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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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29 お姉ちゃん

――ユノ視点――

 デスを使ったデスゲーム。


 思いついた時は良いアイデアだと思ったのだけれど、『やっぱり、参加者側の創意工夫で生き残れるようにしないと、ゲームとして面白くならないね』と、朔に駄目出しを食らった。

 駄洒落の質とゲームの質は比例しないのか。



『というか、駄洒落ですらないよね』


 ……まあ、確かに。


 そもそも、内容的にはただの弱い者虐めでしかなかったように思う。

 そんなところになんとなく数合わせで3体とも出したので、真由あたりに言わせれば「クソゲー」だったかもしれない。


 そうでなくても、「数合わせ」なんて言っていると、次の百鬼夜行退治では湯の川から選抜隊を連れていかなければならなくなるおそれもある。

 古竜や大魔王、神や悪魔とバリエーションは豊富だけれど、統率する労力を考えるとひとりでやった方が楽だろう。




 さておき、今回の結果は、「デスゲームの実験」と考えると不発だったけれど、「公安による、敵性魔術師や異能力者のヘッドハント」とすると大成功だった。

 むしろ、ヘッドハント率100%はやりすぎだったようだ。


 もっとも、あまり上級国民に弱体化されても困るといわれても、『国外の敵に対する防波堤は御神苗がいるから大丈夫』だそうだ。

 それでも、彼らが力を持っていることで、小悪党の台頭の抑止になるとのことで、やはり大幅な弱体化は困るのだとか。

 それに、公安の活動資金の一部も彼らが出しているらしく、関係の悪化も問題になるらしい。


 政治とか、難しい話は分からないけれど、お金ならうちやネコハコーポレーションから出すか?

 さすがに上級国民などと自称する人ほどの資産はないし、私が自由に動かせるお金も少ないけれど。



 それでも、私があれこれ考えるまでもなく、公安の上層部と上級国民さんの間でレンタル契約が結ばれていて、形の上では従来どおり。

 さらに、御神苗のエージェント――悪魔たちを通じて私とのパイプを繋いだりと、トータルで見るとWIN-WIN。


 私以外は。


 私とのコネクションがあるというのはこれ以上ない抑止力らしく、みんなニッコニコだ。

 なぜ私が彼らの面倒までみなくてはいけないの?



 ……さては悪魔め、留学期間が終わっても私を日本から逃がさない気だな?

 油断も隙もないなあ。

 朔も気づいていたなら止めてくれればよかったのに。



『ボクももうちょっとこっちで勉強したいから、残ってくれた方が有り難いんだよね』


 そう言われると断りにくい――というか、朔は開花したのにまだ成長できるの?


 はっ!?

 来年の同人誌が目的とかじゃないよね……?


 彼らの想い(よくぼう)の強さは認めるところだけれど、妹たちの目もあるし、あまりエッチな能力は遠慮してもらいたいのだけれど。



『ユノほど突き抜けてはいないからね』


 何の話かすぐには分からなかったけれど、「開花」の件か?

 それは褒められているのだろうか……?


 いずれにしても、ほとぼりが冷めるまで分体を置いておけばいいだけだし、そんなに負担でもないからいいか。



 とにかく、デスを使ったデスゲームは、就活、若しくは終活にしかならないことが分かった。

 もちろん、妹たちに仕掛けるのに後者は不適切だ。

 それに、今回は手加減させても「殺すな」とまでは言っていないから成立したけれど、生死が懸かっていないと分かってしまうとただの茶番になるだろう。

 ついでに、前者もある種の圧迫面接とでもいうか、あまり良いものではなかったように思う。


 なので、デスゲームを利用する案は一旦白紙に戻す。

 廃案にしないのは、デスはともかく、創意工夫でクリアできるゲームを作れば湯の川の学園でも役に立ちそうだからだ。

 アルの仕事が落ち着いたら頼んでみよう。




 さておき、今回の件で収穫がゼロというわけでもない。


 上級国民さんたちの立場ひとつにしても、お金と暇を持て余しているろくでなしというだけではなく、多大な社会貢献をしている側面もあったりする。

 もっとも、元より私は「善悪」についてはどうでもいい――というか、語れる立場にないので、それを理由に何かをすることはないけれど。

 彼らに雇われていた傭兵さんたちについてもその理由は様々で、「目障りだから」という理由で排除しても何も改善しない――どころか、悪化することもある。


 暴力では目先の問題解決にしかならないことは分かっていたけれど、その理由がそういった多角的な視点と社会構造の理解不足だったのかもしれない。


 つまり、何が言いたいかというと、力に目がくらんでいる真由とレティシア――綾小路さんたちが、私と同じ轍を踏むのではないかと心配になってしまったのだ。


 もちろん、利口な彼女たちなら、取り返しのつかない深みに嵌る前に引き返せると思う。

 それでも、何事にも「万が一」ということもあるし、私のようにどんな落とし穴でも踏み潰せるようなバイタリティがあるわけでもない。

 だとすれば、少しでもダメージが小さくなるよう道を示してあげるのが、お姉ちゃんの役目ではないだろうか?


◇◇◇


「……それで私たちにも社会勉強をしろって? いつものことだけど、お姉ちゃんの頭の中どうなってるの?」


「姉さんの言っていることにも一理はあるんですけど、女子高生のできるアルバイトで社会の仕組みとか裏側なんて分かるわけないじゃないですか」


 お姉ちゃんの役目、失敗。



「お姉ちゃんは知らないかもしれないけど、お姉ちゃんの後始末するのに社会構造とか常識とか、いろいろ知ってなきゃできないんだよ?」


「っていっても、私たちも三上さんとかに協力してもらってですけど、ちゃんと勉強してるんですよ?」


 つまり、そういうのを知らないのは私だけということ?



「むしろ、お姉ちゃんに勉強してもらいたいとこだけど――いや、させた結果がこれなんだけど……」


「変なところで物覚えが悪い――というか、覚える気がないんでしょうか。『障害なんて全て撥ね飛ばせばいい』とか考えてるんですかね」


『トラブルを避けるための知識も、負けない力を身につけるのも、どっちも間違いじゃないんだけどね。ユノの場合は後者に偏ってて別種のトラブルを起こすからね』


 朔もフォローしてくれない!

 私が何をしたというのか……。



「分かってない顔してるけど、私たちだけじゃなくて、みんながその後始末をしてるんだよ? っていうか、私たちの訓練もちゃんと見てよね」


「アルフォンスさんみたいに分かりやすくとは言いませんから、私たちにも特別コーチしてくれませんか?」


 さておき、夏休みが明けて、綾小路さんたちがレベルアップしていて、多少とはいえ「差が詰まっていた」――あるいは「差が開いた」と感じてショックを受けたのだろうか。

 そのおかげで、ふたりとも以前にも増して本気で訓練に取り組むようになっていた。



 元より、表面的な術理では、綾小路さんたちの方が一歩も二歩も先んじていた。

 そんなところに、基本を理解して基礎ができてくると、実力が跳ね上がるのも当然のこと。

 もちろん、私から見れば「まだまだ」――というか、さほど差は分からないのだけれど、彼女たちの自己評価がそうならそうなのだろう。



 一方で、ふたりも異世界では魔法やスキルを習得していたようだけれど、まだイメージが固まっていないのか、こちらでは上手く使えない。

 例外は三上さんたちから教わって、幼い頃から使い続けてきた洗脳系魔法だけ。

 そういうことで焦りを覚えているようだけれど、重要なのはそこではない。



 そもそも、それは彼女たちの目線での話である。


 ふたりには、ずっと基礎しかさせていない――間合いと気合まりょくの操作しか教えていない。

 それと並行して――というか、図らずとも「一般人が飲むと異能力に目覚める可能性があるような物」を常飲していたのだ。

 しかも、濃いめで。


 それらはしっかりと――というほどではないけれど、基礎として養われている。



 建築物に例えて比較すると、綾小路さんたちの基礎で建つのが一般的な戸建て住宅だとすると、ふたりは超高層ビルとか巨大商業施設、あるいはお城や要塞が建つ。

 砂上の楼閣なんて言葉もあるように、基礎がしっかりしていないと大した物は建てられないし、建ったとしても不安定になる。


 もちろん、基礎だけでは建物としての用をなさないけれど、どんな物でも望んだままに建てられるというのはものすごい強みだと思う。

 私なんて世界まで創れるようになったし、基礎は重要なのだ。



「夏休みにも言ったけれど、私に教えられるのは基礎作りだけで、その上に何を積むかはふたりが考えて決めないといけないんだよ。もちろん、方向性が決まればアドバイスとか、師匠に相応しい人をアサインしてあげられるけれど」


「その方向性っていうのが私たちの考えてるのとは違う気がするんだけど。綾小路さんたちはアルフォンスさんの指導受けたんでしょ? ずるいよー」


「アルフォンスさんの指導は分かりやすかったからね。姉さんのは、普通の人が踏むはずの段階をいくつもすっ飛ばしてるから分かりにくいんですよ」


「そんなに分かりにくい……? 魔力っていうのはその人の可能性であって、魔法っていうのはその可能性を実現させるためのもので、その可能性が最大の効果を発揮できるのは認識の及ぶ範囲――領域の中ってことなのだけれど」


『多くの人がそういうものだって考えてる「魔法は外に放つもの」っていう認識はボクたちから見れば出来損ないのもので、本来の魔法は「自分自身の中にあるとか作用させるもの」なんだよ』


 私の説明では分かりにくいと感じたのか、朔が補足を始めてくれた。



『その到達点のひとつが「自分自身の魔法化」で、それをボクらは「領域」っていってる。人間だとアイリスやアルフォンス、それとトシヤなんかもいい線いってるし、古竜みたいな特定災害の化身みたいなのもそうだね。君たちの場合は、その土台はもうできてて、認識次第でいつでも覚醒するような状態だと思うよ』


「トシヤさんも……。まあ、確かに独特な強さはあるけど、認めたくはないなあ……」


「古竜さんたちもみんな個性的ですよね……。あんな感じで吹っ切ればいいのかな……?」


 おっと、不適切な例が出たのではないだろうか?

 いや、彼らを否定するわけではないのだけれど。


 それに、解説としては私のものとさほど差がないように思うけれど、意外な実例を出すことで多少の補完にはなったのだろうか。

 そう思うと、不適切も役に立ったということか。



『手っ取り早く覚醒したいならユノに侵食してもらうといい。ただし、アルフォンスの髪が真っ白になるくらいのショックはあるけど』


「えっ、それはヤダ」


「私も遠慮します」


「そんな危険物みたいに言われるのは心外だし、そんなことをしなくてもいつかはできるようになると思うけれど、どうしてもイメージが湧かないなら試してみてもいいかもしれない。それと、アルにした時は彼に合わせてガツンといったけれど、こうして会話したり触れ合ったりするのも一応侵食だよ。だから、恥ずかしがらずに、もっとお姉ちゃんとスキンシップをしよう?」


「……っ! なんで妹を誘惑しようとしてんのよ!? 莫迦なんじゃないの!?」


「ねっ、姉さんはまたそんな……! いつもいつも……! でも、私は屈しないっ!」


『そうやってユノの誘惑を我慢できてる時点で、基礎がすごいレベルでできてる証拠だよ。基礎だけならアルフォンスやアイリスよりすごいかも』


 半分くらいはいつもの冗談だったのだけれど、今日はいつにもましてリアクションが派手だった。

 よく考えれば、お姉ちゃんになってからは初めてだったか?


 ということは、冗談ではなく真に受けたのか?

 まさか、以前はお兄ちゃんだったから照れていたのか?


 ……そうだったのか。

 まったく、可愛い妹たちである。


 今日はそんなシャイな妹たちのために、料理でも創ってあげようかな。

 気づいていない人も多いけれど、それも歴とした領域だしね。

 食べたからといってすぐにどうこうなるものではないけれど、頑張っている妹たちを応援するにはちょうどいい気がする。


 それに、こうやって子供扱いできるのももう僅かだし、残りの期間、全力でお姉ちゃんをしようか。

 お読みいただきありがとうございます。


 本章はこれで終わりで、しばらく幕間が続きます。

 次章も引き続き日本編です。

 引き続きお付き合いいただければ嬉しく思います。

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