフォローを入れていたけれど、先生がどういうつもりで言ったかは今も分からない。



 それから、キャットファイトとは、女性同士――特に素人同士を戦わせて、それを鑑賞する興業のことらしい。

 発案者は姫路さん。

 その直前のやり取りからよくも言えたものだと感心した。

 もちろん、私は素人ではないので関係の無い話だけれど、彼女には戦いたい相手でもいるのだろうか。


◇◇◇


 さておき、そんな感じで学校生活は平和そのもの。


 プライベートも問題無しで、お仕事の方も百鬼夜行程度なら恐らくどうとでもなる。

 油断は禁物かもしれないけれど、本来であれば綾小路家とかその繋がりで対処する問題らしいし、彼らが生き残っているという事実から測れる脅威度だとたかがしれている。

 むしろ、どれくらいの加減でやるかを考えなければならないだろう。


 とはいえ、そんなことを正直に言っても角が立つだろうし、先方にしてもいろいろと思うところはあるだろう。

 なので、それらの解消の目的もあって綾小路家の招待に応じることにした。



 招待の名目は、先日の綾小路さんたちに受けさせた講習のお礼と、百鬼夜行戦に関する意見交換だ。

 それと、あわよくば講習を受けた人たち以外にもアドバイスが欲しいと思っているのだろう。

 残念ながら、アルは諸般の事情で同行できないため後者の方は意に沿えないと思うけれど、期待するのを止めろとまでは言えない。


◇◇◇


 ということで、やってきました綾小路家。


 綾小路家は、表向きは豪農の家系とでもいうか、古くから続く地方の有力者的なイメージの家である。

 まあ、「イメージ」だけで、実際はそこまでお金持ちでもなければ権力も無いらしい。


 ただ、実際に広大な農地や山を三つほど所有しているとかイメージどおりな点もある。

 それでも、本業は闇払い――いや、それで収入を得ているわけではないらしいので、副業になるのか? しかし、どちらかというと軸はそちらにあるようだし?


 ……分からん。

 まあ、余所の家のことなのでどうでもいいか。


 とにかく、すごく広い敷地に、すごく大きな家。

 敷地内にプライベート滝とかプライベート神社まであるそうだ。

 その上警備も厳重で、「お金持ってそう」と侵入を試みる人もいるそうだけれど、不幸にも侵入してしまった人のその後を知る人はいない。


 もちろん、湯の川と比べられるほどではない。

 湯の川には神殿とか浮遊島から落ちる滝とかあるし、敷地の広さも桁が違う。

 飽くまで一般論としてだ。


 まあ、湯の川は比較対象としては不適切なのでさておき、日本的な基準だと「東京ドーム〇個分」と表現されるレベルだろう。




 家が大きければ門も大きい。

 器量とか度量も大きくあってくれれば最高だ。


 巨人でも出入りするのかと思うくらいに大きい門をくぐると、綾小路家の家族と使用人全員――いや、恐らくほかの家の人も交じっているであろう盛大な出迎えを受けた。

 一条さんもいるし、子沢山とか大家族とかそういうレベルではない数の人がいる。

 あるいは反社会的勢力な意味での一家か。


 とにかく、表向きは百鬼夜行戦の意見交換のためで、実態は綾小路家に便乗して何かを得ようと思って集まったのだろう。



「ようこそおいでくださいました、御神苗ユノさん。先日は娘たちが大変お世話になりました。それに、猫羽真由さんとレティシアさんにも、いつも娘たちがお世話になっていると聞いております。私たち家族一同、大変感謝しております。本日は――」


 綾小路さんのお父さん――ここでは「ご当主」とよぶべきか? が、娘の同級生に対する角度ではないレベルで頭を下げて長々と挨拶をしているので、恐らく仕事上の立場で接しているのだろう。

 何にしても、お姉さん――蘭さんだったかの体形の追及を受けなくてよかった。



 その蘭さんは、講習が終わった時より少し痩せたか?

 こっちを見て涎を垂らしているけれど――涎!?

 体型云々より、精神的な問題が!?



「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。私も学校では竜胆さんや怜奈さんに助けていただくことも多いですし、今日は何かお返しができればと思って参りましたので――」


 なので、問題を有耶無耶にするためにも少しだけサービスすることにした。


 なお、「お返し」と聞いた途端に蘭さんの涎が増量したけれど、ご当主の目も欲で眩んでいたのでギリギリセーフか。



「こんにちは、お世話になります」


「こんにちは、今日はよろしくお願いします」


 ちなみに、ご当主の話題にも出ていたように、今日は真由とレティシアが同行している。



 夏休みの旅行以降、設定上の関係をオープンにしたこともあって、御神苗と猫羽の関係は多くの組織が知るところになった。

 すると、こういう機会に「よろしければ~」と一緒に呼ばれるようになるわけだ。

 先方には下心ありありだとしても、私としてはふたりが外出する機会になるので、今回はWIN-WINかなと思う。



「あ、これ、つまらない物ですが、皆さんでどうぞ」


 ひとまず挨拶も終わったところで手土産を渡す。

 何を持っていくかは少し悩んだものの、友人(※願望)の家ということもあって、絶対に外さない物をチョイスした。



「これはこれは、ご丁寧にう、お……! こっ、こっ、これはっ!? これ、これは! 大層な物を! こんなにいっぱい、しゅ、しゅごい! ありがとうございましゅっ!」


「お館様、やりましたな! しかもこれは特級品質ですぞ! お値打ち品でもなかなか手に入らないというのに!」


「しかもこれほどの量とは――末端価格はいくらになることやら。倉庫番として気を引き締めませんとな!」


 ……トランクケースいっぱいの手土産(※ネコハ製品)に、ご当主たちの挙動がおかしくなった。

 別の意味でチョイスを間違えたか?


 まあ、いい。

 魔術師の家系なら役に立たないということはないだろうし。


◇◇◇


 それから、綾小路さん姉妹と内藤さんに一条さん、それと「せっかくの機会なので」と何が「せっかく」なのかは分からないけれど、歳の近い人たちとの食事会が開催された。


 年配の人たちが一緒ではないのは気を利かせたつもりなのかもしれないけれど、魔術に傾倒していてそれ以外の経験が不足している少年少女に腹芸ができるはずもない。


 そこで、親交のある一条さんや内藤さんが盛り上げようとはしてくれるものの、魔術の話題を振られても私にはよく分からない。

 もちろん、真由とレティシアにも。

 ふたりは周囲をガン無視して料理に集中しているふりをしている。


 私も少し無理をして流行りの服や歌などの話題を振ってみたけれど、みんなにスルーされてつらい目に遭った。



 というか、綾小路さんたちにはさきの講習で魔力や魔法について何度もしつこいくらいに語ったはずだけれど、もう忘れてしまったのだろうか?

 いや、まだまだ「身についた」とはいい難いし、ほかの人たちとの橋渡しをしようと思うと仕方がないのか?


 綾小路さんも頑張っているけれど空回り気味で、お姉さんは私の料理がいかに素晴らしいかをとても早口で熱弁している。


 それだけならまだ適当に流せたのだけれど、ほかの人たちもどうにかお役目を果たそうと発言の機会を窺っていて、唐突に意味不明な言動を挟んでくるので、とても奇妙な雰囲気になっている。

 私としては置物になってくれていた方がよかったのだけれど――というか、どうせならちびっ子たちを寄越してくれればよかったのにと思ってしまう。

 それなら出し惜しみ無しでいろいろと教えてあげたかもしれないのに。



 とにかく、共通する話題がないとどうにもならない。

 一方的に喋ればいい分、最初から講習にしておいた方がマシだったかもしれない。




 それでも、どんなことにも終わりはある。

 今回の場合は、時間経過か料理が無くなればひとまずの区切りとなる。


 もっとも、次の予定も決まっていて、特に面白いものでもなさそうだけれど、無理矢理交流させられるよりはマシだろうか。

 ……本当に、マシであってほしい。

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