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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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24 上級国民

 九月中旬。


 一般的に「中秋の名月」といわれる日に、多くの上級国民が一堂に会するという情報を掴んだ。


 もちろん、そこで行われるのはお月見ではない。

 さらってきた社会的弱者を集めて行われるデスゲーム鑑賞だったり、上級国民同士でのマウントの取り合いだったり、お月様は全く関係ない。

 良識だけでなく、風情までもが無いらしい。




 私は今、こんな時のために公安が用意していた上級国民内の協力者さんの許に、新人ボディーガード兼コレクションとして現場に潜りこんでいる。


 その上級国民さんの序列が低いからとか、コレクションに対しての詮索は無粋だとかいう理由で、少し変装しているだけで誰にも「御神苗ユノ」だと気づかれないのは笑うところだろうか。


 ちなみに、今日の私の格好は、巫女服に狐のお面を被っているのと、イミテーションの尻尾を付けているだけ。

 例えるなら、アイリスとリリーを足した感じのコスプレである。

 髪にはノータッチなのだけれど、堂々としていると案外怪しまれないようだ。


 それとも、私以上に派手な装いの人もいるので目立たないだけか。


 どう見ても男性なのに振袖――は性自認の問題なのでスルーするとしても、ボディガードも兼ねているのにその服装はどうなのだろう。

 それくらいはハンデにならないという自信の表れなのか?

 そんなに強そうには見えないけれど。


 ほかにも、ピエロのような格好をした人や、西洋風の甲冑に身を包んだ人、僧侶に魔法少女風の人までいる。

 ボディーガードのファッションもマウント対象なのだろうか?



 さておき、私が「御神苗ユノ」だと知っているのは、私をここに送り込んだ公安だけ。

 協力者の上級国民さんも、「公安から送り込まれた能力者」という認識しかないし、仮初の先輩ボディーガードたちは何も知らない。




 そんな彼らと、一段と趣味の悪いデスゲームを見ている。


 ゲームの内容は、何らかの罪で指名手配されている人や多重債務で首が回らなくなった人、性質の悪い人の前で下手を打った人など、行方不明になってもおかしくない人たちが集められて、上級国民のボディーガードさんたち相手に命懸けの鬼ごっこである。


 参加者――というか生贄さんの人数は24人で、鬼さんは3人。

 フィールドは山間部にある過疎を理由に廃校になった中学校。

 人が住んでいる民家も付近には無く、既に電気も通っていない陸の孤島とでもいうような場所だ。



 生贄側の勝利条件は、1時間生き残るか、屋上にあるフラッグにタッチするかのふたつ。

 しかし、フラッグの近くには鬼のひとりが張り付いているため、実質前者のみだと思う。


 もちろん、こんなルールでは生贄に勝ち目は無い。


 なので、フィールドのあちらこちらに刃物や銃などの武器が隠してあって、それを使って戦うことも可能――だけれど、パワーバランスは変わらない。


 付け入る隙があるとすれば、鬼さんがフィールド――というか、あちこちに仕掛けられている観測用のカメラを壊さないように立ち回っているので、それを利用すればあるいはというところ。

 それも、生贄側が連携を取れる前提で、それなりの犠牲を払っての話になると思うけれど。



「新入り、よく見ときなよ。屋上を守ってるあいつは悪魔憑き――一対一ならマーダーKとも互角に戦えるおとこだ。あれとは絶対に戦っちゃいけない。時間切れまで逃げ切ることだけを考えるんだ」


「逃げる時も頭を使わなきゃ駄目だよ。あのデカイ方、魔力も異能力も持ってないけど、パワーとタフネスは異能力者を遥かに超える――最強の無能力者だからね。舐めてかかったら瞬殺されるよ」


「あのボンデージ姿の豚も、見た目に惑わされちゃいけない。あいつの正体は狼男ワーウルフで、今日は満月だからな、目隠しを取ると変身する。それに鼻がいいから隠れても無駄だ」


 などと、先輩たちに心配されているように、生贄の人数が半分以下になると、生贄側の増援として立場の弱い上級国民のコレクション――つまり、私が投入される。

 むしろ、これがメインイベント(マウント取り)なのだろう。



 先輩たちが私を心配しているのは、私が死ぬか戦闘不能になると次は自分たちの番になるからだ。

 ちなみに、鬼が斃されても新たな鬼が補充されるそうだけれど、そういった前例が無いのか全く心配されていない。



 先輩たちの心配はどうでもいいのだけれど、鬼が個性的すぎて返答に困る。


 屋上のフラッグを守っているのは、くだんの振袖を着ているマッチョな男性だ。

 あんなパッツンパッツンになっている着物を見たのはさすがに初めてだよ。

 悪魔が憑いているという話だけれど、もっと悪いものが憑いていても不思議ではない。


 また、最強の無能力者とかいう人も、先輩たちには認識できていないだけで、少し高い階梯の身体能力強化である。

 しかし、研鑽の末にそうなったというよりただの生まれつき(ギフテッド)っぽく、十全に活用できているようには見えない。

 今の安倍さんや伊達さんあたりなら普通に勝てるのではないだろうか。


 ボンデージ――というか、セルフ緊縛の変態さんについてはコメントしたくない。

 真っ先に狩ってやる。


◇◇◇


――第三者視点――


「おっ、やっとボス出てきた! ボス可愛い! 格好良い! あーっ、もっと近くで見たいーっ! ね、もちょっと近く行かない?」


「これ以上はさすがに駄目よ。私たちの任務は観測じゃなくて、御神苗さんが現場を制圧した後なんだから。邪魔したら嫌われるわよ?」


「『やっと』って、まだ始まって十分くらいやないっすか。ちゅーか、相手も錚々(そうそう)たる面々みたいやけど、残り五十分も御神苗さん相手にもつんですかね?」


 この悪趣味な観月会の現場に潜入しているのはユノだけではなかった。


 廃学校を見下ろせる小山に陣取っているのは、公安の伊達と観、そして研修中のフーだった。

 彼らとは別の場所には、安倍や上井に砂井に、ほかにも多くの隊員が動員されてていて、作戦開始の合図を待っている。

 


 現場は過疎を理由に廃校になった学校で、主要道路は封鎖されているとはいえ、本土に存在する地続きの土地である。

 巡回警備をしている戦闘員もいるため一般人の侵入は難しいが、ある程度の能力があればこうやって観測できる位置に潜伏することも不可能ではない。



 もっとも、上級国民たちにしてみれば、彼らのような「コレクションの価値」が分かる者に見せる分にはさほど問題視していない。


 コレクションの誇示によるマウント取りは、なにも上級国民同士に限った話ではない。

 公安などの敵性組織に手札の一部を開示しておくことで、暗殺などの実力行使――特に、失敗した場合に発生する危険性について警告しているのだ。



 いかに彼らが上級国民を自称するくらいに資金力と政治力と武力があったとしても、総合力では国家には敵わない。

 それに、他組織との抗争で弱ったところを第三勢力に狙われることも避けたいと考えるのも自然なこと。


 今の地位を守り、更に上を目指すためにはマウントを取り続ける必要があり、そのための政治が彼らの本分である。

 したがって、このような悪趣味な集まりも彼らにとっては必要なものなのだ。


 そして、「もう止めたい」などと弱みを見せればあっという間に食われてしまうため、ある意味では彼ら自身もデスゲームに囚われているといえる。



 しかし、どこの組織もそうであるように、優れた魔術師や異能力者の確保が最大の問題となる。


 それらは金や権力があれば手に入るというものではなく、マーダーKのようなどちらにもなびかないイレギュラーもいる。

 そのため、真に国や世界の支配者となったとしても、現状を脱却することは不可能である。


 さらに、最近では「猫羽」に「御神苗」という更なるイレギュラーも現れた。


 そういったイレギュラーがなければ、魔術や異能力の存在を公開して、その混乱に乗じて――というプランもあったのだが、それをするには時期が悪い。

 今の段階で迂闊うかつに動けば御神苗がひとり勝ちする可能性が高く、むしろ、なぜ動かないのかが分からない。


 結局、今の彼らにできることは、新たな社会を構築できるだけの権力と財力、他組織やイレギュラーに負けないだけの武力を揃えることだけ。


 現実的には、現状維持が精いっぱいだった。




 そんな背景事情もあって、動向が予想しやすい公安は、上級国民にとってはさほどの脅威ではない。

 公安が彼ら以上に魔術や異能力の公開を忌避していることと、そのために手段が制限されていること、よほど隙を見せるか一線を越えない限りは暗殺もないと考えているため、伊達たちの存在に気づきつつも見逃しているのだ。

 そういう意味では、魔術や異能力の価値を理解せず、何も考えずにSNSなどで発信しようとする一般人の方がよほど脅威であり、細心の注意を払っている。



 今回は動員されている公安の人員が多いためにいつもよりは警戒されているが、その程度である。


 新入り(ユノ)についても、新たなコレクションの入手に報告義務など無いし、他者のコレクションの素性をその場で調べたりはしない。

 それに、彼らの感覚では、ユノのような特上コレクションを手に入れたのであれば、こんなつまらない会に出ることなく、即座に世界征服に着手しているだろう。


 そうではないという事実が、彼女のことを、今回の被マウント当番となった上級国民が用意した、時間稼ぎのための駒だと誤認させていた。

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