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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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08 知らんけど

 急な協力要請だったからか、公安が手配してくれたのは事後処理の準備だけ。

 こちらとしてはそれでも充分なので、不満は無いけれど。


 というか、彼らの立場上、「反社会的勢力とはいえ、国家転覆などを企図できるレベルにない団藤家を攻撃するのは本意ではなく、表社会の司法と行政で解決すべきことだ」となるのだろう。

 知らないけれど。


 ……ちょっと言ってみたかっただけ。

 これで責任回避できるなら、とても素敵な言葉なのだけれど。



 とにかく、彼らが維持しようとしているのは「秩序」――もっと細かくいうなら「制定法主義」か。


 よく誤解している人がいるけれど、日本は「制定法主義」であって、「判例主義」とは違うらしい。

 難しいことはよく分からないけれど、「法律が最高」とかそんな感じ。

 父さんがそう言っていたのでそうなのだろう。


 とにかく、現状では魔術や異能力を成文化して「法」とすることは難しい。

 よしんばできたとしても、そういった能力を持つ人がいると周知されることで起きる混乱は計り知れない。

 それなら、「非合法な活動をしてでも事実を隠蔽した方がマシだ」という判断になったのだろう。



 その是非は私には分からないし、特に興味も無い。

 そう信じてやっているならそれで充分だと思う。


 そういう意味では、私たちが最優先排除対象になるのだろう。

 ただし、現実的にそれは難しいので、なるべく影響を小さくしようと折り合いをつけている感じか。


 さきの運転手の男性のように無駄に噛みついてくる人がいたりとか、組織内での意見が統一できていないところに大きな葛藤が見てとれる。




 さて、私たちに対して強く出られない公安だけれど、「事後処理の都合上」という建前で、いろいろと注文をつけてきた。



 まず、方向性としては、「連休最終日の資産家宅で、火の不始末及び可燃物等の不適切な扱いが原因とみられる爆発・火災が発生。現場からは身元不明の遺体が多数発見され、住人との連絡が取れない」といった、ニュースでよく聞くような感じにする。


 公安が事後処理をするといっても、今のご時世、管轄を超えて全てを処理できるわけではない。

 要所要所でのみ干渉して、平穏に――というのはおかしな表現になるけれど、事故として風化させることが要諦なのだ。

 なので、事件性を感じさせるような不審な点は少ない方がいい――ということらしい。


 異世界での生活に馴染んだ私たちとしては、ただの住宅火災とか爆発でそこまで身元不明の死体ができるものなのか疑問なのだけれど。

 まあ、「餅は餅屋」だし、「私たちならもっとこんがり焼けますよ」というのも違うだろうし。



 それともうひとつ、「組織内の意見を統一するために、従わざるを得ない――とまではいかなくても、最大限の配慮をする必要がある能力を、程々に見せてほしい」とのこと。

 こちらは「可能であれば」という条件も付いているけれど、私――というか、朔の領域展開は「程々」をオーバーしているのでアウト。

 一体どうしろというのか。

 一応、ほかの手段も考えてみるけれど。




 さて、現場となるのは住宅地。

 しかし、無駄に威圧感を放っている豪邸があるせいか、区画数に対して空き地が目立つ。

 それでも、うちのマンションほど異質ではないけれど。


 とにかく、どちらにしてもあまり派手にやるわけにはいかない。


 付近にある大半の家屋は直接の関係者の物だけれど、関係者の関係者の関係者――といった物もある。

 そこまでいくと直接犯罪には加担していない人たちになるので、今回のターゲットには含まれない。

 そういう意味では、団藤くんも家族が犯罪者というだけで、本人は直接関与していない。


 ただ、今回の場合は罪の有無で処分が決まるわけではなく、私が襲撃されたことを知っているかどうか、それが外部に漏れるかどうかが分岐点である。

 更にいうなら、後者がより重要。



 結局のところ、国家にとって不都合が出なければ何でもいいということ。

 公安の人員や能力が充分なら、この場は洗脳等で収めることもあったかもしれない。


 しかし、実際には洗脳が永続するわけではない。

 それに、身内を失っているという事実は消せないので、洗脳が解ける切っ掛けになったり、解けた時にどうなるかの予測もできない。

 そして、その監視のために人員を避ける余裕が彼らには無い。


 むしろ、人員不足も事実だけれど、「誤解のしようもない悪人は、死んでも仕方ないよね?」という本音も伝わってくる。

 彼らは国家の守護者であると同時に、感情を持った人間なのだ。

 悪人の権利を守って善人に被害が出ることを快く思っておらず、ちょっとくらいの逸脱が許される立場にある――となると、魔が差してしまうのも無理はない。


 もっとも、それくらいの適当さがなければこういった仕事はきついのかもしれないし、私たちのせいにすることで心の平穏が保てるならそれでもいいだろう。

 それでも、「こちらで対処するので、罪の無い子供は殺さないでほしい」と、彼らなりに譲れない一線も示している。


 私も、彼らの言い分を通す形で余計な殺しをしなくて済むなら、ある意味「お互いさま」なのかもしれない。

 よく分からないけれど、そういうことにしておこう。


◇◇◇


――第三者視点――

 団藤(あとむ)は、肉体的にも精神的にも打ちひしがれていた。


 勇気を出して、いまだに痛む身体に鞭打って、再度兄を止めようとしたものの返り討ちに遭った。

 しかも、お互いに興奮していたせいもあってか、兄弟喧嘩で済ませるには不適切なダメージを負ってしまった。



 今度こそ、核にできることは何もなくなった。


 一応、家族の目を盗んでAWO内でメッセージを送っていたが、ユノが旅行から帰ってすぐにゲームにログインするとは考えにくい。

 そして、現在では喧嘩後の腹癒せに壊されてしまったために確認もできない。


 さらに、携帯電話は奪われたままで、部屋の外では兄の手下が彼の動向を監視している。

 部屋は2階なので、体調が良ければ飛び降りることも不可能ではないが、今のコンディションでの飛び降りは命にかかわるおそれもある。

 それに、この軟禁状態からの脱走が家族への敵対行為とみなされることは想像に難くなく、見つかれば手引きや協力した者も含めて厳しい制裁を受けるだろう。


 窮地の姫を救う騎士になるどころか、自身が白馬の王子の助けを待つしかない状況に、核の頬に悔し涙が伝う。



 核も、頭ではユノが被害に遭う確率は低いと分かっている。


 兄に許されている自由時間は僅か――正確には明日の朝まで。

 いくら兄が我儘でも、家の方針には逆らえない。

 さらに、彼女が深夜に出歩く可能性は低いことなどを考えると、よほど運が悪くない限りは無事に済むだろう。



 それでも、悪い予感は消えない。


 それは、扉の向こうから聞こえてくる男の声が原因だった。



「おう、核! お前、飛翔つばさに喧嘩売ったんやて? ぶはは、お前にそんな度胸あるとは思わんかったで! やるやないか!」


 微妙に胡散くさい関西弁で話す男の名は【フー】。

 当然本名ではないし、家族でもない。


 経歴不明のこの男は団藤家が雇った用心棒で、飛翔の海外での活動のサポートをしている。

 用心棒としては非常に優秀で――というか、尋常ではない。



 虎は、銃撃を受けても「少し痛い」「目ん玉やないと問題無い」で済ませる。

 日本で銃を所有している団藤家も普通ではないが、人間の限界を超えている彼とは敵対できない。

 そして、人間くらいなら軽くくびり殺せる膂力りょりょくを持っている。

 デモンストレーションとして、それまでの用心棒を一方的にぼろ雑巾にした光景はトラウマになるほど壮絶なものだった。



 虎が団藤家の用心棒という立場に甘んじているのは、超人であっても生きるためには食事や睡眠、それらを確保するための金が必要になるからだと本人は言う。

 しかし、雇用主である団藤家には、もう「飼っている」のか「飼わされている」のか分からない。


 それが今回の件と関係あるのかというとそうでもないが、核にとっては彼のような理外の存在がいるという事実だけで、「常識」などというあやふやなものには頼る気になれなかった。




「しかも、原因が女やて? 核も飛翔も色気づきやがって、感慨深いのお! ま、それはともかく、これ目ぇ通しといて」


 一方の虎には、言葉どおりの感慨どころか、団藤家に対する思い入れなど一切無い。


 異能力者としてのレベルは中の下、若しくは下の上に属する彼が、身の丈に合った職場として団藤家の用心棒を選択しているだけだ。

 当然、都合が悪くなれば捨てて次を探す程度のものでしかない。

 むしろ、条件次第では裏切りも辞さない。



「……これは?」


「要注意人物リストの更新分や。扱いには注意してや」


 虎のようなフリーの異能力者はさほど珍しいものではない。


 しかし、フリーだからと好き勝手できるわけではなく、派手に目立つといろいろな組織から狙われるようになるだけでメリットは少ない。

 だからといって、彼のような者が組織に属しても使い潰されるのが関の山だ。

 結果を残せば高い地位に就くことも不可能ではないが、彼の能力的には強大な敵に対する盾に使われる可能性が高い。


 それに、異能力者の中には「他者の能力を奪う」者もいて、一時期フリーの異能力者が狩られていた――というのは、彼のような末端でも知る有名な話だ。

 最近はインフレしすぎて小さな現場には現れなくなったようだが、彼らのような自身の存在価値を能力にあると思っている者たちにとっては死神のような存在である。

 間違っても遭遇するような環境に身を置きたくなく、それゆえにそういった情報には気を配っていた。



 ただし、虎自身に情報収集能力があるわけではなく、そのあたりは完全に情報屋頼みである。


 しかし、異能力絡みの情報というのは真偽の判定が非常に難しいため、情報屋としては扱いに困るものだ。

 特に、虎程度が利用できる情報屋のレベルでは、情報の精度も鮮度も悪い。



 今回の場合では、「東京の離島にマーダーKが潜伏していたが、潜伏先とみられる施設が壊滅した。詳細は調査中」という、“御神苗”の“御”の字も出てこないものだ。



 そもそも、御神苗や猫羽が不可侵というのは物理に限ったことではなく、データ等についても同様である。


 業界で「御神苗」を知らない者はモグリだと言われているが、その存在に辿り着いた者の大半は目をつけられたくないので口を閉ざす。

 情報のやり取りをする必要性がある場合は、可能な限り発信源や受信先が分からないように工夫する。


 したがって、自力でそこに辿り着くためには、通常の情報収集能力に加えて魔術的な知識なども必要になる。


 むしろ、異能力関係に理解もコネクションも乏しい情報屋が、裏社会にも名の知られたマーダーKはともかく公安の流したカバーストーリーを看破しているのは、「大したものだ」と褒めてもいいくらいだ。



 それを受けての虎の判断は、「東京の離島やったら、国外に出てもうたら関係無いやん。知らんけど」である。


 彼も、情報の精度が低いことは理解していたが、マーダーKが負けるような存在がいるとは思いもしていない。

 NHDが壊滅したことも情報としては知っていたが、それもマーダーKの仕業だと考えていた。



 虎にとってのマーダーKはそれくらいの脅威で、何かあればすぐに逃げられるよう、新たな情報があればすぐに連絡を寄越すよう情報屋に注文を出している。

 そして、団藤家のような一般人に、マーダーKの情報を流してもいいものかと悩みながらも、自身の安全を確保するために公開に踏み切ったのだ。



「世の中にはなあ、どう足掻いても勝てへん死神みたいな奴がおるんや。間違まちごうても手え出したらアカンで」


「虎さんがそんなに言うようなのがいるのが……」


「そんなんようさんおるわ。自分より強い奴に見つからんようにするんが長生きするコツやで。知らんけど――って、なんやきな臭い感じやな」


 そんなタイミングで、虎が異変に気づいた。

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