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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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13 転機

 目を覚ましたあとむの目に、知らない天井が映る。



「お、目え覚めたか、核」


 しかし、すぐに見たくもない男の顔で塞がれた。


 同時に、気を失う直前までの記憶を思い出して焦りを覚える。



 ――ユノはどうなったのか。

 ――フーが生きているということは……?

 ――あの死神っぽいのは一体?

 いや、さすがにあれはコスプレだろう。暗かったから見間違えたのさ。だけどちょっと――。



「おー、混乱しとるのぉ。まあ、しゃあないけどな。――とりあえず、顔(あろ)うて飯食うてこい。そしたら、ワイに教えられる範囲で状況教えたる」


「……うん」


 状況が呑み込めていない核は辺りを見回してみたが、手掛かりになりそうなものはなかった。

 というより、やたらとにこやかな虎の顔が至近距離にあるせいで、何も頭に入ってこない。




 そこは公安系秘密組織のセーフハウスだった。

 そこに、核や虎、ほかにも積極的に犯罪行為に関与していなかった団藤関係者たちが集められていた。


 セキュリティはさほど高くないが、彼らもそこまで重要人物ではないし、易々と逃げられる警備体制でもない。


 一応、戦闘能力という点では、「虎ならあるいは」という懸念もある。

 しかし、当の彼は、「ひとまず」であってもあの場を生き延びたことに満足していた。

 逃走の気配どころか反抗的な態度のひとつも見せない。


 もっとも、ここから脱走したところで再び御神苗に狙われる可能性を考えると、「逃げる」という選択は「自殺」に等しい。

 彼がもう少し若く、物を知らない若者であったなら「怖いもの見たさ」で無茶をした可能性もあったかもしれないが、「死」を目にした今となってはただの虚無である。

 公安も、認識を同じくしているから最低限の警備しかしていないのだ。

 むしろ、さきの現場に出ていた者たちの中には、「自分だって逃げられるならそうしたい」と考えている者も少なくない。




 核の支度が整うと、虎の口から現状について語られる。



 切っ掛けは飛翔つばさの軽挙で、手を出したのが団藤家など比較にならないヤバい組織の重要人物だったこと。

 それでその組織の反感を買った――というより情報操作のために、飛翔及び光宙、更なる軽挙に走る可能性のある者たちが“処分”されたこと。


 現在軟禁されているのはその協力組織の施設で、これだけの事件を起こしておいても、ほぼ完璧に情報操作できていること。

 その証拠として見せられたニュースの報道では、「資産家宅が全焼し、住人や親類とみられる複数の遺体が見つかった」「原因は火の不始末によるガス爆発とみられる」などよく耳にするもので、それ以上深掘りされることはなかった。



「で、肝心なんは今ワイらが生かされとる理由やけどな、当然やけど、このまま無罪放免っちゅうわけやない。何個か選択肢が用意されとってな、好きなん選べってことらしいわ」


 ここに集められているのは、多少なりとも団藤家の違法性について認識していた者たちばかりである。

 そして、何も知らない幼い子供たちは別の施設に隔離されていることを考えると、「選択肢」の内容も推測できる。

 同時に、選択の余地が無いことも。



「まずひとつ。昨日のことは忘れて、不幸な事件の生き残りやゆうて生きてく――まあ、団藤のやっとったこと考えたら、あんまり同情はされんやろけどな。それに、当面は監視がつくやろし、下手なまねしそうや思われたら“処分”されると思うで。知らんけど」


 最初の選択肢は、全員の予想を良い意味で裏切る温いものだった。

 当然、虎の独断ではなく、事前に御神苗や公安から提示されていたものを話しているだけだ。



「え、そんなのでいいの? 確かに生活とかめっちゃ厳しくなると思うけど、飛翔君の巻き添えで殺されるよりよっぽどマシだよね?」


「正直、家に縛られて生きてくのきつかったしな。逃げられないし、開き直って団藤の人間として生きるとしても、いつ逮捕されるか分からんとか、心が弱い俺には無理すぎたし。今こういう言い方はどうかと思うけど、ちょっとホッとしてる」


「いつか報いを受けるとか、俺もとばっちりを受けるんだろうって思ってたけど、まさかこんな形で終わるとはなあ……」


「でも、ママがここにいないってことは、ママは殺されたってこと? ママはいうほど悪いことはしてなかったと思うんだけど!? それはちょっと許せないかも!」


「ええとか悪いとかやのうて、情報操作のためや言うとるやろ。悪知恵働かせそうな奴はみんな“処分”された。お前らも気ぃつけえよ?」


「そんな……!? 確かにママは口軽かったけど……」


「その娘のお前が生きとんのは、その『ママ』が必死にお前の命乞いしたからやぞ。無駄にするようなまねはすんなよ」


 予想外の温さに勘違いしそうになった少女に、虎が警告する。


 なお、「命乞い」云々は、彼女が下手なまねをして連帯責任にされるのを嫌い、適当な話をでっちあげただけである。



 虎としては、あの場を切り抜けたことだけで充分な成果で、正直なところ、団藤家の生き残りがどうなろうと興味は無い。

 しかし、彼らが生かされている理由と、自分たちを軟禁している組織の性質を考えると、彼らに優しくしておくメリットは小さくない。


 それが理由の愛想の良さだが、普段の彼とのギャップと関西弁の独特な印象もあって、脅迫にしか聞こえない。



「で、ふたつめやけど、仇討ちがしたいんやったら、銃でも戦車でも支給したるからかかってこいって。ちゅーか、それで勝てるんやったらワイこんな所におらへんけどな。そもそも、戦力差ありすぎて『戦い』にすらさせてもらえんかったんやけど。ま、これは論外やろ」


 そして、ふたつめの選択肢は立派な挑発だった。


 ただし、虎の言うように、選択肢としての価値は無い。

 用心棒の彼が白旗を上げ、武闘派だった光宙ひろみつらが戦わせてすらもらえなかった相手に、荒事が苦手な彼らでは道具次第でどうこうという問題ではない。



「それと、核には個人的なメッセージがあるで。『警告をしてくれてありがとう。活かせなくてごめんなさい。こんな結果になってしまって残念だけれど、頑張ってね』やって。先に裏切っとったとか、やるやんけ、ワレ。案外、ワイらが生きとるんは核のおかげなんかもな」


「マジか。いや、でも、そういう組織なら皆殺しにした方が手っ取り早いだろうし……マジで核のおかげなのかも?」


「へえ、あっくんやるじゃん。ヘタレだと思ってたけど見直したわ」


「あっくんはあっち側だと思ってたけど、人の心残ってたんだな」


 親族の反応はともかく、ユノからの思いもよらぬ伝言に、核の理解が追いつかない。



 話の流れ的に、光宙や飛翔らは殺されていて、それをユノの所属している組織がやった――というのは理解できる。

 その組織が、団藤家など比較にならないくらいに大きくヤバい組織であることも理解した。


 そして、その力で核たちが団藤家から解放された――結果的にではあるが、ある種の「白馬の騎士」になってくれたことも。



 ただ、それと昨晩の光景が繋がらない。


 白馬ではなく黒いウマに乗っていたのはいいとして、そこで太鼓を打っていたのはなぜなのか。

 そのリズムに乗って踊っていた死神っぽいコスプレの人たちは何だったのか。もしかして、お盆とハロウィンを混同したのか――。

 釣られて踊ってしまった彼が言うことではないが、そんなことでなぜ団藤家が崩壊するのか。



 核には分からないことだらけだが、少なくともユノが無事なことと、個人的なメッセージを送ってくれたことに満足することにした。

 さらに、誰も知らない彼女の秘密を知ったことや、「頑張ってね」と励ましてもらったことが嬉しくて、些細なことはどうでもよくなった。


「ま、まあ、いつかは親父たちと決別しなきゃいけないとは思ってたからな。こんな形になるとは思ってなかったし、ちょっと不本意だけど……。でも、俺はいつかこの恩が返せるような男になるぜ!」


 現状、彼らには大小様々な問題が山積みで、感情的にも呑み込めないところが多い。

 また、これからの生活に大きな制限が課されることも間違いない。


 それでも、半ば諦めていた犯罪集団からの離脱にホッとしているところも大きく、御神苗に対して「感謝」とまではいかないものの、悪感情はさほど抱いていない者が多かった。



 とはいえ、御神苗と積極的にかかわり合いたいかと問われると、絶対に「ノー」である。

 多くの者にとっては、せっかく反社会的勢力との縁が切れたのにより危険なところと付き合うなど、物好きを通り越して狂人である。



「おう、頑張れ! お前ならできるって!」


「あっくん、私たちの分まで頑張ってね!」


「ヘタレな俺は地道に生きてくわ!」


 そうして、彼らの中では核も死んだことになった。

 とはいえ、核も「両親や神族を殺した相手に恩返しなど、共感を得られるはずがない」とは理解していたため、彼らの反応も当然のものと納得している。



「お前ごときがあそこの役に立てるとは思えへんけど、まあ、応援するで。ちゅーか、本気なんやったら、ワイがちょっと鍛えたろか?」


「え、マジで? 頼む――いや、お願いします!」


 しかし、ただひとり、虎だけが本気で核の目標を応援するだけでなく、支援まで申出た。


 当然、核にとっては有り難い話であり、一も二もなく飛びついた。



「で、もしあそこにコネできたら、ワイも紹介してくれ」


 虎にしてみれば、「下手な組織に所属して使い潰されたくない」という想いは今も変わっていない。


 しかし、昨晩の「団藤のような泡沫勢力にわざわざトップが出てきて、実力差がありすぎて戦闘すらさせてもらえない」経験は非常に衝撃的だった。


 あれに正面から喧嘩を売れる莫迦はいない。

 マーダーKを倒した――それも大規模な戦闘に発展させずにというのは、彼自身も経験したように、圧倒的な戦力差があったからに違いない。

 強大な力を使おうにも、その猶予が与えられなかったのだ。

 そうして、ネコに弄ばれるネズミのように――下手にプライドが高い分だけ痛い目を見て、下手をすると尊厳ごと踏み躙られたのだろう。

 それを想像すると笑えてくる。


 そして、公安が彼らに協力しているのも、従わざるを得ないからなのだ。

 あるいは、かの魔術大国や軍事大国でも敵対を避けるかもしれない。


 虎の野生とでもいうべきか、彼は勘だけは良かった。



 そこに所属できれば、一生安泰である。


 そのためなら、利用できるものは何でも利用する。

 どれだけ可能性が低くても、所属できるなら皿洗いでもトイレ掃除でもと、“鶏口牛後”を真っ向から否定する。



 なお、御神苗への就活が、()()になる可能性を秘めていると彼が気づくのはもう少し先のことだが、それはまた別の話である。

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