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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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12 心が震えるリズム

 あとむ飛翔つばさとの兄弟喧嘩で負ったダメージは深刻で、常識的に考えれば病院等で治療すべき状態だった。


 そうしないのは、一般の病院を利用して「事件性有り」と通報されると団藤家として困るからだ。

 そして、そういった場合に利用する闇医者がいるのだが、それがこの日は「多忙につき受け入れ不可」と断られていたのだ。


 なお、この闇医者の多忙の理由は、さきのカルト教団施設及び公安拠点襲撃事件では大量の負傷者が発生したため公安系の医療施設がパンクしてしまい、比較的近隣で営業していた彼も応援として駆り出されていたからである。




 そんな事情から真っ当な治療を受けられていないこともあって、核の身体は「せめても」と休息を必要としていた。


 しかし、目を瞑ると最悪の光景が浮かんできて、激しい怒りで目を覚ます。

 それでも、疲労は着実に蓄積しているためそのエネルギーもいつまでも続かず、意識は闇へと沈んでいく。

 そして、また怒りとともに覚醒する。


 それを何度も繰り返し、夢と現の区別もつかなくなっていた彼の耳に、魂を奮い立たせるような音が響いた。

 



 鼓膜が破れていて耳鳴りのする中でも、その音だけは鮮明に心に響いてくる。

 そして、それは徐々に激しさを増していく。



 折れかけていた核の心に再び火が点る。


 ――白馬の王子様にはなれなかった。

 ――今更動いても手遅れかもしれない。


 それでも、やるしかない。

 兄だけでなく、父や親戚一同を敵に回し、白馬ではなく白黒の車(パトカー)に乗ることになってしまうかもしれないが、切れ味鋭い野生は止まらない。




 核は痛む身体に鞭打って、そのために必要な物を取りに向かう。


 原則的に日本では違法な物で、一般人が手に入れるのは難しいが、団藤家のようなアウトローな組織では入手の伝手もある――とはいえ、さすがに子供が手に取れるような所には置いていないし、管理もされている。



 それでも、キッチンにあるような刃物でやれるのは、精々ひとりかふたり。

 それも希望的観測によるもので、現在の核のコンディションでは返り討ちに遭うのが順当である。



 なお、実戦における拳銃の命中率は想像以上に低い上に、フーのように多少の銃撃では止められない者もいるのだが、核の意識はそんなところにまで届いていない。

 ただ、それがあれば人が殺せるというだけの、物理的ではあるが神頼みに近いものだ。



 どうにかして邪悪を滅さなければ、そのための聖なる武器を手に入れなければと、変なテンションで危険な思想にとり憑かれていた核に、家中の様子がおかしいことに気づく余裕は無かった。

 数時間前には親族や関係者で混みあっていたはずの宅内が無人なことや、普段は施錠されているはずの隠し部屋が解放されたままになっていることも、ただ「天が味方している」くらいにしか思わない。


 そうして、目的の物を手に入れ、不思議な高揚感に突き動かされるように家から飛び出た――実際にはダメージのせいで「這い出た」という方が正確だが、そんな彼の目の前に広がっていたのは想像もしていない光景だった。




 まず核の目に飛び込んできたのは、息も絶え絶えに倒れ込んでいる親族や構成員たちだった。


 しかし、彼のように()()と分かる外傷は見当たらず、暴行を受けてというわけではないように見える。

 どちらかというと、激しい疲労で、又は飲酒との合わせ技で体調不良を引き起こしているようだが、陸に打ち上げられた魚のように喘ぐ、若しくはぐったりしている様は「異常」のひと言に尽きる。

 どんなアスリートでもここまで自身を追い込むことはないだろう。



 彼らがこんな無茶をする心当たりといえば、酒に酔った光宙みつひろの無茶振りくらいしか思い浮かばないが、それでもここまでの惨状になることは考えにくい。


 基本的に、団藤家は身内に対してだけは甘いのだ。

 限度はあるものの、飛翔の我儘が通っているのも、核の非協力的な態度が許されているのも、全てその方針によるものである。


 これまでの実績と照らし合わせると、悪ふざけにしてはやりすぎで、何らかの制裁にしては生温い。



 核は、事情を知っているであろう光宙を探す。


 父は、体格も態度もひと際大きな男である。

 いつもなら真っ先に――見たくなくても目に入る。


 しかし、現在は更に体格に恵まれている虎がいて、そちらが先に目に入る。

 そして、父の捜索を続けるために視線を外そうとして、あまりの違和感に二度見した。



 なぜか虎が踊っている。


 しかし、どうにも動きにキレがなく、焦りのようなものが感じられる。

 想像しにくいことだが、化物染みた体力を持つ彼が疲労困憊ひろうこんぱいになっているのだ。



 そして、光宙はその近くで横たわっていた。

 ただし、ほかの構成員たちとは様子が違ってピクリとも動いていない――死んでいるのかもしれない。


 そう感じたのは、虎の対面で競うように踊っている存在のせいだろうか。



 2体――あるいは2柱というべきか、見た目にも雰囲気的にも分かりやすい死神(デス)である。

 それが、息もピッタリにキレッキレで踊っている。



 そして、そんな彼らが躍るリズムを奏でているのは、核が恋焦がれていた少女である。


 彼の脳裏には「無事だったのか?」とか、「なぜここに?」とか、「何をやっているのか?」などなど様々な疑問が浮かぶが、どれも正解に辿り着かない。




 わけが分からない――と思っているのは核だけではない。

 ユノもまた、この状況がよく分かっていない。



「……“〇ートゥ”をご存知か?」


 そう言って歌い踊り始めた男に対抗するように、アドンとサムソンも踊り始めた。

 彼らも“〇ートゥ”をご存知だったのだ。



 ユノも、状況がよく分からないながら、虎が真剣なことだけは理解した。

 そして、真剣な想いには真剣に応えるのが彼女である。


 そうして、彼女は皆が全力で踊れるよう、鼓舞するために演奏を始めた。

 一部、無関係な者も巻き込んで鼓舞しているが、些細なことである。



 さらに、自称「空気の読める男」「期待に応える男」のアルフォンスも、ギターに似た弦楽器を取り出して伴奏を始めた。



「止めろ! 莫迦莫迦しい!」


 塩と胡椒を撒き散らしながら止めに入った光宙は、マリアベルによって虫けらのように叩き潰された。


 それを、構成員たちは「踊らなければ死ぬ」「踊りを止めても死ぬ」と勘違いして、体力の限界まで――正しく命を懸けて踊った。


 無論、何人かは親分の敵討ちに走ったが、やはりマリアベルに電光石火の早業で物言えぬ身体にされた。

 マリアベルとしては主人の邪魔をする輩を排除しただけだが、虎や構成員たちにとっては、さきの勘違いを決定的なものにする要素にしかならない。




 そこに核が辿り着いたのは、虎以外の者が脱落してしばらく経ってからだった。



 体力自慢の虎でも、呼吸を必要としない者たちを相手に張り合えるものではない。

 さらに、「死」が目前にあるというプレッシャーが、必要以上に彼の体力を奪っていく。



 そもそも、虎はこんな展開を想像してダンスバトルを仕掛けたわけではない。

 初見ではまねできないキレッキレのダンスを披露して、敵意以外の何かを引き出そうと悪巧みしただけなのだ。

 それに、古来より神の怒りを収める手段として、歌や踊りを捧げるのは正攻法である。



 しかし、この母神に捧げる踊りが、異世界の一部地域において必修科目になっていたのは誤算だった――というには酷だろう。


 その結果、虎は彼以上にキレッキレに踊る死神たちを前に絶望するほかない。

 



 そんなところに、銃を片手に出てきた核。


 撃つべき相手は既に倒れていて、救いたいと願っていた相手はなぜか太鼓を打っている。


 何か、彼が想像もできないようなとんでもないことが起きているのは分かるが、それが何なのか、どうすればいいのかはさっぱり分からない。



 一方のユノは、拳銃を持って現れた核を見て、「敵討ちにきた」のだと思った。

 そして、すぐに「それならそれで」と切り替えたところ、彼もまた踊り始めて混乱した。


 もっとも、刺激強めのダンスは彼のコンディションでは負担が大きすぎて、すぐにリタイアしてしまったが。

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