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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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27 デビルの力

「やるわねえ。斬るも掴むも自在で射程も長い――それよりも、雇用主の命令をガン無視できるできる神経がすごいわネ! でもね、あの人たち――お金や権力って、本当はとっても怖いものなのヨ。それに、悪魔の力もネ。今からそれをたっぷり教えてあげるわ!」


 ユノのやる気のない単調な攻撃に勘違いした日暮が、彼女に向けて宣言する。


 その直後、彼の額に第三の眼が出現する。



「食らえい!」


 そして、裂帛れっぱくの気合とともに悪魔光線を放つ。


 本気で放てば広範囲を焦土と化してしまう――上級国民たちも巻き込んでしまうため、かなり加減はしている。

 それでも、音速を超える速度で照射される熱線は見てから回避できるようなものではなく、建築用の鋼材くらいなら容易に焼き切る熱量は熟練の結界師でも防ぐのは難しい。

 しかも、本気ではない分、溜め時間も短く連射も可能である。


 さすがに殺してしまう気はないが、手足の一、二本くらいは消し炭にしてやろうという魂胆だった。



 しかし、ユノはそれを糸で編んだ盾を使って上空に逸らした。


 彼女にとっては、この程度の攻撃方法は常識の範疇で、発動のタイミングなども精神状態や魔力の流れを見ていれば分かる。

 威力についても、そもそも彼女の肌や髪は単純な熱――太陽でも焼くことは敵わないので、特に思うところはない。

 ただし、それゆえに作戦のフェイズが進むこともない。



「ちっ! 思っていた以上にやるわネ!」


 加減をしていたとはいえ、得意技をこうも簡単に防がれた日暮は面白くない。


 それでも、ユノが防御に回って攻撃の手が止まったことを一定の成果と前向きに捉え、悪魔光線を連発しながら間合いを詰めていく。



「ドリャ!」


 そして、悪魔光線でユノを釘付けにしておいてからの、必殺の右アッパーを放つ。

 発生が速く隙も少ないそれは、悪魔光線と並ぶ日暮の得意技である。

 さらに、心・技・体が1フレームの誤差もなく一致したときには紫電を纏い性能が上昇する――のだが、肉体・魂・精神が常時合一している存在には通じない。



 もっとも、ユノが反射的にカウンターを取ろうとしたことを察した朔が、それより先にただの飾りだった尻尾を九つに増殖させた上で彼女の前面を覆うように展開させて、日暮の攻撃を受け止め押し返していた。


 ユノを守ったというより、彼女のうっかりから彼を守ったとという方が適切だが、会心の一撃を防がれた彼にしてみればそんな感覚は無い。



 一方で、朔は九つに増えた尻尾で日暮への追撃を行っていた。


 ユノを起点に、様々な方向からの突き、払い、掴みで彼を狙う。

 モーションの大きさを速度と手数で補い、触れた校舎を抉り大地を穿つ――と、見た目には派手ではあるが、充分に回避や防御ができるように加減はされている。




 日暮は、それを軽快で奇怪なステップで躱しつつ、隙を見て反撃を繰り出していく――が、決定打どころかクリーンヒットすら遠い。


(こんな隠し玉まで持っていたなんて驚いたわネ。まるで封神演義に出てくる金鞭じゃないの。こういうのって、中途半端に距離をとった方が厄介なのよね……)


 彼は、朔がいい感じで手加減していたことと、ユノが糸を使っての複合攻撃をしてこないことから、両者を一度に扱えないと判断し、つかず離れずの距離で立ち回ることを選択した。



 ユノ()の尻尾での攻撃が、日暮が勘違いしている「金鞭」に類似した物であれば、その判断も間違いではない。


 射程が長く、威力も高く、手数も多い――と隙が無い攻撃に対して、確たる回避や反撃の手段も持たずにただ距離をとるだけではあまり意味が無い。

 それなら、自爆にも注意しなければならない距離を保っていれば、性能を持て余してくれる可能性がある。


 そもそも、この手の武器や術を扱うのに最も必要なのは、認識力や情報処理能力である。


 相手の動きに応じてオートマチックで動くような物は、熟練者には簡単に見切られて裏をかかれてしまう。

 だからといって、マニュアルで動かすには正確な認識能力と反射神経、そして情報処理能力などが相当なレベルで要求される。


 したがって、自爆や反撃を受ける可能性がある距離に彼がいるだけでも、少女にとっては相当な負担になるはずなのだ。


 少女が糸と尻尾の複合攻撃をしてこないことがその裏付けだ――と彼は考えているが、朔の手加減が絶妙なのと、ユノがふたりの立ち回りの意図が分からず固まっていることで生まれた絶妙なバランスの結果である。



 あるいはこれが純粋な殺し合いであれば、距離をとって悪魔光線の出力を上げることも選択肢に入ったのだが、この時点でもまだ自身が格上だと信じて疑っていない。


 さらに、日暮は少女に抱いている違和感を、少女自身の実力ではなく仮面に宿っている銀狐の力だと思い込んでいる。

 尻尾での攻撃も、それを補完する要素になっていた。



 そして、日暮も悪魔の力を借りる身だからこそ分かることがある。


 神や悪魔の力は強大だが、それを宿す人間には限界がある。

 したがって、無制限にそれを行使できるわけではない。

 だからこそ彼は肉体を鍛え、精神を磨き続け、常にひとつ上のおとこを目指していたのだ。



 悪魔の力を最大限有効に使うために、身も心も悪魔になる――という考えは、魔法の本質的にはあながち間違いとはいえない。

 当然、「悪魔の力を使う」という時点でズレているのだが、漫然と魔術や異能力を使うよりは遥かにマシである。


 なお、日暮にはそんなつもりは全くなく究極の漢を目指しているだけだが、客観的には化粧が悪魔的だとか背中に鬼神が宿っていたり男性でも女性でもそれ以外でもイケてしまうなど、かなりそちら寄りである。


◇◇◇


 この状況を楽しんでいるのが、付近で待機している公安組だ。


「いいね、いいねえ。奴らのあんな顔が見れるなんて、やぶ蚊だらけの所で待機してた苦労が報われたわ。っていうか、あの尻尾どうやって動かしてんだろ? アポートとは何の関係もなくね?」


「アポートってのは方便――いや、得意技とかその程度なのかもな。よく考えたら、領域展開して、一日を百日にするとか殺されても生き返るとか、アポート全然関係ないしな。とにかく、圧倒的強者に死ぬまで挑めるのは良い経験になった。お前も来ればよかったのに」


「御神苗さんのセミナー受ける前は、日暮はもっと恐ろしい相手だと思ってたんですけどね。今こうして見ると、意外と付け入る隙もありそうな感じで――なんて、御神苗さんに聞かれたら『調子に乗るな』と怒られてしまいますね」


「嫌だよ。死んで強くなるとかどこの戦闘民族だよ……。でも、観にも身体能力で抜かれそうな感じだし、参加しといた方がよかったかなあ……」


「まあ、俺らで教えられるところは教えてやるが……。御神苗の兄さんほど上手く教えてやれないからな」


「アルトさんの説明と実演には随分助けられましたね。目指すべき姿としてとても分かりやすい。ユノさんは――アルトさんくらいになれば分かるんですかね?」


 安倍と上井は、ユノと日暮の戦闘を観ながら自身の成長を実感していた。

 講習に不参加だった砂井は、自身と同じく一芸特化タイプの観に身体能力で負けそうになっていることに危機感を抱いていたり、ひとりだけやぶ蚊に襲われていることで後悔していたが、上級国民やそのコレクションたちが困惑している様子には愉悦を覚えていた。




「御神苗はん、能力全振りかと思うたら格闘戦までこなすんかいな。それにまあ、えらい綺麗に立ち回るなあ。約束組手見とるみたいやで」


「あたしたちは相手の僅かな視線や身体の動きを見て、観ちゃんだと魔力の動きも見て相手の行動を予測するけど、ボスは更に精神まで見えてるらしいからなー。あたしたちだと一発も当てられねーし、長距離の狙撃だって避けるからな! でも、なんで領域展開しないんだろ?」


「それは分からないけど、条件が揃うのを待ってるんじゃ? っていうか、今にして思えば、NHDも教団も『対処するのはここしかない』ってタイミングだったじゃない。この件は私たちが持ち掛けたものだけど、受けてくれたってことはそういう予定もあったんじゃないかな? 彼らがNHDや教団みたいに力を付けすぎる前にって」


 他方で、虎・伊達・観組も、ユノのらしくない派手めのパフォーマンスを堪能していた。

 中でも観は、人には見えぬものが見えていた眼であらぬものを見るようになっていた。




 客観的には、互角――若しくは攻めるために前に出ようとする日暮と、攻撃の手は出しているものの防御的なユノで、前者の方が若干有利にも見える。

 しかし、それが彼女の本気ではないことを知っている彼らとしては、安心して観ていられるショーである。

 当然、作戦の詳細は彼女に丸投げしているので「なぜそうしているのか」までは分からないが、「彼女が間違えることはない」という謎の信頼感もあった。



 もうひとつ、公安に限らず、傍若無人に振舞う上級国民たちに苦い思いをさせられた者は少なくない。

 そんな上級国民たちが、思いどおりにならない現実に憤慨しているかと思うと笑いが止まらない。



 とはいえ、上級国民周辺の事情は複雑で、単純に敵味方で区別できるものではない。


 彼らは、国内外に大きな影響力を持ち、外敵に対する防波堤になっていたり、有事の際には手を取り合うこともある。

 無論、ただ有害な者もいたりするが、大抵の場合は上級国民の中で自浄作用が働く。

 それらを考慮して、日本という国家においての彼らは絶妙にプラスの存在であり、違法だからと簡単に潰すわけにはいかない。

 むしろ、下手につついて、某カルト教団のような更に危険な組織にその間隙を突かれて台頭されると困る。



 法的に、倫理的にもこのようなデスゲームは到底許容できるものではないが、被害者の素性を考えると経済的な損失は微々たるもの。

 社会秩序の維持との天秤にかけると単純な正義感で断罪することはできないし、安倍たちも純粋に正義を語れる立場にない。



 さらに、公安の中でも更に秘密・非合法組織の彼らには、予算らしい予算がついていない。

 ひと昔前は、研究費などと適当な名目を付けて引っ張ってこれたが、市民やマスコミの目が厳しくなった昨今はそれも難しくなった。

 当然、一般的な公安職員程度の給料は貰えるものの、職務内容と釣り合っているかと問われると「否」である。

 少なくとも、上級国民に飼われている同程度の能力者であれば軽く十倍は貰っている。

 それでも公安に所属しているのは、国家や個人に対しての忠誠心ゆえである。



 そんな彼らの活動資金を「寄付」という形で出しているのも上級国民である。


 当然、そこにあるのはただの善意ではない。

 カルト教団監視任務の時もそうだったように、危険な場所で矢面に立たせるためだったり、ヘッドハントのための布石など、思惑あってのことである。


 彼らとしても、今の社会が壊されることは望んでいないのだ。

 立場や主義が違っていても、手を取り合えるところは取らないと、教団のようなより危険な組織に後れを取っては元も子もない。



 とはいえ、公安にとってはそれで全てを見逃せるわけではない。

 上級国民がNHDやカルト教団のような力や思想を持とうとするなら、その前に多少の被害は覚悟してでも潰さなければならない。



 上級国民たちもそれは理解していて、これまではずっとバランスを保ってきた。

 それが崩れた切っ掛けが、ネコハコーポレーションの出現だった。

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