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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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幕間 爆発

 主神たちが更なる勇者召喚改善のための議論に夢中になっていた頃、思わぬところで事件が起きていた。




 日本某所。


 ()()は基軸世界に渡る方法を探すかたわらで、無秩序に愛を振りまき育ませ、それを堪能することで自身の力としていた。

 効率的に行うためにと翼と光輪を隠し、服を着て人に擬態し、人間社会に紛れて人を知る努力も辞さない。



 もっとも、()()は天使のような見た目をしていても、歴とした生物である。

 生きるためには食事や睡眠をとらなければならないという点では人間と変わらない。


 幸いなことに、身体は極めて頑丈で暑さ寒さにも強く、「その気になればどこでも眠れる」という意味で、睡眠の方はさほど問題ない。

 日本という国の治安の良さと、そこに住む人々の人の好さという要素も大きいだろう。

 暴漢どころか軍隊でも撃退できる力があるとはいえ、襲われないに越したことはないのだ。


 とはいえ、()()にしてみれば、そこに愛があれば受けて立つことも吝かではない。

 可能性は無限で、時として「暴力から始まる愛」もあるかもしれないのだ。

 あるいは全て()()()()()()にして「愛」でぶん殴ってもいいのだが、それが主流になっても面白くないので、特殊な事情でもなければ避けたいというのが本音である。




 一方で、食事は「無」から発生するような物ではない。


 しかし、自由な狩猟や採取はこの国の法に抵触するおそれが高く、自給自足をするにも元手が必要となる。

 あるところから奪うという方法もなくはないが、それでは愛がない。



 現代日本において、食料に限らず、何かしらを得るために一般的かつ合法的で、更に即時性も考慮するなら、労働するなりして金銭を稼ぐのが最善である。

 それでは買えないものも多々あるが、少なくとも食料は手に入る。


 ただし、住所も無ければ戸籍も無い()()にまともな職に就けるはずもなく、社会福祉等も受けられない。


 膨大な愛の魔力を有している()()が数日程度で飢えて死ぬようなことはないが、基軸世界に移動するためにどれだけの魔力が必要になるか分からない以上、温存と補給手段の確保は当然の措置である。



 とはいえ、社会全体の衛生観念が上昇し、ゴミの分別なども当然のことと受け入れられるようになった昨今において、それ以前のように廃棄食品を手に入れることは容易ではない。


 現在ではコンビニ等のゴミ箱は店内に設置されていることが多く、そこでゴミ漁りをすると十中八九店員に止められるか警察に通報される。

 また、公共スペースにあったゴミ箱は様々な事情から撤去が進んでいて、「外出時に出たゴミは持ち帰るものだ」という風潮も浸透してきている。

 そもそも、家庭ゴミを定められている集積所以外に出すと「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に違反するおそれがあるため控えた方がいい。




 さておき、一方では通信手段の普及などで、新たな獲得手段も生まれている。



 そのひとつが「神待ち」という神事である。



 ちなみに、ほかにも「パパ活」という儀式もあって、()()もどちらにするか非常に迷った。

 ただし、「パパ」――恐らく「父なる神」のことだと思われるが、父母を敬う気持ちは確かにあるものの、()()にはそれ以上に大切な使命がある。

 ゆえに、愛を求め、迷う子羊たちに道を示すことを優先した。

 それに、「神待ち」という響きがとてもしっくりくるものだったという理由もある。



 また、現代日本の知識が乏しい()()でも、「神待ち」が難しいことではなかったことも大きかった。


 儀式に勤しんでいる巫女たちを見つけて、そこに佇んでいるだけでいい。

 そうすれば、どこからともなく信者がやってきて、その家に招かれご馳走してもらえる。

 その後は愛の何たるかについて説けば寄進も受けられる。


 さらに、信者が愛で満たされた分だけ、()()の魔力も満たされる。

 信者ひとりで満たされる魔力は微々たるものだが、本懐を遂げるためにはその積み重ねが重要であり、それを抜きにしても世界を愛で満たす活動は()()の喜びでもあった。


 時折、愛と性欲を勘違いした邪教徒や、信仰を誤解した狂信者が現れ襲われることもあるが、真の愛の前には無力である。

 どんな人数だったとしても、どんな武器を使おうと、愛の力で返り討ちにして不浄な心と体を(身包みを)浄化して(剥いで)やれる。

 あるいは、世界をより広く愛で満たすためには、彼らのような迷える子羊を教化した方が効率的なのかもしれないと、かえってやる気が湧いてくる。



 そんな()()が、強い愛の気配に興味を惹かれるのも当然のこと。

 細かい事情は分からなくても、強い愛を抱いている者は祝福してやらねばならない。


 そう思って駆けつけた瞬間、()()は眩い光に包まれ押し流されて、意識が途切れた。


◇◇◇


 意識が戻った()()の目に映るのは、見渡す限りの木々と大地、そして僅かに見える空。


 ()()は深い森の中にいた。



 落ち着くために何度か深呼吸をしてみたが状況は変わらない。


 それでも、いくつか分かったことがある。



 ひとつは、ここが基軸世界であること。

 言語化できるほど明確な理由は無いが、とにかくそう感じる。


 強いていうなら、今現在()()が全身で感じているシステムの波動だろうか。


 この漲る力の源が「愛」でなくて何なのか。

 これだけ「愛」で満たされている世界が基軸世界でないはずがない。


 それに、いつぞや拾ったとげとこの世界との親和性が非常に高いことも裏付けのひとつに思える――思うだけで何の根拠も無いが、そういったものは「愛」と同じく理屈ではない。



 とにかく、理由は分からなくても、基軸世界に渡れたのは幸運である。

 自前の魔力を消費しなかったことも同様だ。


 それどころか、この世界に来てから力が漲っている。


 ここまで御膳立てされると、これはただの偶然ではなく、運命が()()を後押ししているとしか思えない。



 ただし、同時に試練も与えられている。


 深い森の中では、愛を振りまく対象がいない。

 いくら「愛」が尊いものといっても、発情期ではない獣を煽るのは摂理に反する。


 ほかの対象といえば虫くらいだが、なぜかそれらに祝福を与えるのは生理的に無理だった。

 むしろ、目にすることすらも嫌で、許されるなら滅ぼしたいくらいである。


 一応、「生態系を崩してはいけない」とか、「状況も分からないうちに大きな力を行使して目立つことは避けなければいけない」と思い止まるくらいの理性は残っているため、軽挙に走ることはないが。



 また、世界を遍く愛で満たすためには、基軸世界を掌握する必要がある。

 当然、暴力や恐怖などの不条理なものではなく、「愛の力」によってである。


 しかし、それは一般的には「崇高」といってもいい立派な目的だが、可能性の弊害か、時として愛を解さぬ者や多様な愛を許容できぬ者も存在する。

 性急に、又は強引に事を進めようとすれば、思わぬ反発を受けるのは必至。

 時には「愛の鞭」も必要だが、全てをそれで済ませるわけにはいかない。

 したがって、それには慎重な対応が求められる。


 そして、()()がどれだけ強大な力を持っていたとしても、虫などのように愛が無い生物を救うことはできない。

 よしんば虫にも虫なりの愛があったとしても、そこに情緒やストーリーが無いようでは興味が湧かない。


 ――虫をメイティングに導いて何が面白いのか。

 というより、()()が目指しているのは単純なメイティングだとかブリーディングではないのだ。

 身を焦がすような強い想いが、報われ、あるいは潰え、奪い奪われ――とにかく、そこに生じる様々なものが見たいのだ。



 だというのに、こんな所ではどうしようもない。

 移動しようにも、鬱蒼うっそうとした森の中ではどこにどんな虫がいるか分からず、迂闊うかつに動けない。

 翼はあっても飛び方が分からないので、表面積を増やした分危険になるだけだ。


 それ以前に、愛には負けることはあっても逃げることは許されない。



「おらあ! かかってこいやあ!」


 ()()は己の存在意義をかけて、特に必要の無い戦いに臨む。

 ()()はとても好戦的だった。


◇◇◇


「うわあ!? こっち来るなあ!」


 苦手な敵にも勇ましく立ち向かおうとした()()だったが、直後に遭遇した巨大なコオロギ型の魔物を見た瞬間に戦意を喪失していた。



 コオロギ型魔物には知能は無く、本能的に動く物に襲いかかっただけ。

 1匹だけなら低レベルの冒険者でも余裕を持って狩れる程度の魔物だが、()()にとっては何よりも恐ろしい存在だった。


 ただ、()()はただ身を護ろうとして、少し魔力を解き放っただけ。


 愛は人を強くするが、弱くもすることもある。

 時として、激しすぎる愛で身を滅ぼす者もいる。


 であれば、愛の申し子たる()()の愛が、物理的な破壊力を持つのも必定である。



 結果として、()()の本気とは程遠い愛で、周囲数十キロメートルが吹き飛んだ。

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