表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
602/725

19 家族団欒

――ユノ視点――

 日本で綾小路さんたちの世話をしている間、湯の川でも真由とレティシアの世話をしていた。


 もっとも、後者は時間の引き延ばしのようなことはせずに、普通に三泊四日のスケジュールだ。

 そんな小細工をしなくても、魔力に対する認識は前者の人たちより格段に上だしね。


 ふたりとも、何だかんだと言いながらも、私の言ったことを信じて十年以上訓練を積んでいたのだ。

 そのおかげで、基礎は充分にできている。



 今回の訓練の目的は、ふたりの更に先にいる人たち――リリーとかリディアなどを参考にしてクオリティを向上させることだ。

 もちろん、能力的にはアイリスも候補に入るけれど、現在の彼女には別件に従事してもらっているのと、ふたりが「第三の眼」を欲しがると困るので、今回は除外している。


 なので、今回は本当にお世話だけ。

 ふたりとも訓練以外の自由時間に「システム系魔法」の習得などに精を出しているため、それ以外で接点がないのだ。



「ねえ、お姉ちゃん。素直にレベル上げるんじゃ駄目なの? これだと日本にいた時と変わらないんだけど?」


「意外と魔法も覚えられますし、知らないうちに身についてたのはいいんですけど、強くなってる実感がないですから……」


 とはいえ、食事時には顔を合わせる。

 自動販売機やマザーより、私の手料理がいいということだろう。

 女子力の勝利である。



 ただ、環境が変われば認識も変わるようで、以前はなかった疑問や不満にも答えなければいけなくなったけれど。


 ……というか、「魔物を斃して強さを実感したい」とかそういうことか?

 それは年頃の女子がやることか?

 織物編物や料理などでも、魔素を使ってやればいい訓練になるよ?



 しかし、ここは湯の川――私のホームグラウンドである。

 私の味方はいっぱいいるので、私が口を動かさずとも誰かが分かりやすくフォローしてくれる。



「ユノさんの理屈は難しかったり、口下手なせいで分かりにくいですけど、間違えてたことはないです。リリーが前に大魔王と戦った時も、レベルとスキルだけじゃ負けてたと思います」


 そんなに分かりにくかったのか……。

 苦労をかけてゴメンね、リリー。



「もちろん、レベルを上げることで強くはなれますが、使いこなせなければ宝の持ち腐れです。お姉様の教えは、その有効活用法だけでは終わらず、新しい自分に出会うためのものです。特に、生と死の狭間で出会いやすいようです」


「「……」」


 リディアは無暗に脅かさないでほしいのだけれど。



『でも、ふたりとも本来はレベルを上げてないと覚えられないはずの魔法を使えたりするし、ステータスだってレベル不相応で、それだって偽装気味なんだよ? 湯の川では分かりにくいけど、特にリリーやリディアは大魔王とでも戦えるような逸材だから、今の段階で比較しても仕方ないよ』


 朔の言うように、ふたりはシステム頼りではあり得ない成長の仕方をしている。

 まあ、私にはシステムのことはよく分からないので、朔の受け売りだけれど。



「うーん、それはそうなのかもしれないけど、私はこの世界の『普通』っていうのを知らないからなあ。レティは分かる?」


「私も分からないよ。平和な村で、何も知らずに過ごしてたところに魔王軍に襲われて、その後はお姉ちゃんだよ。普通なんてどこにもなかったかな」


「私もレティと離れ離れになった後は魔王になって迷宮に籠っちゃったし、魔王よりヤバいのが迷宮に攻めてくるとか思いもしなかったし、いまだに何が普通なのかはよく分からないわ。というか、“普通”っていうのは案外難しいものかもしれないわね」


 そこにソフィアまで参戦してくる。

 いつもは人見知りな彼女も、レティシア相手ではそうではない――というか、お姉ちゃんかぜを吹かそうとしているようだ。



『自称“普通”はいっぱいいるんだけどね。少し視点を変えれば全然普通じゃないとか、それに気づいてないのは本人だけとか』


 しかし、なぜみんな私を見ているのか。

 私が「普通」かどうかは別にして、できる限り常識に従って行動しているつもりだけれど。



「リリーもユノさんに会うまでは何もできない子供でしたけど、ユノさんの言うとおりにしてたら強くなれましたし、お姉さんたちもきっと大丈夫です」


「リリーちゃんは良い子だねえ……。お姉ちゃんに感化されずに素直に育っててよかったよ……」


「あんなつらい過去があったっていうのに……。姉さんにも苦労させられてるはずなのに……」


 リリーが良い子であることに異存はない。


 しかし、それは貴女たちを育てた経験を活かしてのこと――あまり活じゃせていなかったことを思うと、誰が育ててもリリーは良い子に育っていたのかもしれない。



「私もお姉様と出会って、大事なことは何も知らなかったのだと思い知らされました。幼い頃よりお姉様の教えを受けてきたおふたりなら間違いなく大成するはずですので、めげずに頑張りましょう!」


「リリーちゃんやリディアさんには悪いけど、きっとお姉ちゃん何も考えてないよ? 多分、都合良く解釈してるだけだと思う……」


「姉さんはその場の雰囲気と勢いだけで生きてますから……。信用しすぎると振り回されて苦労しますよ?」


「リリーが救われたのもそのおかげですし、それに、ユノさんは本当に大事なことは絶対に間違えないです。姉妹なのにそんなこと言うのはユノさんが可哀そうです」


「恐らく、故郷の風土とお姉様の良さが噛み合わなかっただけでしょう。こちらでは結果が全てで、お姉様はその結果をもって今の地位にいるのですから」


 リリーの無垢な信頼が胸に痛い。

 一応、私なりに考えて行動していたつもりではあったけれど、クリスやセイラにも怒られたしなあ……。

 リディアも、私はどちらかというと結果よりも過程を重視するタイプなのだけれど……。


 そういう意味では、やはり真由とレティシアの方が私のことを理解しているのだろう。



「ま、まあ、私たちもお姉ちゃんには感謝してるんだけどね。ただ、今更言葉にするのは気恥ずかしいっていうか――そうだ! お父さんとお母さんはどうしてるの?」


「そういえば、最近一向に連絡がありませんし、何かトラブルでもあったんでしょうか? 姉さんは何か知っていますか? あ、私も姉さんには感謝してますよ」


 趨勢すうせいが悪いとみてか、露骨に話題を変えてきたな。

 そんな取って付けたような感謝は――まあ、ちょっとだけ嬉しいので誤魔化されてあげよう。



『ふたりとも元気でやってるよ。雪菜の方は伝聞だけど。ノクティスの方は、勇者召喚関連の修正をやってる。君たちが本格的にこっちに来る前に済ませないとって頑張ってる』


「うん? 今来れてるのは何か問題あるの?」


「ナーフは止めてほしいんですけど……」


『そういう調整じゃないよ。君たちが最初にこっちに来た時、君たちに掛けられてたプロテクトが壊れちゃってね。そのままにしておくとどういう不具合が出るか分からないからその確認とか、ついでに悪用ができないような仕様に変更しようかってね』


 父さんが言うには、ふたりに掛けられている召喚防止設定プロテクトはまだ有効で、だからこそ現状が説明できないのだとか。

 なぜか実家にあった神の秘石と、ふたりとの相性のせいではないかと推測されているけれど、本当のところは分からない。


 一応、現在のシステムには私の手も入っているものの、解析は朔に、管理は主神たちに任せっぱなしなので、私の理解の及ぶものではない。

 なので、システム絡みの一切合切はみんなでどうにかしてもらうしかない。



 また、「悪用」云々については、帝国の行っている「魂を糧に勇者を召喚」だったり、「召喚勇者からユニークスキルを奪う」件のことだろう。



 これについては、まず後者を「異世界から召喚された勇者が、この世界に出現するまでにワンクッションおいて、先にそこでユニークスキルを定着させる」ことで解決を図る。


 スキルの中には「対象のスキルを奪うスキル」なども存在するようだけれど、成功率はさほど良いものではなく、その対象がユニークスキルともなればなおさらだそうだ。

 少なくとも、ユウジたちのような被害者が大量に出ることはなくなるだろうとのこと。



 一方で、前者は「魂」と「魔力」の性質上、魂をしっかり認識できないシステムでは両者を区別することが難しい。


 仮に、はっきりと分かる「魔力」以外では魔法を発動できないようにしてしまうと、世の魔法使いの何割かが弱体化、若しくは無力化されてしまう。

 それは主神たちの望むところではないようだし、それを抜きにしても、生贄にされる人たち以上の犠牲が出ることを考えると、功利主義的にもアウトである。


 なので、今のところ「これ」といった解決策は無い。



 それでも、何かヒントでも得られないかと、魔王レオンや変態トシヤのような勇者経験者による「勇者の実態と運用法、及び問題点」の洗い出しをしている最中である。


 今現在出ている情報としては――勇者は戦闘能力や特殊能力が強いけれど、生活能力や常識に欠けることが多いため、単独での運用は向いていない。

 また、単純な戦闘能力が高くても休息や補給は必須で、食事を摂らなければ餓死もするし、休息が不十分だと衰弱もする。ストレスで病気になることもあれば、ハゲることもある。

 つまり、能力を活かせる限定的な状況を除けば一般人と変わらない。


 そもそも、個人差はあるものの、「孤独」は心を蝕む毒である。

 中には「独りの方が楽だ」という人もいるけれど、その大半はそれでも生きていける社会が存在することが前提で、他者と全くかかわりを持たず、自給自足で生きていける人はまれだろう。


 ……なんだか話がズレてきたような?



 とにかく、事実として勇者が単独で運用された例はほとんどない。

 常識や価値観の違いから、召喚者の望んでいない「ろくでもないこと」をすることがあったのも影響しているかもしれない。


 だからといってパーティーに組み込んでも、パーティー内能力差が大きいと本領を発揮できない。

 それでも、さきの「ろくでもないこと」をしないように監視・誘導することには意味がある。

 それに、ちょっとした魔物災害に対応するくらいならそれで充分だったりする。



 一方、帝国の先代勇者だった――名前は何だったか……?

 シ……シロ――は白竜のことだし……シボウは――というか、死亡している。

 とにかく、名前を忘れてしまった少年の経緯や、白竜退治を命じられたレオンの証言によると、そういった大作戦の場合はかなりの規模の人員がバックアップとして動く。


 もちろん、普段からずっと支援部隊が追従しているわけではなく、基本的には勇者パーティーのみで、各地にある補給地を巡りながら活動するらしい。

 つまり、一般的な冒険者のように、パーティー単位で自給自足はしないのだとか。

 それで、大きな作戦がある時はさきのとおり、先に現地で大規模な部隊が編成されて、勇者の到着を待つ感じになる。



「だから、魔王を斃したくらいで『狡兎こうと死して走狗そうく烹らる』ってことにはならん。脅威なんかいくらでもあるし、邪魔になっても上手く煽てとけば勝手に死ぬからな」


「ふひっ! 俺なんか、特に理由もなく追放されたけどね! 走狗烹らるってか、ソープにローション卸して生計立ててたけどな! ふはっ、笑えよお!」


 なんだかよく分からないけれど、そういうことらしい。



 とにかく、勇者の運用には結構な費用が掛かるそうなので、集団召喚で真っ当な能力を持った勇者が複数人現れたとなると持て余す可能性も考えられる。

 いずれにしても、ジタバタしたからといって妙案が出るわけでもないので、とりあえず笑っておくか。

 笑う門には福来るともいうしね。




 その甲斐あってか、残りの夏休みは平和に過ぎていった。


 いや、何も起こらなかったわけではないけれど、湯の川基準では「平和」といってもいい程度のこと。



 日本での生活もそろそろ折り返し地点。


 友人は……徐々に距離は縮まっている気がするし、もう少しでできそうな感じ?

 とにかく、残りの期間、気を抜かずに頑張ろう。


 真っ当な高校生活ではなくなっているけれど、父さんや母さんの言ったとおり、私の知らない世界があったことは事実だし。

 その特殊な環境に同年代の人が3人もいたことを思うと、どうにか個性の範疇はんちゅうか。


 それに、日本での生活が朔の開花の役に立っているのかもしれないと思うと、結果オーライ――いや、まだ結果を語る段階ではない。

 最後まで油断は禁物だ。

 油断は迷走の第一歩。

 いつの間にか普通の高校生活ではなくなっている時点でおかしいし。


 とはいえ、多少なりとも協力者や理解者が増えたという点では気が楽になったけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ