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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十六章 邪神さんとデスゲーム
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05 逢魔時

 逢魔時おうまがとき

 昼から夜へと変わる、「魔に遭いそうな」時間帯。


 夜が人間の領域ではなかった頃――現在でも暗闇は恐怖の対象である。

 人間は、見通せない闇の中にいる何かを想像し、恐れるのだ。

 文明の発展によって物理的にも心理的にもかなりの部分が駆逐されたが、完全に駆逐することはできないし、光が強くなった分闇も濃くなる。


◇◇◇


 長閑のどかな田園風景が広がる田舎道を、銀の髪をなびかせたひとりの少女が大きな子犬を連れて散歩をしていた。


 薄暗くなりつつある時間に、農作業をしている者も、用もなく出歩く者もおらず、彼女以外の人影はない。



 そんな少女の五十メートルほど後方を、真っ黒なワンボックカーがゆっくりとついてくる。

 乗っているのは5人の若い男たち。

 地元の者以外が利用することはほぼなく、ふらりと迷い込むような道でもないため、「怪しい」などというレベルではなく目立っていた。

 しかし、先を歩く少女にそれを警戒している様子はない。



「こんなど田舎に、こんな可愛い娘がいるなんて、田舎も捨てたもんじゃねえな。ってか、めっちゃドキドキしてきたわ」


「でも、あとむの同級生なんだろ? そんな娘(さら)おうなんて、鬼だな、飛翔つばさ君」


「っていうか、結構いいとこのお嬢なんだろ? そんなのに手え出して大丈夫なん?」


「まあ、うちの要注意リスト調べても名前はなかったし、ちょっと金持ってるってだけだろ。それに、女なんて、ヤッてるとこ撮って脅しゃあ何もできねえだろ。それでも刃向かうなら暴力で、ほかにも家族を巻き込むとか、最悪埋めちまえばいいだけだからな。さすがにあっさり殺すのはもったいねえけど」


「……飛翔君はすぐに高飛びできるからいいけどさあ」


「ああん? 仕事手伝うなら連れてってやってもいいけどよ。その前に、ここでヘマするんじゃねえぞ」


「飛翔君こそヤリすぎて壊さないでくれよ?」


「わーってるよ。お前らこそ、下手に怪我させんじゃねえぞ。一発目からそれは萎えるし、飽きてきた時のお楽しみになるんだからよ」


 車内にいたのは、団藤(あとむ)の兄とその手下たち。

 己の欲望を満たすために少女を襲おうとしていたのだ。




「そろそろ行くぞ。準備はいいか?」


 助手席の飛翔がそう言うと、後部座席にいた3人がいつでも飛び出せるようにドアに手をかけ、運転手の男がアクセルを踏む。


 そして、少女を追い越すと、その進路を塞ぐように車を停める。



 その直後――車が完全に止まりきる前に、ガラリと音を立てて勢いよく車のドアが開く。

 そして、中から男たちが勢いよく飛び出してきた。


「大人しくしろ!」


「騒いだら殺すぞ!」


「「「うわああああああ!?」」」



 しかし、彼らが飛び出したと同時に、少女の足下でも異界の門が音も無く開いていて、そこから形を持った「死」が飛び出していた。


 その絶対的な存在感に、彼らの直前までの性的興奮は綺麗さっぱり消え失せた。

 というより、理性や思考能力も消えていた。


 あるのはただ本能的な恐怖だけ。

 逃げなければまずいと分かっていても、恐怖で竦んでしまった身体は動かない。


 唯一、形を持った「死」から距離があった運転手の男がアクセルを踏んで逃げようとするが、車は動かない。

 恐怖で視野が狭くなっていた男には、形を持った小さな「死」が見えていなかった。

 それだけでなく、その小さな「死」に自身の両膝から下を車体ごと斬り落とされていたことも、返す刀で首を狙われていることにも気づくことはなかった。


 一方の恐怖で身体が竦んでしまった者たちだが、飛び出した勢いまで消えたわけではない。

 ただもつれるように、それでも形を持った「死」には絶対に触れないように、形振なりふり構わず地面に倒れ込む。


 そんなところに転がり落ちてくる運転手の男の首。

 それに待ったなしで飛びつく大きな子犬。


「あ、シュトルツ!? 落ちている物を食べちゃ駄目でしょ!」


 そして、少女のどこかずれている常識が非日常感を増幅させる。


 残りの4人はあまりの恐怖に悲鳴すら上げられず、精神の限界を超えた男たちの意識は闇に沈んでいった。


◇◇◇


――ユノ視点――

 異世界召喚魔法による大型トラックアタックを何度も受けてきた私にとって、ワンボックスカーなど大した脅威ではない。

 もっとも、今回のはただ突っ込んできたわけではなく、私を拉致しようとしていたようだけれど、そういうことも初めてではない。


 なので、使い魔たちが出てくる必要は特に無かった。

 むしろ、マリアベルがひとり殺害してしまったことで面倒なことになった。

 とはいえ、そのひとりを除いて速やかに気絶させて、大きな騒ぎにしなかったことは評価しておくべきか。




 さておき、この後はどうしたものか。


 家の近辺では公安等による監視はないそうなので、「無かったこと」にするのは簡単なのだけれど、背後関係とかが分からないのは後々面倒になるか。

 また悪魔に頼むか――いや、さすがに頼りすぎか?

 あまり神族に対抗心を燃やされてもまずいし、自分でやるか。


 だったら、あそこしかないかな?




 そうしてやってきたのは、郊外にあるテーマパーク建設跡地。

 今から何十年も前――日本の景気が良かった頃に建設が始まって、その後のあれやこれやで破綻して、以降ずっと放置されている――いわゆる廃墟である。


 一応、立入禁止で、良い感じに建物や構造物があって、尋問や拷問をするにはうってつけの場所だったので、何度か利用したことがある。


 なお、事件現場から結構な距離があったのだけれど、散歩の時間が伸びたことでシュトルツは大喜びだ。



 さておき、ここを利用し始めたばかりの頃は、駐車場で自動車の曲芸運転の練習をしていたり、特にこの時期は「肝試し」だとかで施設内にまで侵入してくる人たちがいた。


 それも、「コンクリートの壁が、ある日突然悪戯や劣化ではあり得ない壊れ方をしていた」とか、「電気とか来ていないはずなのに、観覧車が動いていた」とか、「タイヤのスキール音とは明らかに違う、悲鳴のような音が聞こえた」などの怪奇現象が重なって呪われた地になった。

 そのおかげで、不法侵入者も随分減った。



 もちろん、その怪奇現象の何割かは私の仕業だ。


 しかし、少なくとも観覧車の件は知らない。

 興味本位で登ってみたことはあるけれど、動かしたりはしてはいないし、動かし方も知らない。


 というか、尋問や拷問をするために連れてくるのに、楽しませてどうするのか。



 とはいえ、シチュエーションとしては面白いかもしれない。

 例えば高所恐怖症とかの人なら逃げ場が無いと思うかもしれないし、落ちても事故で済む。

 盲点だった。




 思い立ったが吉日なので、早速チャレンジ。



 テーマパークはマンションから距離がある場所にあるので、もしかすると公安等の監視がいるかもしれない、若しくは近いうちにされると想定して、普通に観覧車を駆け上がる。


 それから天辺てっぺん付近にあるゴンドラのひとつを選んで、錆び付いていたドアをもぎ取って侵入。

 そして、その片側に男の人たちを並べる。

 ギシギシと耳障りな摺動音しょうどうおんを立てて傾くゴンドラがいい雰囲気を出している。



 ちなみに、定員は8名となっていたけれど、体格の良い人が多いので少し窮屈そうだ。

 まあ、もう座れない人よりはマシだと我慢してもらおう。



 対面に座るのは私ひとり。


「ユノ様がこんな不埒ふらち者どもと密室に籠るなどなりませぬ!」


「ユノ様に狼藉を働こうとした罪、未遂であっても即刻地獄送りでよろしいかと」


「そーですよー。こんな不敬者は、見せしめにするためにも首切って曝しとくべきですよー」


 使い魔たちが――特に、既にひとり殺しているマリアベルが強く異議を唱えたけれど、現代日本では人が死ぬとか消えるのはそう単純なことではないのだ。

 特に、今回は手口が雑――プロの戦闘員とか工作員ではなく、一般人っぽい。

 もしかすると、最近流行りの「闇バイト」とかいうものかもしれない。


 相手がプロなら、何かがあっても「当局は感知しない」となる。あるいは、先方が揉み消してくれるかもしれない。

 しかし、一般人――反社会的勢力の人も含めて、表の社会に属している人を殺すのは、個人に対して云々ではなく、社会に対する挑戦となるのだ。

 私なら完全犯罪も不可能ではないけれど、何度もやるとオカルトでもニュースになってしまう。それはこのテーマパーク跡地で実証済みである。


 特に、今の時代は誰でも情報の発信者になれるそうなので、怖いもの見たさの人や、動画配信者といったわざわざ虎口に飛び込む人を呼び込むおそれもある。

 そして、そういう人の一部には、自らの犯罪行為を暴露するような常識では測れない突き抜けた人もいるのだ。

 決して油断できない。



 とにかく、彼らを行方不明にしても問題が発覚しないラインを探らなくてはいけない。


 とはいえ、ここまでお膳立てした後で、私には尋問スキルが無いことを思い出した。


 昔やっていたのは、「所属」と「命令をした人」を訊いた程度。

 それも、嘘を吐かれると確かめようがないことで、大した成果を得た記憶が無い。


 今なら記憶や知識を喰えば分かることだけれど、それならこんなことをした意味が無いし、そもそも、そういうことは極力しない約束である。


 やはり、悪魔の力を借りておくべきだったか――いや、私もあれからいろいろと経験しているし、成長しているはず。

 とりあえず、やれるだけやってみるか。

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