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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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07 ギブアンド

 現場の痕跡を全て消してから、まずはアルに連絡。

 仕事ではなくても報連相は大事。


 事情を話すと、怒られるどころか「よくやった!」と褒められた。

 そして、憤慨しながらすぐに駆けつけるくらいに「凌辱」や「寝取られ」が嫌いらしい。



「ちっ、まだ生きてたらゴブリンのオカズにしてやったものを……」


 アルの闇が深い。


 それでも、公安を巻き込む案には賛成して、協力してくれるくらいには理性が残っていたので、先方との交渉はお任せした。




 さて、団藤家は反社会的勢力だけれど、表の社会に属している真っ当な反社会的勢力である。

 なので――というべきか、公安でも特殊な立場の山本さんたちの管轄ではなかった。


 また、彼らも私の「貸し」の大きさは理解しているものの、表社会に影響のあることは素直に受け入れられないようで難色を示された。

 悪魔退治より反社会的勢力排除の方が難しいとは……。


 やはり、問題が直接的な相手がどうこうではなく、社会に与える影響とかそういうことだとすると、そんなものなのかもしれない。



 結局、公安の人たちもセミナーに招待することで協力を取り付けたのだけれど、こちらはそのあたりの諸々をアルに報告するのを忘れていたことで怒られた。

 あれからお買い物や旅行と予定がぎっしりで、ゆっくりと話す時間がなかったので、明日にでも――と考えていたのだけれど、タイミングが悪かったというほかない。

 ……本当だよ?




 とにかく、上での話がまとまれば、次は現場レベルでの話になる。


 ひとまず、近くで私の監視をしていた観さんを見つけて、有無を言わせず呼び寄せる。

 非常に顔色が悪いのは、アポートに見せかけて呼び寄せたからなのか、「観る」ことに長けているそうなので、見てはいけないものを見てしまったからか。



「こんばんは、観さん。何かご覧になられました?」


「い、い、いえ、何も……。私は何も見ていません! 本当ですよ!?」


 ストレートに訊ねてみたところ、焦っているのは分かるけれど、真偽のほどは分からなかった。


 まあ、いい。

 映像で記録しているようでもないし、何を言われてもしらを切ればいい。



 というか、本当に何も見ていなかったとしても、それはそれで困りもの。

 なので、とりあえず「最低限の事情は知っている」というていで話を進めていく。

 もちろん、アルが。




「なるほど、私たちに期待されているのは、世間的に通用する後始末ということですか……。難しいことを仰いますね……。確かに、アバドン退治よりは現実的ですけど……」


 などと渋っているけれど、「できない」と言わないのは、多少なりとも道筋が見えているのだろう。

 後は、根回しや工作など、現実的なところだけ。

 個人や組織によってできる範囲が違うので、観さん個人では結論を出せないけれど、少なくともうちだけにやらせるよりはマシだと考えているのだろう。



 なお、うち単独だと、全員行方不明にするのは簡単だけれど、後のことはなるようになるしかならない。

 証拠が無いので現代の司法ではどうにもできないけれど、だからこそ一部の人には確証となる。

 ひとりふたりの失踪や洗脳で済むならアルがどうにかできるけれど、一家丸ごととか、関係者全員となると悪魔も動員しなければいけなくなる。

 それなら、情報操作がお得意な公安に動いてもらった方が平和なのだ。




 そんなこんなでしばらく雑談していると、観さんの電話に着信があった。


 もちろん、この距離なら集中しなくても会話内容は聞こえてくる。

 暗号か隠語なのか、意味の分からないところもあったけれど、BBQの準備が整ったとかどうとか。


 それが「放火」を意味しているならセンスを疑わざるを得ないけれど、それ以上に、「燃やしただけでは死因を偽装できないのでは?」と不安になる。

 いや、さすがにそんな初歩的なことを知らないはずがないし、なんとかできる算段があるのだろう。

 戦闘能力は頼りなくても「餅は餅屋」というし、プロに任せるのが一番だ。




 それから間もなく、公安の物らしい車が迎えにくると、観さんに促されてみんなで乗り込む。


 いくら観測は単独でも、バックアップをするチームがいるのは当然のこと。

 公務員にしては仕事が早いと喜ぶべきことだろう。



 さておき、運転手さんは若い男性で、初めて見る顔である。

 その彼が、車を走らせ始めると挨拶も無しに本題に入る。



「おふたりのことは山本から聞いております。先日の、国家と仲間の危機にご協力いただきましたこと、改めて感謝申上げます。ですが、結果的には良かったものの、やり方はかなり強引で、傲慢で、考えが浅いと言わざるを得ません。今回の件もそうです。我々も非合法組織ですので、綺麗事だけで全てが上手くいくとは考えておりませんが、貴方方くらいの能力があれば、もっとほかに方法もあったでしょう?」


 仕事の話かと思っていたらクレームだった。

 とはいえ、内容はもっともなもの。


 私たちはその場の雰囲気で行動していることも多いので、傍からはそう見えても仕方がない。



「ご指摘はごもっともですが、机の上で考えているだけでは何も解決しませんし、いくら準備をしたところで想定外はつきものですよね。今回の件も、妹に持たせている沈静化の結界を越えて一般人が襲撃してくるのは本当に想定外でしたからね」


 しかし、アルの言うように、どれだけ考えたところで想定外が無くなることはない。

 異世界に飛ばされたふたりが言うのだから説得力マシマシである。


 考えることを放棄するわけではないけれど、考えても無駄なこともあるのだ。


 だからといってマウントを取りに行くのはどうかと思うけれど。



「『想定外』で済ませていいことじゃないでしょう!? それで被害を被るのは何も知らない民間人なんですよ!? 大きな力を持ってるなら、それに伴う責任を――」

「止めなさい、岸! 御神苗さん、すみません! うちとしては『御神苗さんと上手くやっていく』という方針なんですが、彼はまだ御神苗さんのことをよく知らなくて……」


 マウントの取り合いになるのかと思われたところを、観さんが制止した。



「いえ、気にしてませんので大丈夫ですよ」


「気にしろよ! 特に必要も無いのに民間人を殺してるんだぞ!?」


「岸! すみません、後でしっかりと叱っておきますので……。それと、うちはどうしても人手不足なもので……」


「それはどこも同じですね。というか、情報共有できてない人が作戦に参加するんですか? 人手は仕方ないにしても、さすがにそれくらいは徹底してた方が――」

「それは御神苗さんのせいですよお! 動画解析をしていただけのベテラン隊員が心身に異常をきたしちゃうようなものを、末端の隊員に伝えられるわけないでしょう!?」


 あはは、アルも余計なことを言って怒られているよ。

 やはり、「沈黙は金」だね。



「えっ、なんだよそれ!? そんなことになってたのかよ!? だったら、なおさらこんな奴らの下請けみたいなことやってちゃ駄目だろ!?」


「それは申し訳ない。でも、こうなるのを防ぐためにも、やっといた方がよかったのでは?」


 アルは、荒ぶる男性を無視して観さんのみを相手に話を続ける。


 というか、彼はなぜそこまで荒ぶっているのだろう?

 精神状態が滅茶苦茶なのだけれど……。

 何か嫌なことでもあったのだろうか。



「今となっては『そうですね』としか言えませんが……。確かに、考えているだけではどうにもなりませんね」


「でしょう? 結局、不測の事態にも柔軟に対応できる応用力と、困難を全て踏み潰せる実力を身につけるしかないんですけど、ステージが上がれば上がるほど対処できないことがあるのに気づくんです。『ダニング=クルーガー効果』でしたっけ、説得力はあるようで根拠が乏しいやつ。あれも案外莫迦にできないですよね。ある日突然、自分の立ち位置が分からなくなるんですから」


 え、根拠ないの?

 信じていたのに……。


 というか、間合い操作とか、極めたと思っていたのにまだ先があったことを知った時はそんな気分になったけれど。



「今正に実感してます……。というより、ここから自信なんてつけられるのかってくらいに叩き落とされてますよ……。しかも、御神苗さんでも道半ばだなんて、私たちなんて赤子以下じゃないですか」


「おい、何弱気になってんだ!? 俺たちの敗北は正義の敗北だぞ!? っ――――……」


 さすがに「正義」とか口にしだすと危険だと感じたのか、アルが何らかの魔法を使って彼を眠らせた。


 でも、居眠り運転は危ないよ?



「すみません。全然落ち着く気配が無かったので催眠状態にしました。運転は――興奮してる方が危ないかな?」


 それもそうか?

 最悪、車は魔法か領域で操ればいいか。



「いえ、ご迷惑をお掛けしました。……彼も対策も心構えもしてたはずなんですけど、お構いなしなんですね……」


「この程度はまあ、基本とコツを知っていれば難しいことでは。それでも、強くなってできることは増えても、何でもできるわけではないですし、世界を破滅させたいとは考えていませんからね。お互いに協力できることがあるなら、した方が得じゃないですか」


「理屈としてはそうなんですけど、私たちと御神苗さんとでは『お互いさま』というには無理があるじゃないですか」


「確かに、うちは世界が破滅したとしても『どうにでも立ち回れる』という余裕がありますから、皆さんとは立ち位置が違いますが。それでも、『そうなる前に、方針や理想が好ましい方と協力し合った方がいいですよね』という話です。そこに釣り合う釣り合わないは関係無い――むしろ、投資といった方が適切かもしれません」


「ええ……、期待に応えられるよう努力します」


 ものは言いようだねえ。

 ギブアンドテイクでよかった話を、不均衡だと思っている相手の負い目に付け込んで、恩を売っているような話に摩り替えた。


 もっとも、観さん個人を言い包めたところで大して意味は無い――いや、もしかすると、無自覚に口説いているとか、その布石なのか?

 そして、篭絡した観さんを起点に公安を攻略しようと?


 そこまではないにしても、奥さんたちを泣かせるようなことはしちゃ駄目だよ?

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